食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第四〇話 最強と最弱の決戦 Only_“ONE”.

 

 

 木原幻生は霧散した。

 『実験』は大人の手から離れた。

 

 だから。

 残るのは、子供の意地のぶつかり合いのみ。

 

 

「お、──────ォぉぉっ!」

 

 上条当麻は砂利と鋼鉄のレールが敷き詰められた大地を駆け抜ける。

 相手が噂に聞く第一位なのだとしても、上条当麻には幻想殺し(イマジンブレイカー)がある。拳の届く範囲内ならまだ勝ち目がある!

 

 しかし、一方通行(アクセラレータ)は上条当麻に目すら向けなかった。

 眼中にない、とは違う。単純な話、AIM拡散力場を吸い上げてあらゆる能力を手にした怪物にとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「引っ込ンでろ、三下」

 

 轟‼︎‼︎‼︎ と、衝撃が上条当麻を呑み込む。

 発電能力(エレクトロマスター)発火能力(パイロキネシス)念動能力(サイコキネシス)など、無数のエネルギーが爆発するように炸裂した。

 

「がっ、は……ッ⁉︎」

 

 上条当麻は軽々と吹き飛ぶ。

 胸を打つ衝撃が、肺から全ての酸素を吐き出させた。

 

 地面を転がる上条だが、一方通行(アクセラレータ)は容赦をしない。砂利、鋼鉄、空気、塵、水。この場に存在する全てが上条当麻を噛み砕こうと牙を剥く。

 念動力(テレキネシス)か、それとも特定の物質のみを操る念動力(テレキネシス)の派生能力を複数重ねて使用しているのか。上条当麻には分からないが、それは世界全てを操っているとさえ表現できる光景だった。

 

 立ち上がり、層が最も薄い場所を突っ切る。

 その一歩目の事だった。

 

「──がア⁉︎」

 

 踏み出した足に重量のある鋼鉄のレールが落とされる。

 空間移動(テレポート)。逃げ足さえ潰され、世界の濁流に呑み込まれる。

 

「そんなもンかよ。その程度のヤツでも今の俺を見て勝てると錯覚できンのか? ふざけんな。オマエを見せしめにして、『無敵』っつーヤツを知らしめてやる」

「ッ⁉︎」

 

 バチバチッ‼︎ と電撃の音が響く。

 一方通行(アクセラレータ)は見覚えのある構えを取った。弾丸(コイン)こそ無いものの、それは御坂美琴(みさかみこと)超電磁砲(レールガン)を放つ時の姿勢に酷似していた。

 

(いやッ、違う! それだけじゃない⁉︎)

 

 弾丸(コイン)はない、というのは上条の勘違い。

 視線の先にあるのは白い弾丸。天使の羽を凝縮したかのような球体。

 

 即ち、『未元物質(ダークマター)』。

 第三位の力で、第二位の力を放つ。

 これが『無敵』。第一位という絶対者の到達点。

 

 

 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 物理法則ではあり得ない軌道で、超音速の弾丸が空間を貫いた。

 

 

「──は、はは。ははははははははははッ‼︎ そうだッ、超能力者(レベル5)なんざ枠組みはもう必要ねェ! 能力者は俺か、それ以外か‼︎ その二択しかいらねェンだっての‼︎」

 

 死んだ。

 土煙が晴れずともそう分かる。

 

 経験則の通じない『未元物質(ダークマター)』に、世界を抉る破壊力を生み出す『超電磁砲(レールガン)』。

 避けられず、防げない。あの男がどんな能力を持っていたのだとしても、生き延びられる訳がない。

 

 なのに。

 それなのに。

 

 

 ()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「────ったく、そうだよな。第一位の超能力者(レベル5)だろうが、学園都市中の能力を集約した存在だろうが、何も変わらねえ。ビビる必要なんざなかった」

 

 ようやく、一方通行(アクセラレータ)は目の前の少年を認識する。

 巻き込まれた一般人でも、場違いな三下でもない。

 

()()()()()()()()()()!」

 

 目の前の男は────()()

 

 上条当麻もまた第一位に目をやる。

 予想外に狼狽えるその姿を目にする。

 どんな怪物かと思っていたが、第一位も人間だ。殴れさえすれば血を流す、ただの人間だ!

