ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
少女は咄嗟に叫んだ。
「頼んだっ、
莫大なエネルギーの塊である人工幽霊。
彼女の力によって爆破の衝撃を相殺する。
キキィィィッ‼︎‼︎‼︎ と。
タイヤをアスファルトに擦り付ける音が響く。
運転手である
「なんっ、何が起こった⁉︎」
「逃げろ浜面!
そう言っている間にも続々と新たな物体が眼前に出現する。
それは先程のような爆弾から、重量によって車を押し潰す巨大質量まで様々。雨のように降り注ぐそれらを不知火は迎撃する。
いや、むしろ、不知火の攻撃は出現位置を先に潰しているかのようだった。
「逃げろったってどうやって⁉︎ 既に見つかってんのなら逃げる余裕なんてねえだろうが‼︎」
「余裕はオレが作る。
奇襲は受けたが実力としてはこちらが上。
春暖嬉美がそう考えた瞬間だった。
眼前で新たな空間の歪みが生まれる。
不知火に迎撃を命じようとして────
「──────
──春暖嬉美の思考が停止する。
新たに転移してきたのは人間だった。
それもぐるぐる巻きに縛られ、爆弾をくくりつけられた中学生の少年。
爆弾は電気式のものではない。電子機器に不具合を引き起こす幽霊でさえ止められない。
爆弾の衝撃を相殺する事はできない。そんな事をすれば目の前の少年は死んでしまう。
考える。考える。考える。
走馬灯のように一秒間の思考が無限に引き伸ばされる。
そして────
ゴガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
無慈悲な爆弾はなすすべもない少年少女を巻き込んで炸裂した。
「やった……という訳ではなさそう。見失ったって訳ね」
とあるビルの中層階。
そこに
「確か、第七学区のあの辺りには地下街があったわね。爆発の衝撃で地面が崩れ、かろうじて生き延びたって所かしら」
「…………」
「ああ、いえ。責めている訳ではないわ。爆発は相殺されなかった。人間爆弾という揺さぶりは第八位にも通用した。それが分かっただけでも十分よ。だって……
屋上にいるのは結標淡希だけではない。
三〇人近い少年少女がそこに集っていた。
年齢も性別もバラバラ、通っている学校も違う。
少年少女達に共通しているのは、能力者であるということ。
「あいつは……無事なのか?」
「当然。あの子は『
「そ、そうか。そうだよな……」
『
「問題ないわ。貴方達の犠牲は無駄にしない。私が必ず────第八位を否定してみせる」
「ぶ、無事か……?」
どう考えても自動車の侵入が禁止されているエリアだったが、時間帯もあって人がいない事で止められる事はなかった。
「……オレは問題ねェ。
「あの子は……」
「今はあの
追撃はない事に胸を撫で下ろす。
衛星の監視から逃れようとするスキルアウトの習性もあるのだろうが、地下街に入ってようやく浜面仕上は普通の息の仕方を思い出していた。
「地面が崩れた時はどうなる事かと思ったが、一周回って正解だったな。敵の野郎、どっか高い所から俺達を見下ろしてやがったんだ」
何気なくそう言った浜面だったが、彼の言葉を聞いた春暖嬉美の顔は怪訝そうだった。
「……いや、あり得ねーだろ。目視でオレ達を視認してたんなら、不知火の攻撃が届いてたはずだ」
「じゃ、じゃあ……盗聴器とか発信機とかが仕掛けられてたってのかよ……」
「バカが。オマエらも不知火の情報を知って対策してたろ。相手がオレの能力を知ってるなら、電子機器を使う訳がねーんだ」
一息をついてようやく、疑問が湧いてくる。
結標淡希はどうやって春暖嬉美達の居場所を把握していた?
