食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第四一話 八人目の超能力者 Number_“EIGHT”.

 

 

 八月一六日。

 とある『実験』が終わった翌日。

 蜂蜜色の髪の少女が眠る病室で、タイトなジャケットにロングスカートを穿いた若い女は溜息を吐いた。

 

「やり過ぎってもんだろ、女王……」

 

 『側近』は『女王』の目覚めを待つ。

 とある『実験』の結末を伝えるために。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは上空を横切る飛行船の大画面(エキシビション)にも示された事柄。

 この学園都市においては、最も注目されるとある出来事。

 

 

「────()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「何のつもりだ、アレイスター」

 

 窓のないビル。

 赤い液体に満たされた円筒中に逆さで浮かぶ、緑色の手術衣を着た『人間』。

 学園都市統括理事長、アレイスター。彼に向かって、とある男は吐き捨てるように尋ねた。

 

 その男は、短い金髪をツンツンに尖らせてサングラスで目線を隠した少年。

 土御門元春(つちみかどもとはる)。イギリス清教と学園都市の情報を互いに流出(リーク)させ、『魔術』と『科学』のバランスを保つ多角スパイである。

 

「何のつもりとは、それこそ何の話かな?」

「惚けるな。分かっているだろう。……()()()()()()()()()()

 

 学園都市第八位の超能力者(レベル5)

 今日告知されたばかりの、最も新しい伝説。

 その能力者の名は──

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 『無限動力(ホワイトホール)』。

 それが統括理事長が新たな超能力(レベル5)だと認定したモノだった。

 

「宇宙の彼方にまで届く規格外の射程と、第一位すらも超える殲滅能力。そして、『全体論の超能力者』という唯一無二の希少性。彼女ほど超能力者(レベル5)に相応しい学生はいないと思うが?」

「その力をわざわざ白日の下に晒した理由を訊いているんだ! 彼女の能力を隠匿する事ができなかったとは言わせないぞ」

「昨日の事件で、『暗部』は彼女を知った。ブラックホールからエネルギーを引き出す、特異的なその力を。彼女を巡って、戦争でも起きかねない状況だった。だからこそ、私が目を付けている事を知らしめて牽制する必要があった」

「……本気で言っているのか?」

 

 土御門は、相手の正気を疑うように言った。

 

「むしろお前の決断が戦争を引き起こしかねないんだぞ⁉︎ 学園都市の中だけで収まる程度の戦争じゃない。全世界を巻き込む『科学』と『魔術』の戦争をだ‼︎」

「…………」

()()()()()()()()()()()()()! あれは明らかに魔術(オカルト)の領分に踏み入っている! 『監査機関(エグリゴリ)』を編成中の今ッ、『科学』と『魔術』の距離が縮まっているんだ! そんな中で幽霊だなんてオカルトを超能力(レベル5)に認定してみろ、魔術サイドが黙っていると思うのか⁉︎」

 

 特に、ロシア成教は危うい。

 『オカルトの検閲と削除』を目標とするかの宗派は、幽霊など心霊現象の存在を許さない。

 恐らく、『監査機関(エグリゴリ)』に捩じ込まれる形でオカルト退治の専門家が投入される。そして、ほんの少しでも不審な点が見つかれば、即座に学園都市とロシア成教の全面戦争へと突入する。

 

 しかし、アレイスターは動じない。

 冷たい無表情で、土御門の激情を一蹴する。

 

「そのための第八位だ」

「何……?」

超能力(レベル5)の順位は能力研究の応用が生み出す利益、精密性、発展性などに基づいている。にも(かかわ)らず彼女の順位が解析不能の第七位よりも低いのは、彼女に関する一切の研究を禁止しているからだ」

「…………っ!」

「表向きはブラックホールを扱うという危険性のため、裏向きは魔術サイドとの『条約』に違反しないため。彼女に関わる応用研究を禁止し、不可侵の存在(アンタッチャブルケース)とする事で戦争を回避する」

 

 確かに、理には適っている。

 だが、その理屈をどうにも呑み込めない感情もあった。

 

(嘘をつくなよ、アレイスター。お前の目的は戦争の回避なんて大義あるモノじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 虚数学区・五行機関。

