目が覚める。
覚めたと言うべきなのだろうか。サーヴァントは眠りを得ない、夢を見ないのだから。ただ意識が途絶していただけ、その瞬間との感覚の差異があることで混乱しているだけ。
それだけのことだ。初めてのことではない。
前回ないし記憶している限りの前例と違うのは……普段はおおむね寝心地の悪い地面が目覚ましだったのが、今は比較的穏やかな寝心地が身体を包んでいること。
そして、目覚めの倦怠感が比較的無いことだ。その理由であろう魔力供給源は寝台の側で居眠りをしている。
身体を起こす。力の入り方がぼんやりとはしているが、五体に欠けは無い。ヴォイドセルの補強もあってか、使い果たしたかと思われた魔力は殆ど戻っていた。
時間も……あまり経っていない。1日程度か。特別にしなくてはならないことはこの日には設定していない。だから何も気にする必要はない……ないのだろうか?
「レガリア……」
レガリア。レガリアはどうなったのだろう。私を導く唯一の標であるそれは、今も私の側にあるのだろうか。
岸波白野を見る。彼女は指輪を着けた左手を強く握り締めている。そこにレガリアはあるのか。私は彼女に手を伸ばす。空白に満たされた自分の手が目に映る。
まだやや霞む視界に誤魔化された違和感。
例えば机のいつもの場所に無いペン……紙の端に垂れたインクの染み……前髪に交じる白髪……1色だけ違う警告ランプ……手元で光るフェイクの宝石……。
宝石?
左手を目の前に引き寄せる。マスターが与えた玩具の指輪の石は陽光色。私に見えているのは薔薇のような赤。岸波白野の手を掴み、そこに見たレガリアの色は「玩具」。
レガリアは? 完全に覚めた頭で、貝のように閉じた少女の手を無理矢理開く。
予測に反し、こじ開けられた掌には瑠璃の如く青い石の指輪がさも当然とばかりに在った。あまりに強く握られていた為か菱形の跡がいくつも残っている。
何故本物の指輪を持っていながら玩具を誇らしげに携えているのか全く訳が分からないが、とにかく確かに目当てのものは手に入っていたらしい。私は思わず脱力した。
そうだ、私のやり方は間違っていなかった。レガリアは手に入ったし、その上命まで助かった。僥倖だ。その証もこうして私の手に──
「あ?」
待て、そもそも何故私が本物の指輪を着けている。そこがまずおかしい。いつの間に? 拒否反応は一切発現しなかったのか? 岸波白野は何故これを敢えて手放した? この抑え難い頭痛は何に由来している?
色々と悩みの種は尽きないところだが、あれだけやってもマスターはぐっすり眠りこけているしどれだけ目を擦っても指輪は赤いままだし危惧していたペナルティは影も形もない。
「な……」
確かに今起きていることの大半は利益ではある。だからと言ってなんの説明もなく何もかも押し寄せすぎだ。自分の中で整理できないものが積み上がるのは私にとっては苦痛でしかない!
「何なんだこれは──!!」