食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第四六話 武装集団の強襲 The_Skill-Out.

 

 

「もう一二時はとっくに過ぎている。嬉美(きみ)は大丈夫だろうか。何か事件に巻き込まれていたりしないかな……」

『単なる夜遊びだろう。心配するのは自然だが、そうウロウロとしても何も解決するまい』

 

 アウレオルス=ダミーはさっきから落ち着かない継雲雷糸(つくもらいと)を見てため息を吐いた。

 心配ならば連絡をすればいいものを、滅多にない友達との遊びを邪魔するのを避けたのか、雷糸はさっきから何もせずウロウロと挙動不審で鬱陶しい。

 

『迎えには行かないのだな。当然、心配しているのだろう?』

「……『蜘蛛の女王』の人脈を使って夜道の巡回(パトロール)はさせているよ」

『過保護か』

「別に今日だけの話じゃあない。……ちょっとした心配事があってね」

『それは?』

 

 暗い顔で、継雲雷糸は告げる。

 

「第八位の超能力者(レベル5)が誕生した影響についてさ。食蜂(しょくほう)くんは心配ないって言ってたけれど、僕はちょっとだけ不安でね。もしかしたら、無能力者(レベル0)の子供が────」

 

 ──まさに、その瞬間だった。

 

 

 ()()()()‼︎‼︎‼︎ ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

命中(ヒット)! 凄え威力だぜ‼︎」

「……予定では、目標を見つけてから攻撃を開始するはずだが…………」

「心配すんなって、駒場(こまば)さん。ここは『蜂の巣』だぞ? この辺りに住んでるのは訳ありの連中ばっかで、マトモなヤツなんか寄り付かねえよ」

「…………、」

 

 茶髪の少年は自慢げにそう言った。

 実際に他に人がいないか調べた訳でもないのに。

 

 少年達のタガが外れていくのが感じられる。

 手に入れてしまった暴力(チカラ)に呑み込まれていく。

 彼らの勢いは、もはやリーダーである駒場利徳(こまばりとく)にさえ制御できないモノに成りつつあった。

 

 駒場は顔をしかめ、スキルアウトの中でも駒場と同じように狂気に呑まれていない人間──作戦立案担当の服部半蔵(はっとりはんぞう)に視線を向ける。

 しかし、彼もまた諦めるように首を振った。

 

「飲み込め、リーダー。俺達の目的を達成するには、この暴力(チカラ)は捨てられねえ。何せ敵は超能力者(レベル5)。今の不意打ちの砲撃ですら、有効打になったか分からねえ相手だぞ」

「…………しかし……」

「リーダーが言いてえ事も分かってる。だが、どうしようもねえ。俺達にできるのは、一刻も早く目的を達成して、アイツらに兵器を捨てさせる事だけだ」

 

 襲撃者側であるスキルアウトにすら余裕はなかった。

 一刻も早く決着をつける。そのために、男は情け容赦を捨てた。

 

「……全員、駆動鎧(パワードスーツ)に乗り込め。第八位の根城に突入するぞ……」

 

 

 

 

「ごッ、がはっ⁉︎」

『すぐに息を整えろ! 敵の正体は不明だが確実に殺しに来ている! 当然、砲弾を撃っただけでは終わらない‼︎』

 

 その砲撃は控えめな威力をしていた。窓を突き破って部屋を丸ごと吹き飛ばしたが、建物の外壁までは崩れなかったのがその証拠だろう。

 一方で、砲弾は大量の金属片を飛ばして標的(ターゲット)を穴だらけにして殺す代物だった。

 その殺意は明らか。アウレオルス=ダミーが銃弾よりも速い『瞬間錬金(リメン=マグナ)』で弾いていなければ、既に継雲雷糸はこの世にいなかった。

 

「……っ、統括理事か……?」

『さてな。依然、状況は不明だ。しかし、敵は素人だろう。殺しを生業とする者が、標的(ターゲット)が死んだか判別する事が難しい砲撃なんて手を使うとは思えない』

 

 雷糸はぎゅっと首にかかった十字架を握る。

 敵の武器が遠距離から攻撃する類の兵器だとすれば、継雲雷糸に対処する事はできない。アウレオルス=ダミーが唯一の命綱だった。

 

(いいや、僕が対応する必要もないか。『蜘蛛の女王』としての地位を使って、刺客に対処できる人員を呼べばいい)

 

 そう考え、携帯電話を取り出す。

 ()()()()()()()()()()

