食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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なんか書けたので投稿。
姫神の事を完全に失念していた事をここで謝罪します。




行間三  悪魔は大聖堂で微笑む Devil_of_Dispersion.

 

 

 コツコツ、と。

 赤い髪の神父、ステイル=マグヌスの足音が暗い大聖堂に響く。

 彼が進む先には、一人の女がいた。

 

 

「……最大主教(アークビショップ)

「んん。私生活(プライベート)なのだから、硬き呼び方をするべからずなのよ」

 

 

 説教壇の前に置いた椅子に腰掛け、身長の二倍以上もある長い金髪を床に垂らしていた女は、ステイルに気づくと優しく微笑みかけた。

 美しい女だった。簡素なベージュ色の修道服に身を包み、一八歳くらいの見た目で若々しい美貌が輝き、そして奇天烈な話し方が全てを台無しにしている女だった。

 

 彼女の名はローラ=スチュアート。

 イギリス清教第零聖堂区『必要悪の教会(ネセサリウス)最大主教(アークビショップ)

 ステイル=マグヌスの上司であり、国王からイギリス清教の全権限を委ねられた『清教派』のトップ。そんな絶大な権力を有するのが目の前で馬鹿な『日本語(ジャパニーズ)』を話している女だった。

 

「それとも、仕事(オフィシャル)の要件がありけるといふのかしら。先に命じた『吸血殺し(ディープブラッド)』については?」

「……彼女でしたら、『歩く教会』から最低限の結界の機能だけを抽出した十字架を与えて放逐しています。あの街の中でしたら、面倒な魔術師に見つかる事もないでしょう」

 

 しかし、その奇天烈な言動で油断してはならない。

 彼女こそが、一年毎に記憶を消去しなければ生きていけない禁書目録の体を作り、それを隠しステイル達を騙して悪魔の仕組み(プログラム)を作り上げた冷酷なる管理者。

 ステイルからしてみれば『敵』に限りなく近く、それでいてインデックスの自由を保障したため殺すに殺せない厄介な女である。

 

 

「話は継雲雷糸(つくもらいと)が考案した科学の街で魔術師を見張る監査役──『監査機関(エグリゴリ)』について」

 

 

 『監査機関(エグリゴリ)』。

 科学サイドと魔術サイドとの間に存在する不可侵の『条約』。それをより効果的に守らせるために、科学の街に侵入した魔術師を通報するシステム。

 魔術師が『科学』に踏み込む事を禁じ、科学者が『魔術』に触れる事を阻止する組織。魔術の発見及び通報には継雲雷糸が、魔術の分析及び逆探知にはインデックスが任命されている。

 

「面白き発想よね。学園都市内に侵入した魔術師に対処できない不利なる『条約』を逆手に取り、自主的に学園都市を守らせたる魔術師部隊を配備させたるなどと」

 

 言ってしまえば脅しに近い。

 『監査機関(エグリゴリ)』が必死に学園都市を守らなければ、『条約』は破られ魔術という神秘は科学の名の下に暴かれる。

 

 あるいは、将来的に魔術サイドは苦境に立たされる。科学サイドが魔術に触れられないように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 しかし、秘められた魔術とは違い科学は世界中に開かれたモノ。学園都市は外よりも二、三〇年技術が進んでいるが、逆に言ってしまえばたった二、三〇年後には超能力は世界中の当たり前(スタンダード)になる。

 そんな世界で、もしも魔術サイドだけは『条約』によって防衛すらできないようになれば。そして、科学サイドが魔術サイドを守る事さえ放棄すれば。……そんな最悪の未来(バッドエンド)を避けるため、魔術サイドは科学サイドを守らざるを得ない。

 

「『監査機関(エグリゴリ)』は学園都市内で魔術を発見する監査役と、学園都市外で待機して通報があればすぐに駆けつけ魔術師を撃退する執行役の二重構造になっていると聞きます。その執行役に──」

「──()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一蹴。

 最後まで聞く事なく、ローラ=スチュアートはステイルの話を断った。

 

 『監査機関(エグリゴリ)』は魔術サイドと科学サイドの調停役(バランサー)であると共に、禁書目録の離反を封じる新たな『首輪』でもある。故に、禁書目録と直接対峙する可能性のある執行役に彼女と知り合いのステイル=マグヌスは選ばれない。

 そして、そもそもそれ以前の問題として──

 

