食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第四五話 無能力者の子供 LEVEL_ZERO.

 

 

「もしもし?」

『あー、雷糸(らいと)。ワリーが、今日は晩飯を食ってから帰る』

「別にいいけれど。理由を訊いても?」

『霧ヶ丘でできた友達と遊びに行くことになった。日が変わる頃には流石に帰ってると思うが』

「……そう。確か学園都市の電車の終電って完全下校時間に合わせていたよね。多分歩いて帰る事になるのだろうけど、夜道には気をつけて」

『そっちもな。一人だからって無茶するんじゃねーぞ』

「ああ、それと……」

『?』

「楽しんできてね」

『……おう』

 

 

 電話を終えて戻って来た継雲雷糸(つくもらいと)の顔を見て、食蜂操祈(しょくほうみさき)は不思議そうに首を傾げた。

 

「何か良いことでもあったのかしらぁ。顔面力がゆるゆるだけど」

「あったよ。とっても嬉しい事が、ね」

 

 

 

 

 第七学区、狭いカラオケルームの一室。

 いつ店仕舞いしてもおかしくないような、客入りの少ない安っぽい店だった。

 落下する変化球(フォークボール)という縁起の悪い店名のせいじゃないか……などという科学サイドらしからぬ考えが春暖嬉美(しゅんだんきみ)の頭に浮かぶ。

 

「嬉美ちゃんも何か歌う?」

 

 そう言って、鳴護(めいご)アリサは曲を選ぶタッチパネルを手渡す。

 その隣では、全く感情の込もっていない歌を歌い上げる姫神秋沙(ひめがみあいさ)がいる。

 安っぽいカラオケの小さなソファに少女達が三人詰めて座っていた。

 

「歌える曲っつったら、『mariophanie』ぐらいしかねーけど」

「良いよね『mariophanie』! 曲調とか歌詞とかが何だか退廃的な感じがしてあたしも好きかな。嬉美ちゃんも好きなんだ」

「……そーだな。オレもよく聴いてたよ」

 

 そう。よく聴いてい()

 実の所、嬉美の音楽を楽しむ感性というのは死んでいる。

 自らの感情を自覚する事のできない嬉美では、音楽を聴いても高揚感などは得られない。

 恐らく、今の『mariophanie』の歌を聴いてもかつてのように楽しむ事はできないのだろう。

 

 ただし、楽しみが全くない訳でもない。

 味覚が時に思い出の影響を受けるように、嬉美もまた曲自体を楽しむ事はできずとも、かつて何度も聴いたという思い出を楽しむ事ができる。

 かつて聴いた『mariophanie』だけは、かつてのように楽しめるのだ。

 

「つーか、同年代で『mariophanie』を知ってるヤツとか初めてだよ。詳しいんだな。さっきの歌も上手かったし、なんかやってたりするのか?」

「アリサ。ストリートミュージシャンよ」

 

 間奏中の姫神が口を挟む。

 彼女はおもむろにケータイを取り出して、その画面を見せつける。

 

「『ARISA』。ネットや路上を中心に活動するアーティスト。近頃流行りのミュージシャンね」

「へー、すげーな」

「そ、そんな大したものじゃないよ。メジャーデビューしている訳でもないし……」

「んなことねーよ。メジャーだのなんだのは知らねーけどさ。ホントにすげーよ、オマエ。オレが無能力者(レベル0)だった時は、何をするでもなく喧嘩に明け暮れていたからさ」

 

 しかし、鳴護アリサはそれでも首を振る。

 

「ううん。やっぱり、嬉美ちゃんの方がすごいよ。だって、嬉美ちゃんは超能力者(レベル5)になったんでしょ? 無能力者(レベル0)だって言われても、諦めずに努力したんでしょ? ……あたしには、無理だったから」

「…………、オマエ」

 

 それは違う、そう言いたかった。

 だって春暖嬉美は運が良かっただけだから。

 偶然尋常ならざる才能を持っていて、偶然その才能を見つけられる研究所に入って、偶然その才能を開花させられる少女(きっかけ)に出会った。

 

 努力はした。それは間違いない。

 超能力者(レベル5)になるまでに苦労は山ほどあった。

 だが、学園都市に大勢いる無能力者(レベル0)だって努力はしているはずだ。彼らと自分とで何が違うのかと言えば────春暖嬉美には答えられない。

 

 嬉美は反論しようと口を開く。

 しかし、その前に、鳴護アリサは暗い表情を振り払うように笑った。

 

