食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第九話 科学の街の王様 Creator.

 

 

 学園都市統括理事長・アレイスター。

 

 

 学園都市の創設者にして、最高権力者。

 五〇年以上昔、学園都市が創設された当初から生き続けており、年齢は不詳。

 

 学園都市の運営に携わる統括理事会の長と言えば、内閣に対する総理大臣のようにイメージするかもしれない。しかし、その実態はむしろ学園都市の王様と言った方が近い。

 統括理事会の意思決定は統括理事長個人に掌握されており、他の統括理事がどう抗ってもその意思は決定に反映されない。統括理事長の発言や行動を制限するような制度は存在せず、当然統括理事長が罷免される制度もまた存在しない。

 

 そして、何より。

 アレイスターはこの学園都市にて何らかの『計画(プラン)』を進めている。

 

 それが何なのか細かい所は分からない。

 しかし、アレイスターは『計画(プラン)』のためならばどんな犠牲も厭わず、実際にこの街に様々な悲劇をセッティングしている。

 この街の『暗部』とはつまりアレイスターが創り出した『闇』であり、言い換えると学園都市で起こる全ての悲劇の黒幕こそがアレイスターなのだ。

 

 

(だから、どんなに『暗部』を退けても……どんな権力を手に入れても、意味はない。アレイスターを説得できなきゃ、どうにもならない)

 

 

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)は『宇宙の何処かにブラックホールを発生させる能力』を保有する。

 そんな特殊な力をアレイスターが放っておくだろうか?

 

 今は放置していても、ある日突然『プランに利用できる』なんて思い付かれたらそれでお終いだ。

 だから、アレイスターとの直接交渉権が必要だった。アレイスターを説得して、手出しができないようにする方法が。

 

「見ているのだろう、アレイスター? この世界における最大のイレギュラーたる僕と話すつもりはあるかな?」

 

 『滞空回線(アンダーライン)』と呼ばれるナノマシンを街中に散布する事で、アレイスターは学園都市全体を監視している。

 この発言も、今までの戦いも、少年院の中の会話だって、全て監視されていた。

 

 返答がないとしたら、それは見ていないからではない。

 返答する価値がないと、アレイスターがそう判断したのだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……別に、応えないのなら仕方がない。僕も好き勝手にやらせてもらうよ」

 

 アレイスターの想定を超えろ。

 アレイスターの計画をブチ壊せ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、まるで霧のようだった。

 眼前、得体の知れない何かが蠢いている。

 顕微鏡レベルじゃないと見えないような何かが、肉眼で見えるレベルにまで集まって像を成す。

 

 テクノロジーが最先端すぎて、どんな理屈で動いているのかも分からない。

 やがて、それはスクリーンのようになった空中に映像を浮かばせる。

 

 

『ようこそ、「真なる外」から来訪した異邦人』

 

 

 それは、銀色の髪の『人間』だった。

 それは、『人間』としか呼べなかった。

 

 その『人間』は男にも女にも見えて、大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見えた。

 奇しくも僕と同じ緑色の手術衣を着た『人間』は、赤い液体が満たされたビーカーの中で逆さに浮いていた。

 

 そして、それよりも異様なのは『人間』の背後にある光景。

 一切の照明がない室内に、無数のモニタやボタンの光が満ちている。それはまるで、暗い宇宙に満天の星が浮かんでいるかのような光景。

 大小合わせると数万にも及ぶ機械類から更にその一〇倍はあるコードやケーブル、チューブ類が伸び、血管のように床を這う。そして、それら全てが『人間』が浮かぶ巨大なビーカーに繋がっていた。

 

「お前が……学園都市、統括理事長……」

『アレイスター。そう名乗っている』

 

 ごくり、と。

 無意識のうちに喉が鳴る。

 

 学園都市のトップ。

 それは即ち、この星の半分を覆う科学サイドの頂点に立つという事だ。

 何処にでもいるようなありふれた大人である僕とは違う、本物の偉人。

 

『この姿を見る人間は皆、私の在り方を観測して、皆同じ反応をするのだが───』

 