「──防衛戦に向いたルーン魔術の使い手、ステイル=マグヌス。魔術師を追跡して攻撃を加える執行役に、お前を選びたるはずがないとは思わないかしら」

「お言葉ですが、学園都市外で待機する執行役は学園都市内に乗り込む以外にも、そもそも学園都市への侵入を水際で防ぐ役目があるでしょう」

「そうね。だけれど、お前より向いた者が既に志願しておるのよ」

「…………、なに?」

 

 ステイル=マグヌスは姫神秋沙(ひめがみあいさ)の救出という道草を食っていたが、『監査機関(エグリゴリ)』の話が出てから一日と置かずにローラ=スチュアートに申し出た。

 それよりも早く聞きつけ、学園都市への出向を志願した人物がいる。

 

 

()()()()()()()()()。ヤツもまた学園都市を守りたると申したわ」

 

 

 ステイルは思わず眉を顰めた。

 その名に聞き覚えがあったからではない。

 むしろ逆。その名には全くの聞き覚えがなかった。

 

 イギリス清教は仲良しこよしの集団ではない。

 たとえ『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属している魔術師だとしても、活動範囲が違えば顔も名前も知らない人間は大勢存在する。

 

「ヤツはお前と同じく『必要悪の教会(ネセサリウス)』の一員であり、お前と同じくルーン魔術を使用した防衛戦に長けているわ。その上でヴァイキングの様式を学び、機動力を活かした戦術も扱う賢き男よ」

「……イギリス清教でありながら学園都市に近づく任務に意欲的など、ロクな考えを持った男とは思えませんが」

「あら。私情を交えたるお前が言えたる事ではないわね」

「…………、」

 

 事前に説明されていた『監査機関(エグリゴリ)』の執行役の枠は旧教(カトリック)の三大宗派にそれぞれ二つずつ。

 イギリス清教の枠はこれで一つ埋まり、残るは一人分のみ。

 

「『監査機関(エグリゴリ)』の執行役は直接戦闘を担当したる魔術師と後方での分析を担当したる魔術師の二人一組。直接戦闘はリチャード=ブレイヴが、分析の方もシンシア=エクスメントという少女が志願しているわ。お前の出る幕はなき事よ」

 

 そして、その最後の席も今埋まった。

 神裂(かんざき)であっても同じ結果だっただろう。

 むしろ彼女は世界に二〇人といない『聖人』であるため、学園都市付近に常駐させて遊ばせておける戦力でもないのだろうが。

 

「……そうですか。分かりました」

「それと、神裂にはまた力を借りるかもしれんと伝えておいて貰えるかしら」

「また彼女を世界中に飛び回らせるつもりですか?」

「人聞きの悪き事を言うななのよ! 借りるのはヤツ自身の力ではなく、その人脈よ」

 

 イギリス清教としての、ではない。

 そちらの人脈ならばローラ=スチュアートの方が深い繋がりを持っている。

 

 

()()()()()()()。日本にて常駐する部隊を作るならば、そこに詳しき土着の魔術師を利用するのが定石でしょう?」

 

 

 それは即ち、天草式十字凄教をイギリス清教の傘下に収めるという事。

 嫌らしい手だ……と、ステイルは表情を歪める。

 

 日本土着の魔術組織なら他にもある。

 しかし、その中でも天草式を選んだのは神裂火織(かんざきかおり)の『足枷』として利用するためだろう。禁書目録(インデックス)を巡る騒動で一時敵対的な関係になった彼女を縛るため、天草式を手中に収めようとしている。

 しかも、それでいて天草式に損はない。天草式はイギリス清教から離れた日本で自由意志を持ちながら、イギリス清教という巨大組織の看板を掲げ恩恵を受けられるのだから。

 

「しかし、三大宗派に加えて天草式の魔術師もとなると……彼らが常駐できる施設はあるのですか?」

 

 科学サイド・学園都市周辺にあり。

 外国人が集まっても不自然ではなく。

 魔術師が霊装などの整備をできる場所。

 

「あるわ。()()()()()が用意した、とっておきの場所よ」

 

 ローラ=スチュアートは笑う。

 それは学園都市から三キロほど離れた場所にある建物。

 日本国内最大になる予定の、今は建設中の教会。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 そして。

 影響はイギリス清教だけに留まらない。

 魔術世界全てに波及して、()()()()()()

 

 

