4度目の人生は悪魔学校で   作:恋音

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第5話 最終兵器人間ってこと

 

「前回の召喚試験とこの授業の結果で貴様らの位階(ランク)を決定する」

 

 校舎裏の高台。クラスメイトはカルエゴ先生に連れられて授業にやってきた。

 

 内容は、谷奥のはたまでの競走だそう。

 

 カナキリの谷とサエズリ谷のふたつのコースがあるそうだが、今はカナキリの長の気が立っている様で、立ち入り禁止だということだ。

 

「な!ら!ぬ!(うぬ)はカナキリにする!カナキリでなければ意味が無いのだ!」

 

 金髪の1番体格がいい大男が爆音で騒いだ。うるさすぎて思わず耳を塞ぐ。

 どうでもいいけどしっぽがひょこひょこはねてるから、猫じゃらしに飛びつく猫みたいにクララちゃんが遊んでるよ?いいのそれ、放置で。

 

「かなきり……」

金剪(カナキリ)の谷はゴールまでの距離が短く、そしてハード。魔王を目指すものやそれに準じる者は皆ハードな場所を通って位階(ランク)を上げてきたんだ」

「へえ〜」

 

 獅子が居た。顔を上げたら獅子がいた。

 正確に言うと顔だけ獅子で体は人型。うーん、悪魔って異形もありなんだ。そう言えば鳥みたいなのもモップみたいなのもクラスメイトに居たな。

 

「アロケル・シュナイダー、よろしくね」

 

 バサ。

 風と共に音が聞こえ、顔以外に目を移すと、翼が生えていた。

 

 …………あ、嫌な予感。

 

「──では只今より、飛行試験を開始する」

 

 バサバサと皆がつばさを広げ始める。

 

「位置について、用意。スタート!!!」

 

 カルエゴ先生の合図で皆が飛び立ち、急激な豪風が背中を押す。軽く人間なんて吹き飛ばせるほど。

 

「きちんと踏ん張らんか」

「ぐえっ」

 

 カルエゴ先生に首根っこ掴まれた。

 た、助かった。

 

 それにしても人間は翼なんか生えないからどうしよう、と同じ状況の兄貴を見る。

 兄貴も同じ考えだったのか目が合ったのはほんの一瞬だけだった。なぜなら巨大な怪鳥が兄貴の首根っこを掴んでいたからだ。

 

「え」

「は?」

「あー」

 

「──えええええええええ!!???!」

 

 兄貴の悲鳴。

 

「……カルエゴ先生」

「……なんだ」

 

 遠く消え去る兄貴を見ながら私はしみじみ思う事がある。

 

「割といつもの事ですぞ」

「……………………そうか」

 

 苦虫を10匹くらいかみ潰したような顔して、カルエゴ先生は脱力した。

 

 私は運がないし疫病神やら災厄やらに好かれている自信はあったけど、兄貴の方が巻き込まれ体質みたいで被害は少ない。いやー、よかったよかった。頼むよフラグ君、私のこれからの人生は安泰でよろしく!

 

 兄貴の方が運悪いよなぁ。

 

「とりあえずお前はこの重りを足に着け、ガブガブ絵本に追いかけられろ。ガブガブ絵本には高台を5周すれば大人しくなれ、と躾ている」

「え?」

 

 ガチャ。まるで罪人がつけるような鉄の塊がジャラジャラとくっついた足輪が私の足にへばりついた。

 

「それでは……よろこべ特別講習だ!飛べないからと言って怠けさせると思うなよ!」

「ええぇぇええええ!?」

「粛に!スタート!」

 

 よく分からないけど口が付いた本が追いかけてきた!やばいことはわかる!

 

「こんっっの陰険クソワンコ!!!」

「せめて番犬といえ」

 

 ヨギボーみたいな大きなクッションにもたれ掛かり、紅茶とどデカいディスプレイを取りだしたカルエゴ先生はくつろぎモードだ。

 

『キケン!キケン!金剪(カナキリ)ニ侵入者アリー!』

 

 なんかディスプレイから声聞こえるけど気のせいかな!