 

 緊張で強張っていた体がほぐれる。

 決して相手を侮っている訳ではない。

 それでも、一方通行(アクセラレータ)は『無敵』なんかじゃない‼︎

 

 同時、二人の能力者は動く。

 上条当麻は愚直に前に進むために。

 一方通行(アクセラレータ)は得体の知れない能力(チカラ)を近づけさせないために。

 

 発火、電撃、振動、爆発、固定、凍結、液状化。無数の能力によって無数の現象が引き起こされる。

 上条当麻にはもはや、相手がどんな能力を使っているのか推測する事さえできない。

 

 ──だが、構わない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なンっ⁉︎」

 

 前兆の感知。

 相手が持つ無数の手札を推測する必要はない。

 相手の考えを読み、どんな攻撃を意図しているのかさえ分かれば攻撃を避けられる!

 

 もちろん、世界の全てを操るかのような飽和攻撃には対処できない。

 だが、適宜幻想殺し(イマジンブレイカー)を用いて、異能の壁に穴を開ければ良い。

 

「その能力、借り物なんだろ? 練度が足りてねえ。ただ異能を振るうだけなら何も怖くない‼︎」

 

 一方通行(アクセラレータ)は無数の能力を手にした。

 だが、それぞれの扱い方までを知り得た訳ではない。

 

 例えば、火を出す能力だって酸素を減らして攻撃するなどの応用がある。『未元物質(ダークマター)』にだって幻想殺し(イマジンブレイカー)を無視できる攻撃方法がある。

 しかし、一方通行(アクセラレータ)には火や『未元物質(ダークマター)』を直接ぶつける事しかできない。『最強』だったからこそ、苦戦知らずだったからこそ、戦いのために頭を回すという習慣がない。

 

 そして、異能を振るだけなら相手は簡単だ。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)をただ当てれば良い。それだけで、あらゆる異能は霧散するのだから。

 

垣根(かきね)の方がもっと強かった。今のテメェなら、俺でも勝てる!」

「く、は、面白ェ。何なンだよその右手はァ⁉︎」

 

 全に至った一方通行(アクセラレータ)を翻弄する究極の一。

 あらゆる能力を有する怪物とあらゆる能力を無に帰す右手の激突。

 両者は共に、この街に残った唯一無二(オンリーワン)の能力者だった。

 

 一方通行(アクセラレータ)が覚えたのは愉悦。

 この不可思議な能力者に、今の自分の全力を試したくなったのだ。

 

「なら、こンな攻撃は防げるかァ?」

 

 

 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 空間が悲鳴をあげたかのような轟音が炸裂する。

 

 

 それは、一方通行(アクセラレータ)の背から噴き出る極彩色の翼だった。

 AIM拡散力場を一つに束ねたそれを、怪物は無造作に振るった。

 

 正面から見た翼はもはや嵐のようであった。

 視界が極彩色に染まった瞬間、上条は迷わず右手を前に突き出す。

 

 じゅう、と熱した鉄板に触れたかのような音。

 だが、痛みはない。極彩色の翼は上条の右手に触れた端から四方八方へと飛び散っていく。

 それでも、翼自体を完全に消し去る事はできない。ステイル=マグヌスの『魔女狩りの王(イノケンティウス)』のように、消しても消してもキリがない。

 

(いやッ、そんなもんじゃない‼︎)

 

 翼の勢いを殺しきれない。

 地面を踏む両足がじりじりと押され始める。

 その重圧に右手が吹き飛ばされそうになり、思わず左手で右手の手首を掴む。

 

 右手の掌がビリビリと痛みを発する。

 能力が右手に食い込み始めている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(これは……『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』に匹敵するッ⁉︎)

 

 単純な『物量』だけで一八〇万人分の能力。

 それも超能力者(レベル5)から無能力者(レベル0)まで一色一色の『質』がバラバラ。

 上条当麻が相手にしているのは、学園都市そのものとさえ表現できる能力の奔流だった。

 

