食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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大変お待たせしました。
今日から第二章後半の毎日更新を始めます。
書き溜め中も感想・評価などありがとうございました。




第三一話 実験を妨害する者 SYSTEM_ERROR.

 

 

 第七学区、多層陸橋。

 大型バスロータリーの一二の乗り場を全て陸橋で繋いだ、競技場のようにコンクリートの地面が広がる場所。

 そこに、場違いな路面清掃車が走っていた。

 

「……人使いが荒いぜ、女王」

「助かるよ、側近」

 

 初代『蜘蛛の女王』改め、『側近』は運転席で溜め息を吐いた。

 僕の配下に収まって一日目で、まさかこんな大事件に巻き込まれるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「そう言えば、良いのかい? 僕を手伝って。厄介な事件に巻き込まれる事になるけど」

「それは今更ってもんだろ。『蜘蛛の女王』の名をアンタに譲った時点で、私は女王と心中する覚悟でやってんだ」

「……そうか。助かるよ、本当に。じゃあ頼み事があるのだけど」

「切り替えがはえーなぁ、アンタも。……ま、アンタが訊きたい事は大体分かってるけどな」

 

 『側近』は運転しながら携帯電話を僕に手渡す。

 その端末には、ズラッと人名が並んでいた。

 

「それが今回の騒動で動こうとしている暗部組織のリストだ」

 

 『アイテム』。

 『スクール』。

 『ブロック』。

 暗部の中でも上位に位置する組織が、そのリストには名を連ねている。

 

「他にも小物共が動いてはいるが、そっちはアンタが動かした警備員(アンチスキル)が軒並み捕まえるだろうからわざわざリストには載せてないぜ」

「……一応、そっちも訊かせてくれるかな?」

 

 『側近』の言葉に耳を傾ける。

 彼女は組織の動きどころか、『暗部』の末端一人一人の動きさえも捉えていた。

 

「……大体分かってきた。木原幻生(きはらげんせい)の狙いは超能力者(レベル5)だ。『アイテム』や『スクール』を動かすだけでなく、あえてカイツ=ノックレーベンや布束砥信(ぬのたばしのぶ)を見逃しているのも、食蜂操祈(しょくほうみさき)御坂美琴(みさかみこと)を呼び寄せるためだ」

「わざわざ敵を増やして、その爺さんは何を考えてんだ?」

「経験値だろうね。ヤツは学生全員から経験値を吸い上げるなんて言ってはいたけれど、そう簡単にそんな芸当が成し遂げられるとは思えない。だから、少なくとも一定の水準を超えた経験値を大量獲得する必要があるんじゃないかな?」

 

 一定の経験値を手に入れさえすれば、あとは自動で絶対能力(レベル6)を超えた存在まで辿り着くラインが出来上がる。

 逆に言えば、経験値が一定にさえ届かなければヤツの『実験』は破綻する。

 

 故に、『実験』を妨害するためにすべき事は二つ。

 

 

「──木原幻生の撃破と、超能力者(レベル5)の各個撃破」

 

 

 『実験』を主導する木原幻生の撃破。

 そして、超能力者(レベル5)が『実験』の経験値とならないように、一方通行(アクセラレータ)と接触する前に各個撃破を行う。

 

 第三位と第五位は説得できるかもしれないが、第二位と第四位は恐らく戦闘になるだろう。

 しかし、大きな問題が一つ。

 

「……手が、足りないね」

「私が指示を出せるのは『暗部』の末端ばかり。直接戦闘要員としては使えねえな。女王、アンタの方は?」

「僕の知り合いはみんな子供だ。こんな命の危険に晒される事件に巻き込めない」

 

 ならば。

 僕は『側近』から得た情報(リスト)を頭の中で反芻して、一つの解に辿り着く。

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 

(……不自然ですわね)

 

 路上でそう首を傾げるのは、風紀委員(ジャッチメント)白井黒子(しらいくろこ)

 彼女の目に止まったのは、一人の警備員(アンチスキル)だった。

 

(あの方……確か、居村(いむら)様でしたか。わたくしの記憶が正しければ、ここはあの方の巡回経路(パトロール)からは外れているはずですの)

 

 警備員(アンチスキル)はそれぞれの支部に所属しており、基本的に所属している地区から動く事はない。

 無論、例外はある。だが、その例外とは大抵がロクでもない物だ。

 

(例外──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?)

 

 もしそうであれば、見過ごせない。

 白井黒子は自身の胸に宿る正義に従って足を一歩踏み出す。

 

 まさに、その直前の事だった。

 

 

『白井さーん。サボらないでくださーい』

「…………椅子に座ってのんびり指示を出している初春(ういはる)には言われたくありませんわね」

 

 

 耳に付けられたイヤホン型の無線から、相棒の注意が聞こえる。

 そう、現在、白井黒子は風紀委員(ジャッチメント)としての仕事の真っ最中だった。

 

『サボってる訳じゃありません! システムエラーの全体を把握して指示を出せる人が私しかいないんです! 今回のように事件の規模が大きい場合は警備員(アンチスキル)が指揮をとってくれると良いんですけど……』

