Route:lost   作:花見饅頭

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21日目:戦争と平和と戦争

 黙する管理システムと叫ぶレガリアの間隙で、万物に急かされる我々の足は次第に早まった。この燃え盛る戦場のどこに隠れていたのか、この一種異様な雰囲気の前に逃げ惑うNPCと何度かすれ違う。彼らは呼び止める間もなく走り去り、進行方向に逆行するサーヴァントには見向きもしなかった。

 市街中央、元々広場のある区画は周囲の建物が破壊されたおかげでひと回り拡大している。雑兵たちは破壊の前に道を開け、鉄槌の下る瞬間を今か今かと待っていた。

 

 新王を抱えて屋根上を飛び越えた先で見たのはいよいよ略奪を表す剣を掲げんとするアンチセルの姿だった。

 

「宝具を使われる!」

 

 マスターは地面を指差した。血気盛んに燃える槍が目の前の暴虐を阻まんとして振りかざされるが、令呪のバックアップまで得たアルテラの腕を折ることは出来ないだろう。

 奴の宝具詠唱(神への挑発)を阻むには、完全な意識外からの一撃によって少なくとも怯ませなければならない。

 

「どうしよう!?」

 

 どうしたものか。私がここで宝具を全力で開放して不意打ちを食らわせたとして、動揺は誘えても戦意を低下させることは可能なのか。奴が()()()()後ならば拘束宝具を使えるが、今の形態には無意味だ。マスターからバックアップを受けてもそもそもの性能に差がある。もう一段階ブーストを掛けられるなら、或いは──

 

「レガリアを……」

「あっ、そうだよ! レガリアがあるんだから、ムーンセルから直接リソースを貰えばいけるかも!」

 

──レガリアを正常に使えれば威力は充分な筈だ。

 だが(遊星側)がレガリアを積極的に使うのは矛盾をより加速させるだろうし、そうなれば結局は崩壊に繋がるだろう。レガリアのことは()()()()()()()以上今更かもしれないが……。

 

「やるしかないよ!」

 

 最早やるしかないのだろう。これを逃せば私の取れる行動は「アルテラに単身突っ込んで殺す」という単純明快な無理難題しか無くなってしまう。

 

「新王」

「大丈夫、令呪ならいつでも準備してるから!」

「……信頼していただきありがとうございます」

 

 目標との距離はあるが、そもそも私の戦い方はこうして血の掛からない位置からの消極的攻撃が主だ。ここからでも私の実力なら確実にぶつけられる。

 レガリアからムーンセルにアクセスし、指輪の耐久ギリギリまで魔力を霊基に流し込む。強引にやれば壊れてしまうことは過去の実例から分かっている、伝播速度さえ誤らなければ難しいことではない。

 

 初めて虚無にこの身を侵された時のそれとはまた別の、あらゆる感覚が開かれるような万能感が仮初の身体を染める。人類を握り潰して喰い付かんとする愛おしい左手の上で、私の為の太陽と新世界の為の指輪が赤熱する。

 

「──完璧なる円」

 

 かつては我が友を真理に導き、星月を輝かせ、祖国を守った円い光は、今は私の崇高で浅ましい願望を照らしてくれている。

 戦地に燃える炎が大きすぎて、闇の中に芽吹いた光にまだ誰も気付いていない。ただ私の肌だけが陽の欠片に焦がされる。

 

「完璧なる光を見せよう」

 

 それもここまでだ。

 陽光はたちまち私を包む程に拡大し、真昼のように夜空に大きく光り輝いた。疑念、再審、拒絶、否定。見せかけの空に浮かぶ仮想の太陽は光を放ちながら()()()()、黒く燃え上がる。

 

 白い侵略者の増大する魔力に釘付けだったサーヴァントたちは新たな光源の出現に思わず手を止めた──侵略者ですらも。

 自分で言うのも何だが、私の人生を面白おかしく語ろうと思うのならば太陽と紐付けるのは妥当だろう。おかげで地球生物と切っても切れないその光を我が物と出来たのだから、人理も悪事ばかりではない。

 

「令呪をもって命ずる! キャスター(アルキメデス)、アルテラを止めて!」

 

 問題なのは、それすら私の手の中では殺しの道具に成り下がることだ。

 血液に溶け込むマスターの意思が私の中の殺意を混ぜ、純度の高い魔力に変換する。ただ目標を撃ち抜く、その仕事をだけを果たす為の力。

 

