食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第三章中編ラストです。




第五四話 生存不能の盤面 The_Leftovers.

 

 

「勝った、のか……?」

 

 呆気ない幕切れ。

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)の拳は、削板軍覇(そぎいたぐんは)を吹き飛ばした。

 

 殴った張本人でさえ納得できない結末。

 だが、『説明できない力』を扱う原石との戦いの決着と考えれば、終わり方が理解できないくらい当然なのかもしれない。

 

 嬉美は頭を無理やり切り替える。

 逡巡している暇はない。

 削板軍覇はこの事件の黒幕ではないのだから。

 

雷糸(らいと)の……所へ──」

 

 そう言って、転移した結標淡希(むすじめあわき)に電話をかける。

 まさに、その瞬間の事だった。

 

 

 ()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……っ、ぁ」

 

 使い物にならない右手。

 傷ついた内臓や骨。

 春暖嬉美の体は既に満身創痍だった。

 

 生きているだけマシ。

 動けているのは奇跡。

 そんな状態で戦えたのは理解ができない。

 

 遠のく意識、歪んでいく視界。

 その中で、嬉美の聴覚はあるモノを捉えた。

 

「…………、」

 

 カツン、と。

 誰かの靴が地面を叩いた、そんな()()を。

 

 

 

 

「ここまで来たら、流石にもう安全……だよな?」

 

 浜面仕上(はまづらしあげ)は不安そうに呟いた。

 二人の超能力者(レベル5)の激突から逃げるため、彼らは結標淡希(むすじめあわき)の『座標移動(ムーブポイント)』によって転移していた。

 

「そうね……追いつけないと思うけれど、念のためもう少し離れましょうか」

 

 吐き気を堪えるような顔で、結標淡希はそう言った。

 浜面仕上は思わず慌てる。相手が大能力者(レベル4)とは言えど、病人のような顔色の少女に鞭打って働かせるつもりなど毛頭なかったのだ。

 

「お、おい。無理すんなよ。アンタ、真っ青だぞ……?」

「問題……ないわ。春暖さんから任されたのだもの。これくらいのトラウマ、なんてこと──」

「なおさら無理すんなって! アンタの能力が俺達の切り札なんだ。いざって時に使えねえんじゃ話にならねえぞ」

「……そう。なら、少し休ませて貰うわ」

 

 結標淡希はしばし高架下の地面に体を預ける。

 そんな彼女を仲間達は心配そうに見つめ、結標淡希の負担を減らすために率先して周囲の警戒を買って出た。

 

 ふと、浜面仕上は思う。

 今まで、能力者というモノを毛嫌いしてきた。

 だが、こうやって直接関わってみると──

 

「スキルアウトの自分達とあまり変わりないな……って思っているね」

「うおっ⁉︎」

 

 耳元の囁きに飛び退く。

 甘い蜂蜜のような匂いが香る。

 振り向くと、無表情で継雲雷糸(つくもらいと)が浜面を見つめていた。

 

「ま、まさか……読心したのか⁉︎」

「能力を使わなくても、きみの顔に書いてあるよ」

 

 ぺたぺた、と浜面は自分の顔を触る。

 側から見るとマヌケな絵面だった。

 

「ま、きみ達はこれから『自警団(レベルアウト)』の一員として共に活動するんだ。人となりはゆっくり知っていけばいいさ」

「……ガチなんだな、その話。スキルアウトが能力者と肩を並べて戦うなんて……」

「嫌かい?」

駒場(こまば)さんは乗り気だったよ。半蔵(はんぞう)も、戦略として正しいって。……でも、俺は」

 

 それ以上、言葉を紡ぐ事ができない。

 だって、気付いてしまう。

 スキルアウトになった理由。浜面仕上はそれをこの街のせいにしていた。能力者に責任を押し付けていた。

 言い訳を重ねて、他人のせいにして、自分は悪くないって自己欺瞞を繰り返していた。

 

 でも、だけど。

 本当は、心の何処かで分かっていたのかもしれない。

 

