食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第三四話 無慈悲な光の瞬き The_Evening_Star.

 

 

 麦野沈利(むぎのしずり)と『ブロック』の戦い。

 その主導権は意外な事に、超能力者(レベル5)ではなく『ブロック』が握っていた。

 

 轟‼︎‼︎‼︎ と。

 佐久辰彦(さくたつひこ)の放り投げたプラスチック爆弾が爆発する。

 しかし、本命は爆弾そのものではない。衝撃を伴う爆風が周囲の窓ガラスを砕き、その破片が雨のように降り注ぐ。

 

「アンタの『原子崩し(メルトダウナー)』は強力な能力だ。特に威力の面においては、イージス艦を輪切りにできると言われる程に。その反面、威力以外の面においては弱点が多い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 山手(やまて)は偉そうにそう告げる。

 その弱点は麦野も自覚する所だった。

 

 例えば、第一位の反射は常時発動している。

 例えば、第二位の翼は自動防御の機能を持つ。

 例えば、第三位は常に電磁波をレーダーのように放っている。

 

 一方、第四位が持つのは破壊力のみ。

 能力を盾のように展開できてもそれは不意打ちには弱く、攻撃で迎え撃つにも反動があるため連射ができず、面制圧や飽和攻撃には対応できない。

 

 

「──とでも思ったか?」

 

 

 麦野沈利は一枚のカードを放り投げる。

 それに『原子崩し(メルトダウナー)』を当てた瞬間、カードは複数の三角形のパネルに分散し、麦野が放った光線もまた同時に複数に分散する。

 

「弱点に対策を講じるのは当然だろうが。『アイテム』を舐めるなよ、クソ野郎」

 

 拡散支援半導体(シリコンバーン)

 能力を外部から補強するアイテム。

 面制圧を不得手とする麦野の弱点を補う装備。

 細かく分散された青白い光が降り注ぐ窓ガラスの破片を吹き飛ばす。

 

(爆弾を投げたのはあの熊みたいな男だが、実際に投げる場所を指示しているのはあの山手とかいう男。あの地味野郎が『ブロック』の頭脳だってんなら、ヤツを潰せばこの連携は終わる!)

 

 分散したとはいえ窓ガラスの破片を全て吹き飛ばせた訳ではない。少ないながらも落ちてきた破片は、麦野の皮膚を切り刻む。

 だが、止まらない。血だらけになるのも無視して、彼女は山手を狙い撃つ。

 

 その、直前だった。

 

 

()()()()()()()()

 

 

 メキメキッ‼︎ と。

 麦野の腹に筋肉質な女の拳がめり込んだ。

 

「ごッ、が⁉︎」

「残念だ。子供を、痛めつける事に、なるとはね」

 

 反射的に『原子崩し(メルトダウナー)』を放つ。

 しかし、筋肉質な女──手塩恵未(てしおめぐみ)には当たらない。

 

「……お前」

「銃と同じだ。銃弾の速度は、速くても、狙い、撃つのは、君の動体視力。私はただ、君の眼よりも、速く動けば、いいだけだ」

 

 手塩は警備員(アンチスキル)の体術──能力者を制圧するための近接格闘術をアレンジして修めている。視線や細かい筋肉の動きから、次の攻撃箇所を先読みする事など容易い。

 重厚な装備は全て脱ぎ捨てた。防ぐ事など考えない。一切の重みを感じない薄着のみを纏った装備、俊敏な回避こそが最適解である。

 

(点の攻撃では避けられる! ならッ──)

 

 再び、麦野は拡散支援半導体(シリコンバーン)を手にする。

 手塩が避けられない面の攻撃。それを放つためにカードを放り投げ、

 

 

 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 轟音と共に、カードの届かない高さへと舞い上がる。

 

 

「──()()()()⁉︎」

 

 麦野はそれに見覚えがある。

 フレンダが格闘戦において用いる、破片効果のない衝撃波のみに絞った特殊な爆弾。

 爆風の向きを計算していたのだろう。その衝撃は手塩の背中を押し、舞い上がる拡散支援半導体(シリコンバーン)の軌道を捻じ曲げた。

 

