学生と言えばなんだろうか。
部活?文化祭?放課後の買い食い?
「否、勉ッ学……!」
「うるさいぞり……」
魔王デルキラの在学中たった1人だけのために作られた
教室の黒板には『赤点だけは絶対回避!』と書かれてあった。
兄貴は頭を抱えながらアリス君の出す問題集を解いていた。
魔歴、占星、拷問、薬学、魔術基礎。
「うーん、0/5」
「これはいっそ芸術的」
「全問不正解ぞり」
兄貴の0点の答案をクラスメイトと眺めながら苦笑いを浮かべる。
何かを書こうとして苦戦している姿が見えるので文句は言えないが、物の見事に真っ白だ。勘でもなんでも書けばいいのに、真面目だなぁ。
「──100点……!」
「えぇ!?」
兄貴が急に満点を叩き出した。
「魔歴の空想生物学…?」
あー。これはたしかに、人間界の知識を持っていれば簡単か。
クラスメイトがやいのやいのと兄貴を持ち上げているので、兄貴のテンションがガッツリ上がっている。天才だと勘違いしてそうだけど、天才だから驕るタイプじゃなくてどんどん突き進んでいくタイプだから私は関わらずにそっとしておこうかな。
すると、アリス君が『魔歴を極められては?』という提案をした。早速今日の一限に入っているので、意気揚々と向かっていった。
「魔歴の担当はダリ先生です」
「おー、あのおちゃらか先生!」
「じゃあ気になれば積極的に質問……」
兄貴達と少し距離を離して歩いていた。
あれ、そういえばダリ先生って……。
「ひぃ!」
教室から逃げ出す生徒を目撃した。教室の中に入るとガランとしている。
「おい!どういうことだ!?」
「それが……ダリ先生が悪周期で休みで。代わりにバラム先生が」
「あっちゃあ」
逃げ出す生徒に聞いた言葉にお心当たりがあったのは私です。
「悪周期えぐかったもんなぁ……」
ダリ先生を悪周期にした張本人です。
まあ人間界について着々と知識を得ているシチロウ先生の授業は楽しいだろうけど、ダリ先生大丈夫かな。お見舞い……は、私が行ったら良くないだろうなぁ。うーん、シチロウ先生と要相談かな。
「リィン、リィン」
「ん?」
「植物で雁字搦めにされてる状態にもう少し驚きを持とうよ」
やーだね。
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「はい、では授業を始めます……」
シチロウ先生が私を膝に置いて授業を始めた。
「魔歴において空想生物は数多く登場する空想生物学が思い込みの学問だ。魔界には、未到の地も多く、きっと新種もいるはず」
「すごい……無だ……」
「むしろ寛いでいるまである」
シチロウ先生が生徒から逃げられる理由は、おそらくスキンシップのせいだろう。生き物と言う観点において、シチロウ先生の最大の興味は私に注がれているだろうが他の生徒だって例外ではない。
隙あらば頭を撫で回し、植物で逃げないようにしているシチロウ先生はまさに捕食者そのもの。
「では今日は人間について考えよう」
あ、兄貴の表情が固まった。わかりやすいなぁ。教卓から見ていると。
「もし君たちの目の前に人間が現れたらどうする?」
「そりゃあ食う!」
「美味しいんでしょ?」
「……美味しいんだろうなぁ」
シチロウ先生が小さくつぶやいた。小さくといっても、静かで閑散とした教室では普通に聞こえる大きさだろう。兄貴が真っ青な顔をして沈み込んだ。
「まぁ人間は欲の塊であり、悪魔の糧とされているね。ただ、魔歴時代の悪魔と現在の悪魔の進化による違いもあるから、不用意に口にしない方がいい」
「もし食べるすたら、悪魔にはどういう危険性があるですか?」
私が手を上げて質問するとシチロウ先生は『君が言う?』みたいな顔をしたあと、少し考えた。
「まず、魔力は暴走するだろう。良くて悪周期、悪ければ肉体が栄養に順応できずに爆発するかもしれないね」
「ひぇ……」
「何故昔は食べられていて、現在では食べられていないのか。それを深く考えなければ身を滅ぼすだろう……」
「ではなにゆえ今の悪魔では人間の栄養が適応不可能だと先生は思うすたですか?」
シチロウ先生はまたまた『君が言う?』って顔をした。うん、ごめんね。
「欲の塊、と言っただろう。人間に栄養が多く含まれてあるのは歴史的な資料でも証明されている。そして現在の悪魔と過去の悪魔についての違いについてだけど…………『元祖返り』という言葉を耳にした事はあるかい?」