「エツァリ、任務だ。お前の潜入技術を活かし、魔術世界と科学世界の両方に精通する勢力……『監査機関(エグリゴリ)』を監視しろ」

 

 ──それは例えば、新しい勢力が世界のパワーバランスを崩してしまう事を恐れる『組織』。

 

 

 

「厄介ですが、我々の計画に修正が必要となるかと。貴女はどう思いますか、オリアナ=トムソン」

 

 ──それは例えば、学園都市をローマ正教によって支配する事を望む者達。

 

 

 

「……エンデュミオンの完成を、少し急がせるべきかしら」

 

 ──それは例えば、自らの死に恋焦がれる不老不死の少女。

 

 

 

 

 ──そして、ローラ=スチュアートは大聖堂で嗤う。

 

(これで禁書目録の新たな『首輪』は完成する────()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ローラ=スチュアートは一部始終を見ていた。

 遠隔制御霊装には通信機能も存在する。彼女は禁書目録の『首輪』を通して、周囲の状況を把握していた。

 故に、気付いた。継雲雷糸、その名を名乗る異世界の魂。彼女(かれ)こそがローラ=スチュアート──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ローラ=スチュアートの正体、大悪魔コロンゾンとは『自然分解』を司る悪魔。

 自身の手を下す事なく、AとBをぶつけてババ抜きのように共倒れするようにセッティングするのが悪魔の基本。逆に言えば、共倒れ(ババ抜き)で遊ぶその悪魔には対となる『破壊の象徴』が存在しない。

 何せ、大悪魔コロンゾンは世界の外側にいる存在。それでいて、この世界に受肉した唯一の悪魔。

 

 一方で、継雲雷糸もまた世界の外側から来た存在。

 魂の所属はこの表層世界とは別にあり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 故に、彼女(かれ)を始末できる機会をずっと伺っていた。

 遠隔制御霊装による『自動筆記(ヨハネのペン)』の再起動という企みは失敗に終わったが、それでもまだ諦めた訳ではない。

 

「と、いう訳で」

 

 ステイル=マグヌスは既に退室している。

 しかし、ローラ=スチュアートは()()()()()()()()()()()()()()()話しかけた。

 

「今の継雲雷糸は火薬庫なのよ。誰か一人が彼女を突けば、大爆発して『魔術』と『科学』の抗争に発展しかねない」

 

 否。少女はずっとそこにいた。

 ステイル=マグヌスが来る前も、来た後も。

 天才魔術師にさえ気配を悟らせず、ローラ=スチュアートの横に立っていた。

 

「だから、貴女の役目はスパイとして継雲雷糸に近づく事。そして彼女(かれ)のコントローラになる事」

「……了解です」

 

 それはビキニの上からピンク色のパーカーを纏った少女。

 それは『必要悪の教会(ネセサリウス)』など公的な部下とは異なる、ローラ=スチュアート直属の私的な手駒。

 

 

「任せたわよ、烏丸府蘭(からすまふらん)

 

 

 大悪魔は嗤った。

 まるで天使のように、微笑んだ。

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

姫神秋沙(ひめがみあいさ)
初出:とある魔術の禁書目録2巻
霧ヶ丘女学院に所属する高校一年生。黒髪ロングで巫女服を纏った美人。
『原石』であり、『吸血殺し(ディープブラッド)』の能力者。魔術サイドでさえ存在を疑われる吸血鬼を殺す能力であり、AIM拡散力場として吸血鬼を誘引する匂いを放つ。
能力の希少性に目を付けた三沢塾に監禁されていたが、吸血鬼を追い求めるアウレオルス=イザードと出会い協力関係になった。


▽リチャード=ブレイヴ
初出:とある魔術の禁書目録SS SPECIALEDITION
イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師。歳は二〇歳くらいで、黒いコートを着た白人の男。
主な活動地域は北米大陸で、海での防衛戦を得意とする。ルーンを始めとした北欧神話を基盤とする魔術を扱い、特に炎系に強い。
自身の霊装である『破滅の枝(レーヴァテイン)』に執着を抱き、『条約』に触れるかもしれないという理由で使用を禁止された時にはイギリス清教に対して憎悪を抱いたほど。


