そうだね、まずは僕がこんな姿になった理由から話そうか。
え? 早く本題に入れって? 大丈夫、そんなに長い話でもない。
まず、前提を話そう。
とは言っても、何か
長い闘病生活の果てに力尽きて死んだわけじゃないし、突然現れた通り魔に腹を刺されたわけでもないし、非日常的な事件に巻き込まれてもいない。トラックに轢かれて死んだなんて古典的な話でもない。
……ああ、悪くない最期だったと思うよ。
伴侶も血の繋がった子供もいなかったけど、孤独死したわけじゃない。多くの人に見守られて死んだ。未練はない。
だけど、どうした事か僕の人生はまだ終わらなかった。
次に目を覚ました時、僕はふわふわと宙を漂っていた。イメージとしては水中を流されている感じかな。僕の場合は空中だったけれど。
まぁ、簡単に言えば僕は
──
そこは恐らく病院だった。窓もない真っ白の室内で、これまた真っ白な
蜂蜜色の長い髪に、人形のように整った顔立ち。その静かな眠り方と端正な美貌も相まって、そういう芸術作品だと言われれば信じてしまいそうな光景だった。
そして、僕はその少女に見覚えがあった。
『…………
思わず、というふうに言葉が溢れる。
それが、この世界での僕の
学園都市第五位の
常盤台中学に所属する中学生二年生の──あっ、今は一年生か──少女。
もちろん、何の根拠もない第六感だ。
僕自身だってその感覚は信じられない。
だから、徹底的に調べた。
自分の声を記憶にある食蜂操祈の
だけど、最終的な判断材料は僕と食蜂操祈を繋ぐ
つまり、僕は食蜂操祈に憑依転生した上で幽体離脱しているというややこしい状況になっているのさ。
『あり得る、のか……? 「
流石の僕も頭が真っ白になって自問自答を繰り返し、状況を考察したのだけど……ここは本筋とは関係ないから
兎も角、僕は食蜂操祈に憑依転生したのだと知った。
そして、その時になってようやく僕は気付いた。
『……ハンガーにかかった学生服は、常盤台中学の制服だ。なら、恐らく今は中学生一年生。「原作」よりも一年前……彼女がこんな病院に運び込まれるような
僕が憑依したことで彼女が気を失ったことも考えたけど、あまりしっくりは来なかった。
むしろ、彼女の意識が飛んで魂が揺らいだからこそ、僕みたいな亡霊が中に入り込む隙になった……そう考えた。
原作よりも一年前。
窓がないから外の状況は分からないけど、彼女の制服が夏服である事から考えると、今の季節は春か夏。学園都市における衣替えの季節は全学校で統一されているから、具体的には五月から九月までの五ヶ月間。
その間にあった、食蜂操祈が昏倒するような
もしかすると、僕の知らない……あるいは『原作』にも書かれていない
だけど、僕はなけなしの記憶を絞り出した。
『…………
そして、思い出した。
食蜂操祈が昏倒するような、
『
自殺、と言ってもそのままの意味ではない。
精神的な自殺。『
『原作』より一年前の夏のこと、彼女は能力の媒体に使うリモコンを自身のこめかみに突きつけ、まるで拳銃自殺でもするように自分の思い出を殺し尽くそうとした。
幸い、『原作』ではそうはならなかった。
ギリギリの所で、彼女は上条当麻と出会った。
『……なにも、ないのか』
僕と食蜂操祈を繋ぐ銀色の糸は記憶を流す。
でも、それは
記憶には種類がある。
言葉や知識を司る『意味記憶』、運動の慣れなんかを司る『手続記憶』、思い出を司る『エピソード記憶』。
手続記憶は自発的に思い出すようなものではないから仕方がないのかもしれない。だけど、エピソード記憶がないのはあり得ない。生きている限り、思い出は積み重なる。
それなのに、銀色の糸を通して流れるのは意味記憶ばかりで、エピソード記憶はなかった。
『君の中には、もう、何もないのか……っ!』
まるでフランケンシュタインの怪物が知恵を得た事で苦しみ、全ての想いを消し去るために死を選んだように。彼女もまた自身の想いを消し去る“死”を選択した。
それから……どうしたんだっけ。
あんまり覚えていないな。気が動転していたのだろう。
気づけば僕は病院を飛び出して、何かできる事はないかと歩き回っていた。
『誰かっ、あの子を助けてくれ……! 何かっ、ないのか⁉︎ あるだろう⁉︎ だって、ここは学園都市だ! ここはあの
時間帯は真昼間。
僕がいたのは繁華街のエリアだった。
本当なら学生は学校へ行っている時間帯だったのだけど、どういうわけか街は賑わいを見せていたよ。
……え? もうちょっとで夏休みが始まるから、気が抜けている学生が多い?
