Q.
「……なんだ。無事じゃねーかよ、
『
僕を心配して、
手にはケルト十字──アウレオルス=ダミーも握られていた。
少女は気を失って倒れている
「ソイツが黒幕ってワケか。どーする? ブチのめしてやるか」
『いいや、彼女にはまだやってもらう事がある。申し訳ないけれど、学園都市統括理事の一角という肩書きは重い。彼女が罪を償うのは、学園都市の司法が正常化した後の話さ』
無罪放免とはいかないだろう。
だけど、彼女に正当な罰を与えるのならば、まずは先に元凶を明らかにせねばなるまい。
「
『……何かな、
考え込む僕に、少女が声をかける。
不思議な気分だ。
視界の中に、
僕が憑依してしまった
彼女は、そっと手を伸ばして僕に触れる。
……いや、手は触れられない。今の僕の
「きみは、どこに行くつもりなのかな」
『……よく分かるね』
「分かるさ。きみはぼくなんだから」
ああ、そうだ。
僕は彼女で、彼女は僕だ。
分離して初めて分かった。
体感してみてようやく分かった。
僕は無意識のうちに、少女の影響を強く受けていた。あるいは、
けれど、魂が肉体から離れて僕は思い知った。
「
『
間違えていた。
何もかもを間違えていたのだ。
だから、やり直す。
少女達の物語に、
「オイ、待てよ。何言ってんだ雷糸」
『もう僕は雷糸じゃない。子供に取り憑く悪霊──ゴーストだ』
「ちげーよ。オマエも、コイツも、二人合わせて雷糸なんだ。オレを救ってくれたのはオマエ達二人だろーが‼︎」
嬉美は強い眼差しで僕を見つめる。
強くなった。
出会った時とは比べ物にならない程に、少女は成長した。
だから。
(──もう僕は、必要ないかな)
ふわり、と浮かび上がる。
それはまるで、天使が昇天するかのような光景。
『心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。僕は消える訳じゃない。ずっと君を見守っている』
「ま、て。頼む、待ってくれ……っ!」
『後は任せたよ、継雲雷糸くん。君達二人の幸せをずっとずっと……永遠に願っている』
「きみは……酷いヒトだな」
僕は姿をかき消した。
ああ。本当に申し訳ない。
僕にとっても、こんなお別れは不本意だ。
でも、僕は去らなくてはならない。
今から僕がやる事に子供達を巻き込めない。
これは薬味久子が子供達を誘導して引き起こした事件などではない。
『
あり得ない。魔術サイドを理解できていない彼女には、ここまで用意周到な図は描けない。
無論、彼女に知的好奇心を刻んだ
では、犯人は誰か。
この事件の黒幕は誰なのか。
分かっている。
分かり切っているとも。
当然、ヤツ以外にはあり得ない。
『
即ち。
学園都市統括理事長アレイスター。
あるいは伝説の魔術師アレイスター=クロウリー。
そこはまるで宇宙のような部屋だった。
室内と呼ぶべき広大な空間には一切の照明が存在せず、しかし、無数のモニタやボタンが星のように満ちている。
そして、その中心。
星々から伸びたコードの先。
巨大なガラスの中で逆さに浮かぶ『人間』こそ、この星の半分を覆う科学サイドの頂点。
その名はアレイスター。
────
だが、ガラスの中身は空っぽ。
生命維持を機械に委ねた『人間』の姿はそこにはない。
代わりに、自らの足で地面を踏み締める男が一人。
ねじくれた銀の杖を掴んだ男。
彼の名はアレイスター=クロウリー。
彼はガラスの水槽から飛び出し、自らの手で継雲雷糸を迎え撃とうと用意していた。
当然の話だ。
アレイスターは
学園都市統括理事長アレイスターとしてだけではない。魔術師アレイスター=クロウリーとしても、『人間』が培った全てをもってせねば、この天敵は倒せないと知っている。
瞬間。
核兵器の直撃すら耐える『
その事に、アレイスターは驚かない。当然、分かっていたとも。
(アレは受けた衝撃波パターンを演算し、最適な振動で威力を相殺する装甲。つまり──0と1では説明できない
男にも女にも見えて、大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見える『人間』は対面する。
眼前にいるのは『人間』の対極。男でありながら女になり、大人でありながら子供になり、聖人でありながら囚人になった『亡霊』。
青いドレスを身に纏う天使のような怪物。
即ち。
「──来たか、継雲雷糸。我が天敵」
『来たよ、アレイスター。我が怨敵』
二度目の対面。
たった一ヶ月程度の付き合い。
なのに、その言葉には馴染みある親友にかけるような気安さがあった。
『言っただろう、アレイスター。僕の目の前で悲劇を起こすな。この約束が破られたら──
継雲雷糸は歩みを進める。
ただ歩いているだけ。
だが、そこには理解できない『圧』があった。
「……答え合わせをしようじゃないか、継雲雷糸。
『…………』
カツン、と。
実体がないはずの足が地面を叩く。
言ってみろとでも言うように、足が止まる。
それは慢心ではない。
アレイスターもまた話しているだけではない。
まるでガンマンの早撃ち勝負のように、互いが隙を窺っている。
「ヒントはいくつかあった。一つ、「
『ほう?』
「私も初めは分からなかった。だが──
つまり。
つまり。
つまり。
「君が憑依したのは『
AIM拡散力場では三角だった。
つまり、それと近似しながら異なるモノ。
科学の天使ではない。魔術の天使こそが、継雲雷糸の正体だったのだと。
科学サイドの薬味久子が理解できなかったのも仕方がない。だって、それは魔術サイドの人間でさえ荒唐無稽と笑う戯言だった。
「人間が天使を目指すというのは魔術においてありふれた概念だが──君はその中でも特殊な存在だった。神の左手に侍る双翼の大天使に至ったのだから。君が纏う
『…………、』
「『
『…………………………………………、』
「天啓に関してはそのままか。君は天使の中でも『神の伝令』という役割を持つ。元より情報の送受信に長けた存在だった。そして、君が食蜂操祈のクローンに引き寄せられたのは──
なるほど、確かに強力な存在だ。
十字教の魔術では天使に勝てない。
どう足掻いても、絶対に。
だが、アレイスターは十字教の裏をかく『黄金』の魔術師。たかが天使。そう言ってしまえるだけの実力を持つ。
正体不明の存在よりも、むしろ天使であった方が御し易い。正体が暴かれた以上、継雲雷糸に勝ち目はない。
──
『僕の正体が、大天使……か』
継雲雷糸は笑う。
なんと言うかもう笑うしかなかった。
だって、そうだろう?