 上条の足が完全に止まる。

 翼から手を離せば一瞬で上条は死ぬのに、翼に手を当て続けても上条はいつか死ぬ。そんな、絶望的な鍔迫り合い。

 しかし、絶望はそれで終わりではない。極彩色の翼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──────っ」

「この俺を相手によく持ち堪えた。だが、もう限界だろォが。諦めろよ、三下」

 

 間に合わない。

 一つしかない右手では、二箇所の同時攻撃は防げない。

 

 瞬間。

 空間を抉り取る攻撃が迫る。

 

(死────)

 

 

 ゴバッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 上条の視界が極彩色に爆発する。

 

 

 直撃ではなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人工幽霊、不知火(しらぬい)

 AIM拡散力場と相反する高エネルギーの塊が、極彩色の翼を受け止めていたのだ。

 先ほどまで翼に体を貫かれていたが、幽霊だから大したダメージではなかったのか。それとも、エネルギーを充填さえすれば治る体質なのかもしれない。

 

 だが、不知火も無事では済まなかった。

 たった一人の能力で作られた幽霊は、一八〇万人の能力で作られたAIM拡散力場に押し負ける。

 彼女の肉体は、切れかけの蛍光灯みたいにチカチカと点滅していた。幽霊に死は存在しない。それでも、再構築までの時間は必要なのだろう。

 

 そして、庇われた上条も無事ではなかった。

 直撃ではなかったとは言え、一八〇万人分の能力の衝撃である。余波を受けただけの上条でさえ、軽く三〇メートルは吹き飛ばされた。

 

 上条当麻は壊れた風力発電のプロペラの支柱に背中から激突し、ずるずると重力に引かれて地面へと崩れ落ちる。

 砂利の上を転がり、摩擦で肉を削る羽目にならなかったのは不幸中の幸いと言うべきか。だが、辿る未来に大差はない。ノーブレーキの自動車に轢かれるのと同じ衝撃が上条を襲ったのだから。

 

 だらん、と少年は手足を投げ出していた。

 砂利に血が滲み、指先はピクリとも動かない。

 気を失っている所の話ではない。生きているかも怪しい状態だった。

 

「もう終わりかよオイ。こっからが本番だってのによォ! 立てよ、三下ァ! じゃねェと──()()()()()()()()()()

 

 一方通行(アクセラレータ)はトドメとばかりに翼を振るう。

 上条当麻は動かない。たとえ意識があったとして、少年に逃げる力はない。

 

 そして────

 

 

 

 ────()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「な……?」

 

 一方通行(アクセラレータ)は思わず、自身の背から噴き出る翼を凝視した。

 極彩色の翼は街中に存在するAIM拡散力場を一点に凝縮させる事で作り出されたモノだ。

 そのAIM拡散力場が、一瞬だが確実に揺らいだ。そのせいで、制御に誤差が生まれて軌道が逸れたのだ。

 

 演算を誤ったか、と一方通行(アクセラレータ)は新たに計算式を組み直す。

 単純な『反射』と異なり、『操作』には『変更前の向き』と『変更後の向き』の両方を計算する必要があるため面倒臭い。とは言え、一〇秒足らずで膨大な計算式を完全に修正するのが第一位なのだが。

 

 

 ──()()()A()I()M()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()A()I()M()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 AIM拡散力場を束ねた翼が解け始める。

 空気に溶けるみたいに、極彩色が消えていく。

 

(なンだァ? 何が起こってンだ⁉︎ 俺の計算式に狂いはねェ、大体今のAIM拡散力場の不規則さはどう考えても自然な動きじゃねェぞ!)

 

 AIM拡散力場と相反する幽霊の仕業ではない。

 今の彼女に一方通行(アクセラレータ)を妨害する力はない。

 そもそも、幽霊は瞬間的にAIM拡散力場を散らす事ができるが、AIM拡散力場を動かし続ける事などできない。

 

 つまり、誰かがいる。

 一方通行(アクセラレータ)を超える処理能力を持って、AIM拡散力場を制御した誰かが。

 

 そして、一方通行(アクセラレータ)の頭に浮かんだのは、第一位を正面から負かしたただ一人の少女の顔だった。

 

「まさかッ、()()()()()か⁉︎」

 

 

 

 

「……君達の力を貸してほしい」

 