(……能力者だって普通の人間だった。俺がスキルアウトになったのは誰かのせいじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 浜面仕上は何も言えなかった。

 口を開くと、言葉が漏れてしまうから。

 何も悪くない、自分の手で傷つけた少女に対して、思わず当たってしまいそうだったから。

 

 継雲雷糸は迷った。

 何か言葉をかけてあげたい。

 でも、老人(かれ)の魂が消えた今、果たして人生経験のない自分に少年を救う言葉を与える事はできるのだろうか。

 

 分からない。

 分からないまま、口を開いた。

 

「あの、さ──」

 

 

 ──()()()()()()()()()

 

 

 ()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 少年少女話の視線が集まる。

 路地の奥。闇に浮かぶ何者か。

 

 看護師。服装だけ見れば、そうなる。

 だが、目が合っただけで分かった。

 目の前の女性は、『命を救う者』とは正反対の存在であると。

 

 胸の名札にはただ『恋査(れんさ)』とだけあった。

 苗字かも名前かも分からない字面。『窓のないビル』の案内人を務める結標淡希でさえ聞いた事のない名前。

 だが、それだけで継雲雷糸の喉は干上がった。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「みんなッ、気を付け──」

 

 だが、その警告は。

 あまりにも遅すぎた。

 

 

「確保完了。って事で、あたしも帰ります」

「──────は?」

 

 

 ()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

「コイツっ、私と同系統の能力者……⁉︎」

 

 結標淡希が悲鳴のように叫んだ。

 そして、固まっていた時が動き出す。

 風、念力、電撃。能力者達がそれぞれの能力で攻撃を始める。

 

 たとえ空間移動(テレポート)系統の能力者でも、能力を使ってすぐに逃げ場のない攻撃を受けて無事でいられる訳ではない。

 結標淡希という最強の空間移動(テレポート)系能力者を知っているからこその素早い判断。数多の能力による飽和攻撃が恋査を擦り潰す。

 

 その、寸前。

 

「ダメだ! きみ達じゃあ勝てない‼︎」

 

 

 ジャガッッッ‼︎ と。

 複数の金属が擦れるような、そんな奇怪な音を少年少女は耳にした。

 

 

(な、ん……っ⁉︎)

 

 最も最後方で逃げようとしていた浜面だったからこそ、その全体像に誰よりも早く気付けた。

 彼は恋査の背中から得体の知れない何か──メタリックな赤の巨大な花と、おしべやめしべのようにも見える銀色の金属棒が多数飛び出すのを目撃する。

 

 浜面はシルバークロース=アルファの遺産──異型の駆動鎧(パワードスーツ)を思い出す。

 だが、本能的に思った。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 体感的にスローモーションになった景色の中で、浜面はその一部始終を視界に捉える。

 数多の能力が恋査に接触する。その瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「おっ……ぶお⁉︎」

 

 冗談抜きに呼吸が止まる。

 最後方にいた浜面でさえそうだったのだ。

 真正面でその衝撃を受けた能力者達は、誰一人として意識を保っていなかった。

 

 能力者の中で唯一意識を保っていたのは結標淡希。

 それは偶然でも奇跡でもない。結標淡希は攻撃に参加しなかった。故に、彼女が反撃を受けなかった。

 そこから導き出されるのは目の前で起こった現象のカラクリ。呆然と、結標淡希はその絶対防御の正体を呟いた。

 

 

「は、『反射』ですって……⁉︎」

 

 

 即ち、学園都市第一位の超能力者(レベル5)

 一方通行(アクセラレータ)が有する能力である。

 

 工業的に超能力(レベル5)を再現したとか、同じように見えるだけで別の能力だとか、そんな風に語られる紛い物ではない。

 それは正真正銘、あらゆるベクトルを操作して攻撃を跳ね返す無敵の防御だった。

 

「さて、これで終いですね」

「──当然、貴様を逃す訳がない!」

 

 継雲雷糸の胸元──ケルト十字の形をしたアウレオルス=ダミーは叫んだ。

 完全なる奇襲。至近距離から音速で放たれた塩の杭に恋査は反応できない。

 

