Route:lost   作:花見饅頭

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閑話3

「まずはこの1日、私に任せてはくれませんか?」

 

 わたしのサーヴァントはそう言ってひとりで出かけ、その日は帰ってこなかった。

 帰ってこなかったと言っても、彼の無事は令呪の感覚とレガリアが伝えてくれるので不安があった訳ではない。単に置いてきぼりになったのが心細いのと、ちょっと不満なだけ。

 

 彼に倣ってSE.RA.PH領地の変動をレガリアの力で眺めてみたところ、レガリアA陣営──薔薇のセイバーの軍は着実に陣地を広げているようだ。何というか、あまり戦争の常識のことを分かっていない身で言うことではないかもしれないが、いくらSE.RA.PHが出来たての世界だとしてもこんなにポンポンと領主が変わるなんてことがあっていいのだろうか。

 自我があるとはいえシミュレーションの世界な訳だから、支配する側もされる側もゲーム感覚なのかもしれない。状況をほぼ理解していないわたしが仮とはいえ王になれるくらいなのだから。

 

 モニター機能を閉じ、抑え難い退屈と共に部屋を見回す。部屋は質素そのものだ。質素と言っても十二分に健康的な生活を送る設備は整っているし、よくよく見れば家具の素材だってなかなかどうして高級そうだ。

 しかしアルキメデスは思ったよりも部屋を散らかさないし、わたしも散らかせる程は物を持っていないので、全体を見れば閑散として見える。端的に言えば暇潰しの手段がない。

 サーヴァントたちは当然戦争に駆り出されていてわたしが会う機会はない。NPCたちはわたしに親切に接してくれるが、()()()()にはなれない。かれらはサーヴァントたちと違ってその日をより良く生きるのに必死で、友にはなることができなさそうだった。

 

 わたしはレガリアに問い掛けた──アルキメデスは何者なのかと。レガリア(ムーンセル)は英雄アルキメデスについて過不足なく答え、最後にこう付け加えた。

 

「ムーンセルは信頼に足る技術者として彼をメンテナンス技師に選出した」

 

 如何に彼が人類に比類なき天才だったとして、この世界の()()()安寧をたったひとりに任せるようなことがあるだろうか。

 もしも彼が野心を抱いて月の在り方に反抗するようなことがあったら、わたしたちはどうなってしまうのだろうか? 

 

 わたしが自分の考えに首を振ったその時、閉め忘れた窓のガラスが軽快に叩かれた。

 

「ハァイ、お元気かしら〜」

 

 声の主はわたしがまごついている間に窓枠を越え、角を持った頭を押し込んだ。魅力的に捻れたそれはガラスを引っ掻いて耳障りな音を立てる。

 サーヴァントだ。鮮やかな髪色の、有角の少女だ。窓枠の向こうは彼女の大きなスカートに隠れて見えないが、何かが時折ひゅっと風を切る音(鞭みたいな)が聞こえてくる。

 

「何度見ても岸波白野そのものねぇ。どっから沸いてきたんだか……」

 

 サーヴァントは意地悪い目でこちらを見て言うが、何分上半身が壁から生えたビジュアルのせいでいまいち威圧感がない。

 彼女は……見覚えがあるような気はするが、記憶にない。わたしの喪われた記憶の中には存在したのだろうけれど。

 

「って、何ポカンとしてんのよ!? もっと驚きなさいよ慄きなさいよ!!」

 

 そう言われても、わたしからは必死にジタバタする愛らしい女の子にしか見えないのですが……。

 

「かわっ……ば、バカ!! そんな分かりきったことわざわざ言わなくてもいいわよ! (アタシ)が来たのはそういうのじゃ、ってうわわ!?」

 

 手を貸すべきかを悩んでいると、散々暴れていた彼女はバランスを崩してぬるりと窓枠から外れ、外に落下した。何が目的なのかいまいち見えてこないが、サーヴァントの「痛あああい!!」と情けなく叫ぶ声を聞いて無視できる筈もなく、わたしは外に出て彼女のそばに回り込むことにした。

 

 改めて見た少女の姿は異形と言う他になかった。華奢で幼い少女の身体に、不釣り合いに刺々しく大きな尾がくっついている。

 当人はその尻尾と()()()()()()()()()()()()怪しい紋様の刻まれた両手足をばたつかせて世の中への不平不満を並べ立てていた。

 

 いたたまれなくなってその手を掴んで引っ張り起こし、スカートの土埃を払う。何の用事で来たのかと尋ねると、サーヴァントは顔を真っ赤にした。

 

「これは単なる茶目っ気であって……悪逆ではあるけど! それだけじゃないって所を見せたかっただけだから!」

 

 とりあえずお名前をお聞きしても……? 

 

「さ、サーヴァントにそんなにやすやすと真名を聞いてもいいと思ってるの? (アタシ)とアンタは初対面なんだから」

 

 それは確かにそうだ。当然のようにそれを開示してくれたアルキメデスが珍しいのであって、普通は隠すものなのだった。

 

「でも、アンタと(アタシ)は無関係じゃないし、仕方ないから教えてあげる……(アタシ)はエリザベート・バートリー、特別にエリザベートと呼ぶことを許可するわ」

 

 あっ教えてくれるんですね、とは言わないでおく。サーヴァント──エリザベートはふふんと鼻を鳴らして不敵に笑った。無関係でない……という言葉の真意はわたしには分からないけれど、敵ではないということなのだろうか。

 よしんば敵だったとしても、なんとなくチョロそう……いや、これも演技かもしれないし、あまり信じすぎないほうがいいのかも。

 

 こちらの思惑を見透かしたのか、エリザベートはまじまじとわたしを見、何やら満足そうに頷く。

 

「ま、今日は挨拶に来ただけよ。そのうちアナタがぜーんぶ理解したとき、会うことになるかもね」

 

 彼女は言い捨てると傍若無人に尾を振って(危うくぶつかりそうになった)わたしに背を向け、わざと高らかに靴を鳴らして立ち去ろうとし──すぐに振り向いた。

 

「ところであの胡散くさ()、明日の朝には戻ってくるわよ」

 

 その表情がやや不服そうだったのをわたしは見逃さなかった。エリザベートはそれきり振り返らずに歩き去り、そのうちぱっと消え去った(転移した)

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