 それは一般人では立ち入りもできない隠された建物の中。

 水槽のような機械をこじ開けて、中にいた少女達に語りかける。

 

「身勝手なのは分かってる。君達からしたら迷惑なのも。この『実験』に誰よりも深く関わり、新しくなった『実験』では誰からも無視された君達にとっては、僕の話なんかどうでもいいのかもしれない」

 

 全員が全く同一の顔立ちの少女達だった。

 布一枚も纏わない真っ裸な少女達だった。

 誰より『実験』をよく知る少女達だった。

 木原幻生により捨てられた少女達だった。

 

「でも、助けたいんだ。死にそうになってる当麻くんも、昏睡状態に陥っている一八〇万人の子供も、望まない罪を背負わされそうになってる一方通行(アクセラレータ)くんだって」

 

 AIM拡散力場を制御する方法は一つじゃない。

 一方通行(アクセラレータ)や木原幻生の理論とは別の方法、アレイスターが用意した異なる制御方法が存在する。

 その制御方法の核となるのは────

 

 

「だから、頼む。君達にしかできない事がある。あの子達の夢を守って欲しいんだ──妹達(シスターズ)のみんな」

 

 

 ──御坂美琴のクローン、妹達(シスターズ)

 

 彼女達はクローンのメンテナンス用のバイオポッドに入れられていた。

 かつての『絶対能力進化(レベル6シフト)』計画では生贄のように捧げられ、今回の『絶対能力凌駕(シックスオーバー)』計画では不要と捨て置かれた彼女達は、狭い容器の中で廃棄を待っていたのだ。

 

 しかし、それが功を成した。

 そのバイオポッドは桜坂征人(さくらざかまさと)が用意した『ポッドリンク』と同じ性質の装置であったため、一方通行(アクセラレータ)の意識強奪の影響を受けなかった。

 

「どうしてですか、とミサカは首を傾げます」

「あなたもミサカ達と同じクローンなら分かるでしょう、とミサカは同意を求めます」

「いくらでも替えを作る事のできる模造品に対して、どうしてあなたは頭を下げているのですか、とミサカは問いかけます」

「ミサカは必要な機材と薬品があればボタン一つでいくらでも自動生産できる道具です、とミサカは説明します。単価にして一八万円、在庫にして一〇〇一九も余りあるモノがミサカです、とミサカは再度念押しします」

「命令すればいいでしょう、とミサカは提案します。替えの効かない世界でただ一人のオリジナル達を助けるため、命の価値がないミサカ達を使えば────」

「──それは違うよ」

 

 一人の手を握る。

 温かい手だった。柔らかい手だった。

 どう生まれたかなんて関係がない。彼女は確かに『人間』だった。

 

「君達はたった一人しかいない。君達一人一人がオリジナルで、君達一人一人が替えの効かない命なんだよ。君達の命は君達だけのものだ。君達の意思は君達だけのものだ。だから僕はこうして、君達一人一人に頭を下げるしかないんだ」

「…………ミサカ、は……」

「単価一八万円? 普通の人間は材料費〇円だからもっと安いよ。ボタン一つで生産できる? 性交一つで生まれるのと大した差異はないよ。……人工的に作られた命だろうが、自然発生した命だろうが、どちらにも価値なんてないんだ。何か意味があって生まれている訳じゃない。生まれた後に、僕らが勝手に価値を見出しているだけなんだよ」

「………………、」

「だから、君達の価値は僕が保証する。君達が死んだら僕は悲しいよ。きっと命の価値なんて、それだけで十分なんだよ」

 

 妹達(シスターズ)はその言葉を鵜呑みにする事はできなかった。

 だって、彼女達は自分の命に何の価値も見出せない。ボタン一つで作れる肉の体に、プログラム通りに注入された無の心。単価一八万円の命などいくらでも替えが効くと本気で信じている。

 その考えは変わらない。話した事もない見知らぬクローンにちょっと言葉をかけられたくらいで、妹達(シスターズ)に根付く価値観は変えられない。

 

 でも、だけど。

 嫌だな、と誰かがそう思った。

 

 自分の命に価値なんて感じられないけど。

 もしも、自分なんかが死んだ事で悲しむ人がいるのなら、それは嫌だと思った。

 