(なッ、これが『ブロック』の陣形か⁉︎ 女を倒すには爆弾魔が邪魔で、爆弾魔を倒すにはこの女が邪魔。遠近を潰すデッドロックがこいつらの本領……っ⁉︎)

 

 考えを巡らせる暇はない。

 立て続けに缶コーヒーのような円筒が複数投擲され、スタングレネードが爆発する。目を焼くような閃光と、耳をつんざくような轟音が麦野を襲う。

 

 瞬間、麦野の身体は硬直する。

 その隙を手塩は見逃さなかった。

 手塩の手足が麦野の関節を絡め取り、手塩の腕が麦野の首を締め上げる。

 

「がっ、……ッッッ⁉︎」

「君の弱点は、これだ。威力が絶大過ぎる、故に、慎重に照準を行わねば、簡単に自滅する。それは、相手が密着しているのなら、尚更」

「…………っっっ‼︎‼︎‼︎」

「そして、今の君に、そんな演算は、できない。頸動脈を、圧迫した。頭に血が、回らないだろう?」

 

 麦野沈利を倒すのに特別な力なんて必要ない。

 近づき、締め上げる。ただそれだけの暴力が、『原子崩し(メルトダウナー)』を上回る。

 もはや麦野沈利は思考さえままならない。

 

 ──()()()()()()()

 自滅(リスク)を恐れる理性より、抑えきれない()()が上回った。

 

(関係ねえんだよ‼︎ 何が弱点だ、何が自滅だ‼︎ 一対三だろうが戦力差はひっくり返らねえ‼︎ それが超能力者(レベル5)だ。それが第四位『原子崩し(メルトダウナー)』だ‼︎ 能力も持たねえ大人がいくら群れようが、私に敵うなんざあり得ねえんだよォおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎)

 

 直後、ボッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 全方位に向かって閃光が迸る。

 

 周囲の被害も、仲間の安否も関係ない。

 数キロ先まで貫く無慈悲な閃光。

 それが文字通り全方位を穴だらけにするように放たれた。

 

 避ける、なんて言葉は通用しない。

 横に逸れようと、後ろに下がろうと、『原子崩し(メルトダウナー)』は敵の身体を貫く。

 

 

 ──その、はずだった。

 

 

 ゴン‼︎ と凄まじい音が炸裂する。

 人間が頭から地面に崩れ落ちた音。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「──アンタの『原子崩し(メルトダウナー)』、その最大の弱点は反動の大きさだ」

 

 勝利宣言。

 山手の声に、麦野は言い返せない。

 立ち上がる事もできない。彼女は全身の骨が砕け散り、片目が弾け飛んでいた。

 

「絶大な威力を持つ反面、その力を全力で行使した瞬間、反動によってアンタの体は消し飛ぶ。だから、アンタの能力はいつだって生存本能によってセーブされていた」

「…………っ」

「だが、アンタ自身の性格は好戦的だった。セーブされた中でも常に最大の威力を放っていた。なら、俺達は反動を少しだけ大きくするように仕向ければいい。そうすりゃあ、アンタは勝手に自滅してくれる」

 

 反動。

 言い換えれば、衝撃。

 普段よりも衝撃が伝わりやすい空間を作れば、麦野沈利の生存本能を騙す事ができる。

 

 

「微粒子グレネード。光や音と共に、衝撃を伝導させやすい微粒子を周囲にばら撒く爆弾だ」

 

 

 それは衝撃を操る能力を外部から補強するために作成されたアイテム。

 例えば、衝撃の伝わる指向性を操る能力者である微細乙女(びさいおとめ)の有する装備。

 

「全方位に向けて攻撃を放った時は焦ったが、どうやらアンタの生存本能が途中で反動の大きさに気づいてセーブしたみてえだな。俺達の所にまで『原子崩し(メルトダウナー)』は届かなかった。反射的に後退した手塩も無事みてえだし」

