食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

29 / 70


第一章の後日談。
そして第二章の前振り。




行間四  女王は奇跡に涙を流す Queen_of_Bee.

 

 

 コツコツ、と病院の廊下に足音が響く。

 蜂蜜色の長い髪を腰まで伸ばした少女は、辺りを見回しながら早歩きで病院内を歩く。

 目当ての病室に探し人はいなかった。主治医からは退院はまだだと聞いている。残るは談話室か……

 

 

「……中庭ねぇ」

 

 

 

 

 そこに探し人はいた。

 日差しに当たり、暖かいを通り越して暑くすら感じる中庭の一角。ベンチの一つに腰掛けて、少年は二つのアルバムを眺めていた。

 その少年の隣に、ゆっくりと少女は腰を下ろす。

 

「お久しぶりぃ☆」

「…………?」

 

 少年は──上条当麻(かみじょうとうま)は眉をひそめた。

 見覚えのある姿。聞き覚えのある声。嗅ぎ覚えのある匂い……というか、近い。圧倒的に近い。思わず顔を背けながら、少年は尋ねる。

 

()()()()()()()?」

「あはは。大丈夫大丈夫。あなたが私を覚えていなくても、それはあなたの()()()()とは一切関わりがないから。それでぇ? 今は一体何をしてたのかしらぁ?」

「あ、ああ。このアルバムか?」

 

 少年は真新しいアルバム──中学の卒業アルバムと、古いアルバム──実家から送ってもらった子供の頃のアルバムを見せる。

 

「最近、俺は記憶喪失に遭ったんだけど、その記憶は()()()()()()()()()()()()のお陰で復元されたらしい。だけど、それは元に戻したというより新しく覚え直したに近いそうで、後遺症として過去の記憶を忘れっぽくなってるんだと」

「……そうねぇ。テスト前に一夜漬けで勉強した内容なんて数日経てば何も残らない。あなたの復元された記憶もまた同じってわけねぇ」

「それで、リハビリがコレ。思い出すって過程を経る事で記憶がきちんと定着されるらしい。テスト後もちゃんと復習するって感じだな」

 

 だから例えば、過去に一度しか会っていないような人の事はきっと忘れてしまう。

 家族や友人、このアルバムに載っている人間関係や上条当麻の人格の基礎となる記憶は忘れずとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼の主治医は言っていた。

 記憶喪失──記憶破壊の後に記憶は再生されても、その損傷(ダメージ)自体が癒された訳じゃない。

 それと同じようにかつて負った損傷(ダメージ)──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「つーか、その服──」

 

 まじまじと、上条当麻は少女の服装を見つめる。

 そこまで注意深く見ても、少年は少女の事を思い出さない。

 記憶を失っても、記憶を取り戻しても、少女だけはずっと変わらず少年の記憶には残らない。

 

 奇跡は起こらない。

 大人の決めたレース予想は覆らない。

 少女は──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()?」

「……………………………………………………え?」

 

 

 

 ──()()()()()()()

 

 食蜂。食蜂操祈(しょくほうみさき)

 思い出せないはずの彼女の名前。

 それを、呼んだ。上条当麻が、自分の口で。

 

「あれ? 本当に中学生……?? 見た目も似てるし、食蜂の姉とかじゃないよな??? 実は噂のナイスバディでバリバリのお姉様な精神系最強の超能力者(レベル5)って、ちんちくりんな食蜂と姉が混ざった噂だったりするのか⁉︎」

「なっ、ば……っ‼︎ はァァァァァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉︎⁉︎⁉︎」

 

 つい混乱(あるいは怒り)が極まり。

 真横から少女のハンドバッグの角がツンツン頭の側頭部に突き刺さった。

 

 

 

 

「な、なにかしらぁ……この徒労感」

 

 奇跡は起きた。

 大人の決め予想レースは覆された。

 だと言うのに、涙を流す雰囲気ではない。

 感動的な涙の再会が少年のボケに打ち壊された。

 

 結局、上条当麻は食蜂操祈を覚えていた。

 覚えていたが、記憶の中のちんちくりんな少女と現在の食蜂操祈が結び付かず、咄嗟に誰か判別できなかったという話らしい。

 

(ま、まぁ? かつての意趣返しができたと思えばそう悪くない気分だわぁ)

 

 それよりもっと大きな問題が一つ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 記憶の呼び出し経路の破損は治っていない。

 それは彼の主治医に確認したから間違いない。

 だから、少年が食蜂操祈を思い出すなどあり得ないのだ。なのに、それがあり得たとしたら──

 

 

()()()()()()()()()()()()()……とかぁ?」

 

 

