食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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お久しぶりです。
第三章前半パート開幕です。
一週間ほど毎日更新する予定です。




第四二話 学園生活の見学 Open_School.

 

 

 八月二七日。

 

 学園都市第七学区、霧ヶ丘女学院。

 その校門前に空色の髪の少女はいた。

 

 

「来ちまったなー、学校見学」

 

 

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)

 学園都市第八位、『無限動力(ホワイトホール)』。

 即ち、最も新しい超能力者(レベル5)

 

 彼女は転入先の候補に霧ヶ丘女学院を選んだ。

 

 霧ヶ丘は能力開発分野だけなら常盤台にも並ぶ名門学校。

 常盤台が汎用性に優れたレギュラー的な能力開発に特化しているのに対し、霧ヶ丘は奇妙で異常で再現できないイレギュラー的な能力開発の専門家(エキスパート)

 宇宙のどこかにブラックホールを生み出すという前代未聞の能力者にはピッタリの学校だった。

 

 嬉美は校門前で立ち尽くす。

 置き去り(チャイルドエラー)出身で貧乏性の彼女にとってみれば、お金のかかった建物はその大きさだけで威圧される。

 

 門番はジロリと場違いな少女に睨みを利かす。

 だが、その更に奥から声があった。

 

「もしかして、あなたが春暖さん?」

 

 校門の内側、霧ヶ丘の教師らしき女性。

 真新しい白衣と古臭い眼鏡以外には特筆すべき所のない、何処にでもいそうな研究者(せんせい)だった。

 

「……ああ。そーっスけど」

「敬語が苦手ならタメ口で構わないわよ。立場としては凡百の研究者である私より、学園都市に八人しかいない超能力者(レベル5)のあなたの方が偉いのだし」

 

 嬉美は女性教師の問いかけに乱雑な敬語で返す。別に教師を舐めている訳ではない。家族の真似をしたこの口調が、彼女の精一杯の敬語というだけだ。

 教師は細かい事を気にしない性質(タチ)なのか、あるいは彼女の出自を知って意識的に気にしないようにしているのか、嬉美の言葉遣いに対して眉一つ動かさず笑いかけた。

 

「初めまして。私の名前は磯塩(いそしお)。今回の案内人であり、あなたがウチに入学するのなら担当の開発官(デベロッパー)という事になるわね」

 

 

 

 

「嬉美はもう学校に着いたかな……」

 

 そう心配そうに呟いた僕もまた、別の名門学校の近くにいた。

 

 地中海に面した石畳と白い建物の多い景色。

 古い西洋風の街並みでありながら、一切の宗教的施設が排された、現代的な建物(ビル)をあえて昔の装飾にアレンジしたような奇妙な街。

 第七学区南西部に存在する男子禁制の女の園。即ち──『学舎の園』。五種類のお嬢様学校が複合された特別地域である。

 

 そして、非常に広大な『学舎の園』の中でも、最も有名な学校とは何か。

 そんなもの決まっている。七人──今は八人か──しかいない超能力者(レベル5)を二人も擁する、学園都市の中でも五指に入る名門学校。

 

(……()()()。まさかこの目で見る事になるとはね)

 

 常盤台中学。

 その校舎付近にある細い路地に僕はいた。

 

 細い路地と言っても、一般的に想像するような薄汚い路地裏ではない。

 『学舎の園』では、蜘蛛の巣の迷路のような細い道が全て商店街。僕がいる場所もまた多くの店舗が立ち並んでいた。

 

「…………」

 

 立ち並ぶ店舗の一つ。

 イタリア料理店のテラス席。

 遠目に見える常盤台の校舎を、僕は忌々しげに見つめた。

 

 別に、何か恨みがある訳じゃない。

 だけど、常盤台の創設理念──『義務教育期間中に世界で活躍する人材を作り上げる』という運営方針がどうしても僕と合わない。

 子供が子供であれる期間を奪って、世界に通じる能力を求めるというのが気に食わない。……無論、常盤台にいる子達は自ら望んで入学しているのだから余計なお世話に過ぎないのだろうけれど。

 

 そう考えを巡らせていた時だった。

 カツン、という足音が石畳の道に響く。

 

「待たせたかしらぁ?」

「そうでもないよ。ここのチーズケーキを堪能してたからさ」

 

 蜂蜜色の長髪、中学生離れした美貌。

 学園都市第五位の超能力者(レベル5)

 そして、僕と瓜二つの顔立ちの少女。

 

 食蜂操祈(しょくほうみさき)

