「結局、何をすれば今回の任務は成功になる訳?」
多層陸橋の上を走る細長い車。黒いリムジンの中で、金髪碧眼の女子高生は眉をひそめて尋ねる。
その少女の名はフレンダ=セイヴェルン。
今回、とある製薬会社からの依頼を受けた暗部組織『アイテム』の構成員だった。
「知らなーい。依頼したオッサンの言うことにハイハイ従っとけばいいんじゃない?」
そう応えたのは、明るい色の半袖のコートを着込んだ女。
『アイテム』のリーダーであり、学園都市第四位の
麦野沈利にやる気は見られない。それも当然だ。本来、『アイテム』の仕事は学園都市にとっての不穏分子を削除・抹消すること。
製薬会社の防衛だなんて上層部からの無茶振りを成功させた所で、『アイテム』には何の得もない。
麦野はストッキングに覆われた足を組み替えながら、ダルそうに呟いた。
「どうせ依頼をこなした所で大した点数稼ぎにもなりやしない。こんなのテキトーで良いでしょ」
「えー、ホントに気にならない訳?
「超どうでも良いです」
ふわふわしたニットのワンピースを着た、一二歳ぐらいの大人しそうな少女──
ただし、麦野の同じようにやる気がないのではなく、この反応こそが少女の平常運転。フレンダ達の会話を心底どうでも良さそうに聞き、手に持った映画のパンフレットから目を離さない。
「敵を超薙ぎ倒せば終わりじゃないですか?」
「だーかーらー、その敵が曖昧なんだって! 結局、誰を倒せば良いのか分かんないって訳よ!」
「……南南西から信号が来てる……」
そして、『アイテム』最後の構成員。
ピンク色のジャージを着た少女、
手足をリムジンのソファに投げ出した脱力系少女は虚空を見つめてぼーっとしていた。
『アイテム』。
殺し合いの直前でも平常と変わらない精神を保てる、『暗部』にどっぷりと浸かった少女達。
しかし、少女達が任務を行う事はなかった。
理由は単純。
轟‼︎‼︎‼︎ と。
爆風が麦野沈利の体を投げ飛ばした。
地表二〇メートルからの自由落下。
麦野は咄嗟に『
真下に放った
「…………フレ、ンダ?」
目の前にいたはずの少女は消えている。
いや、そもそもの話周りには誰もいなかった。
辺り一面が瓦礫に埋もれ、戦場と言っても過言ではない悲惨な光景が広がっている。
パッと見て無辜の犠牲者が見えない事が奇跡な有り様だった。大規模な交通管制のシステムエラーによる渋滞と、それによる通行止めが多層陸橋の手前で起こっていなければ、今のこの場は血の海が広がっていた事だろう。
「……絹旗‼︎ 滝壺⁉︎」
誰も声には応えない。
だが、それは彼女達が死んだ事を意味する訳ではない。
麦野は爆心地に辿り着く。
そこには大破したリムジンの一部と、地面に空いた大きな穴があった。
「そうか、
『アイテム』を乗せた車は多層陸橋の三階部分にあたる巨大な幹線道路を走っていた。
しかし、爆破の衝撃で地面が崩れ、他の三人は下の層へと落ちていった。
(……不自然だな。三人が落ちて、私だけが上空へ吹き飛ばされた?
偶然、ではない。
麦野の記憶が正しければ、初めに衝撃があったのは下でなく横。
(私を上空に吹き飛ばした爆発はその後だったが、まず初めに私は横に吹き飛んだ。
爆弾に巻き込まれたのではなく、初めから『アイテム』を狙って仕掛けられた爆弾。
良いや、厳密に言えば、
「見てんだろ、ゲス野郎。狙いは私だな?」
「ああ。推測は、当たっている」
瓦礫の上。
麦野の視線の先には、三人の大人がいた。
熊のような大男、筋肉質な女、特徴のない男。三人に共通するのは麦野よりも年上である事と、『
「誰だ、テメェら?」
「『ブロック』。君達『アイテム』と同じ、統括理事会直属クラスの、暗部組織」
「悪く思うな、
ぴくり、と麦野沈利のまぶたが動く。
今、聞き捨てならない言葉を聞いた。
第一位、麦野よりも上に位置する
「叩きのめす? たった三人程度でこの私に勝てるとでも思ってんのか、クソ野郎」
三対一だろうが知った事ではない。
能力も持たないただの大人が、学園都市第四位の麦野に対して叩きのめすとほざいた。
たったそれだけの事で、怒りのボルテージが跳ね上がる。
「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」
多層陸橋・最下層。
商店街を兼ねた複雑な地下街に、麦野を除く『アイテム』の面々は落ちていた。
咄嗟に絹旗がフレンダを滝壺を抱き抱え、着地の際に『
「い、今の爆発……っ‼︎」
瓦礫に埋もれて行き場のない地下街。
突然の襲撃に理解が追いつかない『アイテム』の面々の中、フレンダだけはその攻撃に心当たりがあった。
襲撃の理由、ではなく。
襲撃の下手人に関して。
フレンダはその爆破に見覚えがあった。
爆破の仕方には人の個性が出る。
今の爆破は後者。
暴力に愉しみや悦びを見出している変態の所業。
見覚えがあるのも当然、それはフレンダと同じタイプの爆弾魔だった。
(けどッ、それだけじゃあ説明がつかない訳よ!)