 それは妹達(シスターズ)の中の一人の感情がミサカネットワークに流れ出したのかもしれないし、みんなが無意識のうちにそう思ったのかもしれない。

 でも、誰がそう思ったかなんて重要じゃない。大切なのは、その感情に触れた時、妹達(シスターズ)はみんな悪くない気分だった。

 自らの死を悲しんでしまう人を知ってしまったら、もう死ぬ事などできなかった。たとえ価値のないちっぽけな生命だろうと、自分達が生きる事でこの少女の涙を止められるのなら、それはなんて素晴らしい生だろうと思えたから。

 

 だから──

 

「あなたの言葉に同意はできかねます、とミサカは率直な感想を述べます」

 

 ミサカ10031号。

 妹達(シスターズ)の一人が、継雲雷糸の手を握り返した。

 

 

「でも、何故だか、その言葉はとても響きました、とミサカは笑みを返します」

 

 

 ちっぽけな命の喪失にも悲しんでしまう少女を笑顔にするためなら、『実験』を止めるために立ち上がっても構わない。

 妹達(シスターズ)の誰もがそう思った。

 

 

 

 

 AIM拡散力場が不規則に動く。

 能力を発する一八〇万人の内、一万人は妹達(シスターズ)が占めている。そして、ミサカネットワークで繋がった彼女達は、その気になれば一つの意思として動く事ができる。

 彼女達の意思が学園都市内のAIM拡散力場の方向性を誘導するというのは当たり前の事だった。

 

 それがアレイスターの考えたAIM拡散力場の制御方法。

 皮肉な話だった。一方通行(アクセラレータ)に殺され、木原幻生に捨てられた者が、誰よりも彼らの天敵だったというのは。

 あるいは、木原幻生が妹達(シスターズ)を『実験』から除外したのは、AIM拡散力場の制御が競合する場合を恐れていたのかもしれない。

 

 もしも、木原幻生がいたらAIM拡散力場の制御を取り戻していたのかもしれない。あの老人はそれを見越してか、複数のAIM拡散力場制御方法を用意していた。

 だが、彼は既に倒された。一方通行(アクセラレータ)の演算のみでは、AIM拡散力場の制御を取り戻す事はできない。

 

 ともあれ、唯一無二の少女達の奮闘で極彩色の翼は解けた。

 後に残るのは『無敵』の力を失った剥き出しの子供だった。

 

(はン。それがどうした。『無敵』の力は失ったかもしれねェが、それでも俺は学園都市『最強』の超能力者(レベル5)だぞ⁉︎ あのヤロウを殺して、もう一度『無敵』を取り戻せば──)

 

 そこまで考えを巡らせた時。

 一方通行(アクセラレータ)の背後で物音がした。

 

 がさり、と。

 誰かの足音が聞こえた。

 

「……、………………」

 

 あり得ない。そう思いつつも、一方通行(アクセラレータ)は恐る恐る振り返る。

 そこで、信じられない光景を目撃する。

 

 

「待て、よ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 少年の体には無数の傷があった。

 少し筋肉に力を込めるだけで血が噴き出して、全身が真っ赤に染まっていた。

 体にはもうまともな力が入らず、両脚は常にがくがくと震え、両手はぶらりと垂れ下がっているとしか表現できない状態だった。

 

 死んでいても不思議ではなかった。

 垣根帝督(かきねていとく)との戦いで得た怪我も治っていない状態で、直撃ではないとはいえ極彩色の翼の衝撃を食らったのだからそれも当然だ。

 たとえ奇跡的に意識が保てたのだとしても、指一つも動かせるはずがない状態だった。

 

 なのに、少年は立ち上がった。

 絶対に、少年は倒れなかった。

 

「…………………………………………ッ‼︎」

 

 一方通行(アクセラレータ)の喉が干上がる。

 それは驚愕か、それとも恐怖か。

 常識的に考えて、あの少年はもう戦えない。あそこまで重傷を負った人間程度、『無敵』の力を持たずとも秒で粉砕できる。

 そのはずなのに。理性ではそう分かっているはずなのに、本能が危険信号を発していた。あの少年から目を離すな、と。

 

