実質第三章のプロローグ。
色々なキャラが出せて楽しかったです。
行間七 前夜 Before_the_Angel-Fall.
八月二七日。
学園都市から三キロほど離れた位置にある場所。
日本国内では最大となる建設中の教会に、数十人の魔術師達が集まっていた。
『
科学サイドと魔術サイドの『条約』に従って、魔術師から学園都市を守るための組織。
この教会こそが彼らの拠点であり、今日は『
しかし、同じ魔術師でも統一感はない。それも当然。彼らはそれぞれ別の教会から派遣されている。
イギリス清教、ロシア成教、ローマ正教。魔術サイドの中心たる
ただし、それらの魔術師を合計しても十人にも届かない。三大宗派それぞれに用意された枠は、戦闘担当と分析担当の二人分しかないのだから。
日本の街から浮いたそれらの魔術師達と違って、この場にいる者達の大半は街に馴染んだ存在──日本人だった。
「……まさか、
そう口にしたのは、サイズの合わない大きなTシャツとジーンズを穿いた二〇代中盤の男だった。何より特徴的なのは、わざわざ黒く染め直してクワガタのような光沢すら放つ髪色。
彼こそ、多角宗教融合型十字教──天草式十字凄教の教皇代理を務める
日本の常識に疎い海外の魔術師をサポートする日本土着の魔術組織、偽装工作を始めとした小間使いに天草式十字凄教は任命された。
既に天草式の戦闘メンバー五二人が勢揃いしている。
三大宗派とは比べ物にもならない木っ端組織であるためか、彼らからは対等な同僚とさえ思われてはいない。
それ故に天草式の面々は見張りとばかりに教会の外へ追いやられていたが、そんな彼らの中に一人だけ西洋人の顔立ちが混じっていた。
「僕としても、こんな風に君たちと会うとは思ってもみなかったよ」
「俺としても驚愕なのよな。お前さんの話……
シンシア=エクスメント。
イギリス清教から派遣された分析担当。
一三歳にして王立天文学研究機構を一人で束ね、天文のみならず霊装の知識にも造詣が深い金髪碧眼の天才少女。
彼女の正体こそ、天草式十字凄教・外海分派。
かつて東洋にて弾圧された時に日本から脱出を試みた者達の末裔。ある意味、彼女もまた天草式の一人だった。
「僕達は渡った先で居場所を確保するために功績を残し続けた結果、魔術サイドのしがらみに囚われて帰国する事が叶わなくなった。科学サイドの本丸である日本に永住する事はできなくなった。……だから、正直僕の目的は現時点で達成されている。今は僕だけしかいないけれど、ここで『
「…………、」
「だが、気を付けると良い。僕が故郷に帰るためならば国家を転覆させる事さえ視野に入れたように、ここに集った魔術師達もまた、並々ならぬ目的を抱えて学園都市に近付ける『
シンシアは振り袖を連想させるような和風のゴスロリ衣装を揺らしながら、ガラス窓を通して教会の内側に目をやる。
彼女の視線の先には、黒いコートを纏った白人の男性がいた。
「例えば、僕と一緒にイギリス清教から派遣された彼とかね」
リチャード=ブレイヴ。
イギリス清教から派遣された戦闘担当。
ルーンを始めとした北欧神話を基盤とする魔術を扱い、海での防衛戦を得意とする対魔術師戦闘専門の魔術師。
彼にはある目的があった。
それは、自らの術式を取り戻す事。
『
北欧神話最強クラスの武具の名を冠する霊装にして、あらゆるモノを燃焼させる術式。
それはリチャード=ブレイヴにとって、人生全ての結晶と表現しても過言ではない。
だが、人生をかけた術式は禁じられた。
術式に用いていた技術、ビタミンB2でルーンを刻印する術式の手順が魔術サイドと科学サイドの不可侵協定──『条約』に違反する
実際に学園都市から何か通告があった訳ではない。何かある
ならば、取り戻さなければならない。
リチャード=ブレイヴの全てが『条約』によって奪われたのなら、『条約』そのものを変えてしまえばいい。
そのためのカギは目の前にある。『条約』を飛び越えた魔術と科学の衝突地点、『
この場所から働きかければ、『条約』だって変えられる可能性がある。最悪、学園都市の頂点に近づいて脅迫してしまえばいい。
自らの術式を再び使うためならば、リチャード=ブレイヴは人生の全てを費やせる。
そう決意した彼は今──
「という訳で、私は『法の書』を解読する前に呼び出されたのでございます。あと少しと思っていたのですけれど……」
「……貴様、その話は何度目だと思っているのかね」
一人の女性の長話に捕まって困惑していた!