 一八〇万人の学生が生み出すAIM拡散力場そのもの。

 アレイスターがそれを制御するために暗躍していたのを土御門は知っている。そして、微弱な力の集合体であるAIM拡散力場にとって、莫大なエネルギーの塊である『無限動力(ホワイトホール)』で作り出された不知火(しらぬい)という幽霊が邪魔である事も。

 

 故に、第八位。

 一切の研究を許さず、成長を抑制する策。

 土御門はアレイスターの考えが手に取るように分かる。だが、土御門にはアレイスターの策が既に破綻しているように思えた。

 

「……何にせよ、アレイスター。お前の策は学園都市統括理事長というネームバリューが牽制に繋がるという考えが基になっている」

「それが?」

「少し前までなら、その力は確かにあった。だが、今はどうだ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「………………、」

 

 一人の少女の存在が、アレイスターの力を大幅に削り取った。

 研究禁止の第八位。それが今の学園都市で徹底されるとは到底思えない。誰もが、学園都市統括理事長が『絶対』でない事を知った。

 そして、何よりも────

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 最後に、土御門元春は吐き捨てるように告げた。

 

「お前に一つだけ忠告してやる。アレイスター」

「……ふむ。聞こうか」

「オレにはお前が考えている事など分からないし、説明を受けても理解できないだろう。だがな、あの少女の周りを利用するのなら覚悟しろ。彼女の牙は、お前の喉元にさえ届くぞ」

 

 アレイスターは。

 珍しく、無表情を崩した苦笑いで返す。

 

「忠告が遅かったな。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「っつー訳で春暖嬉美が超能力者(レベル5)に認定されたぜ、女王」

「どういう訳なんだ……」

 

 僕は目覚めにすぐに聞かされた予想外の話に頭を抱える。

 さすが、学園都市。たった一夜にして情報量が多すぎる。

 

 だが、僕は今の話を聞いて、ちょっとした違和感に眉をひそめる。

 

「……うーむ」

「どうした、女王」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 学園都市第八位の超能力者(レベル5)という称号を与えた影響、そして自身の学園都市統括理事長というネームバリューの低下など、その程度の事がアレイスターに予測できていないはずがない。

 

「そんなもんだろ。綿密な計画を練るタイプのヤツは、大抵失敗に不慣れでイレギュラーに弱いもんだぜ」

「アレイスターはそういうタイプじゃないよ。彼は失敗だらけの人生を、アドリブとリカバリーの上手さで乗り切ってきた男だからさ」

 

 そういう意味では、アレイスターの強さというのは上条当麻の強さと似ている。

 『不幸』だからこそ、それを乗り越えるために培ってきた強さ。彼らは失敗を失敗のままにしない。

 

 今回の話で言えば、嬉美を第八位に据える事で成長を抑制するというのが不自然に思える。

 僕の知るアレイスターならば、AIM拡散力場と相反するという幽霊の性質を活かして『プラン』を進める。相反するという事は干渉できるという事で、AIM拡散力場の制御の一助となるのだから。

 

(──あるいは、相当致命的な部分で『無限動力(ホワイトホール)』が『プラン』の邪魔になっているのかも)

 

 幽霊とは異なる部分。

 例えば、『全体論の超能力者』という希少性やブラックホールに関わる能力というスケールの大きさ。その辺りが『プラン』の天敵となる可能性を秘めていて、あえて第八位に据えて幽霊というセンセーショナルな側面に注目を集め、本当に邪魔な側面から目を背けさせているのかもしれない。

 

 では、果たしてそれは何なのか。

 ふと、僕の頭にとある考えが過ぎる。

 アレイスターの『プラン』の中核を成すモノ。

 純粋なる物理法則の世界に佇む天使。かの存在が司るモノは確か────

 

 

「ま、どうでもいいか」

 

 

 ──その、一切の考えを打ち止める。

 

 嬉美が『プラン』の天敵となる可能性を秘めていようと関係ない。

 彼女の未来を決めるのは彼女自身だ。僕達は意思決定の手伝いや助言をする事ができても、外野が進路に口を挟んではいけない。

 

「それより、あっちの方はどうなってる?」

「それよりって……まぁ、そうだな。それでこそ私の女王だぜ」

「?」

 

 首を傾げる僕を気にせず、『側近』はお手製の資料を取り出す。

 

「学園都市に侵入した魔術師(オカルト)を検知するネットワーク──『雲霞捕捉(クラウドキャッチャー)』は、私の人脈と烏丸府蘭(からすまふらん)の情報収集能力を使って構築した。それと──」

