「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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最終話 『これからのふたり⁉』

 アルマが家にいき、恐る恐る長老のところに住みたいという話を切り出すと、両親は快く許《ゆる》しを出した。

 

「まさか二つ返事で許可がおりるとは思わなかったわ……」

 引越しが決まったふたりは、さっそくアルマの家から荷物を運んでいた。

 

「なんかね、うちの親が、結婚する時に長老さんのお世話になったらしくて、違うって言ってるのに、『逃しちゃダメよ』とか訳のわからないことを言ってくるのよ」

 

 そうこぼすアルマは、片手が使えないスペスの分まで荷物をもつ。

 

「いいお父さんとお母さんだよね」とスペスが笑った。

「ほんとにね……もう会えないのかと思ってたもの。……ありがとねスペス」

 

 そう言って、アルマはすこし涙ぐむ。

 

「いいよそんなの。なんとなく、原因もボクにある気がするし」

「あっ、そうか……じゃあ、いまのナシ」

 

 アルマは急に真顔になった。

 

「そんなぁ……」

「ウソよ。スペスのせいだなんて、思うわけないじゃない」とアルマは笑う。

 

「それなら、良かったよ」

 そう言ってスペスは『んー!』と背すじを伸ばした。

「じゃあ、どうにか帰ってこれた事だし、これで一件落着だよね」

 

「なに言ってるのよ、あんたは何も終わってないのよ。結局、どこから来たのかも分からないままだし、その手も早く治さないといけないし、全部これからでしょ」

 

「そうだね。でも、これでアルマとの約束は果たしたでしょ?」

「約束?」

 

 と訊いたアルマの胸に、スペスの視線が注がれていた。

 

「そんなに……触りたいの?」

 アルマは持っていた荷物で、さり気なくスペスの視線をさえぎる。

 

「さわりたい!」スペスが元気に答えた。

「別にいいけど……その手でどうやって触るのよ」

 

 アルマが、肩から吊られたスペスの左手を見た。

 

「わたしは逃げたりしないんだから、先にその手を治してからにしなさいよ」

「ボクは右手(こっち)だけでもいいけど?」

 

「ダーメ。わたしのために頑張ってくれたんだし、触るなら、ちゃんと触りなさい。イヤだなんて言ってないわよ。ていうか、ホントは……このくらい約束なんか無くたって……」

 

 アルマの言葉がゴニョニョと、最後の方で濁された。

 

「やっぱりそっかぁ……アルマも片手より両手のほうがいいよねぇ」

「そういう話じゃないわよ……」

 アルマが呆れたように言った。

 

「それにしても……スペスはどこから来たのかしらね。三百年前《あっち》からかと思ったけど、昔はこの辺に人族がいなかったし……見覚えのあるものとかも無かったんでしょ?」

「うん、まあね」とスペスは歩きながら答える。

 

「でもさ――もしそういうのが分からないままなんだったら、その時は――この村にずっと住むのも悪くないな、ってボクは思うんだ」

「そうなんだ」

 

 アルマは極力平静に言ったつもりだったが、その口元には嬉しそうな笑みが浮かぶ。

 

 そんなアルマを見ながらスペスはつづけた。

「それで……もしも、そうなった時にはさ――」

 

 

「アルマは、ボクのおヨメさんになってくれる?」

 

 訊かれたアルマの顔が、一瞬で真っ赤に染まった。

 

 

「イヤかな?」

「そ、そんなことない…………」

 アルマは恥ずかしそうに首を振る。

 

「そう言ってもらえて、嬉しくないこともないかもしれないような気がしなくもないわよ」

 

「ははは、どっちだよ」

 とスペスが笑う。

 

「えっと……さ、さぁ? どっちかしらね? ふふふ」

 とアルマも笑った。

 

「あ……でも、スペスって、たくさんおヨメさんが欲しいんじゃなかったの?」

「うんっ、そうだよ!」

 

「こやつめ……」

 アルマがじろっとスペスを睨む。

 

「プロポーズしたその口で――よくもぬけぬけと言いやがったわね」

「な、なにか、ダメだった?」

 

「まぁいいわよ……もうっ」

 とアルマは投げやりに言う。

 

「……どうせ止めても無駄だろうし、できるものなら好きにしたらいいじゃない」

「ほんと? よかった!」

 

「そのかわり!」とアルマは立ち止まる。

「わたしのこと――大事にしなかったら、すぐに捨てちゃうからねっ。それだけは覚えておいてよ!」

 

「もちろん、大事にするよ!」スペスが笑顔で言う。

「そ、それならいいのよ……」

 と、アルマは赤い顔で目をそらした。

 

 

「じゃあ、いつ結婚する? 明日?」

「調子に乗らないの!」アルマがピシャリと言う。

 

「さっきのはスペスが〝帰れなかったら〟の話でしょ? まさか諦めてる訳じゃないわよね? まずは手を治して、それからスペスの来た場所を探しにいくんだから!」

 

「うん……」

 とスペスが嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとうアルマ。それに焦らなくても、今日からアルマと一緒に住むんだからね。こういうの同棲っていうんでしょ? 楽しみだなぁ――」

 

「ど、同棲⁉」アルマが声をあげた。

「同棲……言われてみれば、たしかに同棲よね……これ?」

 

「あれ? となりのおじさんが、結婚する前には一緒に住んで、いろいろな相性を確認したほうがいい、って言ってたけど、そういうことじゃないの?」

 

「な、なに言ってるのよ、いやらしい! わたしはそんなこと考えていないわよ!」

 

「えっ、いやらしい? 〝相性〟って具体的になんのことなの?」

 スペスが訊いた。

「えっ、えっと――」アルマは考える素ぶりをする。

 

 

「――相方がボケたら、すぐに突っこめる、とか?」

「それは無いでしょ」

 

「ほ、ほらっ相性がいいわねっ、わたしたちっ!」

「えー、誤魔化さないで、ちゃんと教えてよ〜」

 

「い、いいのっ! はやく行きましょ! 長老さんが待ってるわよ!」

 アルマはそう言って、逃げるように早足で歩き出す。

 

「えー、まってよー」

 と後をスペスが追いかけた。

 

 

 ふたりはそのままお喋りしながら、山深い村のなかを歩いてゆく。

 その楽しそうな後ろ姿は、仲のよい夫婦のようだった。 (了)

 




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