「……分からないのなら考え方を変えると良い」
口を挟んだのは蜂蜜色の髪の少女。
「敵は常にこちらの位置を把握できて、一方的に攻撃ができる。……本当に? そうだとすると、不自然なところがいくつか浮かび上がるけれど」
「何だって?」
「たとえば、どうして攻撃は車内に直接送ってこない? 本当にこちらの位置を正確に分かるのなら、そもそもぼくらの肉体に埋め込む形で爆弾を転移させればそれで終わりなのに」
「確かに、オレでもそうする。って事はやらないんじゃなくて、できないって事じゃねーのか……?」
「それに、きみたちスキルアウトをぼくらにぶつけたのは? 彼女の手でぼくらを始末できるのなら、スキルアウトは必要ないはずだ」
「……俺らは必要だった? 俺らをけしかける事が絶対に必要な手順だったってのか⁉︎」
継雲雷糸は自身の記憶を探る。
少女は世間知らずで
「やはり、
少女の脳に刻まれた知識はその答えを導き出す。
「『
それならば、すべての条件に該当する。
地下街に入った瞬間、追撃されなくなったのも、匂いが密閉されていたからだと考えれば辻褄が合うのだ。
「……そんなモンで位置が把握できんのか?」
「大きな餌を発見したアリが、どうやって仲間に位置を教えて行列を作らせると思う? 匂いを使った情報の送受信は電波なんかよりも古くから使われてきた技術だよ。それに、学園都市じゃあ電気だとか磁力だとかを操る子供だって珍しくはないから、そうしたものを迂回する技術が発達しても何も不思議じゃあない」
「匂い、か。分かっちまえば大した
春暖嬉美は口角を上げる。
それは笑みというより、もはや威嚇。
掌で白い炎を燃やして、獰猛に笑った。
「反撃の時間だぜ、
轟‼︎‼︎‼︎ と。
地下から白い炎が噴出する。
何度も、何度も。それはまるで、地下街に充満した空気を焼き焦がすみたいに。
「……気付いたのね、私が仕掛けた発信機の正体に」
結標淡希が手に入れた兵器とはそれ。
この二つから得た情報により『
「でも、残念。熱で『
嗅覚センサーが仕掛けた匂いを感知する。
第八位の策は失敗に終わった。
相手の位置情報はこちらに筒抜けのまま。
結標淡希はまた一方的な攻撃を再開できる。
「今度は地下街に逃げるだなんて許さない。さて、貴女はいつまで耐えられるかしら」
結標淡希は無数の爆弾を送り込み──
「…………
「ど、どうしてこの場所が! 『
「あ、あの……」
「なに⁉︎ 今、貴方と雑談する余裕はないのだけど‼︎」
「わっ、悪い。大した事じゃないんだけどさ……」
声を荒げる結標淡希に対して。
「
「………………あ」
普段から空気の流れを演算していた少年だからこそ気づけた違和感。
それを聞いた瞬間、結標淡希の頭の中で全てが繋がった。
「匂いを消すため、じゃなかった。
「そのまま真っ直ぐだ! 突っ込め浜面‼︎」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉︎」
熱された空気は膨張する。
小学生でも知っている理科の常識。
だが、それを
爆発に吹き飛ばされたかのような勢いで自動車は宙に舞う。
浜面が運転する車はミサイルのようにビルの中層階に突き刺さった。
「そんっ、な……ッ⁉︎」
「よォ、センパイ。くっだらねェ殺し合いはこれまでだぜ」
咄嗟に反応したのは結標を囲む三〇人近い少年少女たち。
彼らは各々が有する能力を発動しようと動く。
「────不知火」
この至近距離において、『
バタバタと、少年少女は抵抗もできず倒れていく。これにて、春暖嬉美を襲った一派は全滅した。
「
──
「………………な、に……⁉︎」
「舐めるんじゃないわよ、この私を……‼︎」
結標淡希。
彼女は不知火の攻撃を受けてもなお倒れない。
「どう、やって? 精神論でどうにかなる話じゃねェんだぞ⁉︎」
「知らないのかしら。『
「…………まさか」
「
結標淡希は懐中電灯を振るう。
普通なら車体に弾かれる程度の軽い一撃。
しかし、それは空を切るように金属を抉り取った。
転移し続けているから、どんな物質を押し除ける。
どんな物質も押し除けるから、どんな攻撃も通じず、どんな防御も意味をなさない。
結標淡希が手にしたのはそんな『無敵』の力だった。