 そう考えると、奇跡を成し遂げた容疑者は一人。

 記憶を再生させた通りすがりの精神能力者。彼ないし彼女が記憶を再生する際に、誰かと食蜂操祈の記憶の保管場所を入れ替えたとしか考えられない。そのタイミングしか、入れ替えは生じない。

 

 問題は誰と食蜂操祈が入れ替わったのかという話だが……それも同一人物だろう。

 そもそも、精神系能力者が通りすがるというのも都合が良すぎるし、その相手を上条当麻が知らないというのも不自然極まりない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………っ」

 

 奇跡は起こった。

 だけど、それは誰かが代償を払った上での奇跡だった。

 その奇跡を、食蜂操祈は素直に喜ぶ事ができない。

 

 ましてやそれが──

 

 

「────()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 それは上条当麻の病室で痕跡を探っていた時。

 物的読心(サイコメトリー)で病室の過去の情景を読み取った時、食蜂操祈の頭の中に浮かんできた一人の像。

 

 一年前の食蜂操祈に瓜二つ。

 肩くらいの長さまで髪が短くなっている、食蜂操祈のクローンの姿だった。

 

(私のDNAマップが何処かから漏れた……? DNAマップを掴んだ誰かが、クローンを製造している……? ……あの時の、()()()の時みたいに)

 

 無意識に、掌が強く握りしめられる。

 あれはもう終わった話だ。クローンはもう作られていない。

 『量産型能力者(レディオノイズ)計画』もまた、研究は停止され計画は凍結されたはずだ。

 

(いえ、確か『超電磁砲(レールガン)のDNAを使ったクローンが製造され、軍用兵器として実用化される』という都市伝説があったわねぇ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、その実験では、『超電磁砲(レールガン)』だけでなく『心理掌握(メンタルアウト)』のクローンさえも製造されているのだとしたら。

 

(……そっち方面から探ってみるのもアリよねぇ)

 

 残念ながら、食蜂操祈は都市伝説に疎い。

 そもそも都市伝説が持て囃される舞台はSNSなどインターネットのコミュニティの中なのだろうが、食蜂操祈はその手の機器は得意ではないのだ。

 

 だが、そこは人の手を借りればいい。

 『心理掌握(メンタルアウト)』で他人を洗脳する……なんて話ではない。

 食蜂操祈は超能力者(レベル5)であると共に──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 薦められるがままに加入して、今までほったらかしにしてたSNSの棺桶アカウントにアクセスし、短い質問を投げかける。

 

『//蜂の女王

 超能力者のクローンに関する都市伝説って知ってる?』

 

 一分もなかった。

 ただそれだけでレスの連なりはあっさりと三桁にまで及ぶ。

 

『//しぐにゃん

 ご期待に添えず申し訳ありませんけど、存じませんわね』

『//赤ずきん

 御坂様に関する話なら知ってますわ。御坂様のクローンが軍用兵器として実用化されているという荒唐無稽なお話ですわよね?』

『//笹の葉ぱんだ

 っていうか女王。御坂様以外のバリエーションは初耳です。超能力者全般の都市伝説でしたっけ』

『//ジューンブライド

 その都市伝説ってレベルアッパーの影響じゃありませんでしたか?』

 ・

 ・

 ・

 

(『幻想御手(レベルアッパー)』……?)

 

 勿論、その名は食蜂操祈も知っている。

 聞くだけで能力の強度(レベル)が向上する音楽。そう噂されたものだったはずだ。そして、その正体さえも知っている。

 だが、それとクローンに何の繋がりがあるというのか。話の繋がりが見えず、食蜂操祈は再度質問を投げかける。

 

『//蜂の女王

 レベルアッパーって能力を向上させる音楽のこと?』

 

 またもや、あっという間にコメント欄が埋め尽くされる。

 放置していたアカウントにこれだけの人数が張り付いていたという事実が、食蜂操祈の人望を指し示す。

 

『//まっつー

 その後に流行った二代目レベルアッパーです。超能力者の服装を真似る方のです』

『//うさぎ44

 ファッションとは思考パターンの発露であり、ファッションを真似る事は思考を真似る事に繋がる。つまり超能力者の服装を真似たらあなたもレベルが上がるかも☆⁉︎ というヤツですね‼︎』

『//万年ビギナーズラック

 要するに超能力者のコスプレが流行っているというだけです。何の信憑性もない噂話ですけれど』

『//まっかなうそ

 学舎の園以外で常盤台の制服を見たら大体それですね。たまに本気で仮装に力を注いでいる人もいるので、クローンかと思うのも無理はないです』

 ・

 ・

 ・

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?)