そっか、そういう事か。納得したよ。
まぁ細かい事は置いておいて、兎も角、そこには多くの学生がいた。だから、僕は彼らに必死で呼びかけた。
『君達に何かしろと言っているわけじゃない! 大人を呼んでくれるだけでもいいんだ! だからっ、頼むよ……‼︎ たすけてくれっ‼︎』
だけど、誰一人として僕の言葉に耳を傾けなかった。
……都会の人は薄情だとか、そんな話じゃない。
僕が、幽霊だからなのかな。
僕の姿は誰の目にも映らない。
僕の声は誰の耳にも届かない。
僕の手は誰の肌にも触れない。
僕を認識できたのは、この世界で唯一君だけさ。
『そもそも記憶を失ったのが「
……ああ、大人としてみっともない事も口走った。
情けないね。いい歳こいたジジイが子供に縋り付くなんて。
結局、僕は何もできなかった。
研究機関みたいな所にも行ったけど、どんな機器も僕には反応しなかった。どうやら僕の
街中を歩き回った。街中で助けを乞うた。
徘徊老人みたいなものさ。現在地も分からず、彷徨い歩いた。
何の成果もないまま、ただ無為に時間だけが過ぎていった。
それから、何時間か経って。
『は、』
その瞬間、僕の
どうやら銀色の糸は
充電器のないケータイみたいなものかな。すぐに消滅する事はなかったけれど、動き続ければ当然エネルギー切れで消え失せる。
銀色の糸が千切れた理由は分からない。
食蜂操祈の肉体と離れすぎたのが問題だったのか、元から長時間は幽体離脱できないようになっていたのか、それとも食蜂操祈の体に何かあったのか。
もう猶予はなかった。
僕は最期の悪足掻きとばかりにふらふらとあてもなく彷徨い──
『────
「………………」
表情はウェーブがかかった長い空色の髪に隠れて見えないけれど、眉をひそめているのだろうと何となく思う。声を出そうとして口を開き、何も言えずにギザギザの歯を食いしばるのを何度か繰り返す。
無理もあるまい。転生だの、『原作』だの、訳の分からない事をほざいている自覚はある。
それでも、僕には何一つ隠す事なく僕自身の言葉で話す事しかできない。そうしないと、彼女の信用は得られない。
「……オマエの話の真偽はひとまず置いておくとして、一つ疑問がある」
『何かな?』
「オマエはオレの名前を知った時に『
『あれは……』
一瞬、答えるのに躊躇する。
これは彼女の
『……そう、だね』
……でも、言うしかない。
僕が出来るのは彼女に選択肢を提示する事だけだ。
一方的に憐れんで、君の為にはならないなんて言って、彼女から自分で道を決める権利を奪って、子供の未来を狭めるなんて事はできない。
『僕は、君の能力──
「────は?」
彼女は『外伝』にて、登場するキャラクターだ。
確か、
何より印象的だったのは彼女の力──『宇宙の何処かにブラックホールを生み出す』能力。
「……オレは、
『でも、何かしらの特殊な力が宿っていて、様々な機関が君の身柄を狙っている事は気付いていたんだろう?
彼女が本名を当てられただけで動揺していたのも同じ理由だ。
身分を偽装しているため、看守でさえも彼女の本名は知らない。
戸籍上──この街で言うなら『
「………………、」
彼女はこの力を自覚していない。
認識できた所で、制御できるようなものでもない。
そんな価値のないもののために命を狙われ、当たり前の日常から失うなんて、やるせない事だろう。
『そして、ブラックホールを生み出す君は同時にブラックホールとのパスが繋がっている。
「エネルギーだと? さっきも言ったが、オレは何の力も放出していない事が
『何も科学的に説明できるエネルギーとは限らない。
僕が銀色の糸を通して食蜂操祈から供給されていたエネルギー。
恐らくはそれに近いものを放出しているのだろう。
『水が高きから低きに流れるように、風が気圧の高い所から低い所へ流れるように、エネルギーというのは高い方から低い方へ流れる性質を持つ。今回は低い方が高い方に引き寄せられた訳だけど、大した違いはない。生命力を失って不安定になっていた
「……それが、」
『銀色の糸が君と繋がったのも同じ理由かな。僕の
「オレの、チカラ……」
『勿論、何かしらの弊害はあるのだろうけどね。例えば、銀色の糸の距離。食蜂操祈と繋がっていた時は、離れ過ぎて引っ張られるなんて現象は起こらなかった。きっと自分以外の肉体と繋げる場合は、一定以上離れると
「……………………」
聞いてなかった。
春暖嬉美は自身の掌を見つめている。
……それも仕方ない。
『
「──ッ‼︎」
キッ‼︎ と鋭い眼光が僕を睨み付ける。
踏み込み過ぎたか。能力で相手の気持ちを知る事はできても、相手との距離感は測れないらしい。
「……オマエは、どうするつもりだ?」
『どうするって?』
「オマエの馬鹿げた話を信用するなら、目的は肉体の女を救う事だろう? オレと繋がる事で一時的に体を安定させられても、オレから離れられないってんなら何もできねーぞ。
『………………、』
一拍考えて。
僕ははっきりと告げた。
『どうしよっか?』
「はァ⁉︎」
《原作キャラ紹介コーナー》
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初出:とある魔術の禁書目録1巻
とある高校に通う高校一年生。ツンツンした黒髪の少年。『正史』における主人公。
一年前にとある事件に巻き込まれ、脳に
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初出:とある魔術の禁書目録1巻
常盤台中学に所属する中学二年生。肩まである茶色い髪に、化粧は必要ない程度にデフォルトで整った顔立ちの少女。
学園都市第三位の
割とケンカっ早い。『原作』一巻冒頭の