孫バカの予感がした世渡り上手リィンは、この度祖父となった悪魔が理事長だという情報を手に入れた。そしてやりそうなことを想定してリィンは先手を打っていた。
『私、目立つの好きじゃなき。もし私の名前が理事長挨拶とかで出た場合』
『で、出た場合?』
『──孫ぞ辞める』
『出しません』
『わぁいおじいちゃん大好きぞり〜』
ということで、理事長であるサリバンは考えた。
──つまり
双子の孫が入学してリィンのことを言えない代わりにイルマくんを大プレゼン!という暴挙に出、新入生代表挨拶をするはずだった首席、アスモデウス・アリスに代わり特待生のイルマが代わりに新入生代表挨拶をする羽目になったのだ。
「(リィン!あいつ悪目立ちするポジションを僕に押し付けるところあるからこれ絶対リィンのせいだ!!)」
兄の勘で概ねの自体を把握したイルマ。
生まれて14年間数多のトラブルをリィンと共に乗り越えて来た。この男、物理的な回避力や野生の勘はえげつないのだが、根本的なトラブルへの回避能力は皆無。
なんなら逆にリィンがトラブルを持ち込む時も大いにある。
そんな普通とは違う生活でイルマはリィンの事を理解していたし、リィンはイルマの事を理解した。一心同体である。お互いに足りないところを補い合って生きてきた。
リィンはお人好しが足りず、イルマは腹黒さが足りず。
なので割とイルマの方が割を食ってる時もあるのだが……閑話休題。
「つづれざ……」
急遽代表挨拶として断頭台(気分)に上がったイルマは理事長の残した『禁忌口頭呪文……読み上げただけで魔術が発動するハイリスクでほとんど博打な呪文 しくると死ぬ』を読む羽目になったイルマはそりゃもう目立った。
そして厄介事がもうひとつ。
「なんっ。きっ、貴様……なぜ当たらない……!?」
「すっ、すみまっ、すみません……」
ぜぇ、ぜぇ。はぁ、はぁ。
中庭で決闘が一つ。新入生代表挨拶を本来行う予定だったアスモデウス・アリスがイルマに戦いを挑んだのだった。
先程も上げた通りイルマは回避能力がずば抜けて高い。高い攻撃力を誇るアスモデウスの攻撃など、当たらなければ意味が無いのだ。
『圧倒的危機回避能力』
危ない、怖い、痛そうというものを回避するイルマのお人好しが滲み出た力だ。
まぁ、イルマが攻撃力0守備力∞なのに対して、双子の片割れはある意味えげつない攻撃力(精神)と守備力0(胃)を誇るのだが、それは後ほど判明するだろう。
「何たる侮辱!魔術が効かぬなら武術でねじ伏せるのみ……!八つ裂きにしてくれる!」
「あ、危ない!」
──後に、この決闘を見たものは語る。そう、それはそれは見事な。
ジャーマン・スープレックスであったと──…
かくして、イルマの入学式は有事に終わり、校内新聞に『
彼らの決闘はやく20分の間行われた。割と長期戦である。
その間、なぜ教師陣は止めなかったのか?