警備員(アンチスキル)は事件発生直後から治安維持に乗り出しているとの事なので仕方ありませんわ」

 

 つい先程、三〇分前に学園都市中で発生した大規模な交通管制のシステムエラー。その影響で公共機関は運転を見合わせ、信号が使えない事で道路も渋滞している。

 白井黒子を含めた風紀委員(ジャッチメント)達はその対応に追われていた。

 

 簡単に言えば、交通整理の仕事である。

 白井黒子は渋滞する交差点の真ん中に立ち、赤く光る誘導棒を一心不乱に振っていた。

 

『そう言えば、白井さ──』

「──そこの赤い車の方! ストップ! ストップですの‼︎ 誘導に従っていただかなくては困りますの! 事故を起こしてからでは遅いんですのよ⁉︎ ……あら、何か言おうとしましたの?」

 

 現場の熱量に気圧されながらも、おずおずと初春飾利(ういはるかざり)は答える。

 

『そ、その……ちょっとした違和感なんですけど。今回のシステムエラー、どうも不自然な点があるんです』

「不自然……ですの?」

 

 不自然さ。白井黒子が見慣れない警備員(アンチスキル)から感じ取ったそれを、類い稀なる情報処理能力を持つ初春飾利はシステムエラー全体の状況から感じ取っていた。

 

『システムエラーの被害状況を学区ごとに算出したんですけど、障害の発生分布に偏りがあるんです。単なるシステムエラーだったら、偏りがあるって不自然じゃないですか?』

「人為的な物だと? しかし、通報が受理されてなかったり、通報された内容が反映されてない可能性もあるんじゃありませんの?」

『それはあり得ません。システム障害が極めて少ない地域(エリア)は第一学区とそれぞれの学区における病院や警備員(アンチスキル)の支部──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、通報の受理以前に、警備員(アンチスキル)が自分で気付ける範囲の地域の話だった。

 

 行政機関のある場所はシステム障害が起こらず、その結果として道も渋滞にはならない。

 そう、それはまるで、このシステムエラーを起こした犯人が()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 

 そして、不自然さが結びつく。

 システムエラーが発生した直後から、姿を見せない警備員(アンチスキル)

 別の地域から応援を呼び寄せているほどの重大案件。

 

 白井黒子は、目を見開いて呟いた。

 

「……まさか、犯人の目的は警備員(アンチスキル)の手助け……?」

 

 

 

 

 桜坂征人(さくらざかまさと)という男がいる。

 その男は、木原幻生が撒いた餌に群がった小物の一人だった。

 

 男が求めたのは、革新的なネットワーク──妹達(シスターズ)の同一振幅脳波を利用した、脳波を電気信号として発する事で意識や思考を共有する電磁的情報網(ミサカネットワーク)

 そのネットワークを乗っ取り、分析・再生産して、自らが社長の会社でそれを売り出す。それが男の企んだ『新規事業』だった。

 

 男は手始めに、()()使()()()

 

「利用価値のない人間は友達には値しない。子であってもそれは同じ」

 

 そんな言葉が口癖である桜坂征人(さくらざかまさと)にとって、娘を使う事に何の躊躇いもなかった。

 

 桜坂風雅(さくらざかふうが)。それが娘の名前だった。

 低能力(レベル1)ながら入力装置がなくともコンピュータに侵入できる『認証穿刺(マリシャスフェイク)』という能力を持つ少女は、本人のハッキング技術と合わせるとあらゆるコンピュータ機器を支配できるほどの実力を有していた。

 男は娘がその力で革新的なネットワークを手に入れる事を確信し──

 

 

「初めまして、社長」

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()

 

「……風雅はどうした」

「彼女には眠って貰っている。心配しなくても、手を出すつもりはないよ」

 

 大規模なシステムエラー。

 それを起こしたのは桜坂征人の指示を受けた、桜坂風雅だ。本来ならば、この騒ぎに乗じて学園都市の軍事中枢クラウドに侵入(アクセス)して、革新的なネットワークを乗っ取るための兵器を用意するつもりだった。

 

 だが、想定外の事が起こった。

 システムエラーは起こった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 目の前の少女。

 中学生程度にしか見えない、蜂蜜色の髪の少女が()()()()()()()()()()()()()()()

 

警備員(アンチスキル)にはこれから働いて貰うんだ。邪魔されちゃ困るよ」

「……お前ならば、そもそも止める事だってできただろう」

「それじゃあ正義感の強い風紀委員(ジャッチメント)の子供達も事件に巻き込まれる。子供を遠ざけ、『暗部』の足を止める。そういう意味では、あれは良い手だったね」

 

 社長として様々な人種と関わってきた桜坂征人には、その少女の目がどうしてか老成した物に見えた。

 そして、少女はその瞳の中に怒りを覗かせる。老成した演技力でも隠しきれないほどの、桜坂征人に対する怒りを。

 

「僕も君に訊きたい事があったんだ」

「…………」

()()()()()()()()()()()?」

 

 どうやら、それが少女の地雷らしい。

 キーワードは子供。自らも子供だというのに不思議な話だった。

 