 

 『側近』は、どこか誇らしげに言った。

 

 

「────『赦免復学(スパイダーネット)』の方も、な」

 

 

 それは僕が『暗部』に設けた、子供を救うセーフティネット。

 

 この街では、『暗部』に堕ちた子供は多く存在する。例えば、今回の事件では木原幻生(きはらげんせい)の手駒となっていた警策看取(こうざくみとり)だってその一人だ。

 だが、そんな子供達を助けるようなシステムが学園都市には存在しない。『落第防止(スチューデントキーパー)』のような不登校の生徒を復帰に導く──つまり『道』を踏み外させないセーフティネット制度はあっても、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 考えてみれば当たり前の話。

 公的には存在しない『暗部』に属し、公的には何の罪も負っていない子供を救う公的機関などありはしない。

 

 いいや、そもそもの話。子供とは言え、相手は凶悪な犯罪者。『暗部』の被害者でありながら、彼ら彼女らは表社会からしたらもはや加害者に染まってしまっている。

 市井の人々はきっと『暗部』の子供にも罰を求めるだろう。多分、それは正しい。法律に照らしてみれば、子供であっても終身刑すら生温いという意見が出てくる。

 

 でも、それでも。

 子供が誰からも手を差し伸べられない事が、僕には許せなかった。

 

 彼ら彼女らが罪を犯したのは事実だ。

 でも、それは本人だけが悪いのだろうか?

 

 彼ら彼女らが罰を受けるのは当然だ。

 でも、更生の余地さえもないのだろうか?

 

 子供が罪を犯したのは大人の責任だ。

 大人に助けられるのは子供の権利だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 罪を自覚して、罰を受けて。

 でも、その後に罪を許されて、何の負い目もなく陽の下を歩けるようになっていいはずだ。

 ()()()()()()()()()()()()、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、『赦免復学(スパイダーネット)』。

 僕が勝手に与える恩赦。

 地獄まで届く蜘蛛の糸。

 『道』を踏み外した子供達が当たり前の日常に帰れるように手助けをするセーフティネットである。

 

「昨晩、『蜘蛛の女王』の人脈は思わぬ所へ繋がった。『ブロック』や『メンバー』、末端専門の仲介人としては異例の大物とのな。アンタのお陰だぜ、女王」

「……後は『DA』の残党も吸収しておくと良い。やり方や先鋭化された思想はともかく、彼らの根底にある理念そのものは僕らと一致している。僕の能力でそれを思い出させれば、きっと協力してくれるはずさ」

「了解。そいつらを実働部隊として、『暗部』に堕ちた子供を拘束。女王が戻れそうだと判断したヤツを、私が末端に働きかけて受け皿として用意した場所で更生させる。これで盤石ってもんだろ」

 

 今日から始動する『赦免復学(スパイダーネット)』。

 その記念すべきトップバッターの名が、資料の一番上に記されていた。

 

 

「──一方通行(アクセラレータ)、今度こそ君を助けるよ」

 

 

 

 

 病院の冷たい廊下に足音が響く。

 病室から去った『側近』と入れ替わるように、別の人物が扉を開けた。

 

「なんだ。意外と元気そうじゃねーか」

「……嬉美(きみ)の方もね」

 

 噂の渦中にある人物、春暖嬉美である。

 嬉美は病室を見渡すと、笑いを堪えて話す。

 

「見覚えあると思ったら、先月と同じ光景じゃねーか。この病室、オマエ専用か?」

「いやいや、まだ二度目だから。そんな馴染んでないから」

「分かんねーぞ。どーせオマエの事だ、来月も同じ病室を使うんじゃねーの?」

不吉(フラグ)すぎる!」

 

 ズズズっ、と折り畳み式のパイプ椅子をベッドの隣に置いて、嬉美は腰掛ける。

 楽しげな会話をしながら、その実、彼女の表情はちっとも楽しそうではない。何か別の本題がある事が丸わかりだった。

 だけど、こちらから訊く事はしない。彼女が話し出すのをじっと待つ。

 

 そして、少しして。

 おずおずと嬉美の口が開く。

 