「大丈夫、心配しなくてもいいよ。昔は悩んだけど、今は無能力者(レベル0)に感謝してるの」

「そう、なのか……?」

「うん。何か能力(チカラ)があったらそれに頼っていただろうし、きっとあたしは歌っていなかったから」

「…………、」

無能力者(レベル0)で辛い事もたくさんあったけど、辛い事だけじゃなかったから。だから、あたしは大丈夫!」

 

 目の前の少女が眩しかった。

 同じ無能力者(レベル0)で同じ孤児、かつての自分と同じ境遇なのに何もかもが違う。

 

「それにね、今は夢があるから」

「夢?」

「いつかね、ストリートじゃなくて……おっきな場所で、たくさんの人にあたしの歌を届けられたらなーって! それがあたしの夢かな!」

 

 春暖嬉美が夢を持てたのは雷糸との出会いがあったからだ。彼女と出会って、こんな自分でも夢を持っていいんだと思えた。

 だが、目の前の少女は一人でそれを成し遂げた。境遇に甘えず、本当にやりたい事を自分で見つけたのだ。

 

 

「……やっぱり、さ。オマエはすげーよ、アリサ」

 

 

 心の底から、春暖嬉美はそう思った。

 能力の強度(レベル)なんて関係がない。

 鳴護アリサは尊敬に値する人物だ、と。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「おい! 見ろよ駒場(こまば)のリーダー! 言った通りだろ、()()()だ‼︎」

 

 それは側から見れば観光バスに群がる高校生。

 だが、違う。彼らは高校に通っていない。彼らは『スキルアウト』──無能力者(レベル0)の武装集団だった。

 

 基本的に、学園都市におけるステータスは能力の強度(レベル)で決まる。

 言い換えれば、無能力者(レベル0)だと認定される事は強制的に最下層のカーストに位置付けられる事に等しく、学生の中にはそういった扱いに耐えられない者も多い。そのような者は学校を辞め、大人の庇護から外れた路上生活者(スキルアウト)となる。

 

 とはいえ、大半のスキルアウトは単なる不登校の不良に過ぎない。

 武装集団というイメージを作っているような学校にも寮にも戻らない路上生活者(スキルアウト)というのは全体の一%ほどしか存在しない。

 彼らはそのたった一%に属する、非行を繰り返す無能力者(レベル0)の不良集団だった。

 

 そして、更に言うのなら、観光バスに乗り込む高校生という印象にはもう一つの間違いがある。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「よく気付いたな、半蔵(はんぞう)

「言ったろ。一見すると窓に黒い日差し除けを張った観光バスだが、タイヤが丈夫すぎる上に車体の揺れが小さすぎる。ありゃ中身は結構な重量がある上、雑に扱っちゃならねぇ高級品だぜ」

 

 故に、彼らはその観光バスを襲撃した。

 元より、ATMを盗もうとするような犯罪集団である。

 高級品の積荷を奪う事に罪悪感はなかった。

 

 しかし、スキルアウトにも予想外の事が二つあった。

 一つは、観光バスの運転手──作業服を着た男が強かった事。車から出たタイミングでスキルアウト数人がかりで袋叩きにしたから何とかなったが、一対一(タイマン)では容易く屠られていただろう。

 

 この時点で、既に嫌な予感がしていた。

 相手は偽装工作の専門家といった雰囲気で、体付きからして戦闘技術を磨き上げた軍人ではない。

 男の強さも何か武術を習ったという類いではなく、殺し合いの経験を基に培った我流の格闘術といったものだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

浜面(はまづら)、車体のロックは開錠できるか?」

「もうやってる。豪勢なモンだよなあ。巨大な観光バスが丸々高級品だなんて。いやあ、どんなお宝が眠ってるか待ちきれねえよ」

 

 そして、もう一つの予想外はその積荷。

 スキルアウトの少年達が予想していたのは金塊だった。

 重量があり、価値があるもの。それを観光バスに詰め込み、バレないように運んでいたのだろうと考えていた。

 

 しかし、彼らを待ち受けていたのは違った。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「開いた! さてさて何が入ってんのかなーっと!」

 

 そして、彼らは目にする。

 観光バスに隠された、そのお宝を。

 

「なん、だ……?」

 

 車内の冷たい空気が少年達の肌に刺さる。

 一瞬、彼らはそれが理解できなかった。

 金庫さえ開ければ金銀財宝に辿り着くと思っていた彼らにとって、その光景は拍子抜けだったのだ。

 

 車内のほとんどは空洞だった。

 戦車でも運搬できそうな広大なスペース、それを狭苦しく感じさせるほどに沢山のモノが詰まっていた。

 

 金塊、ではなかった。

 彼らの目に映るのは、()()()()()

