死は生きている限りは必然である。それは証明するまでもない……ありとあらゆる死した生命体がそれを物語っている。
「だから、必要以上の恐れは無意味です。あなたもいずれは死ぬ。それを先に見ただけです」
「えっそれ励ましてるの?」
「励ますというか、事実ですからね」
「んー、煽られてるのかな〜?」
岸波白野は苦笑いを浮かべつつも、諦めに近い感情を基として「精神」の死を飲み下したようだ。どうせ
「ありがとう、アルキメデス」
「私は語るべきことを語ったまでです」
そう答えると彼女は何が琴線に触れたのか小さく吹き出す。
「そうだね、いつもアルキメデスは正しいと思うよ?」
予測の外にあった返事に私は答えられなかった。何か答える必要も感じなかったので、言葉の代わりに笑顔を返しておいた。すっかり機嫌を直したマスターは自分が転げまわったせいで皺だらけになったベッドのシーツを敷き直し、気分よく髪を解き始める。
マスターはリスのように毛繕いをし、清々しく伸びをした。その首が傾げられる度に茶色の髪が柔らかく揺れる。彼女のような女性をかつて見た事があっただろうか、私は思い出そうと試みたが──2千年越しの記憶は深い霧の中に留め置かれてしまい、何も掴めない。
「ええ……私は正しいですとも。新王、他ならぬあなたのサーヴァントなのですから」
実体のない少女は笑った。
死は必然である。
いつかこのサーヴァントの身は滅びる。それが怒れる正義の鉄槌によってか、私の奥底にある嫌悪が恐怖と人類を焼き付くしてか、それを決める決定打を私は持ち合わせてはいないが──必ずや。
だが私は一時の未知──今は何もかも理解のうちに落ちた事物──の為に崇高なこの身をサーヴァント、それもその電子複製にまで落とした。
血を流す度に凍り付くような寒さを思い出す。骨を折る度に全身に錘が乗る感覚を思い出す。意識を濁す度に固まって逝く筋肉を思い出す。生きればそれだけ死に向かうという事を死者は皆知っている。
それでも嬉々として死に進むすべてが憎い。それを理解できない者は皆憎い。死に慣れきったこの世界が憎い。
シラクサのアルキメデスは拒絶する。
私を殺した世界の中で、死を理解しながらもそれを忘れたように振る舞い大笑する愚かな生命を拒絶する。
これこそ私が英霊として成立して以来隠し通してきた第一の秘密。他人に理解を求めながらも口に出すことのなかった構成要素、口にすれば
そして、刃より鋭く私を殺すもの。