食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第二七話 怪奇現象の専門家 The_Expert_of_Occult.

 

 

「まず、僕の話を全部飲み込んでくれ」

 

 『蜘蛛の女王』改め、『側近』にこれまでの経緯を説明する。

 『外』には科学サイドとは別の勢力、超能力とは別の方式の超常現象を扱う存在がある事。『科学』ではそれらオカルトに対して無力な事。そのため、継雲雷糸(つくもらいと)は学園都市内で発見したオカルトを通報する仕事に就いた事。

 

「オカルトとは言っても、幽霊だのUMAだの超常現象自体は追う必要がない。僕らが取り締まりたいのはオカルトを扱う人──『魔術師』だと思われる不審者の方だから」

「……具体的にはどうするつもりだ?」

「『フリーパス』を使う」

 

 『フリーパス』。

 山川(仮)のような、『暗部』が何らかの役職を使いたい時のために、あらかじめ役職に就いて枠を作っておく下っ端。

 

「目立つ魔術師は勝手に発見される。だから本当に気を付けるべきは、どこかに紛れ込んで忍び込んでいる魔術師。彼らは人を洗脳したり、あるいは他人に変装したりして街中に紛れ込む」

「……だから、あらかじめ街中に『フリーパス』を紛れ込ませ、成り代わられた瞬間に気付けるようにすると?」

「『フリーパス』は元々成り代わるために作られた枠だからね。外部の人間も成り代わりやすいからこそ、この罠には引っかかる」

 

 そして同時に、これは『暗部』の人間を『フリーパス』というていで『表』の世界に帰す施策でもある。

 最終的に僕は『暗部』を潰すつもりでいるが、急に居場所を失っては『暗部』にいる人達は路頭に迷う。

 だからこそ、あらかじめ『表』の世界に居場所を作らせる。社会復帰の練習をさせる。

 

「そりゃ難しいぜ、女王」

 

 しかし、『側近』は苦言を呈する。

 それは魔術師を知らない、『科学』の街の人間としての意見。

 

「魔術師とやらが入り込む穴をあらかじめ作り、罠を張っておくってのは良い考えだとは思うぜ。だけど、そこからが大変だ」

「そこから……?」

()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()

「…………‼︎」

 

 そう、学園都市は『科学』の街。

 超能力という不可思議な現象でさえ、科学で説明する事ができてしまった街。

 手から炎を出そうが、犬が喋ろうが、この街の人々はそれがオカルトだとは判別できない。必ず、科学的な論理(ロジック)をそこに見出してしまう。

 

「……失敗したね。そこを考慮していなかった」

「…………、あれ」

「うん?」

「なぁ、女王。別に新しくネットワークを構築する必要ってあんのか?」

 

 カタカタ、とパソコンのキーを押し。

 『側近』は自らの情報網から()()を弾き出した。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 オカルトの研究。

 それ自体は学園都市にも存在する。

 

「例えばここ。最近、火星人からメッセージが届いて話題になった、第二一学区にある『火星の土(マーズワールド)』。ここを運営してる研究所は、地球外生命体の調査を専門としている。──つまりはUFOだのエイリアンだのが本当にいるのかを真面目に議論している訳だな」

「それって魔術サイドの範疇に含めていいのか……?」

「UFO呼ぶためにミステリーサークルを作るような連中だぜ。私からしてみれば違いなんて分からねえけどな」

 

 研究責任者として顔写真が載せられている女子高校生を流し見しながら、研究所のHP(ホームページ)を読み進める。

 どうやら、この研究所には、地球に来訪していると思わしきUFOやエイリアンを捜索する部署まであるらしい。

 

 つまり、地球に来訪したUFOやエイリアンを探すために構築されたネットワークを使用すれば、合わせて魔術師とやらも引っかかるのではないか。

 魔術を知らないからこそ、柔らかい発想で彼女はそう告げる。

 

「後は…………いや、」

「どうかしたのかい?」

「……オカルトを専門とした、丁度良さそうなネットワークが見つかったんだが、これは深入りしない方が良さそうな案件だぜ」

 

 青褪めた顔で『側近』は言う。

 たった二文字。それを見ただけで、『暗部』の中でも実力者に位置する『仲介人』は恐怖に震える。

 

 

「──()()()()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「という訳で、僕が『木原』と交渉するから、『火星の土(マーズワールド)』との交渉は嬉美(きみ)に頼んだ」

「待て待て待て待て!」

 

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)は頭痛がするように額を抑える。

 奇しくもそれは『側近』と全く同じ反応だった。

 

「オマエ、『木原』が何か分かってんじゃねーのか⁉︎」

「分かってるさ。『科学』を悪用する者。『科学』の探究のためならば、どんな悪だろうと実行できるマッドサイエンティストの一族だろう?」

 

 厳密には木原那由他(きはらなゆた)のような例外も存在するのだが、話が複雑になるのでそこに触れるのは辞めておこう。

 