そう疑問には思わないだろうか。
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入学式の直後、兄貴がなんか決闘吹っかけられたみたいだけど私ことリィンはまぁ兄貴なら平気でしょ!って考えて別行動をしていた。
「ダリ先生、ですっけ?」
「おや、君は新入生かな」
「はいです。サリバン・リィンです。立場は理事長の孫の」
「えっ!?あぁ、えっ、そういえば双子の孫が入学とかって挨拶で言ってたな……。それにしてもリィンさんすごく美味しそうな匂いするけど、なんか食べもの持ってる?」
「あぁ、その事について話ぞあるです」
独特な言い方だな?なんてダリ先生が首を傾げる。
ダンダリオン・ダリ先生。入学式で魔界歴史学教師とは自己紹介していたけど、この人すごく偉い人。
「──私人間ですねん」
「…………えっ」
無言。
「ハッ!シ、シチロウ先生ーーーッ!カルエゴ先生ーーーッ!至急!集合!緊急!!」
1分くらい経ったあと、覚醒したダリ先生は2人の先生を呼び出した。
「な、何事?」
ザワザワと教師陣が騒ぎ始め、目つきの悪い黒髪の先生と体格の大きい白髪の先生が現れた。
「別室に!」
ダリ先生が先導で適当な教室に入り、鍵をかけ、そしてなんかよくわからないけど魔術っぽいのを使い始めた。
現代鬼畜転生だと思ったけど、悪魔が出てきたあたりから割とファンタジー転生になってるな、私。
「──もう一度、この2人も含めて詳しく説明してくれるかな!?」
ガンギマリの目で肩を掴まれてしまった。
「まずはおふたりの名前ぞ聞くすてもよろしきですか?」
「言語のこと聞いても……?」
「後でするですので棚によっこいしょすてください」
「……。ナベリウス・カルエゴだ。貴様は一体何の問題を起こしたのだ?」
「バラム・シチロウ。空想生物学の先生だよ」
「2人ともケトで僕よりランクが上の悪魔だから」
「けと?」
悪魔用語の一つかな。
まぁそこを突き詰め始めると話が進まないのでさっさと本題に入ろうと思う。
「始めますて、さっき入学しますた。理事長の孫のリィンです。人間ですぞ!」
「んん?」
「理事長に連れて来るぞされますた。ある種の誘拐?親元も本人も合意の誘拐?養子?の、人間ですぞ」
固まった。
ダリ先生は2回目だからか『分かる分かるそうなるよね』って感じで頷いていた。
カルエゴ先生はシチロウ先生を横目で見た。そしてシチロウ先生は頷く。
その反応を見て、ダリ先生が額に手を当てて天を仰いだ。
ほーう?
シチロウ先生って、なんか真偽を判別する何かがあるのかな?
「……………人間?」
「えぇ、そうですぞ」
「……理事長に連れてこられた、人間」
察したことに蓋をして、にこにこ無害な少女の面を被った。
「まぁ正確に言うなれば、人間の両親に売られるすて、おじいちゃんに拾うされたです」
私の言語を見ればわかるでしょう。まともな教育受けてこなかったんです。
「胃が痛い……」
「頭が痛い……」
「胸が痛い……」
ダリ先生、カルエゴ先生、シチロウ先生の順である。事実確認は取れたけどバックに理事長がいるから手出しされないってことかな?
「私の両親はクソです。そりゃもうとんでもなくクソです。もう半端なくクソです。サリバン理事長に子供を売るしますた。売るすた金で高級なる飲み屋?で豪遊すてますた。願い下げ〜〜〜!」
あいつら最後の電話にドンペリ頼んでやがった。まーあ?自立ですからね?えぇえぇ、独立させていただきますよ!
逆に自立してるんだったら私たちの権利は私たち自身に存在するので他人が『身を売る』という行為はそもそもできないし、出来たとしてもそのお金は私たちの物だと思うんですがぁ!?
まぁ!私!凄ーく!嬉しいので!そんな端金くれてやるよ!縁が切れて嬉しい!私の知らないところで生きて惨たらしく死んでくれ。
「えーっと、リィンさん何歳?」
「14です。両親の酷いとこもう少し語るすましょうか?例えばマフィア間の抗争で武器を運搬する仕事をすて自爆兵だと思うされ危うく撃ち殺すされるところだったりとか」
「ごめんいらない。心底いらない」
ダリ先生が真顔で首を横に振った。
「例え人間界だろうと悪魔界だろうと!常識ぞ違うすても!庇護下にあるだけでマシというものですぞ!?学校初めて!暖かいご飯久しぶり!」
最近割とサバイバル寄りだったから……。
「粛にせんか粛に!わかった、わかったから一旦黙るがいい」
「一番聞きたいことなんだけど──なぜ話した?人間は食べられるって思わなかった?」
「だって、先生ですぞ?」
ダリ先生のにっこり笑顔の質問に私も笑顔で返す。
さて、それでは私の幼少期の話をしよう。
大バカのクソ両親が齢1歳の私たちに無理難題を押し付け、それを生き延びてきた私たち。困った人がいれば助け、カモになろうとお金を要求してきた者にはお金を渡し、怪しい取り引きetc……。
兄貴は回避能力が凄いから、逆鱗に触れるのを回避させてもらった。けどそれで物事が片付くかと言ったらそうでは無い。
そんな時には私、交渉と解決担当だ。時に他人を売り、雇い主を売り、売ると見せ掛けて偽情報を渡しetc……。あれ、売ることしかしてないな??
