白いサーヴァントとの戦闘以降、アルキメデスは依然眠っていた。揺すってもつついても髪を引っ張ってもうんともすんとも言わないので、これは余程のことなのだろう。
本当に勝手にこんなことをしてもよかったのかはほんの少し悩ましいけれど、
実際にはそうでなくとも、指輪はわたしたちの間でマスターとサーヴァントを繋ぐ見えない糸になっていた。ただ、道具なんてなくても記憶が心を証明できる
そもそも繋ぐ心がわたしのサーヴァントにあるのか、それすら未だに見えてはいない。わたしは本当に、心の底から彼と親密になりたいと思っているけれど……。
厚すぎる壁を感じなかった初めての瞬間が、ここで意識のない彼に寄り添う時間であってほしくはなかったが、事実今がいちばん彼を身近に感じていた。
普段は冷たく苛烈な側面も多々あるが、当たり前ながら眠っている姿はただの人間と大差ない。彼は出会ってきたり
手入れ不足で傷んだふわふわの髪が、極めてゆっくりとした呼吸に合わせて若干だけ揺れている。探さなくても見つかる枝毛や目に見えて絡まった結び目が気になり、閉じた目に掛かった前髪をそれとなく払う。
ずっと凍っていた表情が少し歪んでいる。サーヴァントは……というか、電脳世界のすべては現象としての夢を見ないと聞いているので、いわゆる悪夢に魘されているとかではなく、これはもしや具合が悪いのではないだろうか。
無意味かもと思いながらまた肩を揺すってみる。彼は呼吸も乱れなければ声ひとつ出さない。無意識の中ですら彼は自我を見せてはくれないのか。
皺の寄った眉間をちょっとだけ揉んだりなどしていると、ふと気付いた。
ぴったりと閉じた瞼の端に、滲むような遅さで温度を持つ水が粒状を成した。指ですくう前にそれはじわりと目元を滑り、削れて消える。それから二度とは水は湧かなかった。
何の詳細も分からない無言の苦痛は、理解する前に無くなってしまった。彼の心にまた触れることができなかった。
悔しくなって思わず溜め息が出る。別に、密着するだけが友ではない。ではない、けれど。何もわからないままは寂しい。
わたしには無限の力があるのに、普通の人間として生きてきたアルキメデスのことを理解することもできないのだ。
ちくちくした痛みが手の中にある。キャスターから預かった指輪の、角の部分が刺さっているのだ。
彼の抱えているであろう諸々の10%にも満たない痛みだ。わたしはやはり動かないサーヴァントに黙って寄り添わせてもらうことにした。