この猛暑の中で律儀に真っ黒な修道服を着た少女も『
ある意味、この場で最も偉い人間だった。
オルソラ=アクィナス。
ローマ正教から派遣された分析担当。
世界三ヶ国の異教地で神の教えを広めた交渉術に加え、魔道書などの暗号解読を得意とする
『
この土地と建物の所有者とは、他の誰でもなくオルソラ=アクィナスなのだ。
リチャード=ブレイヴは拠点を要塞化する都合上、教会内をルーンで敷き詰める必要があった。しかし、この教会はローマ正教の建物であり、無断で魔術的な加工を行う訳にはいかない。
だからこそ、この教会の所有者であるオルソラ=アクィナスに話しかけた。それが失敗だった。
(この女、話が通じないな。さて、どうしたものかね)
いいや、話は通じているのだろう。
だが、話のリズムが独特すぎて噛み合わない。
簡単にルーン刻印の許可を貰うだけのはずが、あれやこれやという間に三〇分も無駄話に付き合わされている。
「そう言えば、私と同じくローマ正教から派遣される方は少々遅刻するそうでございます」
「その話も三度目だと気づいていないのかね?」
「どいつもこいつもダメダメちゃん。マトモに話が通じそうなのはローマ正教の
そう呟いたのは短い金髪に白い肌の少女だった。
緑を基調としたタートルネックとミニスカート、膝上まである分厚いブーツ。頭には木々の枝で作ったヘアバンド。
人間大まで大きくなった木の妖精、彼女の格好は何処かそんな印象を与える。
サローニャ=A=イリヴィカ。
ロシア成教から派遣された分析担当。
心理現象の解明を目的として事件現場を丸ごと再現する『現象管理縮小再現施設』の作成のため、現場の自然環境や生態系などを調べる環境計測の専門家。
そんな森ガールに横から声がかかる。
「それって私も含んでんの?」
「……アンタが話の通じないヤツ筆頭ちゃんだけど」
むっ、とサローニャは不機嫌そうに顔を歪める。
それも当然。サローニャの横にいる女性は常軌が逸していると表現できるほどに服装がおかしかった。
スクーグズヌフラ。
ロシア成教から派遣された戦闘担当。
特殊部隊『
魔術の関係なのか趣味なのかは不明だが、彼女はレースとレザーで構成されたセックスアピール最優先の拘束服でその肢体をギッチギチに締め付けている。
誰が見ても、マトモに話ができる類の人間だとは到底思えない。
「大体、ロシア成教から派遣される戦闘担当ちゃんはアンタじゃなかったはずだけど?」
「あん? そんなもん、大人の事情という名の横槍で変更になったわ。私だって科学サイドに近づきたかないけど、上からの指示ってんだから仕方がないね」
「……上は学園都市に戦争ちゃんでも仕掛けるつもり?」
「そんな話も出てたらしいけどね。私のは別口。ほら、ウチにはいるしね。『
「ニコライ=トルストイ司教ね……」
これまたロシア成教の中でも悪名高いヤツが登場した、とサローニャは溜息を吐いた。
ニコライ=トルストイ。異教徒廃絶のような分かりやすい攻撃性はないが、二組織間の争いがあれば積極的に漁夫の利を狙っていく事で知られている狡賢い人物。
サローニャから見た印象は、聖職者の格好をしているだけの資本主義者。神の信仰よりも目先の利益を優先する俗物である。
「まぁ、私は何だっていいんだけどねえ。勝利しそうな男の味方になる、それがスクーグズヌフラの流儀だから」
「低俗ちゃんね」
「おやまぁ、私はあなたも応援しているけど? あなたもどうせ、何か目的があってこの組織に訪れたんじゃない?」
「…………っ」
図星、というか当たり前だった。
魔術サイドの人間が好き好んで科学サイドに近づく訳がない。そこには必ず何らの動機が存在する。
サローニャの目的は
科学サイドによって切り拓かれそうになっている故郷の森。ロシア成教のツテを使って開発計画を何度も退けているが、根本的な解決には至らない。
だからこそ、サローニャは科学サイドの中心たる学園都市に潜り込んで森林開発の意思を根本から取り除く必要があった。
「まぁ、気が向けばあなたとも遊んでアゲル」
「……アンタの助けなんか必要ないわ」
三大宗派から少し離れた場所に二人の魔術師が立っていた。
片や、短いスカートに前の開いたシャツを着て、右手には白黒で塗り分けられた二の腕辺りまである異様に長い手袋を、左手には貴婦人が使うような淡いピンクの手袋をつけた女性。
片や、深い色のキャミソールと淡い色の縦にスリットの入ったスカートを纏い、ふわふわとした巻き髪状の長い金髪に碧眼、白い肌に高い身長でメリハリのある艶やかな肉体という日本人が思い浮かべるような西洋人の姿形をした女性。
両者共に、派手な格好をした女性だった。
彼女達も天草式と同じで、三大宗派に属する魔術師ではない。
「まったく。働きがいのある職場ね」
ヴィース=ワインレッド。
学園都市に雇われたフリーランスの傭兵。