まぁとにかく兄貴が『圧倒的危機回避能力』だとすると、私は──
「秘密ぞ隠して敵対するより媚び売るすて少しでも味方につける方が扱いやすくて得ぞ」
「本音だ…!疑いようもないくらい本音だ……!」
『媚び売る対象が分かる能力』だった。
そうです、エキセントリック厄介事を解決するために養ってきた誰が権力保持者かが大体分かってくる能力です。
よく道端で知らないおじいさんを助けたら社長だった!みたいな展開が漫画の冒頭であるじゃん。あれが常に分かるって感じ。
道倒れの権力者助けまくりだよ。
……ただ問題点をあげるなら、善人も悪人も変わりなく分かっちゃう、ってことだ。
マフィア系の偉い人に気に入られたり目に付けられることもしばしば……。
出来れば警察とかそっち方面に好かれたかったんだけど、私って運が悪いみたい。
そういえば、兄貴が『自立』する前は私の方が早くて、そこで会った男もヤバいやつだったと思う。
「……あの、くそ理事長め。はぁ、この事態一体どうしてくれようか」
先生たちが悩んでる傍で、私は薄紫色のお茶をズズズと飲んでいた。シチロウ先生が入れてくれたのだ。
ハー、かつてないほどの平和。
右も左も分からない異世界みたいな場所で感じる感想じゃないことは分かってる。言ってて悲しくなってきちゃった。
「人間について聞きたいんだけど、人間って何食べるの?」
「今のところ悪魔とほぼ変わらなきと思うです。人間の食べものと比べるすて見た目や名称が圧倒的に違うですけど」
兄貴が回避しないんだったら平気だ。
多少の毒素なら私も抗体があるし。
「私も悪魔について聞くすたいのですが、悪魔って人間食べるですか?」
「うん、食べるよ。あぁでも今はあんまり食べないかな。昔は人間を養殖して食べてたけど」
「美味?」
「人気あるよ。本能的に食べたくなる」
「……食べる?」
「食べない。もっと知りたい!」
「わーい!なんでも教授、するです!」
「その言語って人間特有なの?」
「……。……はい!」
「……。」
「…………えへ」
間違いねぇや、シチロウ先生嘘が分かるタイプの先生だ。
今『えぇー?嘘だぁ。まぁ不名誉なんだろうしそういうことにしといてあげるかぁ』って顔してたもん。
「ん?まて人間」
「リィン」
「……リィン。我々は理事長からそういった話は一切聞いてない。この3人の内誰かには連絡が来るだろうに」
予想はしていたが学校内の有権者。
この3人を味方に付けられたら、心強いぞ。
「──独断か?」
「えぇ。もちろん」
私は椅子に再び座って足を組んだ。
「なにゆえ理事長を信じる事ぞ可能?私は悪魔の世界を何も知らぬ事ぞご存知。理事長が偉い悪魔なのもご存知。でも、だからといってイコール信頼にはならぬです」
まだ。出会って間も無い。
そして生活や保護を盾に暴挙に出られても困る。
「私には保護者以外の協力者が必要で、注意すて見てくれる人も必要。理事長というくらいですから常に学校にいる訳でも無き。人間が食材であるとご存知ながら対抗策は香水だけ」
ならば、私は自分で庇護を得よう。
「……理事長は結構好きです。初めて、提案すてくれた。NOと言うできる余地ぞ作るすてくれた」
施される事に慣れてないんだよなぁ。
何か裏があるんじゃないか疑ってしまう。
今のところ私と兄貴は理事長の、おじいちゃんの手のひらの上だ。庇護下に入るのも、そこから追い出されるのも。対価として何かを要求されても、庇護という盾がある以上逆らえない。
……振り回されるのは、もうコリゴリなんだよね。
だから私は考えた。
──逆に振り回せばよくね?と。
「だから私は味方ぞ必要。お願いします、私にこの世界で生きる術を、力を貸すすてください」
1人じゃなくて3人で良かった。
「君の考えは分かった。ひとまず──言語からよろしく」
「語彙能力があまりにも低すぎて理解しきれん」
「この後時間ある?人間についてリサーチしたいんだけど」
悪魔って自由だなぁ……。
ちなみに、おじいちゃんと後ほどお話し合いをした結果、『入学挨拶とか手続きとかしちゃってるし仕方ないよネ☆』というセリフと共に、おじいちゃんを嫌っているカルエゴ先生に恨まれることで落ち着つく、筈だった。