同じ
だが、今の爆破に使われた爆発物さえもフレンダと同じ。それだけじゃない。爆破の仕方にも覚えのある癖が見受けられる事から、爆発物を作成する際の化学技術さえも同一。
フレンダと同じ技術で爆弾を作り。
フレンダと同じ戦術で爆弾を扱う。
──
「────まさか、
かつて
小型爆弾と格闘技術と混ぜ込んだ我流の近接戦闘ならば兎も角、爆弾の作り方や扱い方に関しては完全にフレンダの上位互換。正面から戦って勝ち目はない。
(……いや、師匠の爆弾の扱い方とは、少し違う……?)
麦野を孤立させるため、爆弾を使い『アイテム』を分断した。それは分かる。
だが、地下街に落とすだけ? それは中途半端だ。こちらにはサーチ能力を持った滝壺と瓦礫くらいなら簡単に撤去できる絹旗がいる。すぐに合流する事など容易い。
(それに、師匠なら私と滝壺くらい一撃で殺す事なんて容易かった。……これは、師匠じゃない。爆弾を仕掛けたのは師匠でも、作戦を立てたのは別の人間って訳?)
ならば、その理由はなんだ?
フレンダ達を生かす事で、敵に何の利益が──
「──あ」
「さっきから超黙って、どうしました?」
敵にとって、排除するべき存在が『アイテム』だけでないのなら。
そして、排除するべき存在同士が
その推測を裏付けるように、虚空をぼーっと見つめていた滝壺は何かを受信して呟く。
「
「
地下街に響く轟音。
暗部組織の一つ、『スクール』の面々は警戒を表情に浮かべた。
その内の一人、土星の輪のように頭全体を覆う機械製のヘッドギアを装着した少年──
「爆発?
「いえ。彼は多層陸橋にはいないはずよ」
派手なドレスを着た一四歳くらいの金髪少女──
それを聞いた誉望はヘッドギアを深く被り、能力のスイッチを切り替える。
彼の能力は
今回、彼は顕微鏡などでしか感知不能なほど微弱な『力』を広範囲に薄く貼り付けた。それはまるで掌のように、貼り付けた『力』を押し出す熱や光を感知する。
そして『力』が押される感覚から逆算する形で、多層陸橋の立体的な構造を把握する。それは多層陸橋の内部に存在する人さえも。
「これは……資料で見た『アイテム』の三人? ただリーダーの第四位はいないみたいっス。…………、……? オレ達とは逆方向に逃げている?」
「あなたの能力に気づいたのでしょうね。滝壺理后の『
「でしたら、能力とは異なる方法で追跡を行いますか?」
そう言ったのは、黒いツーサイドアップの髪の少女──
『スクール』の中でもスナイパーである彼女は、
「追跡する必要あるんスか? オレ達が狙ってるのは
「は? わたくしの活躍場面なんですから誉望さんは黙っててください」
「マジでこの女……」
「寄り道になるけれど無駄ではないわ。『アイテム』の絹旗最愛は『暗闇の五月計画』──能力者に第一位の思考パターンを植え付ける実験の被験者。上手く行けば第一位との戦闘経験だけでなく、第一位の思考パターンも手に入れられる」
誉望万化と弓箭猟虎の言い争いを無視して、獄彩海美は『スクール』の目的を告げる。
第一位を倒す。戦闘経験も、思考パターンも、全てはそのための情報。そして、今ここにはいない
「──そう言えば、今回は第一位も動いているのだったかしら」
「……見飽きた顔だァ。他のバリエーションはねェのか?」
学園都市第一位の
眼前に立つのは二人の少女。今まで何度も殺した少女と、ついさっき
「あなたの愚鈍力で足引っ張らないでよねぇ?」
「こっちの
学園都市第三位、
学園都市第五位、
見飽きたクローン共のオリジナル。
「数を揃えた程度で歯が立つとでも思ってンのかァ? 図に乗ってンじゃねェぞ、格下共が。一対二で有利になるのはオマエらが俺と同格の時だけだ。俺がオマエらと同じ
カイツ=ノックレーベン、あるいは
『実験』の関係者から情報を聞いた二人の少女は、互いに歪み合いながらも誰よりも早く
それはまるで、何処かの誰かが誘導したみたいに。
ニセモノに敗北した苦い記憶を払拭するため、第一位はホンモノを相手に強気に宣言する。
「第一位とそれ以下の間に存在する絶対的な壁を見せてやるよォ‼︎」
第三位&第五位VS第一位。
順位に裏付けされた、絶望的な挑戦が始まる。
《原作キャラ紹介コーナー》
▽フレンダ=セイヴェルン
初出:とある魔術の禁書目録15巻
『アイテム』の構成員。金髪碧眼のフランス人形のような容姿の女子高生。
▽
初出:とある魔術の禁書目録15巻
『アイテム』の構成員。ふわふわしたニットのワンピースを着た、ボブカットの茶髪の少女。年齢は一二歳くらい。
『
▽
初出:とある魔術の禁書目録15巻
『アイテム』の構成員。ピンク色のジャージを着た、肩の辺りで切りそろえられた黒髪の少女。
『
この能力の真価はAIM拡散力場を伝い、『
▽
初出:とある魔術の禁書目録15巻
『スクール』の構成員。無数のケーブルを生やした特殊ゴーグルを装着した少年。
『
▽
初出:とある科学の超電磁砲81話
『スクール』の構成員。私立枝垂桜学園に所属する女子生徒。ツーサイドアップの黒髪の女性。