 戦争は醜い。しかし兵器になるのは嫌いではない。彼女のように正しく兵器を扱える者の手に渡るのなら、使われるのも悪くない。

 

「目標補足、全門開放、温度上限! 清算の時だ──」

 

 六角形の鏡(光学兵器)が直ちに展開され、黒い太陽の光線を受けて瞬時に収斂させる。速度と熱量を備えた暴力的な衝撃が()()で反射し無形の矢弾と化して私の手に来たる。

 

「──『集いし藁、月のように燃え尽きよ(カトプトロン カトプレゴン)』!!」

 

 確実にかち合ったアンチセルの赤い視線をも焼き尽くし、宝具は戦場のど真ん中に轟音と共に突き刺さる。指輪が電熱線のように発熱して罪を裁くように左手を痺れさせている。

 宝具に回した魔力を底まで使い果たし、私を見下ろしていた太陽は何事も無かったように消え失せた。攻撃範囲は極力絞ったが少なからず周囲の誰かも巻き込まれているかもしれない。それは仕方ない。

 

 石畳が弾ける衝撃で舞った砂埃が晴れる前に屋根瓦を蹴って前進する。

 半ば斜め前方への落下の形で広場に降り、警戒を続けるサーヴァント兵や後方で呆然とするキャスター、屋根に取り残されたマスターよりも先にアルテラの元に到達する。

 

 見通しの悪い視界に棒立ちになっていた侵略者を捕らえるのは容易いことだった。

 細い首に私の鉤爪(ハルペー)を這わされた彼女は、予想に反して無抵抗でいてくれた。

 

「アルテラ」

「私の邪魔をするのか、アルキメデス。おまえの言う通りに役目を果たそうとしたと言うのに」

 

 誰も手を出さない。時間の止まったかのようにセクターのあらゆるパラメータが揺らがない。

 

「今は暴れるな。状況が変わった」

「指図は受けない。今私が剣を振れば、貴様の指輪(レガリア)は指ごと奪える」

「私はそれでいいとも……だが今のお前に「4人目」は倒せない」

 

 大きな音に狂っていた面々は正気を取り戻して広場の中心に注目している。

 マルスの剣こそ弾き飛ばされているものの放ち損ねた宝具の分アルテラには魔力が漲っており、私の指()()残すことも不可能な脅しではなさそうだ。

 

 だがアルテラの軍は負傷しており、こちらの指揮は高い。ここから私を殺すために魔力を使ったりなどすればA・B連合軍は勝利できる。勿論「4人目」は守られる対象として厳重に保管されるだろうし、そうなれば3つの指輪が揃うことはない。

 私を殺すメリットはない。まずは起きてしまった崩壊が収穫前の月を滅ぼさないようにしたいだけだ。

 

「おまえの運命は()()()()(マスター)によって変わった。それはただの命乞いだ、アルキメデス」

 

 アルテラは囁いた。

 心臓に残るマスターの魔力が不意に自らの温度を主張する。そのせいでそれ以外の臓腑は相対的に温度が下がり、私は喉奥に冷たさを感じた。

 

「これまでのすべての時間を裏切ってまでムーンセルの収穫を手伝うのが尖兵(おまえ)の役目なら、私の前でマスターと共に死ねばよかった。だがおまえはそうしなかった」

 

 違う、私は苦痛のない正解がようやく目の前に現れたから、それに辿り着くためにあえて歩みを緩めただけだ。苦痛を受けながらする近道が必ずしも効率的とは限らない。

 

「おまえは何がしたい?」

 

 私はこの低俗な人間界を離れてひとりになりたい。私が最も無知になる世界に行き、永遠に学びを享受し続けたい。

 だが、その前に、願いを叶えたい──私の願いとは何だ? 

 

「……人形遊びは終わりだ、怪物」

「私もおまえも、どちらも怪物だ」

 

 アルテラはするりと私の爪から逃れた。私の気付かないうちに──恐らく奴もまだ気付いていない──首筋に赤い線が一本這っている。

 

 奴は「撤退する」とだけ残すと、雑兵と共に領域を去った。

 我々には勝利が訪れ、誰かが疲れきって地面に座り込んで溜め息を吐いた。

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