食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第五一話 水平世界の実現 The_LEVEL-OUT.

 

 

「しゅんだん、さん……?」

「目ェ覚めたかよ、結標淡希(センパイ)

「……ッ、みんなはっ⁉︎」

 

 バッ! と横たわっていた結標淡希(むすじめあわき)は勢いよく起き上がる。

 辺りを見回すと、三〇人近い少年少女……結標淡希の仲間達の意識は既に戻っていた。

 

 そこでようやく状況を把握できたのか、あるいは気絶する前の事を思い出したのか、結標淡希は不機嫌そうに顔を顰めた。

 

「どうして……私を助けたのかしら。あのまま放置していれば、私は勝手に自滅したのに」

「そんなの誰も望んでねーよ。オレはヒーローになる、それが自分自身で決めた能力の意味ってヤツだから」

「…………そう。私達も、そうすれば良かったのかしら。風紀委員(ジャッジメント)にでもなって、人を助けるために能力を使っていれば」

 

 自嘲するように、結標淡希は笑った。

 悪いのは能力などではなかった。

 強大な能力を恐れて、人を傷つけたくないと言いながら、能力を暴力のためにしか使えないのは他でもない自分自身だったのだ。

 

 しかし、春暖嬉美(しゅんだんきみ)は不思議そうに首を傾げた。

 

 

「今からでも遅くないんじゃねーの?」

 

 

 そう、当たり前のように。

 

風紀委員(ジャッジメント)になれとでも言うのかしら?」

「そりゃ無理だ。オマエらは能力が人を傷つけるのを怖がってるんだろ? 人を守るためとは言え、能力を使って戦うのには向いてねーよ」

「……なら、」

「でも、能力を持っている事で抑止力になる事はできる。……なぁ、浜面(はまづら)

「えっ、お、俺⁉︎」

 

 スキルアウトの少年、浜面仕上(はまづらしあげ)

 他人事のような顔で話を聞いていた彼は、突然名指しで呼びかけられて動揺する。

 

「な、なんだ……?」

「今、コイツらスキルアウトは『無能力者狩り』を止めるために動いている。だが、コイツらだけじゃ手が足りねー。無能力者(レベル0)は抵抗する力がないと舐められやすいせいで、大量の能力者が遊び感覚でゲームに参加しているからな」

「……おい、まさか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎」

「能力者本人さえ恐れるチカラだ。遊び半分で敵に回したいと思うヤツはいないだろーぜ」

 

 『無能力者狩り』を行っている者の大半は低能力者(レベル1)異能力者(レベル2)。能力開発を諦めた者が、自分より下の存在を見て安心するために手を染める行為。

 故に、高位能力者が表立って『狩り』を妨害すれば、わざわざ『無能力者狩り』を行おうとする者と格段に減少するだろう。

 

「わ、私達がスキルアウトに……?」

「オマエらにとっても悪い話じゃねーだろ。戦う必要はない。ただそこにいるだけ、ただ能力を持っているだけの事が人助けになる。それはオマエらが欲しがった能力の『意味』にはならねーか?」

「…………、」

「オマエらは無能力者(レベル0)に、誰にも排斥されない居場所を与える。無能力者(レベル0)はオマエらに、能力が宿った意味ってヤツを与える。ウィンウィンってヤツだろ」

 

 だが、結標淡希は首を横に振る。

 それは受け入れられない、と。

 

「……駄目よ。私達は間違えた。人を傷つけるような人が、人を助けられる訳がないでしょう」

「過去は変えられねーよ。オマエらがした事は犯罪だ。……でも、それがこれからの未来を諦める理由になるか? 誰だって、ヒーローになれるんだ。オマエらが望みさえすれば、いつだって」

 

 春暖嬉美は誰よりもそれを知っている。

 少年院で不貞腐れていた春暖嬉美がヒーローに成れたみたいに。

 罪を犯した過去があったからといって、未来までそうである必要はない。

 