『────
「…………なに?」
『君はその戯言を本気で言っているのか? ……呆れたな。それならまだ薬味久子の予想の方が近かったぞ?』
溜め息を吐く。
継雲雷糸は苦笑するように、正解を告げた。
『
「──────は、」
一瞬、アレイスターの思考が止まる。
理解できないのではない。
理解できるからこそ、思考が止まってしまう。
その一瞬を、継雲雷糸は見逃さなかった。
トン、と
『分かりやすく見せてやろう。これが今の僕が持つ力だ』
どぐんっっっ‼︎‼︎‼︎ と。
アレイスターの中で何かが蠢いた。
意識が混濁する。耳鳴りが酷い。自己が急速に薄れていく。
(なん、だ。能力、違う。魔術でもない。この
意味不明な思考が止まらない。
いや、違う。
無数の思考が同時に絡まって、自分自身でさえ理解できなくなっているのだ。
(そう、か。これ、は……私の魂、を……シャッフルして。本来の、『
アレイスター=クロウリーには一〇億八三〇九万二八六七の魂が重なっている。
継雲雷糸の一撃は、無数の魂をぐちゃぐちゃに絡ませて、どの魂も表出できないように肉体の奥底に封じ込めるものだった。
『まだ聴こえているかな、アレイスター。折角だ、お前の答案を採点してやろう』
継雲雷糸は笑う。
『お前の回答はバツ、薬味久子の回答は三角。模範回答は「継雲雷糸が憑依した肉体は学園都市そのものである」だった。ああ、難しかっただろう。都市そのものが肉体として扱われるなんてあり得ないと思っただろう。──
そう、確かにあった。
アレイスターは知らない話であるが──
『とある魔術の
たった一言。
伝わらないだろうと思いつつも、
『世界は一本のゴム紐に過ぎず、並行世界は存在しないという「歴史のゴム紐説」は否定された。そして、そこで明かされたもう一つの真実──
リリン・プラジナー。
別の並行世界において、あらゆる最先端技術を開発、運用、管理する少女。科学技術の提供者にして門番。
しかし、彼女は並行世界によってその形を変える。予言書、スパコン、エイリアンの惑星──そして、学園都市。各世界における科学技術を一手に引き受ける存在。それが
『
AIM拡散力場とは近似しているが、それそのものではない。
つまり、学園都市。そこに宿った魂が、
アレイスターが勘違いした『青』。
その意味は彼には分からない。
リリン・プラジナーという並行世界に存在した少女が、『
『一つ、「
アレイスターの魂を入れ替えたのだって同じ理屈だ。
その身に宿る無数の
今の継雲雷糸にはそんな力が宿っていた。
『一つ、召喚された大天使の魂は何に宿っていたのか。──言った通りだ。「
学園都市とは、その大気さえも含む。
だからこそ、大天使は空気中の水分を集めて肉体を形成し、同時に学園都市から外に出ていく事はなかった
『一つ、僕が子供達にばら撒いた天啓とは何か。──
予言書、スパコン、エイリアンの惑星、学園都市、リリン・プラジナー。
どの並行世界でも、その存在は他者に知識を与えていた。
あるいは、世界中に教育をばら撒いた老人もまた、リリン・プラジナーの
『最後に、そもそも僕はどうして食蜂操祈のクローンに引き寄せられたのか。──これは簡単だ。論じるまでもないね』
継雲雷糸は宣言する。
この世界の当たり前を告げるように。
『
理由なんてない。
困っている子供に引き寄せられた。
本当にただ、それだけの話。
そして、科学の王は沈黙した。
自らが生み出した魂の檻から逃げられない。
どれだけの実力があったって意味がない。
だって、自分を閉じ込めているのは自分自身なのだから。
アレイスターは倒れた。
学園都市の頂点は零落した。
だが、それで終わりではない。
黒幕を倒した所で世界はハッピーエンドにはならない。
いまだ学園都市には悲劇が蔓延っている。
アレイスターの設定した残酷なルールが罷り通っている。
『許せるか、そんなもの』
継雲雷糸は決意した。
大人の責任を果たす。
この学園都市を変えてやる、と。
迷う必要はない。手段はある。
継雲雷糸は憑依能力を持った亡霊。
つまり────
『
さあ、讃えよ。
新時代の幕開けだ。
A.
第二五話がヒントでした(まあ分かる訳がないと思いますが……)