食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第二章前半ラスト。




第三〇話 絶対能力凌駕計画 Over_“SIX”.

 

 

「…………っ、は、はっ!」

 

 痛む頭を抑え、荒い息を繰り返す。

 意図的に能力を何度も暴走させた代償。

 しかし、そうでもしなければ第一位に勝利する事などできなかった。

 

「さて、ここからどうしようか……」

『当然、逃走一択ではないか?』

 

 首にかかった十字架から声がする。

 アウレオルス=ダミーはこの場から去る事を勧めていた。もちろん、僕もそうしたい所なのだけど──

 

「──この子を置いて行けない」

『唖然、このお人好しが……』

 

 路上に一方通行(アクセラレータ)を置いて逃げるなんて考えられない。

 この子は確かに罪を犯したけれど、それは周囲の大人の責任なんだ。だから大人(ぼく)か責任を持ってこの子を周囲の大人から切り離し、陽の当たる世界に返さなければならない。

 

 まずは『実験』の関係者を潰す。

 この子を犯罪に巻き込もうなんて二度と思わないよう、徹底的に潰す。

 

「……まずは山川くんを呼んで、この子をお医者さんの所に預けよう。脳震盪を起こして倒れてるんだから一度診察してもらった方が良い。そして彼がこの子を守ってくれている間に、僕らで『実験』を──」

 

 

「──()()()()()()()()()()()()

 

 

「ッ⁉︎」

 

 音も気配もなく。

 ()()()は僕の真後ろに立っていた。

 

 頭に火傷を負った白髪の高齢男性。

 白衣を纏った研究者と思わしき老人。

 ──それは、()()()()()()()

 

 

木原(きはら)……幻生(げんせい)っ‼︎」

「おや、僕の名前を知っているんだねぇ。アレイスター君から聞いたのかな?」

 

 

 一目見ただけで分かった。

 ()()()()()()()()()()()

 

 木原を騙り、『暗部』に潜入してまで子供を助けようとしたドレンチャー=木原=レパトリとは真逆。

 『暗部』でしか許容されない根っからの木原、自分の研究のためならばいくらでも子供を犠牲にできる最低最悪の研究者。

 

一方通行(アクセラレータ)君を回収するのはやめて欲しいねぇ。この子は僕の研究──『実験』の要。妹達(シスターズ)とは違って、替えのきかない大切な駒なんだよ?」

「……巫山戯(ふざけ)るな。何がこの街の王だ、アレイスター。お前、何の手綱も握れてないじゃあないか……‼︎」

 

 明らかに想定外(イレギュラー)

 既にこの事件は、学園都市統括理事長でさえ制御のできない領域に入っている。

 

「……やっぱり君がアレイスター君に指示をしていたようだねぇ。全く、参ったよ。これじゃ僕の『実験』が台無しだ」

「初めっから子供を犠牲にする計画を立てていた時点で破綻していたさ。履き違えるなよ、科学者。『科学』なんてのはさ、人間の未来を豊かにするための道具でしかないんだ。その『科学』を発展させるために子供の未来を犠牲にするなんて、本末転倒にも程があるだろう?」

「君は何を言っているのかな? 『科学』の発展のために犠牲はつきものだよ? 『科学』の礎になるなんて、僕は子供の未来を誰よりも有効活用しているじゃないか」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 互いにその精神を見抜く。

 話し合うほど、相容れないと再認識する。

 

「でもねぇ、僕は君に感謝しているんだよ?」

「は?」

「僕の提唱した『実験』は台無しになった。だけどねぇ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………ッ‼︎」

 

 もっと良い。

 あるいは、もっと悪い計画。

 『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画ですら生温いと思える最悪のそれ。

 

「二万体をチマチマ殺して経験値を貯めるのなんて面倒だろう? 君という存在を知って思ったんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「………………何を、言っている……?」