「なぁ、センパイ。ごちゃごちゃした理由なんざどーでもいい。どんな未来を望む? 大事なのは、きっとそれだけだろーよ」

「私は……胸を張れる明日が欲しい。この能力を持っていて良かったって、苦しかった日々にも意味があるんだっていつか思えるように‼︎」

 

 少女達は手を結ぶ。

 無価値とされた者に居場所を与えるために。

 無意味とされた能力をいつか誇れるように。

 

「そうすると『スキルアウト』って呼称は正しくねーな。オマエらは無能力者(レベル0)だけの集まりじゃねー。能力の垣根を超えた集団にならなくちゃらねーからな」

 

 これより生まれるのは、能力の有無に関係なく一丸となって協力し合い、強度(レベル)による差別を学園都市から廃絶するための集団。

 即ち──

 

「──『自警団(レベルアウト)』なんてのはどーだ?」

 

 

 

 

 少し離れた場所で、継雲雷糸──その肉体に元から存在していた少女は話し合いの様子を眺めていた。

 

 ぎゅっ、と無意識のうちに手を強く握り締める。

 迷い、苦しみ、自分自身の暴力に怯える少女達を導きたかった。一方で、少女達が自らの足で立ち上がるのを邪魔してはいけないとも思った。

 

(……これも、彼女(かれ)の影響なのか。それともぼくの内から湧き上がってきたものなのか)

 

 分からない。

 脳構造や分泌されるホルモン自体は肉体由来のモノでも、記憶や知識といった経験の大半は彼女(かれ)の前世由来のものなのだ。

 春暖嬉美が言った通り、彼女(かれ)肉体(ぼく)は不可分の存在で、二人合わせて継雲雷糸という人間を形作っていたのかもしれない。

 

 そう、考えを巡らせていた時だった。

 ポケットの中で何かが震えた。

 

(……? ケータイ、かな)

 

 継雲雷糸の携帯は既に破壊されている。

 だから、それは春暖嬉美のもの。

 応答するか、それとも嬉美を呼ぶか迷い──()()()()()()()()()()()

 

 

()()()()()()? ()()()()()()()()()()()()()()()⁉︎)

 

 

 咄嗟に応答する。

 電波が妨害されている中で連絡ができる者など、それを仕組んだヤツ以外に考えられない。

 そんな敵と嬉美を会話させたいなどと誰が思うか。たとえ今の自分が継雲雷糸のニセモノなのだとしても、嬉美を守らない理由にはならない。

 

「……きみは誰だ?」

 

 しかし───

 

 

『君こそ。私は春暖嬉美の携帯に電話をかけたはずだけど』

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……姫神(ひめがみ)秋沙(あいさ)?」

『そう言う君は継雲雷糸? 嬉美から話を聞いた同居人の』

 

 敵ではない。

 春暖嬉美の同級生。

 彼女が黒幕だなんて事はあるはずがない。

 

「きみはどうやってこの電話に連絡を?」

『……? 普通に。ケータイで電話をかけただけ』

(電波妨害自体がなくなっている? どうしてこのタイミングで……?)

 

 黒幕の失態……ではないだろう。

 考えられるのは、既にチェックメイトである可能性。ここからどう巻き返しても、黒幕の計画は覆せないという余裕の現れか。

 

『まぁ君でもいいか。嬉美に伝言をお願い』

「……いいけれど、こっちもちょっと立て込んでいる。すぐの対応は難しいよ」

『大丈夫。私に返答する必要はない。ただ必ず伝えて欲しい。これは……警告だから』

「何を……知っているんだい?」

 

 鳥肌が立つ。

 それはまるで、姫神秋沙がこちらの状況を知っているような口振りだった。

 

