食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第一九話 ニセモノは黄金へ至る Lumen-Magna.

 

 

(おせーな。何かアクシデントでも起こったか?)

 

 ステイル=マグヌスを相手に時間稼ぎを行っていた春暖嬉美(しゅんだんきみ)は、いつまで経っても現れない援軍に首を傾げる。

 しかし、その動揺を表面に出す事はなく、余裕そうな顔つきで魔術師を睨み付けた。

 

「そこを退けッ、能力者‼︎ 僕は一刻も早く彼女の下へ向かわないといけないんだよ‼︎」

 

 敷き詰められたルーンの刻印(カード)が起動した。

 赤髪の魔術師は出し惜しみをしなかった。

 轟‼︎ と巨大な炎の塊が君臨する。

 

 重油のような黒くドロドロとしたモノを『芯』とした、人間のカタチをした真紅の炎。

 その名は『魔女狩りの王(イノケンティウス)』。込められた意味は『必殺』。

 ステイル=マグヌスが生じさせた裁きの炎が、たった一人の少女を殺すために燃え盛る。

 

「炎、炎ねぇ……」

 

 対して、春暖嬉美はその光景を冷静に眺めていた。

 継雲雷糸(つくもらいと)の補助が無ければただの無能力者(レベル0)に過ぎない彼女には、その炎の巨人に立ち向かう術などない。

 

 それでも。

 少女は吠えるように叫んだ。

 

 

「オレだって、いつまでも雷糸(らいと)におんぶに抱っこのままじゃいられねェんだよォ‼︎」

 

 

 ()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 本来ならば不可能な春暖嬉美単独での能力行使。

 それは如何なる奇跡か。継雲雷糸の『進化体質』によって脳の構造に変化が齎されていたのか。

 厳密な理由は定かではないが、春暖嬉美は『無限動力(ホワイトホール)』を自分の意思で発動させる事に成功した。

 

「ハハ! 不完全‼︎ だがッ、それでも構わねェ‼︎ オレ自身の手で戦えるのなら‼︎」

 

 出力こそ大能力者(レベル4)クラスであるものの、制御できない炎の噴射。

 それを笑いながら振り回す。

 

 春暖嬉美は弱者だ。少なくとも、彼女は自分自身をそう定義している。

 ケンカ慣れをしている。だから、自分は強者だと思っていた時もあった。脱獄した時は雷糸が参謀で、自分は戦闘を担当していると勝手に考えていた。

 

 ──そんなプライドは簡単にへし折れたが。

 脱獄は雷糸のお陰。蠢動(しゅんどう)とも最後は雷糸が戦って、学園都市統括理事長を説得したのも雷糸。錬金術師との戦いでは関与さえ許されなかった。

 だから、成長しなければならないのだ。胸を張って、雷糸の隣に立つためには。

 

(掌から炎を出すだけの超能力……児戯だね)

 

 一方、領域こそ違えど同じく炎を扱う者としてステイルは冷静に判断を下した。

 範囲は手の延長線上のみで、その熱量も摂氏三〇〇〇度の炎を操るステイルには遠く及ばない。

 

 故に、新鋭の炎使いを迎え撃つため『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を自身の側に動かし──

 

 

「オマエとやり合うメリットはカケラもねェな」

「は?」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(な、にを)

 

 ステイル=マグヌスは別に春暖嬉美に執着していない。今すぐインデックスの下へ向かいたいのに、足止めをさせていたのは彼女の方だ。

 だから、その不可解な逃走に疑念が生じ……()()()()()()()()

 

 

()()()っ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

 

 

 ただ逃げているだけではない。

 ステイルが設置していたルーンを燃やしながら走っている。

 

 先日の失態からインクが水で滲まないようにカードにラミネート加工をしているが、流石に耐熱加工までは行っていない。

 こうしている間にもステイルの戦力はゴリゴリと削られている……‼︎

 

「く、そ……ッ‼︎」

 

 結果として、ステイル=マグヌスは春暖嬉美を追わざるを得なくなった。

 インデックスの下へ向かっても、設置していたルーンが一つ残らず灰になっていれば意味がないからだ。

 

