食蜂操祈のニセモノ   作:大根ハツカ

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第五二話及び第五六話の《原作キャラ紹介コーナー》を更新しています。ヒーロー達の情報更新です。




第五七話 超能力者の偽物 LEVEL_5(Imitation).

 

 

 第一位VS第八位。

 春暖嬉美(しゅんだんきみ)は最悪の恐怖と直面する。

 

(どォする⁉︎)

 

 敵は第一位の能力を再現したサイボーグ。

 『幽霊』の攻撃では、第一位の『反射』は突破できない。

 

「行きます」

「ッ!」

 

 逡巡する春暖嬉美には構わず、『恋査(れんさ)』と書かれた名札を付けたサイボーグは真っ直ぐに突っ込んできた。

 そこには何の恐れもない。学園都市最強の超能力(レベル5)は無敵だと信じるが故の行動。

 

 軽率な行動に見えるが最適解。

 最強の能力は、何も考えずに暴れるだけで相手を封殺できる。

 

不知火(しらぬい)ッ!」

 

 春暖嬉美は咄嗟に叫んだ。

 少女の声に応えるように、白き幽霊はその手を振るう。

 瞬間、

 

 カッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 視界は白に塗り潰される。

 

 目を眩ませる莫大な閃光。

 『無限動力(ホワイトホール)』を光エネルギーとして放出した。

 

(第一位の『反射』はあらゆる攻撃を防ぐが、面と向かい合って会話ができているのなら光や音は素通りなんじゃねェのか。雷糸(らいと)にも幻覚が効いたっつゥ話を聞いた覚えが──)

「────光ならば『反射』を無視できると思いましたか? まさか。『最強』というのはそれほど甘くありません」

 

 当然のようにサイボーグは話す。

 直視すれば失神すらあり得る光量。

 それを受けてもなお、敵は無傷。

 

「第一位はベクトルを種類ごとに『反射』しているのではなく、生活に必要な最低限のベクトル以外の全てを『反射』しています。光量が一定以上になれば、光のベクトルは自動的にシャットダウンされますよ」

「逆に言えば、目眩し自体は成功している。そうだろう?」

「────なッ、」

 

 ドッッッボッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 コンクリートの地面が熔けて、サイボーグの少女は地下へ落下する。

 

 春暖嬉美とて閃光だけで第一位を仕留められると驕ってはいない。

 無論、次善の策は既に用意している。

 

「オマエの『反射』は生活に必要な最低限のベクトルは通り抜ける。つまり、最強無敵の第一位にだって『反射』の内側じゃ生きられねェって事だろ? 例えば──()()()()()()()()()()()?」

 

 『反射』の内側に通る攻撃ではない。

 『反射』の外側から酸素をなくせばいい。

 

 炎が酸素を食い尽くした地中に、サイボーグの少女を封じ込める。

 酸欠によって第一位を攻略する。

 

 事実、本物(オリジナル)の第一位とて酸欠には弱い。

 それ単体で第一位を追い詰める事はできずとも、必ず何らかの対応をさせる一手──

 

 

()()()()()

 

 

 ───その、はずだった。

 

「ぁ、っ⁉︎」

 

 メキョッ‼︎ と。

 サイボーグの蹴りが春暖嬉美の腹にめり込む。

 

 サイボーグの少女は対応すらしなかった。

 炎も酸欠も諸共せず、平然とした顔で跳躍して地下陥没を抜け出した。

 

本物(オリジナル)の第一位ならもう少し時間を稼げたかもしれません。ですが、あたしは全身の大半を機械に置換したサイボーグ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 第一位と同じ能力を持つ敵なのではない。

 第一位から第六位までの超能力(レベル5)とサイボーグの性能を有した怪物。

 サイボーグの肉体には、脆弱な人間であるが故の弱点がない。

 

「ご、ァ」

 

 骨か、内臓か。

 体の内側が傷ついた感覚。

 黒っぽい血が口から溢れる。

 時間経過で治るとはいえ、春暖嬉美は体が痺れて動けない。

 

 見誤った。失敗した。

 倒れ伏せる春暖嬉美を、サイボーグの少女は見下ろす。

 

「……どォして、トドメを刺さねェ」

 

 サイボーグの少女は見下ろしたまま止まる。

 それが不思議で仕方がなかった。

 今すぐにでも──あるいは足が触れた瞬間だって、第一位の能力を使えば人一人を殺す事なんて容易かったはずなのに。

 

 しかし、サイボーグの少女はこう告げる。

 

「先生の命令です。あたしは勝っても負けてもいけない。()()()()()()()()()()()()()

「…………なん、だって?」

 

 一瞬、聞き間違えかと思った。

 だが、続く言葉が勘違いを許さない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「すぐ終わっちゃツマラナイ。そんなの、恐怖でも何でもないものね」