「木山君の幻想御手(レベルアッパー)は音楽を使い脳波を一定に調律して、複数人の脳を繋げて『一つの巨大な脳』とも呼べるネットワークを作る仕組み(システム)だった。そうして他者の演算能力と同系統の能力者の思考パターン──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり。

 つまり。

 つまり。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 それが新しい『実験』。

 『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画の新次元(ネクストステージ)

 

「一八〇万人の学生の経験値をたった一人に集約し、概念上の絶対能力者(レベル6)すら飛び越える──『絶対能力凌駕(シックスオーバー)』計画。面白いでしょ?」

「分かっているのか⁉︎ 木山くんが作った幻想御手(レベルアッパー)は使用した人に対して重篤な昏睡状態を与えた。他人の脳波を強制されるというのはそれほどまでに脳が疲弊する! それも無意識化での演算能力の共有どころか経験値全てを根こそぎ奪い取るなんて、その負担は幻想御手(レベルアッパー)なんかの比じゃない!」

「学生は全員廃人になるだろうねぇ。……()()()()()()()()()()()

「…………ッ‼︎」

 

 本気だ。

 この男ッ、本気で自らの研究のために一八〇万人の学生を犠牲にしようとしている……ッ⁉︎

 

「楽しみだねぇ。絶対能力者(レベル6)すら超えた存在……そんなの、机上の空論にも登場しない。それが生まれた結果どうなるか、僕ですら予想がつかないよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「させるか‼︎」

 

 自分の頭に指を突き付け、『暴走能力(プリセット08)』を起動する。

 『洗脳能力(プリセット03)』は()()()()()。木原幻生との会話中、何度も洗脳しようと試みたがどうしてか効かなかった。故に、一方通行(アクセラレータ)を昏倒させた時のように幻影と魔術を併用して倒すしか道はない。

 

 そして、再び光の屈折が僕の幻影を生み出し──

 

 

 ──轟‼︎‼︎‼︎ と。

 渦巻く暴風が空気中の水分を吹き飛ばす。

 

 

「なッ」

「ああ、そっちの画面(スクリーン)も無駄だよ?」

 

 一瞬だった。

 空気の弾丸が塩を丸ごと吹き飛ばした。

 

「『風力使い(エアロシューター)』。木山君に脳波調律を教えたのは僕だよ? 便利な能力者は僕が多才能力(マルチスキル)を扱うためにストックしてあるんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 多才能力(マルチスキル)

 つまり、この外道は珍しい能力を持った子供を拉致して、強制的に自分と同じ脳波に調律した。そうして、木原幻生が子供の能力を使えるように子供の方を改造したのだ。

 

「ああ、心配せずとも君を殺しはしない。アレイスター君も注目する君の特異体質‼︎ そして魂という『科学』では説明できない概念を証明するその希少性ッ! 君の事は手持ちの機器と分析系能力者を総動員して丸裸にするッッ‼︎‼︎」

 

 木原幻生が掌をかざす。

 ただそれだけで、息が出来なくなる。

 恐らく、空気を操って酸素を無くしたのだろう。

 

「っっっ‼︎」

(ま、ずい……意識が、薄れ──)

 

 ──そして、僕は木原幻生の『手』に堕ちた。

 

 

 

 

「さて、必要なモノは揃ったねぇ」

 

 『絶対能力者(レベル6)』の素体──一方通行(アクセラレータ)

 『進化体質』の所有者──継雲雷糸(つくもらいと)

 『絶対能力凌駕(シックスオーバー)』計画に必要だと木原幻生が考えた二人が、昏睡した状態でこの手の中にある。

 

 もはや妹達(シスターズ)なんて玩具(オモチャ)は必要ない。

 あと少しで、木原幻生は絶対能力者(レベル6)すら超えた存在を目にする事ができる。

 

「さぁ、始めようか。警策(こうざく)君」

「ハイハーイ。用意はしてるけど、本当にやっちゃってイイの〜〜?」

 

 それは、人の形をした液体金属。

 ホラーにでも登場しそうな怪物が、木原幻生の協力者だった。

 