 だが、その足取りは重い。

 ステイルは教皇級の魔術を扱うために、大量の魔力を消費している。その上で走るというのは、二重に体力を消耗させているのに等しい。

 そもそもの話、ステイルはあらかじめルーンを設置した場所で戦う防衛戦に向いた魔術師。追撃には絶望的に向いていない。

 

「これであと数十分は何とかなるだろーが、()()()の時間稼ぎは上手くいってんのか?」

 

 燃え盛る炎から逃げながら、春暖嬉美は呟いた。

 

 

 

 

「ごっ……ぁ……ッ⁉︎」

「もう、良いでしょう?」

 

 一分。

 それが、上条当麻(かみじょうとうま)の稼ぐ事のできた時間だった。

 

 釘を利用したマキビシ、『踏み絵』の伝承を引用した地雷、インデックスが用意していた魔力を使わず『聖人』を自滅させる道具の数々。

 それら全てを使い切っても尚、神裂火織(かんざきかおり)は余裕な顔で上条をあしらった。

 

 戦うとかのレベルじゃない。

 たった一度も魔術を使用する事なく、その身体能力と鋼糸(ワイヤー)を使った七閃(トリック)のみで、上条が重傷を負わないように手加減した上で戦闘不能に追い込んだ。

 まるでリンチでもされたかのような激痛に、上条は立って歩く事すらできない。

 

「あなたに用はありません。魔術の邪魔にならないように戦いに割って入らなければ見逃すと言っているのです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 神裂だって今すぐここから立ち去ってインデックスの下に向かいたい。

 しかし、敵は一〇万三〇〇〇冊の魔道書を手にした魔術師。最低でも『聖人』以上、最悪は世界の全てを捻じ曲げる『魔神』クラス。

 ほんの一瞬の隙が命取りとなる。だからこそ、魔術を無効化(ディスペル)する少年相手にここまで時間をかけていたぶったのだから。

 

「…………、」

 

 返答はない。

 神裂はそれ自体が返答だと判断した。

 戦意を失った少年を無視して、足早に立ち去る。

 

 

()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あなた、まだ──」

「アンタ、そんなに強いのに。俺を殺すのを躊躇うくらい、優しいのに。俺みたいな一人の女の子を守れねぇ負け犬とは違って、何だって誰だって救える力があるのに」

「────、」

「何だって、そんな事しかできねぇんだよ。一人の女の子が空腹で倒れるまで追い込んで、刀で背中斬って傷付けて、記憶が無くなっちまうくらい苦しませて。そんだけの力があって、何だってこんなくだらねぇ事にしか使えねえんだよ‼︎」

 

 歯を食いしばって立ち上がる。

 意識が朦朧とするまま敵を見据える。

 

 ──しかし、上条は目を見開いた。

 見据えた敵──神裂火織は唇を食い締めて血を流していた。

 追い詰められたのは上条当麻だけじゃない。ロンドンで一〇指に入る魔術師、世界に二〇人といない『聖人』。そんな神裂火織がたった一言で追い詰められていた。

 

「…………私、だって。好きでこんな事をしている訳ではありません。けど、こうしないと彼女は生きていけないんです」

 

 神裂火織は泣き出すように、血を吐くように、言った。

 

 

「彼女は私の────大切な親友、なんですよ」

 

 

 

 

 天敵。

 アウレオルス=ダミーを前に、僕の脳裏にはその言葉が浮かんだ。

 

 勝てない。

 インデックスの力を借りても、逃げる事すらできない。

 情けない事だが、きっと彼女一人を逃す事もできない。

 

 だったら、僕に出来るのは一つだけ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ()()

 ()()()()()()()()()()()()()()‼︎

 

「当然、貴様を捕獲するためだとも」

「その先の目的は? 能力者でありなから魔術を使える僕の体質が希少なのは分かる。でも、その僕を捕まえて君に何のメリットがある?」

「我が黄金錬成(アルス=マグナ)が──」

「その黄金錬成(アルス=マグナ)を何のために完成させる必要があるのかって話だよ。真理の探求のため? 全能の力を得るため? だったら君はどうして三沢塾で吸血鬼を追い求めた?」