 

 薬味久子(やくみひさこ)は得意げに笑う。

 継雲雷糸(つくもらいと)に向かって、自らの成果物を見せびらかすようにして。

 

「恋査ちゃんには私の目的を、『ゴースト』──継雲雷糸の思想を撲滅する事だと伝えているわ。単に殺すのは簡単。だけど、殺す側にも思想が蔓延する危険性があるからこそ、ヒーローとの共倒れを目指すってね」

「……ま、さか」

「でも、ヒーローは役立たずになっちゃったものね。じゃあ問題。困っている私を見て、優しい優しい恋査ちゃんはどうしてくれたのでしょーか?」

「子供の背中を押したのかッ! ()()()()()()()()()()()‼︎」

「いひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ‼︎ だぁーいせぇーかーいっ‼︎‼︎‼︎」

 

 嘘、嘘、嘘、嘘、嘘。

 思想の撲滅だなんて真っ赤な嘘に過ぎない。

 

 薬味久子の目的は春暖嬉美に恐怖を与える事。

 すぐに殺すのではなく、時間をかけて絶望させるためだけに、サイボーグの少女に対して共倒れという選択肢を見せつけた。

 

 殺人教唆で、自殺教唆。

 悪意に塗れた嘘が、少女を突き動かす。

 

「これが私の悪意。これが私の思考パターン。さあ、私を心を学んでちょうだい、春暖ちゃん」

 

 

 

 

 

「オマエッ、そんな事を平然と子供に命令できるヤツをどォして先生だなんて敬ってやがる⁉︎」

 

 春暖嬉美は知っている。

 本当の大人とはそんなんじゃない。

 

 生まれ変わっても子供を守ろうとするバカ。

 相手がどんなヤツだって命を救う医者。

 『暗部』に潜り込んでも子供を救おうとした研究者。

 

 クソったれな大人だっている。

 学園都市の闇を少女は忘れていない。

 だけど、本当の大人とは──先生と敬うべき人物とは、自分は安全地帯でふんぞりかえって子供を戦場に送り出すような輩ではない!

 

「オマエだって分かってんだろ⁉︎ どォ考えても騙されてんじゃねェか! オマエの言う先生とやらはロクなヤツじゃねェ!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 少女の返答は冷静だった。

 サイボーグの少女にだって心当たりはあるのだろう。

 騙されている、操られている、良いように使われている。……そんなの、とっくに分かっている。

 

 でも、それでも良いと思った。

 だからこそ、サイボーグの少女は声一つ荒げる事なく話す。

 

「……あたしは、『発火能力(パイロキネシス)』の異能力者(レベル2)だったんですよ。それで……子供の時は周囲に比べて強度(レベル)が高かったから、いつかは超能力者(レベル5)になるんだって思ってて、」

 

 『発火能力(パイロキネシス)』、異能力者(レベル2)

 身に覚えのある人物紹介(プロフィール)

 あるいは精神攻撃を意図したのかとさえ疑う。

 それは、春暖嬉美の親友──白絹仄火(しらきぬほのか)と同じ能力だった。

 

「でも、そうはならなかった。あたしはずっと異能力(レベル2)のまま、役立たずのあたしのまま変わらない。そんな時、知っちゃったんです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…………っ!」

「耐えきれなかったんです、もう。自分の同じ年の……見下していた無能力者(レベル0)の子が自分より上に昇っていくのを見て、あたしはもう耐えられなかった」

 

 耐えられなかった。

 その次に続く言葉を、春暖嬉美は理解してしまった。

 

 

()()()()()()()

「────────、」

 

 

 息が、止まる。

 これまで何度だって、春暖嬉美に恨みを抱いた者を見てきた。

 

 春暖嬉美のせいで虐めが苛烈になったと言う、浜面仕上(はまづらしあげ)達スキルアウト。

 春暖嬉美がいる限り自らの人生が否定されてしまう、結標淡希(むすじめあわき)のような高位能力者達。

 

 だが、目の前にいるのは違う。

 恨みを抱いている訳ではない。

 少女の目に浮かぶのは諦観と絶望。

 これが春暖嬉美のせいで死んでしまった者。

 

 くらり、と眩暈がする。

 目の前の少女の姿に、白絹仄火の顔が重なる。

 

「はは。結局、それも上手くいかなかったんですけどね? あたしは自殺だって上手くやれない。ギリギリで躊躇ったのがダメだったんですかね。結果は全身不随の植物状態。生きる事も、死ぬ事も、一人では何もできない。あたしはほんと何もかも中途半端で──でも、先生が助けてくれたんです」

「…………、」

「先生が本当は悪人だとか、あたしの事を何も考えていないとか、……そんなのはどうだって良い。あの日の優しさが全部ニセモノでも、あたしが救われた事に嘘はないから」

 

