生存報告。
取り敢えずキリの良いところまでは終わらせたい気持ちはあるので信じてください。
「学園都市ちゃんでは……ない?」
そう呟いたのは金髪色白の美少女サローニャ=A=イリヴィカ。
天使を召喚した儀式場を再現しようとした彼女は、その事実にようやく気付いた。
「儀式場はここじゃない! もっと別の場所にある‼︎」
「……確かに、魂の移動は三次元上の座標には関係ありません。理論上、何処が儀式場であろうと地球の何処にでも天使の魂を召喚できるのでございます」
サローニャの言葉にローマ正教の
彼女が三大宗派からかき集めた資料が、サローニャの突拍子もない発言の裏付けとなる。
「パルツィバルちゃん! 学園都市に投入した天草式を引き上げなさい!」
「了解した。だが、どうする? 他に手がかりなど──」
現代的な銀の全身鎧を纏った騎士、パルツィバルの言葉は遮られた。
「動いた!」
白と黒の派手な服装を纏った魔術師、ヴィース=ワインレッドは叫ぶ。
彼女達の役割は天使の監視、そして足止め。今までは空に浮かぶ天使を眺めているだけの仕事だったが、突如動き出した天使を前にしては、こちらも対応せざるを得ない。
「いやあ、ホント。貧乏籤だねえ…………あんなのを相手にどうしろってんだい」
肢体を拘束服で締め付けた歩く一八禁、スクーグズヌフラは諦めたように呟いた。
夜でも星が見えない学園都市──
頭上には巨大な蒼い月。
星も、月も、空模様も、何もかもが一瞬で書き換えられた。
即ち、
「
現代的な銀の鎧を纏った騎士。
学園都市郊外のオルソラ教会にて儀式場の捜索を行っていたはずのパルツィバルは、どういう訳か学園都市にも存在していた。
「私は騎士だ。馬に乗って助けを求める人のもとへ駆けつけ、その槍と盾で無辜の民を守り抜く。神秘を探究する魔術師でも、神を信仰する修道女でもない。天使に敬意はあれど──人を守るためならば、私は神の敵にだって成り果てよう!」
銀の騎士は弓を構える。
全長八〇センチはある巨大な弓だった。
矢はない。
「どうして弓使いの私が『
騎士が
紅蓮に光り輝く、神殺しの雷光。
「答えは単純──
聖槍。
即ち、
天使を殺めるに相応しい一撃が蒼き人型を射抜く。
だが、それ止まり。
「ダメよ! オリジナルたる
「いいや。ニセモノだからこそ意味がある」
瞬間、光が迸る。
天使に突き刺さった槍をアンテナとして、
「召、喚……? あなたまさかっ、天使から直にテレズマを引きずり出してるってえのか⁉︎」
「
「ふ、不可能よ……」
スクーグズヌフラの問いにパルツィバルはさも当然のように答えた。
だが、誰よりも召喚術に詳しいヴィース=ワインレッドはそれを否定する。
「そんな莫大なテレズマっ、人間に耐えられる訳がない! 聖人でもないと……いえっ、聖人でも不可能だわ!」
「そうだな。だが、何も私一人で受け止めねばならない訳ではないだろう?」
「な、に……?」
「歴史上、聖槍は世界各地で見つかっている。つまり、偽造だな。誰も彼もがニセモノを聖槍だと言い張っているのだ。あれら全てが本物であるのなら、神の子は一体何度槍に刺されたというのやら。本物の聖槍は見つからず、偽物の聖槍ばかりが量産される。──私はその伝説を逆手に取る。
テレズマが分散し、世界中に無数に量産された聖槍へと力が流れる。それはパルツィバルの分身を実現するのと同じ魔術だった。
一人にして集団戦。
まさしくローマ正教のスタンダードを単独で成し遂げていた。
「……だが、引きずり出せたのは表層のみか。翼の数は減れど、天使本体には傷一つない」
「足止めには十分だわ。それにこの程度なら──」
ズバン! と天使の翼が音速で動いた。
氷細工で出来た孔雀の羽にも、水晶を荒削りにして生み出した剣山のようにも見えるそれが、世界全てを切り裂くように。
しかし、ヴィース=ワインレッドは不敵に笑う。
「──それ、私の専門なのよね」
翼が、僅かに逸れた。
元よりヴィース=ワインレッドは即席で召喚したテレズマに、後から指向性を持たせて操る速攻魔術の専門家。
テレズマを逸らす事にかけては彼女以上の魔術師などいない。
そして、それだけではない。
ヴィース=ワインレッドだけでは今の攻撃は逸らせなかった。
「──月、青、夜、水。なるほど、『神の力』か。そりゃあ私との相性は最悪って訳だねえ」