「構わないよ。今まで行っていた『実験』に関する情報封鎖を全て解いて、一連の情報を全て『暗部』に流すんだ」

「マーマー、最近は少しずつ情報を流してはいたけど、そんな事したらお邪魔虫がいっぱい現れない?」

「僕が求めているのはそれさ。一方通行(アクセラレータ)君の可能性を『進化体質』で歪める事である程度の進化(シフト)は促せるけど、最低限として学園都市の学生全員の脳波を調律できるだけの力は必要だからねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「カイツちゃんとかを見逃したのはそのため?」

「カイツ君はきっと食蜂(しょくほう)君を呼んでくれる。超能力者(レベル5)を二、三人殺せば十分だからねぇ」

 

 

 

 

 そして、その情報に『暗部』が震撼した。

 超能力者(レベル5)を量産させる『計画』。

 一方通行(アクセラレータ)進化(シフト)させる『実験』。

 統括理事長相手に交渉を成功させた『功績』。

 

 それら全てが真実であると知り、いずれかの存在を求め、あるいは殺すために『暗部』の猛者達が木原幻生の下に引き寄せられる。

 いいや、『暗部』だけではない。それはこの街に存在する者全てを引き寄せるだけの価値があった。

 

 

「…………なん、ですって?」

「もう一度説明しましょうカ?」

 

 ──それは例えば、自らのクローンを探していた学園都市第五位の超能力者(レベル5)

 

 

「製薬会社からの依頼〜〜? それってウチの管轄じゃなくない? アンタ断れないの?」

『こいつときたら! 断れる程度のランクの依頼なら既に断ってるっつーの!』

 

 ──それは例えば、『暗部』から依頼を受けた学園都市第四位の超能力者(レベル5)

 

 

「オリジナル……ですって?」

「関わらない方がいいわ。because、あなたに止める術などないのだから」

 

 ──それは例えば、自らのクローンの存在を知った学園都市第三位の超能力者(レベル5)

 

 

「あら、あなたもこの騒動に参加するつもり?」

一方通行(アクセラレータ)と一万回戦闘した経験値。それを手に入れ、俺は第一位を超える」

 

 ──それは例えば、一方通行(アクセラレータ)を殺して第一候補(メインプラン)になろうと画策する学園都市第二位の超能力者。

 

 

 そして、動くのは能力者(こども)だけじゃない。

 普段は『暗部』に息を潜め、黙々と悲劇を量産する大人さえも、いずれかの『賞品』を狙って騒動に参加する。

 

 ──それは例えば、学園都市統括理事長を殺害しようと画策する暗部組織。

 

 ──それは例えば、革新的なネットワークを分析して再生産しようと企む企業家。

 

 ──それは例えば、一万回近い『死』の記憶を採集しようと目論む死霊術師。

 

 

 全てが木原幻生の掌の上。

 望んだ通りに、経験値が一点へと集約されていく。

 

 しかし。

 その老人にとっての予想外(イレギュラー)が一つ。

 

 まぁ、簡単に言えば。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「──()()()()()()()()()()()

 

 継雲雷糸の体は木原幻生に拉致された。

 それは間違いではない。

 

 しかし、お忘れではないだろうか?

 僕は元々、この体に憑依しているだけの幽霊。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()。助かったよ、ダミーくん」

『ひとまず憑依するための依代(からだ)は魔術人形で代用したが、自然、そう長く活動できるようには作られていない。保って三時間という所だろう』

 

 アウレオルス=ダミーが作成した人形に憑依する。

 継雲雷糸の身体が使えない今、この身体が僕の生命線と言えるだろう。

 

「よし、ダミー君は引き続き僕の本体の警護を頼む」

『どうするつもりだ?』

「なぁに、心配はいらないよ。子供同士の喧嘩ならまだしも、相手は大人だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『表』には出せない『暗部』の闘争?

 知るかクソが。全部暴いて、陽の下に罪を晒してやる!

