※独自解釈注意
「覚悟しろよ、根性なし。ナンバーセブンのこのオレがしっかり更生させてやっからな!」
少年は、空から落ちるように突然現れた。
その瞬間を直接見ていた
彼はまるで宙を歩くように、空気を蹴って移動していたのだ。
学園都市第七位の
彼の言葉を聞いてもなお、理解が追いつかない。
「なんの、話だ……?」
「とぼけんなよ。あの動画に映ってんのはお前だろ。根性が足りてねえぞ」
削板軍覇が指差したのは上空に浮かぶ飛行船。
そこにくっついた
「…………は?」
嘘ではない。
タチの悪いフェイクニュースではない。
だが、悪質な切り抜きである事には変わりがない。
単なる動画ではないだろう。
恐らくは『念写能力』。
何にせよ、あの映像が学園都市中にばら撒かれているとすれば、一体どれだけの『ヒーロー』が嬉美に目をつけたというのか。
「ごっ、誤解だ!」
「根性なしはどいつも最初はそう言うんだ!」
問答無用だった。
削板軍覇は話を聞かない。
ただ拳で語り合う以外に道はない。
「不知火!」
春暖嬉美は叫んだ。
視認するだけでダメージを与える人工幽霊。
たとえ相手が
削板軍覇の、一瞬の硬直。
それを継雲雷糸は見逃さない。
「
少女の瞳が削板軍覇を捉える。
精神干渉。肉体の外と内の両側からダメージを与える。
誰も抗えない連携攻撃。
それを前にして────
「どっせーい!」
──
「なんっ⁉︎」
「すごいパーンチ!」
何もかもが吹き飛んだ。
継雲雷糸による精神干渉も。
不知火による霊障のダメージも。
全てが理不尽な拳によって握り潰される。
「どう、やって……」
春暖嬉美の唇から苦渋の声が漏れた。
だって、訳が分からない。
今までの敵には理屈があった。
だが、削板軍覇にはそれが見えない。
彼の無敵を支える
「オマエは一体何をやったんだ……⁉︎」
対する削板軍覇の言葉は単純だった。
「根性だ!」
「─────は?」
──理解、できない。
理屈を説明する事もできない。
春暖嬉美は頭を切り替える。
これほどの敵を相手に、もはや手加減できる余裕などない。
「センパイ、雷糸を逃がしてくれ。そこらに転がってる仲間もまとめて」
「……春暖さんはどうするつもり? 私の
「逃げ場はねェよ。コイツに目ェつけられた時点でな。それに──」
唇を噛み締め、春暖嬉美は告げる。
「コイツから逃す訳じゃねェ。此処にいたらオマエらを巻き込まない自信がねェって言ってんだ」
暫くして、結標淡希の『
削板軍覇はその様子をじっと眺めていた。
「……待ってくれんだな。追わねェのか」
「追うさ。ただ、根性なしが根性を見せたんだ。それに応えない訳にはいかねえだろうがよ!」
学園都市第七位、削板軍覇。
学園都市第八位、春暖嬉美。
その二人を学園都市の基準で測る事はできない。
「行くぜ、
「かかってこいよ、
極大のイレギュラー。
二種類の外れ値が激突する。
『「
結標淡希の能力で移動する直前、継雲雷糸は春暖嬉美に対して能力を使っていた。
自らの有する削板軍覇についての記憶──『原作知識』を共有するために。
一秒に満たない一瞬の情報共有。
膨大な知識が嬉美の頭に叩き込まれる。
『強烈な衝撃を放つパンチ。攻撃を受けても動じない異常なタフネス。カラフルな謎の煙幕。精神干渉を跳ね除ける力。削板軍覇の能力は多岐にわたる現象を引き起こすが、全ては単なる応用に過ぎない。その能力の本質は別にある』
(なん、だって……?)
