「って事で、脱獄するから。
『ご紹介に与った亡霊が僕だね。彼女の身の安全は僕が約束しよう』
「………………」
「
『あー、これは……』
(────本当にいるんだ)
ユーレイとか、ブラックホールだとか、思春期特有の病気に罹った
「……ええっと、もう一度聞かせて貰っていいかしら?」
青星鈴蘭はこめかみを抑えて、再び尋ねた。
情報量に頭がパンクしそうになる。
「だから、オレは
「どうやって? 『
青星鈴蘭は確かに春暖嬉美をこの少年院内に捩じ込んだ。つまり、その時点でこの少年院の警備が完全完璧でない事は証明されている。
しかし、だからと言って、その反対が容易なわけがない。
「もう一度『
「なんだ、案外簡単なんだな」
「でも、それじゃ確実にバレる。私はデータ上の情報はいじれても、同室の女の子や他の看守が嬉美の事を覚えている。だからすぐに違和感に気づかれて、外に出る事もできずに捕まるわ」
青星鈴蘭は看守であり、少年院の警備内容もよく知っている。
ここは超常現象を引き起こす子供達を閉じ込められる世界で唯一の少年院だ。その警備も並大抵ではない。
「ブラックホールを生み出す能力とか、その子が実は学園都市第五位の
『AIMジャマーだね』
「そうよ。どれだけ強力な能力を持っていようと、いいえ、むしろ能力が強力であるほどAIMジャマーの影響を受ける」
能力者は無自覚に微弱な力のフィールドを発する。『
これらの力をまとめてAIM拡散力場と呼ぶ。AIM拡散力場は極めて微弱な力であり、精密機器でも使わなければ人間には観測ができない。加えて、能力者自身は無自覚であるためこの力を制御できない。
AIMジャマーとは、特殊な電磁波を出してこのAIM拡散力場を乱反射させる事で、自分で自分の能力に干渉させて阻害する装置である。
能力を封じたり無効化したりする訳ではなく、あくまで能力の暴走を促す装置であるが、事実上AIMジャマー下での能力行使は困難となる。
「AIMジャマーの設備には莫大な電力と演算機器が必要だから、停電でも起これば無効化できるかもしれない。だけど、少年院側だってそれを見越して予備電源を用意しているわ」
『そうだね、僕らじゃAIMジャマーを止められない』
「だったら──」
『──
あ、と青星鈴蘭の口から声が溢れる。
亡霊が発している声は空気を振るわせた肉声ではない。
それは『
「あっ、あなた、どうして能力を使えているの……?」
『僕は幽体離脱をしている訳だけど、その肉体はこの少年院の外にある。だからこそ、僕はAIMジャマーの影響を受けない』
「そう、なの……?」
青星鈴蘭は頷きながら、内心で首を傾げる。
(確かにAIMジャマー射程外で使用した能力は防げないけど、
『
AIMジャマーの射程外で石を浮かして、それを少年院の中へ投げ込むのは可能だ。それはあくまでAIMジャマーの干渉が届かない範囲で行われた能力の行使だからだ。
一方で、AIMジャマーの射程内に存在する石を浮かす事はできない。
(精神系の能力で言うなら、洗脳した人間を少年院内に突っ込ませる事はできても、少年院内にいる人間を遠隔で洗脳する事は不可能なはず。それとも、私の知らない抜け道があった?)
疑念を抱えつつも、青星鈴蘭はそれを飲み込む。
彼女は仕事柄AIMジャマーの仕様を知っているが、決してそれの専門家という訳じゃないし、理屈を知り尽くしている訳でもない。
何にしろ、亡霊を名乗る少女が少年院内で能力を行使できているのは事実である。少しの疑いを持ちながらも無理やり納得する。
『君にはデータ上の記録を改竄してもらい、僕が人間の記憶を改竄する。この二重の細工なら誰も春暖嬉美が脱獄した事に気付けない』
「……一人一人記憶を操作してたら、忘れたヤツと忘れてないヤツとで記憶の齟齬が生まれてバレたりしねーのか?」
『なら、記憶の操作が一斉に起こるように時限式の細工を仕込もうか。それなら、全ての人間が同時に君の事を忘却する』
「少年院の子供も大人も全員か……。結構な数だがいけんのか?」
『能力的には問題ない。だけど、僕は春暖嬉美から一定以上離れられないから、少なくとも君が全員とすれ違う必要があるね』
「それ何ヶ月かかるんだ……?」
「……ダメね。この少年院では職員の汚職にも気を配っているから、人事も割と小まめに入れ替わる。一ヶ月以上かけたら、能力のかかっていない看守が新しく増えるわ」
『そっか。だったら、次の人事交代までに終わらせようか。看守側のタイムスケジュールを教えてくれないかな? 短期間で全員とすれ違うには、君達の行動を知っている必要がある』
徐々に、計画が組み上がる。
初めは懐疑的だった青星鈴蘭すら納得する完成度になっていく。
『よし、計画はこんなものかな。後は時限式の能力が発動する日をいつにするか……』
「
「小さい入れ替わりだったら……七月二〇日。ちょうど、今から二週間後くらいね」
『なら、その前日の七月一九日に脱獄しよう』
ふふ、と僕は思わず笑ってしまった。
偶然にしたってこんな奇跡があるのか、と思う。
『
「?」
『原作』一巻、冒頭。
時系列的には一年後の話であるが、それはまさしく
それから、月日はすぐに経過した。
看守側のタイムスケジュールに従って廊下を歩き、すれ違いざまに能力を行使する毎日。
使用した能力は『
看守達は随分と無防備だった。能力はAIMジャマーが防いでくれると思い込んで、何の警戒もしていなかったのだろう。僕からすれば能力のかけ放題にも程があった。
……まあ、そもそも彼らには僕の姿が見えていないという事情もあるのだろうけど。
そんなこんなで、七月一九日の夜。
とうとう脱獄の日となった。
『これからの予定は、まず僕の
「……チッ、気に食わねーが仕方ねぇ」
『
「学園都市統括理事会って……あの⁉︎」
まぁ、それも仕方がない。学園都市を国に例えるならば、統括理事会とは学園都市を統治する王様のような立場に近い。……いや、統括理事長が王様で、統括理事会はその側近かな?