 ()()

 

 

 ()()()()()! ()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ゴキリ、と塩の杭を防ぐ何か。

 それはアウレオルス=ダミーにも見覚えのあるモノ。純白の翼──学園都市第二位の『未元物質(ダークマター)』であった。

 

「ッ、押し流される⁉︎」

 

 白の奔流。

 アウレオルス=ダミーが『瞬間錬金(リメン=マグナ)』により物質を塩に変換する以上の速度で、恋査は『未元物質(ダークマター)』を精製し続ける。

 単純な物量差。故に、その勝敗は覆せない。塩の杭は容易くへし折れ、十字架のチェーンは千切れ、アウレオルス=ダミーは吹き飛ばされる。

 

夢幻能力(デイドリーム)──ぐアっ⁉︎」

「残念。あたしには効きませんよ。なんせ、あたしは脳の大半すら機械で代用しているサイボーグなんでね」

「サイボーグ……能力コピーのトリックはそれね。貴女が特別な能力者なんじゃない。能力者と同じ人体配線を瞬時に作り上げている‼︎」

 

 例えば、掌から炎を出す能力者がいたとして、その能力者と全く同じ手を作り出せば同じように炎を出させる事ができる。

 クローンがオリジナルと同じ能力を持つように、ニセモノだってホンモノの能力を再現できる。

 ある意味、魔術の『類感』にも近い。かつて木原幻生(きはらげんせい)がとある少女から能力を引き出すのに用いた理論であるが、目の前の存在はそれ以上に最悪だ。

 

 背中の『編み棒』を数値制御する事で、糸を引っ張るような形で人体配線の設計図を変更し、能力者の特徴を切り替える。

 その結果、恋査というサイボーグ自体がもう一つの体として超能力者(レベル5)の『噴出点』になるに至ったのだ。

 

「正解です。現状、あたしは第一位から第六位までの超能力者(レベル5)と、半径二〇〇メートル以内の任意の能力者から自在に能力を引き出す事が可能となっています。……解析不能の第七位とサイボーグ自体に不具合を生み出す第八位の再現は不可能ですが、それは他六人分の性能(スペック)でゴリ押しすれば撃破できるでしょうし」

 

 結標淡希は頭を抑えてふらついた。

 だって、それでは勝ち目なんてない。

 敵は全ての超能力者(レベル5)を再現できる上、結標淡希の『座標移動(ムーブポイント)』さえ兼ね備えた怪物なのだから。

 

(ごめんなさい、春暖さん。私じゃあ守れなかった……‼︎)

 

 唇を噛み切る。

 もはや、結標淡希に許された足掻きは数少なかった。

 

「浜面……と言ったかしら」

「なん、なんだ……?」

「悪いけれど、()()()()()

「は────」

 

 瞬間、浜面仕上は消えた、

 結標淡希の『座標移動(ムーブポイント)』が彼を逃したのだ。

 

「誤差が一つ。ですが、予定を修正するほどの誤差ではありませんね」

「さて、どうかしら」

「どうもなりませんよ。強力な能力を持たない子供は、この街では何の運命も変えられない。()()()()()()()()()()()()()()

 

 直後だった。

 超能力(レベル5)に認定されたかもしれない少女と、全ての超能力(レベル5)を再現できる怪物の激突があった。

 

 

 

 

 そして。

 

「あ、ああ」

 

 路上に一人の少年が転がる。

 何の力も持たない。誰よりも恨んでいた能力者に救われた、どうしようもないクズ野郎が一人。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ‼︎‼︎‼︎」

 

 最悪の盤面。

 そこに残ったのは、力強い能力者ではなく。

 特別な頭脳を持った天才でも、優しいヒーローでもなく。

 

 

「俺がっ、俺に何をしろってんだよ……っ‼︎」

 

 

 何処にでもいる凡人。

 道を踏み外したスキルアウト。

 ──浜面仕上だった。

 

 






これは全然意識した事ではありませんでしたが、結果的に各章で三主人公がメインを張る事になりましたね。

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