「いいえ、元祖返りって何ですか?」
「元祖返りと言うのは、昔の悪魔によくあった、常時悪周期のような状態の悪魔のことを指す。他人の苦しみや破壊に強い快感を覚える厄介な存在で、今の悪魔は秩序があり比較的平和なんだ」
「へ〜」
バールさんとかそこら辺の悪ーい悪魔のことを言うんだろうな。きっと。
表面上は隠れているから見つかりにくそう。
……もし、元祖返りの悪魔が人間の血液を飲んだらどんな反応をするだろうか。
「つまり、常に悪周期だった悪魔の時代に食糧として食べられていたんだ。今の悪魔には悪影響を及ぼしかねないからもし人間を見つけても食べないこと。死にたくなければね」
「はぁい」
シチロウ先生、大好き……!その学説、是非とも広げて欲しい。
「じゃあ先生、先生はもし人間にあったらどうしますか」
「…………」
考え込んだシチロウ先生。
「まぁもし人間に出会えたらどうやって生き残ったのか聞きたいね。人間を含め、空想生物はとても弱いとされる生き物ばかりだ。現存する生物のスペックの方が高い。空想生物は古代的というか……このフォルムで生存できるのならよほど平和な環境とも言えるだろう」
だから悪魔は進化し、羽根や尾を手に入れたのだとシチロウ先生は言う。
元は、悪魔界と人間界が一緒だったということかな。そして現在は空想生物を隔離することが出来た。
悪魔を隔離したのか、人間を隔離したのか、どちらなのかわからないが、現在は大きな壁に阻まれるようにふれあえないようになっている。
良き隣人にはなれないだろう。あくまでも捕食者と被食者だ。
人間はその化学が発達しているとは言え、強大な力の前に為す術はないだろう。
それにしても、私の血液をたったひとすくい食べただけのダリ先生が悪周期に陥ったってことは、人1人分食べるとどんな反応になるだろうか。
うーん、両親も連れてくるんだったかな。あいつらがいなくなっても、世界的な損失にはならないしむしろ私が喜ぶ。
人間界に戻ったときに、警察じゃなくて裏の偉いさん方にこっそり捕まえておいてねって言うべきだったかな。
「じゃぁ、今日の授業はここまで。質問事項があったら、僕のところに来るように」
ほっとした様子の兄貴を尻目に、私はシチロウ先生の服を掴んだ。
「シチロウ先生、質問が」
「ん?」
「さっきの説明で少し疑問に思うすた点がありますて」
他の生徒は逃げるように。
あ、でも勇猛果敢に先生に突撃する私の事をすげーといいながらだ。
いやぁ、入学してから1番話している先生と言っても過言では無いからね。
「リ、リィン……?」
「あー、大丈夫。先行ってて。空想生物学以外ゼロ点の人は」
「リィンだって同じでしょ!?」
「私各教科80点以上取れるぞ?」
「なんで!?」
同じ環境で育ったのに、と言いたげな視線。
ごめんね兄貴。前世の有無のせいかな。あと友達居ないから割と。
そして生徒が全員いなくなった後、私は満を持して質問をした。
「さっきの授業でシチロウ先生は『常に悪周期だった悪魔の時代に食糧として食べられていた』って人間のことぞ説明すたじゃ無きですか」
「うん、そうだね。なぜ空想生物のくくりに人間が入れられているのか考えると、歴史書にも残っていないようなかつての時代に悪魔界に存在したからだと推測しているよ」
「そこで疑問なのですが、逆の可能性ありませぬ?」
「逆?」
人間である私のために、人間を食べるのは危険だ、と言ってくれた可能性は大いにあるだろう。シチロウ先生は嘘をつくのが好きではないので、その学説は、シチロウ先生の中で私という人間に出会って作られた真実にも近い推測。
「『常時悪周期の悪魔の時代に人間が食べられていた』ではなく、『人間が食料として食べられていた時代だから、悪魔は常に悪周期状態だった』って可能性無きですか?」
「……っ!それは、大いにあるかもしれない」
ダリ先生が現在私の血を食べて悪周期になっていると言う事から考えると、悪魔と人間の生態にそこまで変化はなく、関係性や文化が違うだけであった可能性がある。
この説は人間の保護的な観点から定説されるのはよろしく無いけれど。
「じゃあ元祖返りぞなんなんだ、って話になりますけど」
「……それはたまたま『古代悪魔』に似通っているだけで元祖の名付けられただけ、って事に出来るよね」