「オマエ……‼︎」
しかし、春暖嬉美が驚愕したのは空間を抉り取る無法の力に対してではない。
少女の瞳に映る、目の前の敵──彼女の顔に対して。
絶え間なく転移し続ける。
それは言葉にするほど容易な事ではない。
元より、
一一次元特殊計算式応用分野。痛みで思考が鈍れば不発するのも珍しくないような、それだけ困難な演算が求められる能力。
結標淡希は咄嗟に転移時の『始点』と『終点』を同一座標にする事で演算の簡易化を図ったが、それでも能力発動の負担が大きい事には変わりがない。
沸騰する脳味噌、溺れそうな演算。何とかそれを超えてもなお、過度な能力の使用は結標淡希の赤血球を破壊する。
「馬鹿野郎が‼︎ 今すぐ止めろっ、死にてェのか⁉︎」
「死んだって構わない! 貴女の事を否定できるのなら‼︎」
「そんなにオレが憎いか⁉︎
「まさか。
結標淡希は言い切る。
それが嘘偽りのない彼女の本音だった。
「私は、自分の能力が恐ろしい。能力を失ってこの街に居場所がなくなる事よりも、簡単に人を殺せてしまう
「オマエ……」
「
それはスキルアウトとは真逆の境遇。
能力を持たないが故に不良に転落した彼らに対し、目の前の少年少女は強大な能力を持ってしまったが故にこんな風になった。
「だから、私は貴女が許せない」
「…………っ」
「『案内人』なんてやっていると様々な話が耳に入るのよ。貴女の事だってそう。
結標淡希はそれが許せない。
くだらない嫉妬、個人的な憎悪。
それでも、春暖嬉美だけは受け入れられない。
彼女の生き方を否定しなければ──
「私と貴女で何が違うって言うの⁉︎ 貴女が人を守れる能力を得たのはっ、私に人を傷つける能力が宿ったのは何の
そして。
春暖嬉美は答えた。
「────
「………………は?」
「能力が宿った意味?
「貴女がそれを言うの⁉︎ 継雲雷糸を守るために
「そんなモン、後付けだ。オレは能力がなくたって雷糸を助けたし、能力がなくたって雷糸はオレを助けてくれた。
「なっ⁉︎」
たとえ特別な能力を持っていたって、かつての春暖嬉美は何も変わらなかった。誰も守れなかった、ヒーローなんかじゃなかった。
雷糸のおかげで、今の春暖嬉美になれた。
「これはオマエにも言える事だぜ、センパイ」
「な、にを……」
「能力のせいでこうなった? 悪いけど、オレには言い訳にしか聞こえねェな。能力のせいなんかじゃない。
人を傷つける能力が怖い。
そう言いながら春暖嬉美の命を狙うのは誰だ?
結標淡希が春暖嬉美を、そして無関係な雷糸まで巻き込んだんじゃないのか⁉︎
「能力を持った意味なんて自分で作ればよかったんだ! その大層な
「…………あ、あああああああああああああああああああああああああああああああっ⁉︎」
瞬間、結標淡希は懐中電灯を振りかぶった。
結局、それが全て。『
春暖嬉美がそれに付き合う必要はない。
演算が困難で能力の負担が大きい結標淡希に対して、春暖嬉美の能力はただ漫然とエネルギーを垂れ流すだけの演算で成立する簡単なもの。
時間は春暖嬉美に味方する。一度逃げて仕切り直せば勝利は確実なものとなる。
だが、嬉美は逃げなかった。
確実な勝利なんてどうでもいい。
ただ目の前で泣き叫ぶ少女を見過ごせなかった。
「オマエを救うぜ、センパイ。何の意味もないこの
懐中電灯が少女の肉体を抉り取る。
その、一瞬前。
ッッッッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
春暖嬉美の掌から爆音が響いた。
『
しかし、押し除けるのは物質のみ。結標淡希との会話が成立したように、音や光のような波の性質を持つモノまでは防げない。
故に、春暖嬉美が発したのは音エネルギー。
鼓膜を破壊するような爆音が三半規管を揺さぶり、その衝撃は一撃で結標淡希の意識を奪った。
《原作キャラ紹介コーナー》
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初出:とある魔術の禁書目録8巻
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初出:とある魔術の禁書目録8巻