 僕を『学舎の園』に招待した張本人が現れた。

 

 

 

 

「ここが私に、そして春暖さんに与えられる研究室(とくべつクラス)よ。突貫で空けた区画だから狭くて申し訳ないけれど」

「狭いって……これでか?」

 

 それは一部屋というより、()()

 研究室は講堂のような吹き抜けの建物を丸々一つ占有していた。

 

超能力者(レベル5)の研究室にしては狭い……って感じかしら。これくらいの広さは、常盤台なら部活動の申請だけで借りられる程度だし。ウチでも大能力者(レベル4)あたりになると同じくらい大きな研究室を持っている子はそれなりにいるわね」

「どーなってんだ、エリート学校……」

「エリート学校の中でも一番のエリートがあなたなのだから、すぐに慣れて欲しいけれど」

 

 苦笑する磯塩の言葉に顔を軽く歪める。

 嬉美はまだ超能力者(レベル5)という立場に慣れない。

 

「この部屋での能力使用は許可されているけれど、本気で使ったり噂の人工幽霊を連れてくるのは控えてほしいわ。一応データは電子以外でも残してあるけれど、各種機材は電子機器だものね」

「それで、オレは何をさせられるんだ? 能力開発といえば脳味噌に穴を開けるイメージがあるけど……」

「……少なくとも霧ヶ丘ではそんな事はしないわね。ウチが扱うのは再現性のないイレギュラーな能力。下手に脳を弄って能力が消えたら問題だもの」

 

 そんな能力開発など存在しない、とは言わない辺りが学園都市の怖い所だった。

 

「能力開発とは言っても大した事はしないわ。実際に春暖さんに『無限動力(ホワイトホール)』を使ってもらって、その瞬間を計測・分析するくらいね。と言うよりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。春暖さんも何となくは聞いているのでしょう?」

「……まーな」

「ブラックホールそのものを扱うという危険性から、統括理事長直々に『無限動力(ホワイトホール)』に関する研究は禁止されているの。私たちができるのは春暖さんの本当の能力の副産物、エネルギー放出に関する能力開発だけ」

 

 故に、第八位。

 研究不能の第七位(ナンバーセブン)よりも低い最下位(ワーストランク)

 霧ヶ丘女学院は何とか抜け道を見つけて春暖嬉美を呼び寄せたが、それでも本当に研究したい『宇宙のどこかにブラックホールを生み出す能力』は研究できない。

 

「いーのかよ。それじゃあオレに金を使う旨みがねーだろ」

「そうでもないわ。霧ヶ丘全体がどう考えているかは兎も角、私にとって春暖さんはただ存在するだけで貴重なデータなの。……そう言えば、私の専門ってまだ説明してなかったわね」

 

 磯塩は部屋の隅に置かれたテーブルの上から資料の束を抜き出す。

 数十枚の紙の束。その表紙にはデフォルメされた猫のイラストと、『なぜ猫に超能力は使えないのか』というタイトルらしき文字が書かれてあった。

 

「春暖さんは疑問に思った事はないかしら。これだけ能力開発が発達した学園都市において、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……っ‼︎」

「知能を持った生き物は人間以外にもいるわ。ゾウやクジラなんかは脳の大きさからして人間を超えていたりする。そもそも社会性を持って現象を観測する程度、アリにだってできるもの。……なのに、能力者は人間しかいない。もしも人間が特別と言うのなら、他の生き物と人間を区別するのは一体何なのかしら」

 

 その時、嬉美の頭に浮かんだのは同居人──継雲雷糸の顔だった。

 彼女は学園都市第五位の超能力者(レベル5)・食蜂操祈のクローンだった。つまり、遺伝子的に見れば、彼女と学園都市第五位は同一人物なのだ。

 なのに、彼女の強度(レベル)強能力者(レベル3)程度。

 

 能力開発の質が悪かった。

 別人が憑依した影響だった。

 もしかしたら、それもあるかもしれない。

 

 だが、同じ遺伝子の人間に全く同じ能力開発を受けさせたとして、本当に同じだけの超能力者(レベル5)が量産できたとは思えない。

 自分が思いつくような事は学園都市の大人は既に思いついているだろうし、それが可能ならあらゆる倫理を無視してもこの街の暗闇は実行しているだろう。

 だから、きっと不可能なのだ。遺伝子、能力開発、それらとは関係のない()()が能力の強さを決定している。

 

