食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第四四話 交友関係の拡張 Schoolmates.

 

 

「貴女が『無限動力(ホワイトホール)』?」

「…………そーだけど、なんか用かよ」

 

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)が霧ヶ丘女学院を見学していると、突然声をかけられた。

 その声色に何だか敵対的なものを感じ、彼女はぶっきらぼうに返答する。

 

 声をかけたのは、赤っぽい髪を頭の後ろで二つに束ねた少女。その制服から霧ヶ丘に所属している事が伺える。

 ただし、特筆すべきは彼女が着ているのが青い長袖のブレザー──つまりは霧ヶ丘の冬服であり、尚且つ袖に腕を通す事なくブレザーを肩にだけかけている事だろうか。

 ブレザーの下にブラウスはない。上半身は裸で、胸の所には薄いピンク色の、インナーのような布を包帯っぽく巻いてあるだけ。

 腰にはベルトがあるが、スカートを留めるための物ではなく単なる飾り。金属板を繋ぎ合わせたタイプのベルトにはホルダーらしき輪があり、そこに黒い金属筒──警棒にも使える軍用の懐中電灯が挿さっていた。

 

「最も新しい超能力者(レベル5)と聞いていたけれど、貧乏人のような安物の服を着ているのね。ああ、元無能力者(レベル0)の貴女にはお似合いかしら」

「漫画に登場する鼻につくエリート野郎ってホントにいたんだな。聞かせてくれよ、元無能力者(レベル0)のオレなんかに先を越されたオマエの名前をよ」

「…………っ」

 

 反撃があると思ってなかったのか、嬉美の鋭い言葉に目を見開く少女。

 動揺したという事は多分予想通り。強能力者(レベル3)だか大能力者(レベル4)だか知らないが、恐らくは自分より下の人間が超能力者(レベル5)になった事が気に食わない輩だろう。

 だが、残念。路地裏でケンカばかりして育った嬉美にとって、この程度の罵倒などまだお上品なレベルだ。ガキの癖に、女の癖に、置き去り(チャイルドエラー)の癖に、欠陥品(レベル0)の癖に、なんて。そんなの何度言われたか分からない。

 

 出鼻をくじかれて勢いを失ったのか、少女はボソボソと自分の名前を告げた。

 

「……結標淡希(むすじめあわき)。二年よ。敬語使いなさいよね、後輩」

「オレは春暖嬉美……知ってるだろうが。ま、オマエに敬える点を見つけられたら敬語を使ってやってもいーけど、センパイ?」

「む、むかつくヤツね貴女‼︎」

 

 

 

 

「第八位──無能力者(レベル0)から一気に超能力者(レベル5)になった彼女を良く思う子はいないわ」

 

 食蜂操祈(しょくほうみさき)はそう語る。

 常盤台の最大派閥を率いる者として、その手の妬みや嫉みはよく知っているのだろう。

 

「実際に彼女を目にすれば、ちょっとした悪口力を言うくらいはするでしょうね。お嬢様学校のウチなら陰でヒソヒソ言われるもするわぁ」

「…………」

「でも、逆に言ってしまえば、()()()()()()()()

 

 その程度。

 つまり、直接的に危害を与えようとは思わない程度。

 

 嫉妬はされるだろう。

 だが、それは憎悪には繋がらない。

 第八位に対して文句は言っても、暴力に手を染めるほどではない。

 

「部活のレギュラーみたいに定員力があったら違ったかもしれないわぁ。でも、能力の強度(レベル)はそうじゃない。超能力者(レベル5)に成れるかどうかは他人との競争力じゃなくて自分の実力次第。新しい超能力者(レベル5)を蹴落としたって何の意味もないもの」

「全ての人がそんな理性的な訳ではないと思うけれど……」

「そうかもねぇ。ただ、私が見た限りではむしろ第八位は学園都市に良い影響を与えているわぁ。だって、彼女が証明したのは誰にでも超能力者(レベル5)になる可能性(チャンス)はあるという事だもの」

 

 無能力者(レベル0)が成れたのなら私にだって、という事だろうか。

 高位能力者は下から抜かされた事に焦りを覚えてより一層能力開発に力を入れ、強度(レベル)の低い者だって希望を持って努力を諦めない。

 なるほど。確かに嬉美は起爆剤として適した存在だった。

 