 

 無論、こちらも無事ではない。

 衝撃の伝わりやすさによって、『原子崩し(メルトダウナー)』の衝撃は『ブロック』の三人を吹き飛ばした。

 骨の一本や二本が折れていてもおかしくはない。

 

 逆に言えば、被害はそれだけだった。

 骨の一本や二本だけで、『ブロック』は超能力者(レベル5)の一角を落とした。

 

「沈んでおけ、超能力者(レベル5)。俺達の野望のために」

 

 

 

 

 場所は変わって、聖音高等学校・第六化学棟。

 誰の目も届かぬ場所で、二人の侵入者は魔術戦を繰り広げていた。

 

『ぐひひ。よくやった、よぉーく頑張ったぜ。だが、此処らがてめぇの限界さ』

 

 膨れ上がった巨大な死肉を前に、エツァリは膝をつく。

 

 ナンバーズの悪霊。

 そう呼ばれた四体の擬似魂魄の内、三体は既に潰した。

 渾沌(こんとん)饕餮(とうてつ)は『棺桶』と呼ばれる機械ごと、窮奇(きゅうき)は機械と接続する前に本体の符を封じ込んだ。

 

 どれだけ巨大な機械を用意しようと意味がない。

 エツァリが有する黒曜石のナイフ──『トラウィスカルパンテクウトリの槍』で反射した金星の光に触れたモノは、大きさや硬度に関係なくバラバラに分解される。

 遮蔽物のない一対一の戦いでは、無敵とさえ思える最強の一撃。

 

 だが、問題は最後の一体。

 檮杌(とうこつ)──その擬似魂魄に転写されたイサク=ローゼンタールという男が、窮奇(きゅうき)のために用意していた機械に乗り込んだ後にそれは起こった。

 

 

「……大能力(レベル4)クラスの『念動力(テレキネシス)』ですか」

『残念ながらこいつはプロトタイプでな。時間が許せば強能力者(レベル3)の死体でも集めて、超能力(レベル5)クラスの力を扱う「棺桶」を見せてやれたんだがなぁ』

 

 

 エツァリの扱う『トラウィスカルパンテクウトリの槍』は対象をバラバラにする魔術。一方で、バラバラにする力そのものは物理的に発生する。

 ()()、『()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……単純に出力が足りませんね。相手が強能力(レベル3)クラスの出力だったなら通用したかもしれませんが……)

 

 万事休す。

 今のエツァリでは敵に手も足も出ない。

 

『尻尾巻いて逃げ出すか? いいぜ。魔術師のよしみだ。今なら見逃してやっても構わねぇ。てめぇにこの街を守る義理なんてあんのか?』

 

 どう考えても挑発にしか聞こえない発言。

 だが、その通りだとエツァリは思った。

 

 そもそも、エツァリの任務は継雲雷糸(つくもらいと)を中心に形成される勢力を崩す事。そして今ある勢力図を保つ事。それは決して学園都市を守る事ではない。

 だから、エツァリには今ここで戦う義理はない。逃げ出したって誰に責められる訳でもない。

 

 

「──()()()()()()()()()()()

『………………あ?』

 

 

 しかし、エツァリは一言で迷いを断った。

 義理はない。責任はない。でも、理由はあった。

 

「好きなんですよ、この街が。この街の営みが、この街の様相が、この街にいる人が。たとえ自分はこの街の住人にはなれずとも、()()のいるこの世界が大好きなんです」

『…………』

「義理なんてどうでもいい。理由なんてそれだけでいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎」

 

 『組織』も、任務も、関係ない。

 エツァリはただそれだけの理由で、強大な敵に立ち向かっている。

 

『くっだらねぇな。だったら仲良く心中しとけ』

 

 その言葉はイサク=ローゼンタールには響かない。

 生者も死者も弄び、ネイサン(息子)さえ道具としか見做さない死霊術師にはそんな言葉が響く心など存在しない。

 