「なぁ、聞いたか? オレが超能力者(レベル5)になったんだって」

「聞いたよ。……学園都市第八位なんだろう? 凄いじゃないか。『無限動力(ホワイトホール)』や不知火(しらぬい)には僕も命を救われた。だから、君が誇らしいよ」

「……んなことねーよ」

 

 嬉美は気恥ずかしそうに、それでいて何処か後ろめたそうに答えた。

 

「……仄火(ほのか)も、さ」

「うん」

「仄火も、超能力者(レベル5)になりたがってた。学園都市から要らないモノ扱いされる『置き去り(チャイルドエラー)』である自分が超能力者(レベル5)になって、『置き去り(チャイルドエラー)』の価値を示すんだって」

「…………、」

 

 嬉美の表情は見えない。

 彼女の顔は俯いていて、まるで涙を隠しているかのようにも思えた。

 

「オレで、いいのかな。何の目的もないオレが、何の意味もなく超能力者(レベル5)になって……それでいいのか?」

「……なら、見つければいい」

「え……?」

 

 ばっ、と顔が上がって嬉美と僕の目が合う。

 暗い気持ちを吹き飛ばすように、僕は満面の笑みを顔に浮かべた。

 

「正直さ、意味や価値なんてないと思う。でも、君がそれらが欲しいって言うのなら……自分で見つければいい」

「…………っ!」

「君が超能力者(レベル5)になった意味、君が超能力者(レベル5)になって行う目的、それをこれから探していけばいい。大丈夫、学生時代ってのは意外と長いもんだよ。いくら迷走したって、どれだけ悩んだって、僕が隣にいるよ」

 

 白絹仄火(しらきぬほのか)が死んで嬉美が生き残ったのだってそうだ。

 奇跡自体に特別な意味はない。でも、その奇跡に意味を見出すのは僕らの自由だ。

 

 今は分からなくても良い。

 いつか、奇跡を乗り超えた先で見つける。

 それが彼女の求める意味ってヤツだと思うから。

 

「…………一個」

「うん?」

「オレが超能力者(レベル5)になった意味、一個見つけたかも」

「お、なになに? 聞かせて欲しいな」

()()()

「────え?」

 

 思わず、目を見張る。

 意趣返しとばかりに嬉美は満面の笑みを返した。

 

「オマエ、今回の事件でオレを遠ざけただろ」

「え、いやっ、それは……」

「分かってるよ。オレは子供(ガキ)で、オマエからしたら一方的に守ってやる庇護者(ヒロイン)に過ぎねーってのは。でもさ、そーいうの気に食わねーんだよ」

「……嬉美」

「ま、オマエが変わらねーって事は知ってる。オレが何を言ったって、子供(ガキ)である限りオマエはオレを頼らねー」

 

 だから、と。

 少女は、大人びた表情(かお)で言った。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 子供の成長は早い。

 そう分かっているのに、いつだって僕は驚かされる。

 

(そんなの、もう十分助けられてるのに)

 

 この世界に来てから今までずっと。

 僕は嬉美に手を引かれて来たっていうのに。

 

「夏休み明けから通う学校も、オレの能力を成長させられる高校に行きたい」

「……例えば、常盤台中学みたいな?」

「それ中学校だろ。高校だから……例えば、こことかな」

 

 嬉美はとある高校案内(パンフレット)を僕に見せる。

 それは第八位の超能力者(レベル5)に送られた、一通の招待状。

 

 

「霧ヶ丘女学院。能力開発分野だけなら、常盤台にも肩を並べる名門校だってよ」

 

 

 少女は新たな世界に歩みを進める。

 この街の常識すらも塗り替える、大きな一歩を。

 

 






第二章完。
次回更新はまた期間が空きます。


《原作キャラ紹介コーナー》

土御門元春(つちみかどもとはる)
初出:とある魔術の禁書目録4巻
とある高校に通う高校一年生。上条当麻の学生寮の隣人でクラスメイト。高い背丈に短い金髪をツンツンに尖らせ、薄い青のサングラスをかけた少年。
肉体再生(オートリバース)』の無能力者(レベル0)。肉体的損傷を回復させられるが、治癒速度や効果は大した事がなく、せいぜい破れた血管を応急処置できる程度。
その正体は、イギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』所属の魔術師。科学サイドと魔術サイドの双方へ情報を流す多角スパイ。陰陽博士として優れた才を持つが、能力開発の影響で魔術を使用する度に副作用が発生する。

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