わたしはアルキメデスがあの穏やかな表情の浮かべられるその奥で、わたしでない何かを見ていることに気付きつつあった。
具体的にそれが何なのかは分からないし、彼もわたしに語る事はないだろう、それこそ余程のこと(例えば……何もかもが次の瞬間には破壊されて死に絶える瞬間とか)が無ければ。きっと彼の「願い」にはわたしにだって話せない前提があるのだ。
エリアを駆け抜ける潮風に、サーヴァントの輪郭が柔らかく揺れている。その内側に煮えるもののことは少しも外に滲んではいない。
──アルキメデスは、弱い。
もしも彼の語った考察が正しくて、本当にわたしが彼の潜在的な弱さを無意識で不安に思っているのであれば、もう疑いようもなくわたしが元凶だと胸を張れる程の確信がある。
だがアルキメデスの弱さはサーヴァントの性能としてではない。確かに百戦錬磨の戦士たち、あるいは実際に聖杯戦争に勝利したサーヴァントと比べれば、元々戦う為に存在する訳ではない彼の戦闘能力は見劣りするかもしれない。
しかし実際に側でその戦い方を見ていたわたしには、彼の戦い方が如何に効率的か──少ない体力消費でより多くの標的を倒せるか──を考えたものなのかが分かる。アルキメデスは性能の差を戦争の英雄としてのセンスで埋め、今まで単身で生存できたのだ。
「新王」
サーヴァントは風に乗るほどに静かな声で囁いた。
「何も気に病む必要はありません。あなたの無事も私の仕事なのですから」
何もかも見透かすような目で彼は言う。本当にこの世界の大抵のことを彼は分かりきっているのかもしれないし、わたしの考える事なんて全て筒抜けなのかもしれない。
アルキメデスは弱い。わたしはようやく彼を理解し始め、そしていよいよその秘密の尻尾を掴んだ。
彼が常に纏っている穏やかな空気のベールと、絶対に他人が素肌に触れることを許さない堅牢な拒絶の鎧の奥。そこには神の奇跡も不思議な力も何もないただの人間の男が戦火に焼かれて爛れた皮膚を慰めている。
男は周りとは
多少知恵がある他には何の変哲もないその男は、それでも生きたいように生きることは出来なかった。不本意な生き方を強要され、不本意な死を迎えた。
「もう表情が曇っていますよ」
……思わず考えが深まってしまう。迫りつつあった焦りを首を振って追い出し、笑顔を思い出す。
「そ、そう?」
「大丈夫だと言ってから1分程度しか経っていないのですが」
水面を静かに1歩踏み、彼はわたしに触れないぎりぎりの距離に近付く。太陽の光を背にしたその顔はふわふわの髪のせいで暗い影になっている。
「大丈夫だよ……」
「曖昧ですね。無理はしなくていいと言ったでしょう」
影の中の目がすっと細くなる。
彼が表に向ける全てが疑念と否定のフィルターを通されている訳ではない。わたしはそう信じている。
「あなたの仕事は健やかな生活なのですから」
わたしの仕事はSE.RA.PHを守ることだ。それと同じくらい、わたしはアルキメデスを守り、その秘められた感情を知りたい。
2歩目、わたしは彼の心に踏み込む。