食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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予定よりも長くなったので第三章中編です。




第四九話 表裏一体の存在 Heads_or_Tails.

 

 

「なんで俺がこんなこと……」

 

 スキルアウトの一人、浜面仕上(はまづらしあげ)は車を運転していた。

 向かう先は仲間の服部半蔵(はっとりはんぞう)が趣味で集めた隠れ家の一つ。

 しかし、後部座席に乗っているのは彼の仲間ではない。先ほどまで彼が殺そうとしていた少女達。

 

「文句言ってねーで働け、スキルアウト。オマエの罪はオマエ自身の手で(あがな)うしかねーんだよ」

 

 学園都市第八位の超能力者(レベル5)春暖嬉美(しゅんだんきみ)

 浜面に不満はあれど、スキルアウト共をボコボコに返り討ちにしたこの少女に歯向かうことなどできない。

 ……それに、兵器を捨てて正気に戻った事で少女達に罪悪感が湧いたのも確かなのだ。だからこそ、浜面を含むスキルアウトはこの少女には頭が上がらない。

 

「逃げて、どうするつもりだい?」

 

 そう春暖嬉美に問いかけたのは別の少女だった。

 後部座席に座るもう一人、蜂蜜色の髪の少女はこう言った。

 

「ぼくはきみが守りたかった少女じゃあない。食蜂操祈(しょくほうみさき)偽物(クローン)で、継雲雷糸(つくもらいと)のニセモノ。ぼくを助けた所で、彼女(かれ)が帰ってくるとは限らない。きみとぼくは体だけの関係で、きみがぼくを助ける理由なんてないよ」

「関係ねーだろ、そんなこと」

 

 即答だった。

 春暖嬉美は当たり前のような顔で言う。

 

「オレはオマエが見ず知らずの他人でも助けてたよ。オマエが何処の誰だろーが、小さい女の子を見捨てる理由なんざある訳ねーだろうが。きっと、雷糸ならそうした」

「…………む。べつにそこまで小さくはないけれど」

「それに、オレはオマエが雷糸のニセモノだなんて思わねーな」

 

 首を大きく傾げて疑問を表す少女に春暖嬉美は笑いかけた。

 

「そーいう感情が表情(かお)に出る所とか、リアクションが大きい所とか、あれって前世由来のもんじゃなくてオマエの身体由来のもんだろ? そりゃそーだ。いくら憑依っつったって、体から湧き出るホルモンだの何だのの影響を受けるに決まってんだから」

「…………っ」

「逆に今のオマエが自分を見捨てるように言ったのは、前世由来の自己犠牲精神だな。肉体のオマエと前世の記憶を引き継いだ魂は互いに影響し合っている。どっちかが継雲雷糸でどっちかがニセモノなんじゃない。オレが知ってる雷糸ってヤツは二人合わせて継雲雷糸なんだよ」

 

 継雲雷糸に憑依されていた肉体、ではない。

 前世の記憶を引き継いだ魂と肉体に宿った魂、二つ合わせて継雲雷糸なのだ。

 少なくとも、春暖嬉美はそう思う。

 

 一方、運転席に座る浜面仕上は後方の会話を聞きながら、ふと思った。

 

(体だけの関係って何かアレだな……)

 

 浜面にとって二人の会話は理解できず、理解しようとも思わない他人事だった。

 しかし、直後の言葉を聞いて、浜面仕上は他人事ではいられなくなった。

 

「それで、逃げてどうするだったか? 決まってる。()()()()

「は、反撃……⁉︎ 俺たちにか⁉︎」

 

 思わず、声がひっくり返る。

 何せ浜面はついさっき春暖嬉美達を襲ったスキルアウトの一員。反撃される理由しかないのだから。

 

 だが、春暖嬉美は首を横に振った。

 

「オマエ達じゃねーよ。オレが反撃したいのはオマエ達の裏に潜んでいるヤツだ」

「……悪いけど、アンタの命を狙ったのに大層な陰謀なんざねえぞ。俺達が……俺が、安易な暴力に流されただけだ」

「かもな。けど、襲撃を決めたのはオマエら自身でも、そこに何らかの誘導があったとは思わねーか?」

「………………なん、だって?」

 

 驚愕と同時に、どこか納得があった。

 誘導のせいで襲撃した、と責任逃れするつもりはない。浜面を含むほとんどのスキルアウトはクズばかりで、誘導なんてものがなくたって無関係の少女の命を狙う事くらいはしただろう。

 だが、駒場利徳(こまばりとく)は違う。犯罪者集団スキルアウトの中でも、リーダーの彼だけは『一線』を超えるような男じゃない。たとえ超能力者(レベル5)だからと言って、無関係の少女を巻き込む計画を是とするようなヤツじゃなかったのだ。

 

 ぐっ、と浜面の手がハンドルを強く握る。

 自分はいい。浜面仕上という人間は罰を受けて当然のクズ野郎だ。

 でも、裏からスキルアウトを操ってニヤニヤ笑ってやがる黒幕とやらは駒場利徳に『一線』を超えさせた。誰よりも争いを嫌うあのリーダーを、安易な暴力に走らせた。

 

(許せるか、そんなもん……‼︎)

「考えみりゃ一つ、不可解な事があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 人工幽霊『不知火(しらぬい)』は電子機器に対して自在に誤作動(エラー)を引き起こせる。そう考えていた春暖嬉美の油断を利用し、あえて電子機器の駆動鎧(パワードスーツ)の中に一つだけ電子機器を一切使わない変わり種を混ぜる事で、スキルアウトは正面からの奇襲を可能にした。

 発想自体は無能力者(レベル0)の身で能力者との喧嘩を繰り返してきたスキルアウト自前のもの。手段として用いた駆動鎧(パワードスーツ)は偶然手に入れたシルバークロースの遺産。では、それらの前提となる第八位の能力についての知識はどこから来たものだ?