非常に簡易で速度に長けた黄金系の魔術を扱い、特定目標に対する遅延戦闘を専門とする事から『
「元気いっぱいな子達でお姉さん困っちゃうわね」
オリアナ=トムソン。
学園都市に雇われたフリーランスの傭兵。
自作の簡易魔道書と格闘術を組み合わせた戦術を扱い、手段を選ばす追手を振り切る事から『
三大宗派、そして傭兵。
『
誰もが監視し合って一つの勢力が突出する事を許さないこの状況では、『
ただし、だ。
雇われと言っても彼女達もまた魔術師──自らの“
(さて、どう出し抜こうかしら)
オリアナ=トムソンは心の中でそう呟いた。
彼女はフリーランスの魔術師として『
この小細工によって三大宗派の数の均衡は傾いた。ここを上手く突けば、幾重にも重なった監視網を潜り抜けられるかもしれない。
ちらり、と隣の女性に目をやる。
恐らく、ヴィース=ワインレッドは金を積んでもこちらに引き込む事はできない。
彼女は仕事と魔法名が直結しているタイプだろう。自らの仕事に誇りを感じ、どんな想定外があろうとプロとしての責任を全うする。
時間稼ぎ専門の魔術師故だろうか。
三大宗派の武闘派が一堂に会する心臓に悪い状況であっても、彼女の表情は呑気なものだった。
「遅れて来るローマ正教の戦闘担当って役に立つのかしら? あいつらの基本戦術って集団戦闘よね。たった一人だけ寄越されても無意味だわ」
確かに、とオリアナ=トムソンは思った。
ローマ正教はイギリス清教やロシア成教と並び立つ大勢力であり、二〇億人という莫大な信徒を抱えている。
一方で、二〇億人という信徒を抱えているにも
ローマ正教に雇われた人間であってもそこは擁護できない。ローマ正教は物量を叩き付ける人海戦術以外は大した事がない。
「──別の考え方はできないかしら、お嬢ちゃん」
しかし、同時にこうも思うのだ。
たとえ基本が人海戦術であったとしても、
「きっと、来るわよ。集団戦闘が基本のローマ正教で、単独行動が許された
そして。
最後の一人が訪れる。
コンコン、と。
オルソラ教会の扉が叩かれた。
魔術師達の視線が一点に集まる。
扉が開く。
その瞬間、現れたのは
全長八〇センチある巨大な弓を背中に背負い、銀光を放つ金属に身を包んだ騎士。
西洋の全身鎧なんていう古風な格好をしておきながら、流線的なフォルムはどこか戦闘機のような現代的な機能美を宿していた。
「遅れて済まない。私の名は『
『パルツィバル』。
ローマ正教から派遣された戦闘担当。
イギリス清教から盗作したローマ正教一三騎士団に属し、
『
これにて魔術師は揃った。
天草式を含めて六〇人が学園都市を守る。
本当の脅威は外からやって来るのではなく、『
だが、忘れてはならない。
本当に恐ろしいのは想定外の状況。
そう、例えば。
──
《原作キャラ紹介コーナー》
▽
初出:とある魔術の禁書目録7巻
天草式十字凄教の教皇代理。細く長身の男性。サイズの合わない大きなTシャツとジーンズ、靴紐が異様に長いバスケットシューズ、黒く染め直して毛先を尖らせた髪型、ネックレスからぶら下げた複数の小型扇風機という奇抜な格好をしている。二〇代中盤。
魔術の隠密性や偽装を得意としており、何気ない仕草や台詞、どこにでもある物品の中に秘められた宗教様式を拾い上げて術式を組み上げ、コンマ数秒の間に魔術を発動する。
▽サローニャ=A=イリヴィカ
初出:新約とある魔術の禁書目録3巻
ロシア成教所属の魔術師。短い金髪に白い肌の少女。緑を基調としたタートルネックとミニスカート、膝上まである分厚いブーツを着用し、頭には木々の枝で作ったヘアバンドをつけている。一五歳。
森の住人を支配する術式『レーシー』を扱う。本来の『森』はロシアの一地域にあるが、植物を移植する事で『飛び地』を作る事も可能。
『原作』では第三次世界大戦後にロシア成教を離反し、『グレムリン』の一員となった。
▽スクーグズヌフラ
初出:とある魔術の禁書目録18巻
ロシア成教『
ありとあらゆる性魔術のエキスパート。
▽ニコライ=トルストイ
初出:とある魔術の禁書目録20巻
ロシア成教所属の司教。常に長い物に巻かれて漁夫の利を狙う狡賢い男性。
▽ヴィース=ワインレッド
初出:とある魔術の禁書目録SS SPECIALEDITION
フリーの魔術師。短いスカートに前の開いたシャツを着る女性。右手には二の腕辺りまである異様に長い手袋があり、手袋は白と黒で塗り分けられている。左手には貴婦人がつけるような淡いピンクのレースの手袋があり、その中指にはJ、人差し指にはBのアルファベットの指輪がはめられている。
時間稼ぎを専門とする事から『
▽パルツィバル
初出:とある魔術の禁書目録2巻
ローマ正教一三騎士団所属の騎士。全身鎧。
本名不明。施術鎧と天弓のレプリカを持つ。
『原作』ではアウレオルス=イザードによって殺害された。