詳しく説明すると、学園都市統括理事会とは学園都市の最高意思決定機関である。
学園都市の
「そうだったわね……あなたは常盤台中学所属の
(厳密には繋がりがあるのは僕ではないのだけど……転生とかの話はしていないから誤解してもしょうがないか)
そう話しつつ、青星鈴蘭は手元の機械を操作して裏口の設定を弄る。
「これで外に出られるわ。……その囚人服は脱ぐ必要があるけどね」
「そんな目立つか?」
「それもあるけど……その服自体が発信機の役目を果たしているの。いくら洗脳で誤魔化しても、機械は誤魔化せないでしょ?」
青星鈴蘭は春暖嬉美に紙袋を手渡す。
中を覗くと、学生服が入っていた。
「私が高校生の時に着てた服だから、もしかしたらサイズはちょっと合わないかもだけど……」
『そっか。この街に紛れるには制服が一番なんだね』
「明日から夏休みだから、別の服を用意する必要もあるけどな」
「忘れてた私も悪いけど、そんなに時間も無いんだから早く着替えなさい」
「………………え」
その時、初めてある事に気がついて春暖嬉美は固まった。
「きがえる? 今、ここで?」
「え、ええ……更衣室に行ってもいいけど」
「………………コイツの目の前で?」
春暖嬉美は僕を指差した。
青星鈴蘭の視線(見えてない)も僕に向く。
「嬉美ってそんな恥ずかしがり屋だった? 女の子同士だから気にする事もないんじゃない?」
「女の子同士⁉︎ いやっ、こいつは……いや、そうなんだけどさ」
「?」
あー、そう言えば。
転生とかの話をしていないから、僕が元々男だって話も知らないのか。
(それにしても、今更恥ずかしがるなんてなぁ……。これまでの二週間、散々着替えの時もトイレの時も一緒にいたのに。……いや、流石に別室にはいたけれど)
感情が戻ってきたのか? と少し嬉しくなる。
いつだって子供の成長は早いものだ。
顔を赤らめて躊躇している春暖嬉美の肩に手を置いて(触れられない)、安心させるように声をかける。
『大丈夫だ。僕は子供に欲情する変態じゃないからね』
「………………あ? ケンカ売ってんのか⁉︎ オマエみたいなぺったんこと違ってオレは大人だ!」
『えー、そこに怒るの? というかこの
ぎゃーぎゃー、と騒いで青星鈴蘭に微笑ましげな目で見られる。
違うんだ。妹分に同年代の友達ができて嬉しいのかもしれないけど、僕は君よりも年上なんだ……。本当はもっと大人なんだ……。
結局、僕が地面に埋まっておく事で問題は解決した。
……それはそれでスカート見えそうじゃない? と思ったが、ややこしくなりそうだったので何も言わなかった。
「よし、着替えた。スカート短くねーか?」
「ちょっ、それよりっ、胸元開けすぎ! ボタンをもっと閉じなさい!」
「暑いって、
限界ギリギリまで首元を締められ、春暖嬉美は苦しそうにしている。それでも、その顔は何処か嬉しそうに思えた。本人は自覚していないのだろうけど。
……僕も、嬉しかった。今は偽装の為だけれど、『学校に通いたい』という彼女の願いを叶えるための第一歩なのだと実感した。
「じゃあ、行ってくる」
「……ええ。
「いや、いーよ。オレの問題に巻き込む訳にはいかねー。全部終わらせてから、あいつらに会いに行く」
「そう……ユーレイさん」
『何かな?』
「
『……ああ、任された』
ここまでやって、ようやくスタートラインに立つ。
『行こう。君の夢を叶えに』
「行くか。オマエを助けに」
僕と春暖嬉美は、静かに少年院を脱獄した。
そして。
二人の去った少年院にて。
青星鈴蘭は首を傾げて呟いた。
「
《原作キャラ紹介コーナー》
▽
初出:とある科学の心理掌握20話
肩までかかる黒髪の女性。フルネームは不明。容姿は若々しいが、実は孫がいるほどの高齢。
常盤台中学の理事長であり、同時に学園都市統括理事の一人。常盤台の地位を高める事がすべてに優先する考えで、そのためなら何でもする。