 

 身を潜めていたコインパーキングから飛び出し、近くにあった公衆電話に電話番号を打ち込む。

 助けを求める。しかし、その相手は嬉美(こども)ではなく──

 

 

「さぁ、反撃開始だ」

 

 

 一一〇番。

 『表』を見下す『暗部』の老害。

 秩序を司る大人の力を見せてやるよ。

 

 






第二章後半は年内投稿予定ですが、卒論の関係で年明けになる可能性大です。


《原作キャラ紹介コーナー》

木山春生(きやまはるみ)
初出:とある科学の超電磁砲7話
白衣を着た女性。大脳生理学専門チームに属しており、主にAIM拡散力場を専攻している。
『暴走能力の法則解析用誘爆実験』で傷つけた子供を救う手段を見つけるため、演算装置を求めて『幻想御手(レベルアッパー)』事件を引き起こした。


警策看取(こうざくみとり)
初出:とある科学の超電磁砲51話
かつて霧ヶ丘付属中学に所属していた中学三年生だった一五歳の少女。紫がかった黒髪のロングヘアをツインテールにまとめている。暗部組織『メンバー』の指令役に成り代わるため、桃色のコスプレナース服のような衣装を着ている。
液化人影(リキッドシャドウ)』の大能力者(レベル4)。液体金属など、比重二〇以上の液体を自由に操れる。ただし、本体と同じ体積・形状でないと精密動作性が下がる。
かつて『才人工房(クローンドリー)』にて実験動物として扱われているドリーを見た事で、統括理事会への復讐を誓う。『窓のないビル』に対するテロを行い、失敗して少年院に収容されるが、その能力と憎悪を木原幻生に見込まれ部下となる。


▽電話の女
初出:とある魔術の禁書目録15巻
暗部組織『アイテム』の指令役。二〇代後半の亜麻色セミロングの女性。
暗部組織に命令を出す、学園都市上層部の『電話の声』の一人。指紋や歯形や眼球、血液型や体臭すらターゲットと同一化できる変装技術を持った潜入の専門家であり、かつては無能力者(レベル0)華野超美(はなのちょうび)を名乗り『アイテム』に潜入していた。


麦野沈利(むぎのしずり)
初出:とある魔術の禁書目録15巻
暗部組織『アイテム』のリーダー。スラリとした長身にふわふわした茶髪で、モデルのようなプロポーションを持つ女性。
学園都市第四位の超能力者(レベル5)であり、その能力は電子を『粒子』と『波形』のどちらでもない『曖昧なまま』の状態に固定して操る『原子崩し(メルトダウナー)』。固定された電子はその場に留まる性質を持ち、強制的に動かす事で絶大な摩擦力によって対象を焼き切る。


獄彩海美(ごくさいかいび)
初出:とある魔術の禁書目録15巻
暗部組織『スクール』の構成員。一四歳ほどの少女。金髪に小柄で華奢な体つき。ホステスのような背中の開いた丈の短いドレスを身に纏う。
強度(レベル)は不明だが、『心理定規(メジャーハート)』の能力者。対象が他者に置いている心理的な距離を識別し、対象の自分に対する心理的距離を自在に調整できる。


垣根帝督(かきねていとく)
初出:とある魔術の禁書目録15巻
暗部組織『スクール』のリーダー。一八〇センチを超える長身の少年。茶髪で顔が整っており、着用しているスーツと合わせてホストのように見える。
学園都市第二位の超能力者(レベル5)であり、その能力はこの世に存在しない粒子を生み出して操作する『未元物質(ダークマター)』。『未元物質(ダークマター)』はこの世の物理法則には従わず、『未元物質(ダークマター)』と相互作用した既存の物質も独自の物理法則に従って動く。
アレイスターとの直接交渉権を手に入れるため、一方通行(アクセラレータ)を殺して第二候補(スペアプラン)から第一候補(メインプラン)になる事を目指している。

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