「決まっている。革新的なネットワークを手に入れるためだ。利用価値のある風雅を使わない理由などあるまい?」

「なら更に訊こうか。革新的なネットワークとやらを狙うのは何故だい?」

「それが我が社の『新規事業』だからだ。私が経営するジェネラルエピテックス社は学園都市内の機器を『外』に払い下げる仕事をしている」

「……それで?」

「革新的なネットワークがあれば、我々は学園都市の包囲網さえ無視して『外』に技術を伝える事ができる。そうすれば、どれだけの人が助かると思う? 学園都市が秘匿する技術の全てを『外』に流出させれば、どれだけの人生が豊かになると思う? 私には責任がある。学園都市と『外』とを繋ぐ私には、その使命が──」

「──もう良いよ」

 

 少女は、桜坂征人の言葉を遮ると。

 あっさりとした口調でこう告げた。

 

 

()()()()()()()()?」

「────────、」

 

 

 思考が、止まる。

 まるで台本でも読んでいるかのようにペラペラと話していた言葉が、どうしようもなく詰まる。

 

「君の目を見たら分かる。君は大義だとか使命だとか、そんな事のために罪を犯した訳じゃない。君はもっとちっぽけな物のために戦っている」

「……、………………」

偽証(ニセモノ)なんてもう辞めにしよう。出せよ、君の本音(ホンモノ)を」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 そして。

 そして。

 そして。

 

 

「利用価値のない人間は友達には値しない。子であっても、それは同じ。……()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 男の口から。

 どうしようもない本音が出た。

 

「風雅は優れた子だ。反して、私はなんだ? 私には何の価値があるんだ? 社長とは言えど学園都市の中に無数にある木っ端企業の一つで、娘をお嬢様学校にも通わせてあげる事もできない。なんだ、私には何の利用価値もないじゃないか」

 

 ああ、口に出してしまえば何とちっぽけな事か。

 大義も何もない。それはありふれた父親の弱音だった。

 

「私は価値を手に入れねばならない。風雅が誇れるような、風雅に相応しいような! そんな功績を手に入れなければならんのだ‼︎」

「だったら‼︎ どうして娘を巻き込んだ! 娘のために娘を危険に晒すなんて、そんなの本末転倒だろうがッ‼︎」

「……だったら、どうすればいいんだ……‼︎ 私には何の力もありはしない! こんな私では、風雅の父親になんか──」

「──だったら、僕に手を貸してくれないか?」

 

 顔を上げる。

 蜂蜜色の髪の少女は、その小さな掌を桜坂征人に向けて伸ばしていた。

 

「間違いなく危険だし、報酬なんて何もない。僕が誘ってるのはそんな苦行だ」

「…………、」

「でも、少なくとも子供に誇る事はできる。自分は今日、人を助けたんだって。お前の父親はヒーローなんだって、そう言う事はできる」

「…………私、は」

 

 覚悟なんて決まってない。

 自分に人が救えるなんて思えない。

 

 でも、それでも。

 ほんの少しでも、娘に相応しい父親になれるように。

 

「……名前を訊かせてくれるか?」

継雲雷糸(つくもらいと)。君の名前は」

「…………桜坂、征人」

 

 男は、父親(ヒーロー)になる。

 

 

「風雅の自慢の父親、桜坂征人だ」

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

白井黒子(しらいくろこ)
初出:とある魔術の禁書目録3巻
常盤台中学に所属する中学一年生。風紀委員(ジャッジメント)の一人。茶色い髪をツインテールにした少女。
空間移動(テレポート)』の大能力者(レベル4)。手元にある物体(自分の体も含む)を、三次元的な空間を無視して一瞬で遠くに移動させられる。
御坂美琴(みさかみこと)のルームメイトであり、彼女に心酔している。心酔が極まって暴走する事も多々ある。


居村(いむら)
初出:とある科学の一方通行7巻
警備員(アンチスキル)の一人。男性。


初春飾利(ういはるかざり)
初出:とある魔術の禁書目録8巻
柵川中学に所属する中学一年生。風紀委員(ジャッジメント)の一人。短めの黒い髪に、花を模した飾りをたくさんつけた少女。
定温保存(サーマルハンド)』の低能力者(レベル1)。触れている物の温度を一定に保つ事ができる。
情報収集・処理能力に長けており、ハッカーとしては超一流。その腕前は、ハッカー達の間で『守護神(ゴールキーパー)』という伝説が生まれるほど。


桜坂征人(さくらざかまさと)
初出:とある魔術と科学の群奏活劇
ジェネラルエピテックスの社長。桜坂風雅(さくらざかふうが)の父親。
『新規事業』として『革新的なネットワーク』を乗っ取り、分析して、再生産する事を目論んでいる。


桜坂風雅(さくらざかふうが)
初出:とある魔術と科学の群奏活劇
柵川中学に所属する中学一年生。桜坂征人(さくらざかまさと)の娘。ポニーテールとそれを留める大きなリボンが特徴的なお嬢様。
認証穿刺(マリシャスフェイク)』の低能力者(レベル1)。入力装置がなくてもコンピュータに侵入できる。本人のハッキング能力と合わせる事で、大規模なシステムエラーを引き起こす事ができる。

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