 彼女は春暖嬉美と同じだった。

 心が折れて、立ち上がれなくなって。

 その時、大人に出会った。

 

 春暖嬉美にとってはそれが継雲雷糸で。

 彼女にとってはそれが、薬味久子だった。

 違いはたったそれだけ。

 

「オマエ、名前は?」

「……人皮挟美(ひとかわはさみ)。覚えなくて良いですよ。どうせ誰の記憶にも残らない、どうでもいい異能力者(レベル2)の事なんて」

 

 きっと、少女の名前なんて誰も知らない。

 クラスメイトだって覚えていない。

 誰も彼もが忘れ去る、どうでもいい群衆(モブ)の一人。

 

 だけど、少女は確かにそこにいた。

 誰にも見向きされてなくても。

 今、春暖嬉美の最大の壁として立ちはだかっている。

 

「……ああ。分かった、オレも腹を括る。オマエを超える。超えなきゃ、雷糸は救えねェ」

 

 春暖嬉美は拳を握りしめる。

 サイボーグでも超能力(レベル5)の再現でもなく、目の前にいる少女こそが最大の敵だと認めて。

 

「それはオレが望む結末(みらい)じゃねェ‼︎」

 

 

 

 

「ふふふ、ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ! 来た、キタキタキタキタキタキタァ!」

 

 笑う。嗤う。嘲笑う。

 AIM拡散力場の不可解な動きを感じて、薬味久子は楽しそうに声を上げる。

 

「イイ! イイわよ春暖ちゃん! 恐怖を回避するために歪に奇怪に進化をするのよ! さあ! AIM拡散力場に私の思考パターンを入力して! 私を風斬氷華(かざきりひょうか)に生まれ変わらせて‼︎」

 

 街が蠢く。

 空気がうねる。

 AIM拡散力場が脈動する。

 

 新たな生命の誕生を喝采するように。

 AIM思念体──風斬氷華の生成が始まる。

 

「さあ! さあ! さ──────あ?」

 

 ()()()

 

 笑い声は止まった。

 自分でも不思議そうに、薬味久子は首を傾げる。

 

「なに、が?」

 

 なにか、おかしい。

 名状し難い違和感に襲われる。

 この『流れ』は、違う。

 薬味久子が望んでいるモノでは、ない?

 

「──教えてあげよう。きみの理論には、一つ穴がある」

 

 余裕の崩れた薬味に、少女は語りかける。

 継雲雷糸。様子を伺っていた彼女は、最初からずっと()()に気が付いていた。

 

「虐待を受けた子供が親の顔色を伺うように、恐怖を回避するために人は恐怖を与える者の思考パターンを習得する。……確かに、そういった面もある。けれど、それは逃げ場がないという仮定の元だ」

「逃げ場なんてないでしょう? あなたは此処で囚われのお姫様をやっているのよ。春暖ちゃんはあなたを置いて逃げられない!」

「逃げ場っていうのは比喩さ。物理的に逃げられなくても、人には精神的な逃げ道がある。親に虐待された子供でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 継雲雷糸には──その体の持ち主であるクローンの少女には実感がないが、受け継いだ『前世』の記憶で知っている。

 虐待された子供を助ける事は、老人(かれ)の活動の一環だった。

 

「……あり得ないわ。助けなんて来ない。あなたの配下はヒーロー達が押さえつけている!」

「スキルアウトのみんながヒーロー達を減らしてくれたばかりだろう? 来る。きっと、誰かが来てくれる」

 

 継雲雷糸には何もできない。

 ここでダラダラと会話して、薬味久子を相手に時間稼ぎをする事しかできない。

 

 だが、それでも信じている。

 継雲雷糸が動かずとも、他の誰かがいるのだと。

 

「ぼく達はひとりぼっちじゃない」

 

 

 

 

 

 春暖嬉美は拳を握る。

 自らの能力(チカラ)で、目の前の少女を打ち破るために。

 

 しかし、その前に。

 割って入る声があった。

 

 

()()使()()()()()

 

 

 ()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「────アウレオルス=ダミー!」

『構えろ、春暖嬉美。私と貴様で、継雲雷糸を救うぞ』

 

 それは薬味久子の想定外。

 科学サイドではなく、人間ですらない存在。

 故に、刺さる。

 

 薬味久子の『計画』は今、完全に崩壊する!

 

 






《原作キャラ紹介コーナー》

人皮挟美(ひとかわはさみ)
初出:とある科学の一方通行1話
二之腕高校に通う高校一年生。長髪の少女。
発火能力(パイロキネシス)』の異能力者(レベル2)
『原作』では川に飛び込んで自殺を図り、一時は息を吹き返すも『DA』に殺害され、『棺桶』に組み込まれた。その後はエステル=ローゼンタールによって死霊術の素体として使われる。

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