「面白ェよ、オマエ────」

 

 一方通行(アクセラレータ)は最大最強の攻撃を繰り出す。

 完膚なきまでに、あの少年に勝利するために。

 

「────最っ高に面白ェぞ、オマエ‼︎」

 

 

 ()‼︎‼︎‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 今の一方通行(アクセラレータ)にAIM拡散力場を制御して翼を作る事はできない。

 一方で、ほんの一瞬ならば、AIM拡散力場の向きを誘導する事は容易い。

 

 それは翼になり損なった稚拙な嵐。

 万全の上条当麻ならば前兆の感知で避けられる程度のもの。

 それでも、今の少年にとっては致命的とすら言える攻撃の嵐だった。

 

「ッ‼︎」

 

 ()()()()()()()()()

 

 上条当麻が行ったのは単純な事だった。

 ()()()()()()()()()()

 

 どういう原理かまでは分からないが、極彩色の力が背からしか噴き出さない事は事前に分かっていた。

 だから、嵐をひねる事で一方通行(アクセラレータ)の体勢を崩した。打ち消し切れない異能だからこそ、『掴む』という行動が可能になった。

 

 ボロボロな体を引きずって、上条は進む。

 動くだけで血が蒸発するような、考えるだけで意識が薄れるような、そんな気分だった。

 もはや、自分が何をしているのかさえも分からない。それでも、前に進む理由は一つ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 上条当麻は、右手を握り締める。

 

「歯を食いしばれよ、最強(さいじゃく)────」

 

 抵抗するように振るわれる一方通行(アクセラレータ)の両手。

 だが、沈み込んだ体が右手を避け、振り絞った力で左手を跳ね除ける。

 

 そして。

 少年は、獰猛に笑った。

 

 

「────俺の最弱(さいきょう)は、ちっとばっか響くぞ」

 

 

 直後、上条当麻の右手が一方通行(アクセラレータ)の顔面に突き刺さり──

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(ハハッ! ()()()()()()()()()! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()‼︎)

 

 あと一歩足りなかった。

 満身創痍の少年には、一方通行(アクセラレータ)を倒すほどの力が出せなかった。

 

 気を失うように、少年の足から力が抜ける。

 

「オマエの負けだァ‼︎」

 

 一方通行(アクセラレータ)は右手を突き出した。

 倒れ伏せる少年に向かって、生命を殺す一撃を振り下ろす。

 

 そして────

 

 

 

 ──()()‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なッ⁉︎」

 

 殴る、と言うよりは。

 むしろ顔を掴んでいるような状況だった。

 

(あり得ねェ! コイツは完全に意識を失ってンだぞ⁉︎ ここからの逆転なンざ不可能に決まってンだろうが‼︎)

 

 そこで、一方通行(アクセラレータ)は気付いた。

 少年を右腕を覆うような()()()()()を。

 

(砂鉄……? ッ、()()()‼︎)

「こンのッ、クソアマがァ⁉︎」

 

 ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 能力を吸っていた極彩色の翼は解けた。

 故に、学園都市中の子供達は既に目覚めた。

 そう、例えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ブチかませ! 食蜂(しょくほう)‼︎」

「言われなくてもッ、これで終わりよ‼︎」

 

 

 ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 通常、一方通行(アクセラレータ)に洗脳は効かない。

 『心理掌握(メンタルアウト)』では第一位の『反射』を突破できない。

 

 だが、今ならばその前提は覆る。

 上条当麻の幻想殺し(イマジンブレイカー)が『反射』を無効化し、その右手が一方通行(アクセラレータ)の頭から離れた瞬間、『心理掌握(メンタルアウト)』が第一位の頭に叩き込まれる。

 

 だらん、と。

 一方通行(アクセラレータ)の全身から力が抜けた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

▽ミサカ10031号
初出:とある魔術の禁書目録3巻
御坂美琴(みさかみこと)のクローンである『妹達(シスターズ)』の一人。
欠陥電気(レディオノイズ)』の異能力者(レベル2)。その能力は概ねオリジナルである『超電磁砲(レールガン)』の劣化版。
『原作』では、八月二一日に一方通行(アクセラレータ)に殺害された。

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