スクーグズヌフラの援護もあった。
『神の力』は聖母マリアに処女懐胎を行わせた天使。
かの力には処女性が宿り、逆に処女性のないモノにその力は宿せない。彼女はそこを逆手に取った。
性魔術。
処女性とは真逆の魔術で周囲一帯から処女性を剥奪し、『神の力』を弾く性質を与えた。
通過儀礼としての張型など、性行為をせずとも処女性を剥奪する風習など世界各地何処にでも存在する。スクークズヌフラはその儀式を利用して魔術を使った。
「さて」
そして、ここまでやっても勝ち目は見えない。
そもそもの話、人間では天使に勝てない。
それを分かっていながら、パルツィバルは堂々と胸を張る。
「時間を稼ぐぞ。この迷子の天使が、誰も傷付けなくて済むように」
「オレ達は天使墜落には関与しない」
「ほ、本気か⁉︎」
金髪グラサンの少年、
「今まさに学園都市は崩壊の危機に瀕しているんだぞ⁉︎」
「それで、助けに行ってなんと自己紹介するつもりだ? オレ達は科学の街に潜んだスパイだぞ。下手すれば、オレ達の存在自体が戦争の引き金に成りかねないんだぞ」
「…………っ‼︎」
彼らは『グループ』。
科学サイドに潜む魔術サイドのスパイ。
二つの世界の境界が曖昧な今、彼らをキッカケとして摩擦が悪化すれば、それは戦争の始まりと同意義だ。
「……学園都市を見捨てろと言うのです?」
「いえ、彼はこう言いたいのでしょう。自分達の敵を見失うな、と」
ビキニの上からピンク色のパーカーを羽織ったUFO少女、
土御門元春とて鬼ではない。というか、そもそも妹が暮らす学園都市の危機にこの男が立ち向かわないはずがない。
故に、土御門の考えは単純だった。
「
天使墜落と全く同時。
学園都市の危機が迫っていたのだ。
「魔術師ってのは個人主義だ。学園都市の危機だの、世界の危機だので揺らがない。ヤツらは隙を見出せば必ずつけ込んでくる」
「それで自分達の出番だという訳ですね」
「スパイの発覚が戦争の引き金になるのと一緒だ。今の両サイドの関係じゃ、魔術師が侵入した
深い、暗い、闇の中。
学園都市でもう一つの戦いが起ころうしていた。
「儀式場はここよ」
『
何の変哲もない、魔術のまの字もないようなありふれた日常の一角。
「……貴様、本気で言っているのかね?」
「あら。天草式にも確認してもらったけれど、それでも疑いは晴れないのかしら」
「ふざけた話だ。偶然の一致が世界を滅ぼすなど」
リチャード=ブレイヴは怒りと共に吐き捨てる。
天使墜落。世界の危機。その発端には、黒幕が考えた計画といった大層なものは存在しなかった。
偶然。
たまたま海外のお土産を集めるのが趣味の男が揃えた曰く付きの物品が、たまたま大儀式を再現するような配置で置かれていた。
たったそれだけの事が、世界を滅ぼしかけていたのだ。
「……術式の解除は困難だ。そも、下手に触ればまた別の大魔術が発動するようになっている」
「なら、力押しかしら?」
「ああ。この民家丸ごと吹き飛ばす。スマートではないがね」
既に民家を取り囲むようにルーンは巻いた。
天草式に手伝わせた結果、リチャード=ブレイヴの想定以上となった火力が彼の剣にはある。
だが─────
初めに気付いたのはオリアナ=トムソンだった。誰よりも薄着な彼女だからこそ、誰よりも早くその
「寒気……? …………っ、まさか!」
この民家の持ち主が生み出してしまったのは、失敗が存在しない魔法陣。
どんな配置、どんな形に変わろうとも、何らかの
『
そうとさえ思えるような魔法陣が今、目の前で組み上がってしまった。
「『
逡巡の暇はなかった。
リチャード=ブレイヴの叫び。それが響くよりも早く、絶対零度の吹雪は魔術師達を呑み込む。
世界崩壊までのタイムリミットは着々と進んでいた。
「まだだ。世界が救われるにはまだ早い」
アレイスター=クロウリーはそう言って笑った。
そもそもの話、いくら失敗が存在しない魔法陣とはいえ、何も触っていないのに自動で術式が切り替わる事はない。
(
『
本来、魔法陣を『
だが、世界を氷と冷気で包めば別だ。
『神の力』と相性の良い水や夜に包まれた星は、それそのものが天使を縛り付けるに足る『場』となる。
天使の魂を降ろす事はできずとも、既にある天使を維持する事くらいは容易い。
「──さて、継雲雷糸。お前と世界、くたばるのはどちらが先だと思う?」