『
(……何なんだ。コイツの能力の正体は──⁉︎)
客観的には一瞬で。
体感としてはゆっくりと。
継雲雷糸の言葉が脳髄に刻まれる。
『
それが、
説明不能、理解不能、定義不能の力。
学園都市の研究者からも匙を投げられ、一切の応用研究ができないが故に第七位に定められた。
『
ある意味、それは『
『
もちろん、二つの能力には違いがある。
『
一方、『説明できない力』は物理法則に与える影響すら説明できない。同じ状況でも同じ効果が起こるとは限らず、その変化は常に能力者の
『割るゼロの答えは削板軍覇が自由に決められる。彼がパンチの衝撃が大きくなると考えればそう変化し、幽霊からのダメージは小さくなると考えればそう変化する。
(反則だろっ、そんなモン⁉︎)
『ま、実際はそう万能なものでもないのだろうけど。削板軍覇は「原石」──天然の異能者で、彼の「
ただし、根性があればできる(と削板軍覇が考える)範囲、なのだが。
それでも、本来の実力には到底及ばない。
削板軍覇が自らの能力を自覚して振るっていたのなら、戦うという形すら成り立たなかった。
だが、現状の削板軍覇は無自覚に力を発揮するのみ。衝撃の増幅、ダメージの軽減、
『いいかい、嬉美。彼の現実改変は根性という軸で成り立っている。ぼくが知る限り、彼の弱点はそこにしかない』
(──持久戦に意味はねェな)
継雲雷糸からのアドバイスを読み込んで、春暖嬉美はそう決意した。
(雷糸の知識が全て正しいとは限らねェ。あいつもこれは考察だって言ってたからな。けど、削板軍覇にオレの能力が通用しないのも確かだ。時間をかけた所でそれが変わるとは思えねェ)
だから。
春暖嬉美は一撃に全てを賭ける。
「これがオレの
瞬間、白い炎が爆発した。
視界全てを覆い尽くす白の閃光。
アスファルトの地面すら溶かす莫大な熱量。
しかし、削板軍覇はそれを受けてもなお笑う。
「知らねえのか、根性なし! 根性あれば火もまた涼しって言葉を‼︎」
ダメージを受けない所の話ではない。
彼が身に纏う服すら燃えない鉄壁の防御。
削板軍覇が根性で耐えられると判断した時点で、『説明できない力』は炎をそのように改変したのだ。
「根性の正しい使い道を教えてやるぜえ‼︎」
握った拳を、ただ前に突き出す。
それだけだった。
しかし、目の前の光景を見て、削板軍覇は眉をひそめた。
「まだ消えねえか。一発でカタをつけられねえたあ、オレもまだまだ根性が足りてねえなあ」
火を吹き消したのは確か。
だが、消えかけた火が一瞬だけ光を増すように、明らかに炎の勢いは増していた。
無論、その炎が削板軍覇に通用する事はない。
それでも、彼は純然たる善意によって消火を決めた。
再び、拳を前に突き出す。
今度はより強い根性を拳に込めて。
先ほどのすごいパンチを超える、もっとつよいパンチを放つため。
まさに、その瞬間だった。
(骨を打ち砕いた感触! やっぱりオマエの弱点はそれか‼︎)
春暖嬉美。
彼女の右手が削板軍覇に突き刺さる。
根性で耐えられると思った攻撃は効かない。
一見、無敵の防御にも見えるそれ。
だが、逆に言えば、
炎は単なる目眩し。
本命の攻撃は別にあった。
アスファルトを溶かして地面の摩擦を減らし、炎の翼で背後の空気を膨張させて加速。
アイススケートのように地面を滑走した春暖嬉美は、瞬間的に音速を超えた。
ビキビキビキビキィッ‼︎‼︎‼︎ と。
春暖嬉美の右手がぐちゃぐちゃになる。
音速で拳を叩きつけたのだから当然の結末。
だが、構わない。春暖嬉美は痛みを無視する。
(後先の事なんか考えてられねェ。たとえこの右手が二度と使い物にならなくなったとしてもッ、この一瞬にオレの全てを出し尽くす‼︎)
ゴキィッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
春暖嬉美は拳を振り抜いた。
骨の砕ける音。それは削板軍覇のものか、それとも自分自身の腕か。
どちらでもいい。どうだっていい。重要なのは一つだけ。
確実に、戦闘不能のダメージを与えられた。
……その、はずだった。
「
顎が砕けた、脳が揺さぶられた。
その程度で意識を失うほど、削板軍覇は根性なしではない。
『説明できない力』の効果もあった。
音速の拳を削板軍覇の目は捉えていたのだ。
常識を逸した素の動体視力で音速の拳を視認し、拳が着弾すると同時にダメージをギリギリの所で軽減した。
「がっ、ばァ⁉︎」
メキメキメキメキっっっ‼︎‼︎‼︎ と。
反撃の拳が春暖嬉美の腹にめり込む。
明らかに人間の腕力を超えた一撃。
内臓か、骨か。
あるいはどちらもが粉砕される。
吐き出された息に血の味が混ざった。
「くそっ、たれェ……‼︎」
春暖嬉美に為す術はない。
同じ奇襲は二度と通用しない。
全ての攻撃手段は削板軍覇に認識された。
どんな攻撃をしようが『説明できない力』がダメージを削り取る。
もはや勝敗は決した。
どう足掻いても勝ち目はない。
というか、これ以上足掻けるだけの気力はない。
「ッッッぁぁあああアアアアアアアアアっ‼︎」
何も考えちゃいなかった。
勝てるとは思わない。
通用するとは思えない。
でも、それでも。
足りない分は根性でカバーするしかない!
「オレが倒れたらっ、次は雷糸の番だろうが! 負ける訳にはいかねェんだよォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎」
再び、春暖嬉美は拳を振るう。
音速からは程遠い、鈍すぎる一撃。
削板軍覇にはそれが止まって見えた。
(能力すら使わねえ。満身創痍で指一本動かすのすら苦痛なはずだ。そんな状態の癖に、学園都市第七位の
呆然と。
削板軍覇は呟いた。
「……
『説明できない力』は根性という思い込みに補強される形で世界を改変する。
根性があればできる程度の事なら何でもできる。根性があれば耐えられる程度の攻撃なら何でも耐えられる。
しかし、逆に言えば、
削板軍覇は春暖嬉美の根性を認めた。
この瞬間においては自分の方が間違えていて、自分の方が根性なしだったと。
春暖嬉美は削板軍覇の能力には勝てなかった。
だが、彼女の根性が削板軍覇を上回ったのだ。
「……なに、が?」
残されたのは、不思議な顔で首を傾げる春暖嬉美だった。