 

「バウバウバウバウッッッ!!!!」

「待つして本から金属ぞ擦れる音する!!」

 

 

 ==========

 

 

「ふむ……」

 

 クラスメイトが競走ではなくワイワイと飛んでいる姿がディスプレイに映し出されている。

 

「バカしかおらんのかこのクラスは」

 

 先生が独り言を呟いている。

 走り終わった私は後ろから見つからないように覗くと、名簿か何かかな?に一つだけ斜線が書いてあった。

 

「先生、兄貴のやつぞ見る可能ですか?」

「うぉっ」

 

 私に気づいてなかったのか素で驚いた顔をしたカルエゴ先生。私の顔を見たあと、腕に抱えているものに気付いた。

 

「……なんで絵本が寝ている?」

「撫でるすたら、大人しくなりますた」

「聞いたこともないぞ」

 

 流石に鉄球なんてハンデ付きで逃げられるわけないから頑張りました。なんというか、前世の手癖?魂に染み付いたような勢いで絵本を撫でたら大人しくなったなぁ。

 まぁ前世なんて1ミリも覚えてないんだけど。

 

「で、貴様の兄貴だったか」

「はいです」

「どうせ食われて死ぬ所だろう」

 

 ピッピッピッ、と何かを操作してカメラが移動する。死ぬところだろうという割に、兄の死に際を妹に向けて普通に見せようとするとこ、悪魔って感じだな。

 

「アッ」

 

 兄貴の姿が見えたと思ったら石で手の甲を自分で切ってるシーンだった。

 

「何故だ????」

 

 ガサゴソとシャツを破り、自分で止血して手当している姿。カルエゴ先生は突然の自傷に混乱してる。

 

 兄貴を連れ去った怪鳥は兄貴の行動を見ている。そして怪鳥の足に傷があった。

 

 

 はっはーん。妹、ピンと来た。

 

「兄貴ぞ連れ去るごめんすた怪鳥が足ぞぱっくりすて怪我ぞすてて兄貴はぱっくりの警戒せぬように自分に手当の手順ぞ説明も兼ねるすて自傷し」

「妹、解説をやめろ。お前の言語の方が理解出来ん」

「解せぬ!!!!!」

「解せ!!!!!」

 

 カルエゴ先生は先生でしょ!?私の言語くらい読み取ってよ!

 

「兄貴は私の言語ぞ理解可能なのに!?」

「その兄貴が読み解くせいでどうせ貴様が言語の修正をサボったのが現状だろう!?」

「ぎく!」

「口で言うな」

 

 あっハリセンは勘弁して!

 

 頭を咄嗟に守ったらカルエゴ先生は大きな舌打ちをして視線を画面に戻した。

 やれやれ仕方ない教師だな。

 兄貴のことは微塵も心配してないけど兄貴は何をやらかすか分からない。今心の中で兄貴が『鈴音には言われたくないよ』って言った気がするけど気の所為だろう。

 

 私もカルエゴ先生に続いて視線を向ける。

 

 兄貴の傷跡からたれた血が、怪鳥の差し出した怪我にポツリと落ちる。するとその傷はたちまち消えてしまったのだった。

 

「「……は?」」

 

 混乱で私たちの時は止まる。

 

『ギシャアアア!』

『とにかくよかったねぇ!』

 

 画面内から声が聞こえる。よかったねぇ、では無い。

 

「あの、先生」

「……なんだ」

「こっちも試すすてみます?」

「…………、シチロウと相談を重ねてからだ」

 

 胃がキリキリと痛み始める。

 これはただの治癒能力とか、食人文化とかでは無い。もしかして昔は食べられてたけど今は食べられてないという現状って、人間の栄養素が悪魔にとって強大すぎて、手に負えないから、とか。

 それを知ってる秘匿してる奴とか。知ったから独占したがるやつとか。

 