 

「ロボット、か?」

 

 巨大な観光バスの中を埋め尽くす異型の機械。

 ペタペタと少年達は不用心に触る。

 だが、すぐさま一人が気付き、ギョッと目を剥く。

 

「いやっ、待て! これ……()()だ‼︎」

「なに言ってんだよ、半蔵。こんなのが警備員(アンチスキル)の新兵器だってのか?」

「違う。これは……警備員(アンチスキル)の鎮圧用兵器じゃねえ。()()()()()()()()()()()()()()

「…………………………は?」

 

 少年は周囲を見渡した。

 視界に広がるのは、無数の金属塊。

 ────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

()()()……()()()()⁉︎」

 

 

 駆動鎧(パワードスーツ)

 それが視界を埋め尽くす異型の機械の正体。

 

 スキルアウトの少年達が知る由もないが、それはある男が生涯を掛けてかき集めた『コレクション』。

 ある事をきっかけに、その男は『暗部』の中で地位を失った。彼のサポート要員として『コレクション』を預かっていた作業服の運転手──カメレオンと呼ばれる男もまた、その男を裏切った。彼の『コレクション』は売り払われ、現在はまさに商品の輸送中であった。

 

 そう、即ち。

 シルバークロース=アルファの遺産。

 スキルアウトの少年達が得たのはそれだった。

 

「どっ、どうする、これ……?」

 

 少年達はまず、恐怖を覚えた。

 スキルアウトとはいえ、彼らだってただの子供。

 唐突に手に入れてしまった人殺しの兵器に恐怖心を感じない訳がない。

 

 しかし、それだけじゃなかった。

 彼らの目に滲んでいたのは恐怖だけじゃなかったのだ。

 

 

「な、なぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……?」

 

 

 そう言ったのは、ジャージを着た茶髪の少年。

 彼の表情(かお)に浮かぶのは恐怖を超えた()()

 

 いいや、彼だけではない。

 この場にいるスキルアウトのほとんど全てが、同じような期待を抱えていた。

 

 ここにいるのは皆、無能力者(レベル0)

 誰よりも能力(チカラ)に焦がれ、誰よりも能力(チカラ)に裏切られた落ちこぼれ。

 そんな彼らが特別な兵器(チカラ)を得た──()()()()()()。それも他人から与えられたモノではなく、自ら掴み取った報酬として。

 

「そうだ、そうだろ⁉︎ これさえありゃあ俺達にだってやれる! 能力者を打倒する事ができる‼︎ それはアンタの方針とも合致するはずだっ、駒場さん‼︎」

 

 更に悪い事に、彼らには目的があった。

 少なくとも大義はあると胸を張れるような目的が。

 

 目的のために暴力が正当化される。

 人殺しの兵器を扱う事への抵抗が振り切れる。

 無能力者(レベル0)の彼らは望んでいなかったはずの暴力(チカラ)に呑み込まれる。

 

「…………そうだな」

 

 そう呟いたのは駒場利徳(こまばりとく)

 第七学区のスキルアウトを率いるのリーダーだった。

 

 全員の視線が彼に集中する。

 安物のジャケットを厳つい筋肉でパンパンにした破壊の権化のような人相に反し、男は陰鬱な口調で呟いた。

 

「この駆動鎧(パワードスーツ)をもって……()()()()()()()()()()()()()()()……」

 

 






姫神の歌が聴きたい方は『終焉はどちら』で検索してください。


《原作キャラ紹介コーナー》

服部半蔵(はっとりはんぞう)
初出:とある魔術の禁書目録15巻
『スキルアウト』の構成員。頭にバンダナを巻いた少年。
無能力者(レベル0)。スキルアウトでは作戦立案を担当。忍者の一族・服部家の末裔であり、隠密行動に関して天才的な腕を持っている。


浜面仕上(はまづらしあげ)
初出:とある魔術の禁書目録SS
『スキルアウト』の構成員。ジャージの上に下はジーパンというラフな格好をした茶髪の少年。『原作』で特徴的な鼻ピアスは九月に付けた物なので、現在の時系列では存在しない。
無能力者(レベル0)。スキルアウトでは足回りの確保を担当。免許は持っていないが車の運転が得意。ピッキングに関しては天才的な腕を持っている。


駒場利徳(こまばりとく)
初出:とある魔術の禁書目録SS
『スキルアウト』のボス。ゴリラのような大男。厳つい筋肉の上から安物のジャケットを纏っている。
無能力者(レベル0)。スキルアウトでは襲撃の指示を担当。厳つい顔に反して情に厚く、冷静沈着で争いを好まない性格。

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