 ()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「遺伝子でも、脳構造でも、社会性でもない。能力開発に関わる測定できない項目(アンノウンファクター)。私はそれが知りたいの。能力の有無を決定づけるもの。能力の源泉である『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が宿るもの。人間を人間たらしめるもの。分かりやすい言葉で表現するのなら、そうね──」

 

 磯塩の瞳に、ガラス越しでも伝わるほどの好奇心が宿る。

 

「──『()』、それが私の研究テーマよ」

 

 

 

 

「随分と美味しそうに食べるね」

「実際にそれだけ美味しいもの。前からウチの派閥の子が話題にしていて、一度来てみたかったのよねぇ」

 

 『PASTICCERIA MANICAGNI』。

 それが食蜂操祈が待ち合わせ場所に指定したお店だった。

 

 どうも、日本じゃ『学舎の園』にしか存在しないイタリア風の料理屋らしい。

 厳選された食材を使っていて、天然素材の食べ物しか口にしない食蜂操祈も安心なのだとか。

 ちなみに常に行列が絶えない人気店のはずなのだが、今日は何故か貸切状態になっていた。多分、誰かさんが超能力を振り回した結果なのだろうけれど。

 

 ドリンクセットでついてきた紅茶(インスタントではなく店主が手ずから淹れたもの)を飲みながら、少女の食事風景を眺める。

 芸術品のようなチーズケーキを美味しそうに頬張る姿を見て、子供らしい所もいっぱいあるじゃないかと微笑ましく思った。

 

「こうしてゆっくりと話すのは初めてかな。まあ僕としては、君と会うつもりは一切なかったのだけど」

「あらあ。それはどうして?」

(クローン)の事を知ったら君は罪悪感を覚えるだろう? 何も君は悪くないっていうのにさ」

「……そう、ね」

 

 食蜂操祈は目を伏せた。

 彼女はクローン(ドリー)を生み出した御坂美琴(オリジナル)の事を散々嫌ったのだから、継雲雷糸(クローン)を見てその嫌悪が自分に帰るのなんて当然なのだ。

 

「確かに、私はアナタを見ると罪悪感で胸がいっぱいになる事もあるわぁ。……でも、出会えて良かったと思っているわ」

「どうして?」

「そんなの、こんなにカワイイ妹ができたからに決まってるんだゾ☆」

 

 少女は満面の笑みでそう言った。

 能力を使わなくても分かる。

 彼女の言葉に一切の嘘はなかった。

 

「そ、そんなに可愛いかい……? いや、君の遺伝子を使ってるのだから顔は良くて当然なんだけれど。何というか……中身から加齢臭とか出てない?」

「生まれたてのお肌ピチピチ力で何を言っているのかしらぁ。それに、私が言っているのは外見だけの話じゃないわよ。中身だって小動物みたいな可憐力でいっぱいよぉ」

「そ、そうかなぁ……?」

 

 小動物……? 身長の話ではなく?

 ちょっとお爺さんには女子中学生の感性は分からない。

 

「本当にカワイイ☆ その制服も似合っているわ」

「……この服じゃないと『学舎の園』から浮いちゃうからね」

 

 そんな言葉が言い訳のように出た。

 僕が持っている制服は常盤台の服だけ。

 だから、何も考えずに制服を着ていた。

 

 そう。何の躊躇いもなく。

 本当に今更であるが、何の抵抗もなくスカートの着用を選んだ事に、男としての意識が危機感を覚える。

 まるで弁明するように言い訳が溢れ出た。

 

「僕としては、スカートは苦手なんだけどね」

「私は双子コーデみたいで好きよ。……だって、まるでホンモノの姉妹みたいじゃない?」

「……そう、だね」

 

 そんな事を言われたら意地を張るのが馬鹿らしくなってくる。

 でも、恥ずかしいのは恥ずかしいので、何かを誤魔化すように頭をくしゃくしゃに掻いた。

 

「本題。本題に入ろうか」

「あら、照れ隠し」

「い、いいから。何か話があって僕を呼んだんだろう?」

 

 そう、僕は食蜂操祈から呼び出しを受けた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうねぇ。じゃあ単刀直入に言うけど──」

 

 直後。

 食蜂操祈はこう言った。

 

 

「アナタ、統括理事に命を狙われているわよ」

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

磯塩(いそしお)
初出:とある魔術の禁書目録SS(名前のみ)
霧ヶ丘女学院所属。猫に能力は使えないという内容の論文を発表した。
生徒か教師かは不明……のはずだが、禁書WIKIの方に教師だと記載されているのでそちらに合わせている。教師と明言されているページがあれば教えてください。

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