 でも、だけど。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「仕方がないから手を貸してあげるのです」

 

 ──学園都市に潜り込んだもう一人の魔術師はそう呟いた。

 

 

 

 カッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 暗い空に金星が瞬く。

 

(これは……星から力を引き出す魔術! それも二〇世紀初頭に栄華を極め、今となってはスタンダードの地位を手に入れた『黄金』系の⁉︎)

 

 エツァリの魔術は金星の光を反射して行う。

 即ち、金星の力を引き出しているとも見る事ができる。故に、強く引き出された金星の力に反応して、『トラウィスカルパンテクウトリの槍』もまた強化(ブースト)される。

 

「これなら……‼︎」

 

 ゾン‼︎ と黒曜石のナイフが唸る。

 敵の『念動力(テレキネシス)』よりも更に強く。

 無慈悲なる神の閃光は、膨れ上がる死肉の塊をバラバラに分解した。

 

 やがて死肉に埋もれた菱形蛭魅(ひしがたひるみ)の肉体が曝け出される。

 黒曜石のナイフは少女の遺体に向けられた。

 

「まだ、だ……‼︎ この肉体は仮初のモノ! 器が壊れようと俺は何度だって蘇る‼︎」

 

 敵の正体は死体に宿った擬似魂魄。

 檮杌(とうこつ)に転写されたイサク=ローゼンタール。

 

 死体を破壊されようと符から体が再構築され、符を傷付けようと擬似魂魄が解き放たれて自由になるだけ。

 本来は『舜帝の剣』と呼ばれる死体と擬似魂魄とを強制的に引き剥がす制御装置(セーフティ)が存在していたが、今この場には存在しない。

 

 故に、イサク=ローゼンタールのニセモノは無敵と言っても過言ではなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ペタリ、と。

 檮杌(とうこつ)の符の上から、新たな護符が貼られる。

 

 

「これ、は……ッ‼︎」

()()()()()()()

 

 アステカの神官は生け贄の人間の皮膚を剥いで着る技術がある。それがエツァリの用いる変身魔術。腕の皮膚を一五センチくらい切って作った護符による、姿形を真似する術式。

 今回はその魔術を()()使()()()()

 

「擬似魂魄。死体に潜り込み、その残留思念を吸い上げて死人の模倣をするように作られた擬似人格。それらは元々の性質として()()()()()()()()()()()()

「が、がががががががが、」

「ならば、変身魔術で他者そのものに成り切ればどうです? 遥か昔に転写された擬似人格と符に直接入力された肉体情報、あなたはどちらを優先しますか?」

 

 そもそもの話、敵対しているのは擬似魂魄・檮杌(とうこつ)ではなく、そこに転写された人格・イサク=ローゼンタール。

 ならば、擬似魂魄を無理に引き剥がす必要はない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 せめてもの抵抗だろうか。

 痙攣する少女の遺体は、自身の符の上に貼られた護符を剥がそうと試みる。

 

 しかし、エツァリの方が早かった。

 

「終わりです、死霊術師」

 

 黒曜石のナイフが掌を貫く。

 その霊装の名は『トラウィスカルパンテクウトリの槍』。

 

 トラウィスカルパンテクウトリとは、生け贄の血を捧げねば動かない太陽に憤り、太陽に矢を放った神。或いは、生け贄がいなければ存続できない世界の理不尽(ルール)に対して怒りを抱いたとさえ解釈できる異端の神。

 故に、彼の神の権能は死者も生者も弄ぶ死霊術師を絶対に許さない。

 

 直後の事だった。

 この世界から、イサク=ローゼンタールと呼ばれた男の残滓が消え去った。

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

▽ネイサン=ローゼンタール
初出:とある科学の一方通行29話
ローゼンタール家四代目当主。イサク=ローゼンタールの息子。
ローゼンタール家が所有する擬似魂魄・ナンバーズの悪霊を開発し、イサク=ローゼンタールが死亡する前に彼の魂魄を『檮杌(とうこつ)』へ転写した。

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