「ですね。単に『常時悪周期悪魔』ってだけで、元祖の時代にも人間を食べずとも凶悪だった悪魔も居たかもしれませぬし」
2人してウーンと頭を捻った。
「まぁ、そこはおいおい考えようか」
要するに目の前にいる人間の保護を優先しようって話ね。
「ところで君のお兄さん、勉強が苦手なの?」
「というより、全く違う畑故に理解が追いつかぬといいますか。知識レベルは幼児みたいなものです」
「……なら、いいものがあるよ」
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「お土産!」
重力操作という魔術を使って山積みの本を教室に持って帰った私は、兄貴の目の前に置いた。
「リィン……これなに……?」
「絵本」
「絵本?」
「バラム・シチロウ先生が作った絵本。勉強苦手ならこれどうぞーって」
パラパラ見ただけでも、兄貴のように魔界入りたての人間でも理解出来るように内容が書かれてあった。
「すごい!ありがとう、分かりやすいよ」
「後でシチロウ先生にもお礼ぞ言うすてね」
「よーし!みんなでウォルターパーク行きたいし、頑張るよ!」
「リィン、少しいいか?」
「ん、しゅにゃいだー君。どうしたですか?」
「拷問学について矛盾点があって」
「あぁ。それ私も思うすて。痛覚が無い箇所なのにどうして痛みを感じるのか疑問になったので実体験で」
「実体験で。」
「同じ拷問学の生徒のDクラスの子に実験をお願いすた結果。こことここが痛覚があると誤字錯覚を」
シュナイダー君、絶対頭いいだろうなぁ。
「リィン、一緒に勉強する?」
「本当です?心強きです!」
「説明、小難しくて教師役クビになった。リィンとなら有意義な時間を過ごせそう」
「私も魔術で質問があるのですが、口頭魔術を使う際、そもそも何を持ってして発言と魔力が結びつくのかについて」
「……目の付け所が面白いね。子供のなぜなぜ期みたい。根本を覆しそう」
「おふたりさん、なんかテスト勉強そっちのけじゃない?」
リード君がそんなことを呟いた。
「私悪周期にも興味ぞあるんですよね。しゅにゃいだー君は悪周期なったことあるです?」
「無いね。俺は魔歴とか魔術に興味あるけど、詳しい?」
「うーん。知識は微妙ですけど、少し別ベクトルの知識ぞあるですぞ。家系魔術の推測とか」
「何それ、楽しそう」
「でしょう!?72柱と勝手に呼ぶすてるのですが、ソロモンって名前を魔歴で聞いたこと無きですか」
「うわ、すごくマイナーな部分だ」
人間だとバレないように、主に質問をメインでシュナイダーくんに疑問をぶつけていき有意義な時間を過ごすことが出来た。
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──1週間後
「やったー!」
皆の歓声が響く。
赤点、追試、
私のランクは1だったので、平均点以上取れたことから2に上がった。
「ウォルターパークが楽しみだなぁ」
兄貴の嬉しそうな言葉。そうだよね。夏休みとかそもそも無かったし、あったとしてもバイト三昧だったもんね。お互い今まで頑張ったよ。
「カルエゴ先生」
「なんだ。学年2位だったとしても3には上げれんぞ」
そう、私はシュナイダーくんのおかげで学年2位の地位を得た。
うーん、やりすぎたな。
「ダリ先生の調子はどうです?」
「……あぁ、もう抜ける」
「そっか!お見舞いとかって行くすても……」
無言で渋顔。
はい、ダメですよねー。
「心痛まぬ実験体が居ればなぁ……」
カルエゴ先生は少し考え込んだあと私の頭を軽く撫でた。
「!!!??」
「???」
クラス全員が驚きすぎて不思議な顔をした。
「勉強熱心な貴様に、いい所に連れて行ってやろう」
「ほんと!」
「あぁ、どれだけこき使っても、どれだけ酷い目に合わせても、なーにも心が痛まない、掃いて捨てるほどあるゴミ捨て場に」
「物騒」
「やーだやだやだ、怖い怖い。天変地異かと思ったら通常運転」
「リィンちゃんの目、キラキラしてる」
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「元祖返りなのでは?」
「いや……えぇ……?」
終末日を楽しみに待つように、と言われ。私はウッキウキで待つことにした。