 ……しかし、何かが引っ掛かる。

 食蜂操祈の言葉を疑う訳じゃない。

 それでも、頭の片隅で嫌な予感がうずいている。

 

 何かを見落としている。

 それも放っておけば致命的な状況を引き起こす何かを。

 

(これは……『側近』を経由して別角度からも情報を集めるべきかな)

 

 

 

 

 結局、結標淡希はある程度の口論の後に帰った。

 春暖嬉美を傷つける事は目的ではなく、ただ自分の鬱憤を晴らしたかっただけなのだろう。

 最後はスッキリした顔をしていた。

 

「何だったんだ、あの女……」

 

 嬉美を恨んでいるという様子ではなかった。

 競争心の発露、あるいは単なるストレス発散。

 巻き込まれたこちらは(たま)ったもんじゃないが、実害がないだけ良しとしよう。

 

 ほっと息を吐く。

 その時にようやく、自分の体が強張っていた事に気づいた。

 この程度の敵意など可愛いものであるが、雷糸(らいと)に守られていた最近では敵意に触れる事自体が少なかった。

 敵意が怖い。ある意味では、当たり前の感情を取り戻せたと言えるのだろうか。

 

(……恐怖を感じねーヤツなんざただの狂人だ。恐怖を感じて、体が震えて……それでもなお、立ち上がる。それがオレのなりたいヒーローってヤツなんだろーな)

 

 ふと、そんな事を思った。

 まさにそんな瞬間だった。

 

 

「災難だったわね」

「……ッ⁉︎」

 

 

 ()()()()()()()()

 

 空間移動(テレポート)ではない。

 居たのに気付けなかった。

 話しかけられるまで気配が感じられなかった。

 それほどまでに少女の影は薄かった。

 

「彼女。能力だけ見れば超能力者(レベル5)認定されてもおかしくない位だから。君に対抗心を燃やしている」

「…………」

「それと君を担当する開発官(デベロッパー)磯塩(いそしお)先生なのも理由かも。彼女。先生には懐いていたから」

「そういうオマエは誰だ。アイツみてーにオレに敵意があるって訳じゃなさそーだが」

 

 しかし、その影の薄さに反して、少女は目立つ格好をしていた。

 結標淡希のような大胆な着崩しのレベルではない。彼女はそもそも制服を着用していなかったのだ。

 

 巫女服。

 制服どころか私服でも見る事のない特殊衣装。

 だが、和風美人の少女が纏うとそのトンチキな服装も様になっていた。

 

 白い肌に、それを際立たせるサラサラの黒い長髪。

 眠たそうな黒い瞳に宿る感情は乏しいが、逆に言えば攻撃性は一切感じられない。どれだけ近寄られても安心できるような、奇妙な包容力すら感じられる。

 

 だが、その特徴的な服装や容貌の何よりも、嬉美の視線は彼女の胸元に釘付けにされた。

 それはありふれた、しかし学園都市では見ることの少ないアクセサリー。そして何より、嬉美にとっては見慣れた物。

 

 ()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「私は姫神秋沙(ひめがみあいさ)。一年。君と同級生」

 

 

 少女は告げる。

 表情の一切を動かさず、自らの名を。

 

「今日学校に来たのは偶然。でも君を見かけたから。お礼を言おうと思って」

「礼? ……オマエとは初対面じゃねーのか」

「初対面よ。でも君に間接的に助けられたから」

「……?」

「ちょっと前。私は突然に能力を失った。原因は……不明。訳もわからず無能力者(レベル0)になった」

 

 姫神はどうしてか、嬉しそうにそう言った。

 学園都市の子供からすれば絶望に値する不幸のはずが、まるで少女にとってのそれは幸運だったとでも言うように。

 

「霧ヶ丘は学校である前に能力の研究機関。能力を失った私に価値はない。だから私はこの学校から追い出される……()()()()()

「でも、オマエはまだここにいる。……それがオレのお陰だって?」

「そう。私が突然に能力を失って無能力者(レベル0)になったのとは逆。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 突然に無能力者(レベル0)になった姫神秋沙と、突然に超能力者(レベル5)になった春暖嬉美。