「………………、」

「いいや、まず、そもそもの話。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 自己の認識を揺さぶる。

 精神につけ込む隙を作る。

 

 

「思い出せよ、アウレオルス=ダミー。錬金術師が自らに課した『魔法名』を」

 

 

 瞬間、アウレオルス=ダミーは全てを思い出した。

 いや、思い出したという表現は正しくない。彼に入力(インプット)された情報が、その解を弾き出した。

 

 我が名誉は世界のために(H o n o s 6 2 8)

 世界を救いたいと願い、しかし救われぬただ一人の少女を前に絶望し、自らの信仰も捨てて人の理を外れたカインの末裔(吸血鬼)にさえ縋った憐れなる錬金術師の一生。

 

「────は」

 

 一縷の希望を求めて辿り着いたのは学園都市。

 そこで吸血鬼とは別アプローチによる救済の方法が見つかって。

 挙げ句の果てには救いたかったはずの少女──禁書目録(インデックス)が敵として立ちはだかる。

 

「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは‼︎」

 

 偽物は狂ったように笑う。

 自分はアウレオルス=イザードではなかった。

 自分(オリジナル)の願いを叶えるためには、自分(オリジナル)願い(パートナー)と殺し合わねばならない。

 そんな最悪の運命を自覚して──

 

 

()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 

 ──その上で、彼は言い放った。

 たとえこの身が偽物であったとしても、抱いた願いだけは偽物にしてたまるかと。

 

 説得は不可能だった。

 アウレオルス=ダミーは揺らがない。

 彼の正体が鍍金(ニセモノ)なのだとしても、その意志は紛れもない黄金(ホンモノ)なのだから。

 

「貴様を捕え、黄金錬成(アルス=マグナ)を完成させ、禁書目録を救う! たとえそれが彼女自身を敵に回す事なのだとしても‼︎」

「────、わたし?」

 

 インデックスは突然現れた自身の名に驚く。

 ()()()()()()()()が知り合いの命を犠牲にして自分を助けると言っているのだ。その気持ちも当然だろう。

 

「自然、驚くのも無理はない。今の禁書目録に(オリジナル)の──アウレオルス=イザードの記憶はないだろうからな」

「それ、は……」

「禁書目録の脳の八五%は一〇三〇〇〇冊の魔道書を記憶するために使われている。そして、残り一五%も完全記憶能力によってたった一年でパンクする」

「…………ッ‼︎」

「厳然、一年以上前の記憶はないだろう? それは禁書目録が一年周期で記憶を消さないと生きていけない少女だからだ。今代のパートナーが誰かは知らないが、少なくとも三年前、記憶消去を行ったのは(オリジナル)だった」

 

 それこそが全ての悲劇の始まりだった。

 全てを忘れた少女と、全てを忘れさせなければならないパートナー達。

 

 三年前のパートナーは、カインの末裔たる吸血鬼に縋った。永遠の命と永遠に続く人生で問題なく記憶を継続させられる力を持つ吸血鬼を手に入れ、インデックスを噛ませる事で記憶の問題を解決しようとした。

 二年前のパートナーは、記憶を取り戻す事を諦めた。一年間を不幸な記憶で真っ黒に塗り潰す事で、記憶が消去させられる際に彼女が悲しまないように魔術結社を装って追いかけ回した。

 

 自分の知らないかつてのパートナー。

 自分の知らない一年の周期。

 それを知り、インデックスは呆然と呟いた。

 

 

「…………え?」

 

 

 それは純粋な疑問だった。

 記憶の問題、魔術師達を苦しめてきた最悪の難問。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ようやくだ。結局、君達を説得する話の核はそこだ。だからこそ、君達を対話のテーブルに着かせるためにインデックスくんの協力が必要だった」

 

 継雲雷糸は言葉を紡ぐ。

 全てを前提をひっくり返す言葉を。

 

 

「インデックスくんは一年周期で記憶を消さなければ生きられない──そんなのは全部くだらない(ニセモノ)だよ」

 

 

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