 蠢動俊三(しゅんどうとしぞう)のスピーカーとは比べ物にならない音質。

 まるで目の前にいるのではないかと錯覚するような肉声が空気を震わす。男にも女にも聞こえ、大人にも子供にも聞こえ、聖人にも囚人にも聞こえる声で。

 

『───君の反応は少々違うな。()()()()()()()()()()()()

「……まぁ、ね。僕はお前を知っている。その姿も、想定の範囲内でしかない」

『ふむ……なるほど、面白い。「真なる外」は完全に区切られた異界ではなく、二次元と三次元のように一方的に観測のできる、我々の上に存在する上位(メタ)世界という訳か』

「…………っ!」

 

 たった一言二言交わしただけで、こちらの素性が暴かれた。

 言葉を尽くさねばこの『人間』を説得できないのに、言葉を尽くすほど手の内を暴かれて手札が無くなっていく。

 

『君の望み通り、直接交渉権は与えた。さぁ、好きに言葉を述べるが良い』

「……ははっ。それは違うよ、アレイスター。これはお前が僕に与えた交渉権じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『…………それで?』

 

 だが、それでも笑え。

 自分はアレイスターと対等だと虚勢を張れ。

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)の代わりに笑い、泣き、怒ると誓ったのだから。

 

 だから、僕は歯を剥き出して笑った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『……………………、』

 

 

 返答は沈黙。

 信じていない、のではないだろう。

 恐らく、僕の情報を計算し直しているのか。

 

 アレイスターの『計画(プラン)』。

 それは簡単に言うと、この街に存在するAIM拡散力場を利用して、世界からあらゆる魔術(オカルト)を廃絶する事にある。

 無論、他にも様々な工程があるのだろうが、主に重要だと考えられるのはこの二つだ。

 

『……君は確かに特異な存在だ。魔術ですら説明のつかない「真なる外」からの来訪者。死してなお生者の領域に居座る亡霊』

「……ああ」

『だが、それだけだ。その知識と魂は特別だが、この物質世界には何の効果も持たない。私の「計画(プラン)」をどうやって破綻させる?』

「お前はもう口にしたと思うが? 僕が特別なのは知識と……()()

『…………まさか』

 

 理解が早い。

 流石はアレイスターと言った所か。

 

 魂は肉体と結び付いているのだと思われる。

 肉体が死した際、魂もまた消滅する。

 だが、僕の魂は? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「本来ならばあり得ない『()()()()』。これはあらゆるものに憑依する事が可能だ。例えば……A()I()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 そうなれば最悪だ。

 『計画(プラン)』の要が僕に掌握される。

 僕を追い出すには憑依した器を破壊する他なく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……もちろん、ハッタリだ。

 この転生の理屈も分からない僕が、器を破壊されたらどうなるかなんて知る訳がない。アレイスターもそれは承知の上だろう。

 それでも、僅かな可能性が僕の殺害を躊躇させる。どれだけ低い確率だとしても、一発で『計画(プラン)』をブチ壊すリスクを許容できないでいる。

 

 だから、アレイスターは僕を殺せない。

 それどころか、僕を守らなければならない立場になった。

 

『……まさか、殺せないだけで私が諦めるとでも? 睡眠ガス、洗脳、コールドスリープ。殺さずに自由を奪う技術など、この街にごまんと存在する』

「器が昏睡状態にありながら幽体離脱した事を忘れたのか? 洗脳だって効くとは思えない。そもそも僕は脳の記憶細胞に存在しない知識を引き出しているのだから、脳とは別の場所で思考をしているのだろうし」

『…………、』

「肉体にいくら干渉されようが、精神をいくら捻じ曲げられようが、魂を観測できない科学では僕を止められない」

『私の手札が科学だけとは思わない事だ』

「ああ、魔術かな? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 学園都市統括理事長・アレイスター。

 その、正体。科学(おもて)に隠された魔術(うらがわ)

 

 魔術師アレイスター=クロウリー。

 二〇世紀において世界最高と謳われた魔術師。

 かつてイギリスに台頭した『黄金』と呼ばれる魔術結社の中心人物で、現代の魔術の基本たる近代西洋魔術の編纂者。現代の魔術師の二割はアレイスターの亜流、何らかの影響を受けた者なら五割に上ると言われるほどの偉人。

 そして、魔術の道を正しく進んでいたのならば『魔神』にさえなっていた『人間』。

 

 アレイスターほどの魔術師ならば、魂にだって干渉が可能なのかもしれない。

 そもそも、魔術において魂とは非常に重要な位置を占める概念である。彼でなくとも、魔術師であれば何らかの対処法は思いつくのかもしれない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 魂をあの世に連れて行く方法はいくつかある。

 十字教の場合、最後の審判を待つ。

 仏教であれば、四十九日で彼岸に渡る。

 北欧神話なら、ワルキューレが連れていくのだろうか。

 

 だけど、僕の魂は?