 

「スキルアウトにオレの能力を吹き込んだヤツがいるだろう。そいつを辿って行けば、黒幕とやらの手がかりも見つかるかもしれねー」

「誰が……ああ、クソっ! こういうのをいちいち覚えんのは半蔵の仕事だってのに」

 

 浜面仕上は頭を掻きむしる。

 そもそもの最初。第八位を狙おうと思ったキッカケは何だったか。

 

「あっ!」

「なんか思い出したか?」

「女子高生だ! 路地裏を通ってた女子高生がカバンを落として、確かその中にアンタの資料が入っていたんだ! アンタが『蜂の巣』に住んでるのもそれで知った!」

「制服とか、そいつの特徴は?」

「……後ろ姿しか見てねえんだよな。あ、でも、夏なのに冬服のブレザーを着ていたぜ。あの制服は確か──」

 

 スキルアウトは能力者が嫌いだが、それは逆に能力者というものを普通より意識しているとも言える。

 故に、浜面仕上はその制服を知っていた。学園都市有数のエリート学校、即ち──

 

 

「────()()()()()()()()()()

「………………は?」

 

 

 春暖嬉美の中で何かが繋がった。

 霧ヶ丘の冬服を着た女。

 第八位に敵意を持った女。

 春暖嬉美はその名を知っている。

 

 その少女ならば納得だった。

 春暖嬉美は自身の能力の詳細や住所を含む個人情報を霧ヶ丘に提出している。

 そして、その少女は嬉美担当の開発官(デベロッパー)である磯塩(いそしお)とも繋がりがあり、紙で残された資料を盗む機会も多かっただろう。

 

 その、少女の名は──

 

 

結標淡希(むすじめあわき)! オレの命を狙ってんのはアイツか⁉︎」

 

 

 ()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 遠方で響く爆音。

 少女はそれに耳を傾け、不思議そうに首を傾げた。

 

「外した……いえ、避けられたって事かしら」

 

 少女の名前は結標淡希。

 霧ヶ丘女学院二年生の大能力者(レベル4)

 そして、遠方より春暖嬉美の命を狙う者。

 

 攻撃を避けられたにも(かかわ)らず、彼女の表情(かお)に焦りは見えない。

 それも当然。結標淡希の能力──『座標移動(ムーブポイント)』は見えないほど遠くからの一方的な攻撃(ワンサイドゲーム)を可能にする。

 

 最大射程は八〇〇メートル以上。

 重量限界は四五二〇キログラム。

 空間移動(テレポート)の性質上、防御に意味はない。

 結標淡希は数千キロの質量を距離と強度を無視して叩き付ける事ができる。ついさっき、ガソリンに引火させた観光バスを春暖嬉美の目の前に飛ばしたように。

 

 反撃はない。時間切れはない。

 当たるまで攻撃を続ければいつか勝つ。

 そんなデタラメを実現するのが彼女だった。

 超能力(レベル5)級とさえ称される能力は伊達ではない。

 

「ほんっと生意気な後輩ね。さっさとくたばらないかしら」

 

 結標淡希には春暖嬉美を嫌う理由があった。

 実際、少女を前にすれば罵倒だってした。

 

 それは本来なら自分が選ばれるはずだった超能力者(レベル5)に春暖嬉美が選ばれたから────なんてくだらない理由ではない。

 結標淡希からしてみれば、強度(レベル)なんてどうでもいいものだ。彼女にとって能力とは恩恵ではない。頑張っても能力を持てなかった無能力者(レベル0)が不良に転落するのはよく聞く話。それと同じなのだ。たまたま強大な能力を()()()()()()()者の中にも、能力に馴染めない者がいる。彼女もその一人。

 だから、それはひどく個人的な理由だった。ただ、ある事を証明したいがために、少女は春暖嬉美に憎しみを抱いていた。

 

 

 だが、手を出すつもりはなかった。

 

 

 そもそもの話、結標淡希の能力では春暖嬉美には勝てない。

 強度(レベル)がどうとかではなく、単なる能力の相性差によって彼女は敗れる。

 

 何せ、『座標移動(ムーブポイント)』の最大射程が八〇〇メートル以上とは言えど、動く相手に当てようとするのなら実質的には有効射程は視界内に限られる。

 それでは『無限動力(ホワイトホール)』の前では無力だ。春暖嬉美が生み出した人工幽霊『不知火』を視界に収めただけで、結標淡希の敗北は確定するのだから。

 では、監視カメラや発信機などを用いて、遠隔から相手の位置を把握できればどうか。勿論、それも不可能。電子機器を用いる限り、人工幽霊の魔の手からは逃れられない。

 

 致死性や広域殲滅能力だけに限れば第一位さえ超えると称された実力は伊達ではない。

 戦闘という分野において、春暖嬉美を正面から倒せる能力者など学園都市には一握りしかいない。

 

 だから、喧嘩を売るつもりなんてなかった。ましてや、命を狙うだなんて。

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 偶然だった。

 意図した事ではなかった。

 

 しかし、それは運命だった。

 その兵器があれば結標淡希は負けない。

 その兵器があれば春暖嬉美を殺せる。

 そう気付いてしまえば、もう止まれなかった。

 

 つまり、魔が差したのだ。

 兵器を手にした事で少女は暴力に呑まれた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ねぇ、春暖さん。貴女が超能力(レベル5)に至ったのが偶然ではないというのなら、私達には能力が宿った理由が存在するのなら──」

 

 一方的な憎しみを抱いて。

 結標淡希は軍用の懐中電灯を回転させた。

 

 

「──この程度の苦難、簡単に退けられるのでしょう?」

 

 

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