 

 街中でクローンを見かけても、特に疑問視させないような噂話。しかも時系列がおかしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……辿る価値はありそうねぇ)

 

 もしもこの都市伝説がクローンの存在を隠すために広められたモノだとするのなら、その都市伝説の発端には食蜂操祈が探しているモノが存在する。

 

 

 

 

 ──しかし、結論として。

 食蜂操祈が自身のクローンを見つける事は叶わなかった。

 

 その都市伝説は余りにも巧妙で、噂話を語り始めたとされる人間さえそれを自覚せず──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──記憶と情報が錯綜して、その発端にまでは辿り着けなかった。

 

 それも当然。食蜂操祈のあずかり知らぬ事ではあるが、この都市伝説は食蜂操祈のクローンである継雲雷糸(つくもらいと)が広めたもの。自身が有する能力とアウレオルス=ダミーが有する魔術を用いて、クローンを隠すために広めた噂話である。

 科学しか知らない少女の手に負えるようなモノではなかった。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………なん、ですって?」

「もう一度説明しましょうカ?」

 

 それは、とある『計画』に関与した男だった。

 少女が『暗部』を探る際に見つけた男だった。

 警備強化専門の『知的傭兵(アドバイザー)』としてその『計画』に参加した金髪の男は、蜂蜜色の髪の少女に恐るべき『計画』ついて語った。

 

「私が参加した『実験』、あれは狂気的な計画でしタ。それが──」

 

 『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画。

 二万体の御坂美琴のクローン──『妹達(シスターズ)』を製造し、それを二万通りの戦場で殺害する事で、超能力者(レベル5)・第一位の一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)への進化(シフト)を達成するという狂気の『実験』。

 

 それは最悪の『実験』だった。

 二万人の命を踏み躙る最低な『実験』──

 

 

「────()()()()()()

 

 

 ──()()()

 

 過去形。

 その『実験』はとうに中断されている。

 

 誰も知らない事ではあるが、それは継雲雷糸(つくもらいと)の功績の一つ。

 彼女(かれ)の暴走を恐れた学園都市統括理事長アレイスターは彼女の目に悲劇が映るのを防ぐため、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の不具合(エラー)を理由として『実験』を無理に取りやめた。

 

 その結果として、『妹達(シスターズ)』の虐殺は終わり。

 半分以上のクローンが生き残る事となった──

 

 

 

 ──()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 『実験』は終わった。

 『実験』は最悪ではなくなった。

 『実験』は最低ではなくなった。

 

 誰も思いもしなかった。

 この『実験』よりも、()()()()()()()()()()()()

 

「それ、は……」

「私が貴女と接触したのはそれが理由デス。どうしても貴女に──超能力者(レベル5)に声をかける必要がありましタ」

 

 それこそが『最悪』の実験。

 それこそが『最低』の実験。

 二万人のクローン──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』。

 

 

「──止めてくだサイ……‼︎ あの『()()』ッ、()()()()()()()()……‼︎」

 

 

 第二幕。

 科学の街で()()の『実験』の幕が上がる。

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

▽ドリー
初出:とある科学の超電磁砲59話
故人。『才人工房(クローンドリー)』で育てられていた中学生くらいの見た目の少女。腹部付近から露出する形で、生命維持装置が身体に植え付けられていた。
その正体は、御坂美琴のクローンの一人。『妹達(シスターズ)』が生み出される前の『0号(プロトタイプ)』。異能力(レベル2)程度の『電撃使い(エレクトロマスター)』である。


▽カイツ=ノックレーベン
初出:とある科学の超電磁砲25話
金髪の男。警備強化専門の『知的傭兵(アドバイザー)』。
絶対能力進化(レベル6シフト)』計画では警備主任を務める。情報戦を得意とする。


一方通行(アクセラレータ)
初出:とある魔術の禁書目録3巻
本名不明、性別不明、年齢不明。アルビノのように白い髪に赤い瞳、色素が薄い肉体。華奢な体格で、男か女か分からないような姿をしている。
学園都市第一位の超能力者(レベル5)であり、その能力は学園都市で唯一ベクトルを操作する『一方通行(アクセラレータ)』。運動量・熱量・電気量などあらゆる種類の力の向き(ベクトル)を観測し、体表数センチ以内の力の向き(ベクトル)を自由自在に操作できる。
自分の力から他人を守るため、戦おうという意志さえ奪うほどの絶対的な力を求め、『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画に参加する。


木原幻生(きはらげんせい)
初出:とある科学の超電磁砲14話
頭に火傷の跡が残る高齢の男性。実は体の大半が機械によって代替されている。
学園都市の『暗部』に君臨する木原一族の一員で、SYSTEM研究分野の元老。『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画の提唱者。『木原』らしいマッドサイエンティスト。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。