「分かってるのに言ってんのか? 一人で『木原』に立ち向かうなんて、そんな自己犠牲じみたふざけた事を!」

「いや、別に一人で向かうつもりは……、ダミーくんもいるし……。それにこの『木原』は──」

「オレも行く!」

 

 駄目だ。全然話を聞いてくれない。自己犠牲が地雷の少女に対して、話の切り出し方を間違えたようだ。

 やれやれ、と首元からアウレオルス=ダミーの呆れた声が聞こえる。

 

「え、えぇ……まぁ、僕は構わないのだけど」

「『火星の土(マーズワールド)』はその『側近』とやらに任せればいいだろ。とにかくオレはオマエについていく」

 

 予定は少々変わったが問題はない。

 ちらり、と手元の資料に目をやる。

 たとえこの世界が『原作』とは展開が異なる並行世界であっても、人の性格までは変わらない。だから、()ならば心配はいらない。

 

「二人でも三人でも変わらない、か。良いよ。既にアポは取ってある。このまま彼の()まで向かおうか」

 

 

 

 

 それは、いくつかの大型トレーラー。

 自動運転で動く大型車両の群れは、移動手段ではなく普段から寝起きする『小さな村』として機能していた。

 

 そんな大型車両の一つ、丸ごとキッチンカーに改造されたトレーラーのコンテナの中に、ちょっとした優男がいた。

 半袖短パンのサファリジャケットにラッシュガードの組み合わせ。古い探検家のような服装と、頭の横につけたwebカメラが特徴的な青年だった。

 

 彼こそ、世界中の心霊スポットを巡って怪奇現象(オカルト)の科学的発生原因を読み解く専門家。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ──ドレンチャー=木原=レパトリ。それが彼の名前だった。

 

 

「別に構いませんよ」

 

 

 青年は寸胴鍋をかき回しながら、あっさりとそう言った。

 別のトレーラーからは、一〇歳程度の少年少女がこちらの様子を窺っている。その心配そうな眼差しだけで、青年が子供達から信頼されている事が分かった。

 

「…………は?」

「オカルトとそれ以外を判別するノウハウでしたっけ? ええ、好きに持っていってください。何なら、人工的な幽霊──フリルサンド#Gの研究ノートを差し上げましょうか?」

「はァ⁉︎」

 

 隣で嬉美が騒ぐが、それも無理はない。

 研究ノートは学者にとって魂の一部に等しい。マトモな研究者であれば──特に『木原』ならば──それは命よりも大切なモノだろうから。

 

 だが、青年は大した事がないように笑う。

 その隣で、長い金髪のツインテールに、ぴったりとした薄い青のドレスの上から薄布のロングスカートを大きく膨らませた人工幽霊──フリルサンド#Gと呼ばれた二〇歳程度に見える女性も微笑む。

 

『あなたは驚かないのね。その様子だと、わたし達の正体なんてとっくに見抜いていたのでしょう?』

「参りましたね。それに勘付かれないための研究、()()だったのですけど……」

「気にする事はない。僕がそれを知っていたのは、ちょっとした『原作知識(チート)』だから」

「オ、オマエら何の話をしてんだ……?」

 

 話についていけず嬉美は首を傾げる。

 まあ、なんだ。つまり……

 

 

「彼は『置き去り(チャイルドエラー)』を実験に消費する木原一族の研究者──()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 即ち、()()()()()()()である。

 

「────は?」

 

 春暖嬉美の思考が停止する。

 彼女には──かつて『暗部』によって実験動物として消費されていた『置き去り(チャイルドエラー)』の少女には、そんな優しい大人がいる事が信じられないのだろう。

 

「な、何でだ……? だって、オマエは元々『表』の人間だったんだろ? ガキだって赤の他人なんだろ⁉︎ 何の理由があってオレ達みたいな『置き去り(チャイルドエラー)』を助ける⁉︎」

 

 それは大人達に助けて貰えなかった少女の絶叫。

 無理やり付いて来た嬉美だったが、むしろ好都合だったのかもしれない。僕以外のちゃんとした大人を知る事は、僕だけを信頼する状況──悪く言うならば、僕だけに依存した状況から抜け出す良い機会だった。

 

 そして、青年は。

 当たり前のように言った。

 

 

「理由があるから守るんですか? そうじゃないでしょう……」

 

 

 ただ、それだけだった。

 それだけの信念で、彼は木原の名を騙って『暗部』で必死に子供達を守ろうと足掻いた。

 

「……私からすれば研究ノートなんて惜しくないんですよ。研究なんてのは『暗部』で子供達を匿うための大義名分でしかありません。それであなた達が助かるのなら、いくらでも渡しましょう」