 その知識が流出しない様に当人(にんげん)を殺して素材だけ独占しようとか。考えうることは沢山ある。

 

 人間であるということを、死んでも守らなければならない。その上、怪我をしてもならないし、怪我をしたとしても下手に処理出来ない。

 

「か、カルエゴ先生に最初に話すすて良かったぁ」

「良かったぁ、では無いわ!」

「だってだってだって、私1人で抱えるにすては、これ、ちょっとやばすぎる案件ですぞり!?」

「貴様は兄貴のように脳天でなくて良かったな!」

「良かったな、では無き!」

 

 頭を抱えた。

 

「人間の価値が大きすぎる……」

 

 これで新しい魔王を決める戦争とか、闇の悪魔みたいな組織が悪魔学校(バビルス)に攻め込んだりとか、永遠の命を求めたりとか、そういうきな臭い出来事があったら、あったらまじで……。私と兄貴は悪魔界のエリクサーじゃん!?

 

 利用価値を見出されたが最後、死ぬなら幸せ!みたいなことがあったらどうすんだよ!!!!

 

「……先生」

「なんだ」

「学校外の、法律とか治安を維持する組織で、無くても良きですが人間保護の思想ぞある方で、可能であれば13冠。紹介すてください」

「…………待て、待て」

「あと、至急13冠のリストアップ、お願いすていいです?」

「何故私がやらなければならないんだ!?」

「担任!」

「知るか!!!」

 

 ギャースカ騒いでいると、バサッと翼の音がする。混乱した顔の白い制服を着た美しい炎を操る悪魔が、掴み合いしてる私たちを見て言った。

 

「………………逢い引き?」

「違うわッ!」

「嫌です!!!」

 

 後ほど聞いた話だが本校舎まで響くほどの大声だったらしい。

 本当に心底嫌です。出来れば胃痛で苦しんで欲しい。

 

「それにすてもアリスくん1番ですたね」

「貴様は飛んでないのか」

「……。ええ、諸事情で」

「ふん……基本的に入間様が居るから言えなかったが、言っておきたいことがある」

 

 アリス君は私をビシッと指さした。

 

「イルマ様の寵愛を頂くのは私だ!いくら妹だろうと右腕は譲らないからな!」

「どうぞどうぞ」

「なんだと!?」

「いや別に兄貴の右腕になるとか極論要りませぬし……」

 

 トラブルメーカー兄貴の右腕とか本当に困る。私が巻き込むのはウェルカムなんだけど、巻き込まるのはノーウェルカム。つまり断るってこと。ほんとに、いやマジで。

 

 アリス君は私の回答にハッとなった。

 

「まさか……。貴様イルマ様の座を狙おうとして!?おのれ……っ!イルマ様は魔王となられる方、誰がお前になど頭を垂れると!?」

 

 おーい兄貴。友達作ったのは知ってるけど狂信者作れとは言われてないぞ。

 うん、まぁ、初対面から敵対心あったけど。

 

 それにしてもアリス君は兄貴を魔王にする、と。すごい目標を立ててるんだなぁ。

 

 と、他人事のように兄貴のいい所を言い連ねるアリス君を見て思っていた。

 ごめんねアリス君。今言ってくれてる兄貴のすごいとこ、もう何年も前から知ってる。

 

 

 

 ==========

 

 

 皆が次第に帰ってきた。

 最後に兄貴が金剪(カマキリ)の長に乗って帰ってきた。何を言ってるのか分からないと思うが私もよく分からない。

 

 けどどうせ兄貴のことだから、怪鳥の正体が長の子供で、長が兄貴に恩を感じて送り届けた、ってとこだろう。

 

「助手!」

「誰が助手ですぞ」

「これをあのビリどもに掛けておけ」

 

 色々やらかしたサブノック・サブロ君と兄貴はビリコーナーにて正座をしている。先生いわく見せしめ。

 