 

 

 ギャリギャリギャリギャリ‼︎‼︎‼︎ と。

 巨大な歯車で壁を削り取るような轟音が響く。

 

 

 ()()が木製の扉を切り裂いて飛び出した。

 蜂の羽音を数千倍に増幅したような空気を叩く不快音、そして歯車と鎖が噛み合うような雑音が聴覚を埋め尽くす。

 

 その正体は金属製の円盤だった。

 直径は七〇センチ程度。『外枠』の内側にはシャンプーハットのようなプロペラが二段取り付けられており、その回転が円盤を浮かして移動させるだけの力を用意していた。

 しかし、問題は円盤の『外枠』そのもの。蜂の羽のような不快音とは違う、歯車のような轟音の発生源。

 

 それは()()()()()だった。

 『外枠』に印字された機種名は『Edge_Bee(ヤイバのハチ)』。

 奇しくも、『蜂の巣』と呼ばれるこの地域(エリア)で使用するに相応しい名をしていた。

 

『携帯を手放せ! 電波を探知されている‼︎』

 

 ブオン‼︎ と円盤が真っ直ぐ突っ込んでくる

 ほとんど反射的に携帯電話を投げつけ、その放物線の先を見る事もなく走り出した。

 僕の『側近』は優秀だ。一定時間連絡がつかなければ、間違いなく異常を察知して援軍を寄越してくれるだろう。だから、何よりもまず優先すべきは生き残る事だ。

 

 ドガッ‼︎ とアウレオルス=ダミーが十字架から放った塩の杭が円盤を貫く。

 穴が空いても円盤の姿勢制御が揺らぐ事はなかったが、瞬時に物質が塩へと変換された事でようやく機体は沈黙する。

 

 しかし、それでも耳を埋めるノイズはなくならない。

 理由は単純。その円盤は元よりたった一機ではなかったのだ。

 新たに視界に映るのは四機の円盤。標的を捉えたスズメバチのように、その刃は進路を阻むように立ち塞がる。

 

「君の魔術で全て撃破する事は可能かい⁉︎」

『当然、可能だが……敵の兵器がこれだけとは考えられない。あれは偵察兼足止め用の無人兵器────自然、来るぞ。()()()()()()()()()()‼︎』

 

 ()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

『ッ、一旦止めろ! 止めろっつってんだろッ‼︎ 誰だ撃ったの⁉︎』

 

 服部半蔵は味方のスキルアウトに対して必死に叫ぶ。

 彼が身に纏っている駆動鎧(パワードスーツ)は頭部が巨大なセンサードームになっていた。

 

 情報収集特化偵察機『ビーランチャー』。

 二本の腕に二本の脚というシルバークロースの遺産の中では相当穏やかな外観でありながら、背中から伸びた一二本の鉄柱が相変わらずの異型である事を示す。

 一二本の鉄柱は一〇〇機を超えるエッジ・ビーが収まる巣であり、同時に複数の電波や地下の通信ケーブルから情報を傍受していた。

 

 本来ならば、一〇〇機を超えるエッジ・ビーをビル内に投入して、情報を集めてから他の駆動鎧(パワードスーツ)が攻撃を開始する予定だったのだ。

 彼が危惧していたのは一点。まさに現在の状況だった。

 

『人違いだ! この中にいるのは第八位じゃねえ‼︎』

 

 スキルアウトの目的は第八位の殺害。

 行使する暴力もその正当性あってのものだ。

 全く関係のない人を巻き込んでしまえば、その正当性は崩壊する。

 正当性を失った暴力の行く先など決まっている。駒場利徳が必死に守っていた最後の『一線』を踏み越えてしまう。

 

 ──しかし。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『このビルが第八位の住処ってのは確かなんだろ。じゃあそこにいるヤツは関係者だ。脅して第八位の居場所を聞き出そうぜ』

浜面(はまづら)っ、お前⁉︎』

『……半蔵。兵器を持って増長してるのは分かるけどよ、俺達(スキルアウト)は弱者だぞ? 手段を選んでる余裕なんてねえだろうが。俺達はヒーローじゃねえんだ、犠牲があったって仕方がねえよ』

『…………っ‼︎』

 

 そう言ったのは、八本脚の駆動鎧(パワードスーツ)──『エネミーブラスター』を纏った少年だった。

 全長五メートルという巨大な体格。頭は存在せず、虫の上部に人間の上半身を取り付けたような、操縦の仕方など想像もできない異型の駆動鎧(パワードスーツ)