▽シンシア=エクスメント
初出:『必要悪の教会』特別編入試験編
イギリス清教所属の魔術師。王立天文学研究機構を一人で束ねる金髪碧眼の天才少女。一三歳。
その正体は、天草式十字凄教・外海分派。かつて東洋にて弾圧された時に日本から脱出を試みた者達の末裔。居場所を確保するために功績を残し続けた結果、魔術サイドのしがらみに囚われて帰国する事が叶わなくなった。
『日本』に帰るために、イギリスを科学サイドへ鞍替えさせる事を狙っている。


▽オルソラ=アクィナス
初出:とある魔術の禁書目録7巻
ローマ正教所属の修道女(シスター)。真っ黒な修道服に身を包む。髪はフードに隠れるくらいの長さの金髪で、豊かな胸を持つ。
戦闘は苦手だが、世界各地で布教活動を行っているため交渉は得意。また数ページの『法の書』からダミーとはいえ解読法の一つを導き出すほど暗号解読に長けている。
世界三ヵ国の異教の地で神の教えを広めた功績により、特別に自身の名を冠する教会の建造が許された。


▽テクパトル
初出:とある魔術の禁書目録19巻
中米最大の魔術結社『翼ある者の帰還』に所属する魔術師。二〇代後半の褐色肌の男。
組織内では作戦の立案や実行を担当する前線指揮官であり、実質的に組織を動かしている男。ただし、部下からの人望はあまりない。


▽エツァリ
初出:とある魔術の禁書目録5巻
中米最大の魔術結社『翼ある者の帰還』に所属する魔術師。本来は褐色肌に黒髪という見た目をしているが、他人の姿形を真似る魔術を使って変装している。
アステカの魔術を中心に扱う。また上記の魔術を利用して別組織に潜入し、内側から崩壊させる事を得意とする。
魔術と科学の交差を危険視する組織から学園都市への潜入を命じられた。そのため魔術師でありながら、科学や超能力についての知識も持っている。


▽リドヴィア=ロレンツェッティ
初出:とある魔術の禁書目録9巻
ローマ正教所属の修道女(シスター)。十字を彩られた純白の修道服に身を包む。
社会に受け入れられない者を専門に布教活動を続け、困難であればあるほど興奮する事から『告解の火曜(マルディグラ)』の異名で知られる。スカウトとしての優れた嗅覚を持ち、トラブルメーカーだらけの人材を統制・管理する能力に長けている。
『科学』という異教を嫌い、ローマ正教によって学園都市を征服する事を望む。


▽オリアナ=トムソン
初出:とある魔術の禁書目録9巻
運び屋として有名なフリーの魔術師。ロールをかけた長い金髪に青い瞳の美女。豊満な肉体と妖艶な雰囲気を持ち、露出の多い格好をしている。
手段を選ばず追手を振り切る事から『追跡封じ(ルートディスターブ)』の異名を持つ。自作の簡易魔道書を用いた汎用性の高い魔術と格闘術を組み合わせ、準備すれば『聖人』とも渡り合える実力を発揮する。
人の為になる事を行うために確かな基準点を求め、リドヴィア=ロレンツェッティと手を組んだ。


▽レディリー=タングルロード
初出:劇場版とある魔術の禁書目録エンデュミオンの奇蹟
宇宙エレベータ『エンデュミオン』の建設に関わるオービット・ポータル社の社長。金髪碧眼の天才ゴスロリ美少女社長。
その正体は、千年近い時を生きる不老不死の魔術師。ギリシャ占星術を得意としているが、『アンブロシア』を食べて不老不死になった影響で生命力が体を循環しており、生命力を魔力に変換して魔術を使用する事ができない。
『エンデュミオン』を利用した、不老不死を超える死を渇望する。


▽コロンゾン
初出:とある魔術の禁書目録7巻
最大主教(アークビショップ)・ローラ=スチュアート、その正体。
一九〇九年にアレイスター=クロウリーが召喚した大悪魔。あらゆる宗教・神話・伝承に属さず、世の理の結合を妨げる存在。『黄金』の長であるマグレガー=メイザースとの契約により、アレイスター=クロウリーを破滅に導く。


烏丸府蘭(からすまふらん)
初出:新約とある魔術の禁書目録14巻
自称『原石』の少女。UFOのインプラントで自身の能力を強化していると主張する小柄なおかっぱ少女。ビキニの上にピンクのパーカーを纏い、無線機を詰め込んだリュックを背負っている。
その正体は、イギリス清教所属の魔術師。ローラ=スチュアートと直接繋がった間諜(スパイ)。星を見て先を占い、光から任意の力を引き出す『黄金』系の魔術を扱う。

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