「なんて書くすれば良きですか?」

「反省中、と約束はもう破りません」

「はーい。筆記用具……が無き!?あれ?持ってくるすたのに!」

「あっごめん試練の前に俺が盗ってる」

 

 ジャズ君の懐から私の幼児が使うような筆記用具が取り出された。

 

「何故!?いつの間に!?」

「移動中?がら空きだったぜ。……ところでこの筆記用具のセンスはどうかと思う」

「同意ですぞ」

 

 おじいちゃん、私は赤ん坊でもなくて14歳の割と少女なんですけど。なんなら転生直後から自我があるせいか精神年齢も高めなんですけど。4歳と間違えてらっしゃる?

 

 

 

「出来た。はい、兄貴は反省中。サブロ君はもう約束破りません」

 

 カルエゴ先生の指令通りに書いた紙。それらを2人の首にかけると、サブロ君は屈辱ですみたいな顔をした。

 

「そう言えばリィンは無事だったんだね」

「(兄貴が代わりに犠牲になってくれた)おかげでね」

「………。」

 

 あっ、言わなかった部分まで読み取ったらしい。兄貴が死んだ目で私を見た。

 ごめんって、でも私も胃痛で死んだんだから許して。

 

「イルマ」

 

 サブロ君が正座のまま、兄貴に向かって頭を下げた。

 

「改めて、助けてくれたこと礼を言う。これまでの非礼を詫びよう、ヌシは強いやつだ」

 

 サブロ君は真っ直ぐな目でそう言った。

 

「今日から我がライバルだ」

「え……え!?」

「おいクズども!順番だぞ!」

 

 カルエゴ先生に呼ばれたので足が痺れた兄貴を放置して先にサブロ君と一緒に行く。

 

「……サブロ君はカッコイイですね」

「?」

「他者に真っ直ぐお礼と、謝罪ぞできる者はプライドが低いのではなく、己の誇りがあるから、プライドが高いからこそできることだと思うです」

 

 別名大人、とも言う。

 自分の間違いを認めて反省するって、なかなかできない。私は、無理だ。間違えてないって言い張って、謝れない。私はすごいんだって下手くそなプライドが邪魔をする。

 

「う、うむ、(うぬ)はカッコイイのだ!そして魔王は1番カッコイイ!だから(うぬ)は魔王になりたくて、そして無茶をして、イルマに迷惑を掛けた。1人で何も出来ないのに、できると思っていた。まだまだだな」

「そこがとっても、カッコイイ、です。でも」

 

 でも、一つだけ許せないことがある。

 

「──次、兄貴(イルマ)を巻き込むすたら許さない」

 

 サブロ君が怪我をしてるからと怪鳥から飛び降りて庇い立った瞬間、私は本当に血の気が引いた。

 

「お前のせいで、あれが傷付いたら、私は己の人生を掛けて貴様を地獄に叩き落とすぞ」

「……。あぁ、肝に銘じよう。この恩、必ず忘れない」

「サブノック・サブロ!貴様の番だと言っている!」

 

 サブロ君はランクを受け取って戻ってきた。

 次は兄貴の番だ。私の番は、うん、兄貴の後にしよ。生贄だ。だって案の定、兄貴がランクを決める鳥に手を突っ込んだ後、滅多に鳴かないって言われてるのにバカほど鳴いてるんだもん。あとにして良かった。

 

「魔王の、予言の書……」

「へ?」

「……(うぬ)の叔父が幼い頃に語ってくれたものだ。予言の悪魔が次の魔王を予言したもので、確か内容は……──」

 

 兄貴の手から鳥が飛び立つ。

 

 

 ──彼の者

 あまねく種族を配下に収め

 

 血の契約を結び

 万物の癒し賜う

 

「彼は異郷より舞い降りて」

 

 人間の世界から来た兄貴の右手には。

 

「──右手に黄金(ソロモン)の指輪を宿す」

 

 

 

 ……先生、明日はせっかくの休日ですが、行きたいところが出来ました。付き合ってください。

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