「? 想定外に僕らへの信頼があるようだけど……」

「あなた達にはね、感謝しているんですよ。詳しくは知りませんが、あなたが学園都市統括理事長に直談判したお陰で、ここ一ヵ月の『暗部』の動きは非常に鈍くなっています」

「……何処でそれを?」

 

 アレイスターがその噂を広めたとは思えない。

 僕が注目される事は、彼からしても不都合だろうから。

 

「噂の発信場所は知りませんが、『暗部』では有名ですよ。学園都市統括理事長に自らの意見を押し通した継雲雷糸という少女の名は」

「…………」

「ですが、私が手助けできるのはそこまでです。研究成果もノウハウも渡しますが、直接的に関わる事はできません。……今のあなた方と関わるという事は、()()()()の命を危険に晒す事ですから」

 

 チラリ、と青年は別のトレーラーからこちらの様子を窺っている子供達に目をやる。

 ドレンチャー=木原=レパトリには責任がある。どれだけ僕達の事を助けたいと思っても、彼は何よりも子供達の安全を優先する。

 

「いいさ、十分すぎる。君は『暗部』の内から子供を守り、僕は『暗部』の外から子供を助ける。君がいてくれて良かった。本当にありがとう」

「そんなの、言いたいのは私の方ですよ。ありがとうございます。……あなた達を助けられなくて、ごめんなさい」

 

 本当に優しい青年だと感心する。

 たとえ彼が大人だとしても、僕のような老人からしてみればまだまだ若者だと言うのに。

 

「これが代わりになるかは分かりませんが……あなた達が必要としているものを提供しましょう」

「?」

「理由は知りませんが、あなた達が必要なのはオカルトを検知するネットワーク。ですが、口コミだけじゃ手が足りないでしょう? ですから、世界中の無線電波を蒐集する情報戦の専門家(エキスパート)。私は彼女を紹介できます」

 

 彼が示したのは見覚えのある画面。

 『火星の土(マーズワールド)』のHP(ホームページ)だった。

 

「私の研究する怪奇現象(オカルト)とは少し違うものの、いわゆるミステリーサークルなど明らかにオカルトチックな情報を集めるのに、彼女ほど優れた人間はいません」

 

 そう言って指差したのは、これまた見覚えのある顔。

 女子高生ながら『火星の土(マーズワールド)』の研究責任者に抜擢された少女、微細乙女(びさいおとめ)────()()()()

 

「彼女が学園都市に訪れたのは先月の事。ですが、その才能と情報収集に対する熱意は本物です。()()U()F()O()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは、今が夏真っ盛りである事を踏まえても、あまりにも薄着すぎる少女。

 ほぼパジャマ同然の姿で写真に映った少女に、しかし僕は見覚えがあった。

 

 

「──烏丸府蘭(からすまふらん)⁉︎」

「おや、知っていましたか? でしたら、話は早い。私から彼女へ、あなたを紹介しましょう」

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

微細乙女(びさいおとめ)
初出:とらドラ!VS禁書目録
高校生くらいの、どこかの学校のブレザーを着た少女。高校生とは思えない妖艶さを持つ。
強度(レベル)は不明だが、『衝撃の伝わる指向性をある程度優先的に決定する』能力を持つ。
火星の土(マーズワールド)』の研究責任者。火星で発生した密着生物からのメッセージを直接受け取り、彼らを地球上で保護するための実験を行っていた。


木原那由他(きはらなゆた)
初出:とある自販機の存在証明
先進教育局、特殊学校法人RFOに所属する風紀委員(ジャッジメント)の小学生。金髪ツインテールの少女。全身の七割以上が義体。
強度(レベル)は不明だが、『AIM拡散力場とその力そのものを見て、触れられる』能力を持つ。
学園都市の『暗部』に君臨する木原一族の一員であるが、実験体の安全まで完全に配慮するため、木原としては欠陥品。進んで自分の体を実験体として提供し続ける木原の異端児。


▽ドレンチャー=木原=レパトリ
初出:創約とある魔術の禁書目録3巻
古い探検家のような服装をし、頭の横にwebカメラを装着している優男風の青年。半袖短パンのサファリジャケットやラッシュガードを着用する。
『怪奇現象』を研究する学園都市『暗部』の科学者。応用として人工的な幽霊を作るプロジェクトに取り組み、その実験に『置き去り(チャイルドエラー)』を利用する。
その正体は、木原の名を騙る一般の研究者。『置き去り(チャイルドエラー)』を『暗部』から救うため、木原のネームバリューを利用した。


▽フリルサンド#G
初出:創約とある魔術の禁書目録3巻
洋風の人形のようなグラマラスな二〇くらいの女性。長い金髪のツインテールに、ぴったりとした薄い青のドレスの上から薄布のロングスカートを大きく膨らませたシルエットを持つ。
その正体は、ドレンチャー=木原=レパトリによって作られた人工幽霊。ハイボルテージ=カッティング法と呼ばれた手法で構築された高エネルギーの塊。

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