 急激な強度(レベル)の変動という意味では、上昇も下落も同質なのだと研究者は考えたのだろう。

 

 対照実験。

 姫神秋沙と春暖嬉美を比較する事で、強度(レベル)を上下する見えざる要因を特定する事ができる──かもしれない。

 そんな理由で彼女はまだ霧ヶ丘に在籍し続けている。それがなければ、寮を追い出されて夏休みの学園都市を徘徊する事になっていただろう。

 

「……オレはオレのために超能力者(レベル5)になった。オマエが感謝する必要はねーよ」

「それでも。私が助けられたのは事実。だから今度は私が君を助ける」

「どうやって……?」

()()()()()()()()()

「………………は?」

 

 一瞬、理解が追いつかなかった。

 友達。それは普通の学校で手に入るはずのもの。

 能力を向上させるためにエリート学校に編入した事で、心のどこかで諦めかけていたもの。

 

「君。こんなエリート学校は性に合わないと思っているでしょう?」

「……まーな」

 

 嬉美は姫神と並んで長い廊下を歩く。

 広い霧ヶ丘の端っこ、一般的な学校のイメージに当てはまる狭い教室に辿り着く。

 

「そう。それは間違いじゃない。霧ヶ丘の学生の大半は高位能力者(エリート)。でも私以外にたった一人だけ。無能力者(レベル0)の生徒が在籍している」

「は? だけど、この学校は無能力者(レベル0)になったオマエを追い出そうとしたんだろ? なんでそいつは……」

「彼女は無能力者(レベル0)身体検査(システムスキャン)でそう計測されている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それはまるで、かつての春暖嬉美。

 『宇宙のどこかにブラックホールを生み出す』という大規模な現象を観測できなかったが故に無能力者(レベル0)と見做された彼女と同じ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ガラガラ、と姫神は教室の扉を開ける。

 そこにいたのは、ありふれた少女。

 毛先を結んだ鴇色の長髪、鳥のエンブレムがついた水色の鳥打帽子(ハンチング)

 夏休みだからだろうか。その少女は姫神と同じように、制服ではなく私服を纏っていた。

 

「きっと。彼女はこの学校で一番君と話が合う。超能力者(レベル5)無能力者(レベル0)。対極の二人だけど……君達の境遇は似ているから」

 

 それは単に嬉美が元無能力者(レベル0)だからというだけではない。

 嬉美と同じように、その少女もまた孤児だった。誰の庇護も受けず、誰からも期待されず、なのにエリート学校に迷い込んだ少女。

 

 

鳴護(めいご)アリサです! よろしくね、嬉美ちゃん」

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

結標淡希(むすじめあわき)
初出:とある魔術の禁書目録6巻
霧ヶ丘女学院に所属する高校二年生。長い茶髪を頭の後ろで二つに束ね、上半身は桃色のサラシを巻いて上にブレザーを羽織り、下は冬服のミニスカートに金属ベルトという露出度の高い格好をしている少女。
座標移動(ムーブポイント)』の大能力者(レベル4)。三次元的な空間を無視して物体を一瞬で遠くに移動させる空間移動(テレポート)系能力の中でも最高の能力。距離や重量の限界値が大きいだけでなく、始点や終点が固定されていない。
『窓のないビル』の『案内人』を務める。本来なら超能力者(レベル5)に認定されてもおかしくないが、二年前に転移座標の計算ミスをして壁にめり込んだ事故から、自分を転移させる事にトラウマを抱いている。


鳴護(めいご)アリサ
初出:劇場版とある魔術の禁書目録エンデュミオンの奇蹟
高校一年生。毛先を結んだ鴇色の長髪に、鳥のエンブレムがついた水色の鳥打帽子を被った少女。
無能力者(レベル0)。ただし、歌を歌う時だけ働く計測できない力があり、霧ヶ丘で定期的に検査を受けている。
その正体は、オリオン号墜落の際にシャットアウラ=セクウェンツィアの祈りが奇蹟として具現化した存在。呪術的な力を帯びた歌とレディリー=タングルロードが施した術式が願いに指向性を与え、少女の因果律を分断する事で発生した。

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