 この世界の何にも属さない僕の魂は、この世界の何処にも行けない。

 だから、この世界に存在する魔術では僕の魂に干渉する事なんて不可能なんじゃないのか?

 

『君の言う通り、魔術ではどうにもならないだろう』

 

 アレイスターも、肯定した。

 魔術を極めたあの魔術師が、魔術ではどうにもならない事を認めた。あるいは、だからこそこの『人間』は魔術を捨てて科学の道に走ったのか。

 

『だが、存在する。この世界を観測していた君なら知っているはずだろう。()()()()()()()()()()()()()()()()

「………………ま、さか」

()()()()。彼の右手に宿る「幻想殺し(イマジンブレイカー)」をぶつければどうなると思う?』

 

 あらゆる異能を打ち消す右手。

 理不尽をブチ壊す主人公の力。

 上条当麻(かみじょうとうま)。彼ならばあるいは──

 

「い、いや、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』はあくまで異常な値を基準値に均すだけだ。人に触れても魂が壊れるような事にはならない」

『君はこれ以上なく異常な値だと思うが?』

「逆だ。僕が異常すぎるからこそ、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は効力を発揮しない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『試してみるか?』

「お前が後悔しないのなら」

 

 試せないだろう。

 核兵器のスイッチが相手にあるようなものだ。

 僕が気分を害しただけで、何もかもが台無しになるのだから。

 

「僕が要求するのは三つ。一つ、僕と春暖嬉美に手を出すな。二つ、春暖嬉美を学校に通わせてやれ。三つ、僕の目の前で悲劇を起こすな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『脅迫かね?』

「警告さ。最初に言っただろう? これは僕からの交渉じゃない。お前が僕に対して行う交渉だと」

 

 何処までも強気に。

 この街の王に対して畳み掛ける。

 

「お前の『計画(プラン)』の邪魔をしない代わりに、僕たちに便宜を払え……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『…………』

「ああ、約束はしなくても構わない。お前の言葉を僕は信じない。ただし、気を付けろ。たとえそれがお前の思惑でなくても、僕がお前の行動だと誤解すればどうなるかは言うまでもないな?」

『……君の言い分は理解した。先程の要求に加えて、君にも手を出させないように統括理事会を監視する。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは学園都市創設以来の偉業。

 アレイスターに意見を呑ませた。

 たった一人の少女のためだけに、この星の半分を治める王様の首元に刃を突き付けたのだ。

 

『……最後に、一つ問おう』

「?」

 

 男にも女にも見えて、大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見える『人間』は、ちっぽけな少女に向かって尋ねる。

 

『君と春暖嬉美(しゅんだんきみ)は、ほんの数週間前出会っただけの関係だろう。彼女を見捨てさえすれば君の魂は何処へだって行けるのに、なぜ君は彼女のために命を賭ける?』

 

 きょとん、と今までの真剣な顔が崩れる。

 何故そんな誰でも分かるような当然の事を聞かれたのか、理解できなかったのだ。

 

 男でありながら女になり、大人でありながら子供になり、聖人でありながら囚人になった『亡霊』は告げる。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

▽アレイスター=クロウリー
初出:とある魔術の禁書目録2巻
学園都市統括理事長・アレイスター、その正体。
二〇世紀において世界最高と謳われた魔術師。『黄金』と呼ばれる魔術結社の中心人物にして、現代の魔術の雛型である近代西洋魔術の編纂者。
魔術世界の頂点に立ちながら、その全てを捨てて科学に走った事から、世界で最も魔術を侮辱した魔術師として魔術世界の全てを敵に回した。

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