A・B陣営並びに「心臓」とその
同席した
──概ねそういうことになった。提言の後半はどうせ叶わない願いなのだから細かいことはどちらでもいい。
改めて定義付けてはみたものの、これは当初の予定とほぼ変わらない。この2週間程度で繰り返し確認してきた通りだ。やや
アルテラは今日も動かない。向こうが動かない限りは領域支配権も揺らがず、我々のうちの誰も戦う理由を持たない。この日は全くの無価値な日常であることが確定している。
マスターも束の間の平和を謳歌しており、珍しく私の側にはいない。家を出ていく際に4、5回こちらをチラチラ見ながら出発したのは記憶に新しいが、結局同行は諦めたらしい。どうせ行動範囲もそう広くならないのだし、1日くらい放置しても彼女が失われることはないだろう。
代わりと言っては──本当に──なんだが、拠点には招かれざる客が当たり前のような顔でふんぞり返っていた。
「
「お前を快くもてなした者がかつてひとりでもいるのなら、検討の余地もあったのだが」
角のある反英雄は持ち合わせるべき礼儀を欠いた振る舞いでリビングのテーブルの上に座っていた。尻尾がリラックスしたテンポで揺れる度に家具に傷が付く。
見飽きた面でエリザベートは笑い、煽った様子で口を開いた。
「元気そうじゃない。マスターのおかげね? キャスターさん」
「こちらが頼んだ訳ではない。わざわざ茶化す事か」
「そう言う割には随分仲良さげにしてたわね。昨日だって手なんか繋いで」
尖った爪が私の額を指す。成り行きでああなったことを突かれた所で何もないのだが、しかしこいつの表情が嫌に腹立たしく癇に障る。いつものことだ、今更こう些細なことに苛ついてはいけない。
「羨むのは勝手だが、あまりマスターには介入しすぎるな」
「あら、羨ましいなんて言ってないわよ? そんな風に言うなんて、ホントにアイツの事が気に入ってるのね〜」
エリザベートは一層ニヤケ面を深くした。こじつけも甚だしい。
「彼女のマスターとしての適正の高さは理解している。契約まで交わした身だ、彼女の力量もある程度は掴んでいる」
「……ふぅん、誤魔化すってことは自覚アリってことね〜」
狭い部屋の中で竜の尾が機嫌よくくねった。無駄に回る口から濡れて光る小さな牙が覗く。
認めたくはないが、奴の言葉を聞いて私の感情は
マスターはサーヴァントの仮初の命を救わんとして、とうとう令呪を切った。新王にとっては令呪はただの多少威力のある命令コマンドのひとつに過ぎないが、こちらはそもそもの在り方として令呪に大きな意味を見出さざるを得ない。
彼女はあの時、確かに命じた。短絡的で切実な、原始欲求と大差ない願いだ。短い「死ぬな」という命令は、1度目の死を忘れられない私の胸に突き刺さり、心臓の代わりに霊基に魔力を送り始めた。
認めなくてはならない。所謂吊り橋効果とほぼ同じような切っ掛けであったとしても、少なからず私はマスターに好意的な印象を抱いている。
だが──それだけだ。観察してきた全てのものに評価点を付けていく中で、岸波白野はそのうちの順位が多少高い。その行動に理解が示せて、理外の動きも一度であれば目をこぼしてもいい。それぐらいだ。
「あの冷酷無比な腹黒ジジイが年端も行かない少女に絆されるなんて、とんだコメディだわ!」
エリザベートは下品な大口で笑い声を上げた。
容易く絆されたのはどちらの話だ。こちらがどうであれ、悪態のつもりのそれが自分に返ってくる言葉なことが分からない筈もないだろう。
「そう見えているならむしろ都合がいい。権力者は皆マスターのことばかりが心配のようだからな、良きサーヴァントに思われる分にはありがたいよ」
窓の外は領域の王の機嫌を表すかのように晴れ渡り、耳を澄ませば三日三晩続く馬鹿騒ぎの音が今でも遠くで鳴っている。昨日の同盟締結の報せも賑わいに一層の火を投じたのだろう。
「……アンタ、見る度につまんないわね」
「お前に受けが良くてもどうしようもあるまい」
小傷だらけになったテーブルが軋む。エリザベートは突然冷めてしまったようで、途端に退屈そうな顔になって無駄に鋭角な爪先を床に下ろしてコンコン叩いた。
華奢な身体に纏った見合わない服飾が部屋中の家具の大半を少しずつ擦って倒したり傷を付けたりしながら、竜は狭苦しそうに玄関から出て行こうとする。
「あー、もういいわ。どうせやることもないんだし、またアルテラにちょっかいでもかけて遊ぶから」
「勝手にしろ……私の邪魔だけしなければそれでいい」
ドアを潜り終わる最後の瞬間までしっかりとサーヴァントの踵は床のタイルを擦って嫌な音を立てていた。
「いいか、岸波白野には介入しすぎるな!」
視界から消えかけたそれに向かって、取り敢えず言っておかねばならないこれだけは確認として投げかける。尻尾の先だけがまだ屋根の下に残っていた。返事は求めていないが、これだけは言い忘れる訳にはいかない、のだ。
「何よ。それだけは何度だって言うのね、我が遊星の同士さんは」
エリザベートはまた短く笑った。