『何も知らない。私はカラオケから出たばかり。ついさっきまでアリサの歌を聴いていたから。でも。だからかもしれない。カラオケから出てすぐに私は違和感に気付いた』

「違和感……?」

『そう。違和感。……今の学園都市の「流れ」は不自然』

「……要領を得ないね。もう少し、具体的に説明して欲しい」

『言うなれば空気の流れ。人の流れ。あるいはもっと別の……AIM拡散力場の流れに何処か人為的なものを感じる。モノの流れについてなら。私は人より詳しいから』

 

 姫神秋沙の能力は『吸血殺し(ディープブラッド)』。自らの血を吸った吸血鬼を灰に還す原石。

 御坂美琴(みさかみこと)が電磁力線を目視できるように、一方通行(アクセラレータ)がベクトル操作だけでなくベクトルの観測さえも可能なように、姫神秋沙は『血の流れ』をなんとなく認識できる。

 もしかすると、その特異な観測能力は『血』に対してのみならず、『流体』全てに適用されるのかもしれない。

 

『あるいは。私が嬉美をカラオケに誘ったのも見えない「流れ」に乗せられていたのかも。彼女の帰宅を遅らせる事が何処かの誰かの目的だった』

「……あり得る。もしも嬉美が夕飯に間に合っていれば、ぼくが傷つく事はなかった。ぼくが傷ついてさえなければ、嬉美はきっと安全の確保よりも仲間との合流を優先しただろう」

『私がこの不自然さを認識できたのは。君達を中心とした「流れ」から離れたから。「流れ」の渦中にいたら私でも気付けなかった。だから警告。狙われているのは君達』

「…………っ」

『「流れ」を辿っても黒幕には辿り着けない。だって。その「流れ」は人為的に歪められたものだから。「流れ」から逃れたいのなら。本当の黒幕を見つけたいのなら。もっと飛躍した動きが必要』

 

 スキルアウトを倒して、彼らを唆した結標淡希達を見つけて──それら全てが黒幕の掌の上だったとすれば。

 結標淡希が兵器を手にしたキッカケを探っても意味がない。また別の操り人形と戦うハメになるだけ。

 

『健闘を祈ってる。私にはそれくらいしかできないから』

 

 それだけ言って、姫神秋沙は電話を切った。

 別れの言葉は言えなかった。

 そんな余裕もなく、深い思考の海に潜り込んでいたのだ。

 

(……考え方を転換(シフト)しないと。段階を踏んで犯人を探すのでは駄目だ。階段飛ばして、一手で黒幕を見つけないと)

 

 必要なのは論理ではない。

 直感。飛躍した答えで決め打ちしなければ黒幕は見つけ出せない。

 

(誰だ? 動機は分からない。ぼくと嬉美のどちらが狙われているかも分からない。だが、やり方から逆算する事はできる。子供と子供をぶつけ合わせる手口、自分は姿を見せず兵器だけ貸し与える性根。黒幕は恐らく()()だ)

 

 それもただの大人ではない。

 学園都市で権力を持つ者。

 他人を顎で使う事に慣れ親しんだ者。

 

(大人、権力者、流体、誘導……駄目だ、分からない。そもそもぼくが知っている大人なんてそう多くは────)

 

 

 ──()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 雷が落ちたみたいな衝撃だった。

 直感、予兆。継雲雷糸は何かを受信した。

 外部から差し込まれた啓示(インスピレーション)

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで、唇に何かが宿ったみたいに。

 少女は知らず知らずのうちにその名を呟いた。

 

 

「──学園都市統括理事、薬味久子(やくみひさこ)

 

 

 それが、この事件の黒幕。

 学園都市の『流れ』を捻じ曲げた者の名だった。

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

薬味久子(やくみひさこ)
初出:新約とある魔術の禁書目録6巻
白衣を着た七〇代の女性。アンチエイジングによって三〇代に見える若々しい顔と体を持つ。
学園都市統括理事会の一人。医療関係に太いパイプを持ち、本人も第一三学区の大学附属病院で医者をしている。
『原作』では、ヒーローを共倒れさせる『人的資源(アジテートハレーション)』計画を推し進めた。

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