 何よりも、一番の特徴はその腕。左腕は人間の倍程度は大きい機関銃であり、右腕は更にその倍以上の大きさの滑空砲。

 

 暴走するスキルアウトのブレーキ役を務めようとした駒場利徳や服部半蔵に対し、スキルアウトの中でも最も暴走した少年こそが彼だった。

 奇襲の砲撃、半蔵の警告を無視した一撃。それら全ては彼の手によるものだった。

 

 だが、それが集団の意思から逸脱したものかと言えば、実はそうでもない。

 むしろ、スキルアウトの中でも駒場や半蔵は少数意見(マイノリティ)に過ぎない。

 明言はせずとも、大半が彼の意見に賛同している。それは他の異型の駆動鎧(パワードスーツ)が、彼ではなく半蔵を牽制するような立ち位置からセンサーを向けている事からも見て取れる。

 

『ああ、そうか。確かに俺の武装じゃ殺しちまうか。情報を抜き出せなきゃ意味がねえ。拷問する前に死んじまったら勿体ねえもんな』

 

 スキルアウトの暴走は止まらない。

 スキルアウト自身にも、止められない。

 

 

 

 

(彼女は……当然、意識を失っているか)

 

 もはや聴覚が働かなくなるほどの爆音。

 それでいて、体内に直接響くような轟音。

 

 アウレオルス=ダミーが咄嗟に頭部を守ったからと言って、継雲雷糸が無事だったのは偶然でも何でもない。

 

 砲弾が実弾ではなかった。

 粘着式の非殺傷エアスタン砲。

 半蔵の警告に反応して、『エネミーブラスター』は砲弾の種類を切り替えていたのだ。

 

(心のない兵器、まさに彼女の天敵。敵としては最悪だが……俄然、私がいる事に意味がある)

 

 ケルト十字が独りでに動き出す。

 アウレオルス=ダミーはこのような時のために継雲雷糸の側にいた。

 

(『瞬間錬金(リメン=マグナ)』。敵がどれほどの脅威であろうと、私の魔術の前に装甲に意味はなく、当然、銃弾よりも遅い動きに回避はできない)

 

 ケルト十字を基礎として、人間の体が構築される。

 材料は天使の力(テレズマ)。継雲雷糸のための守護天使が降臨する。

 

 

 

 ()()()()()

 

 

 

(──────────な、に……?)

 

 

 ()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 天使の力(テレズマ)による体の構築に不具合があった。

 それどころか、意識を保つ事さえ精一杯だった。

 

 原因は内側にはない。

 彼はその()()を外側に知覚する。

 

 

(────()使()()()()()()()()()?)

 

 

 それもアウレオルス=ダミーを形作る程度の微量の天使の力(テレズマ)ではない。

 ()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは太陽フレアが電波障害を引き起こすようなもの。

 莫大すぎる同種のエネルギーが、アウレオルス=ダミーを満たすはずだったエネルギーをぐちゃぐちゃに掻き乱しているのだ。

 

(まずいッ、これでは────)

 

 継雲雷糸の意識は戻らない。

 アウレオルス=ダミーは動けない。

 そして、迫るのは無数の悪漢達。

 

 結末はもう決まっていた。

 

 

 

 

 そして。

 スキルアウトは蜂蜜色の髪の少女を鷲掴みにする。

 

『意識が戻らねえ。こいつ、どうするよ』

『情報が引き出せねえんじゃ使い道がねえぞ』

 

 じゃあ捨て置くか。

 どこかそんな返答を期待していた。

 しかし、誰かがこう言った。

 

『じゃあ、人質にするか。第八位の前でこいつを傷物にすれば、演算なんてできなくなるだろ』

 

 流される。

 本人さえも望んでいない暴力(チカラ)に。

 

 あるいはスナッフフィルムでも撮ってSNSに流してやろうか。

 スキルアウトの一人がそんな事を考えた瞬間だった。

 

 

 カツン、と。

 明らかに駆動鎧(パワードスーツ)ではない足音が響く。

 

 

 音源に視線が集まる。

 まるで時間が止まったような沈黙があった。

 

 ウェーブのかかった空色の髪。

 口の中に見えるギザギザの歯。

 少年達はその少女の名を知っていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 学園都市第八位の超能力者(レベル5)

 『無限動力(ホワイトホール)』、春暖嬉美が帰ってきた。

 

 

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