「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

33 / 107
第33話 『おっふろだ、おっふろ⁉』

 夕方になって、なんとか薪割りを終わらせたスペスが、外のかまどで夕食の支度を始めていると、二人が帰ってきた。

 

「もう……だめ~」

 小屋に入ったアルマは、入口近くの毛皮へ、すべり込むように転がった。

 

「まぁ、よくやったほうだな……」とメイランが笑う。

「――メシの支度はアタシと小僧でやるから、少し休んでな」

 

「ふぁい……ありがとうござい……まぁすぅ」

 突っ伏したアルマはそれだけ言うと、そのまま、すぅすぅと寝息を立てはじめる。

 

 ふっと表情を崩したメイランが、そっとアルマに掛布をした。

 そのままアルマは、夢も見ないほどぐっすり眠ったが、食事ができるころになると、

「……いい匂い」と起きてきた。

 

「なんだか、すごくお腹がすいちゃって――」

 そう言ったアルマは、スペスがおどろくほどの量を食べていた。

 

「それだけ魔力(マナ)を使ったってことで、当たり前だな」

 メイランはそう言って、バターをふかした芋にのせると、口へ放りこむ。

「――うん、これはいい芋だな。なかなかに美味い」

 

「それで、きょうの成果はどうだった?」

 スペスが、ソーセージを噛みながら訊いた。

 

「そりゃもう、バッチリよ!」

 アルマはパンを食べながら親指を立ててみせる。

「聞いて! わたしね、ちゃんと木剣が振れるようになったんだから!」

 

「へっ? 丸一日やって、それだけ?」

「あーっ、スペスってば、まるでわかってない!」

 頬を膨らませながら、アルマはもう一つパンをとる。

「あとであの剣を持たせてあげる。そしたらわたしの言ってることがわかるんだから!」

 

「いや、それはいいよ」とスペスは手を振った。

「アルマがそう言うのなら、ボクは信じるから」

「そう? それならいいけど……」と、アルマはまたパンをかじった。

 

「さてと……」

 もったいを付けるようにお茶をすすってから、メイランが言った。

「今日はメシが終わったら、風呂にいくぞ!」

 

「ええっ! お風呂っ!」

 アルマが目を輝かせると、スペスが訊いた。

「なに? お風呂って?」

「あー、スペスは知らないか……、村には無いものね」とアルマは言う。

 

「お風呂っていうのはねぇ、人が入れるくらいの大きな入れ物に、温かいお湯をたっぷりと入れて、その中に入って温まるものなの!」

 身振り手振りまでつけて、熱心にアルマは説明する。

 

「ふーん、お湯にねぇ……この芋みたいに茹であがんないの?」

 

「バカねぇ、そんなに熱くしないわよ……。

 ちょうどいい温度にしてあって、すっごく気持ちがいいのよ。

 街にいくとね、誰でも入れるおっきなお風呂があるの! わたしが街に行ったときには必ず寄るのよ。

 スペスも機会があったら一緒に行きましょ、しあわせになれること間違いなしなんだから!」

 そう言って、アルマは嬉しそうに両手を広げる。

 

「へー、そんなすごいものが本当に――あるの……? この山の中に?

 ハッとなったアルマが、メイランを見る。

 

「ああ、あるぜ――それも、とびきりの奴がな!」

 アルマの不安を、自信たっぷりに笑うメイランが吹き飛ばした。

「やったぁ!」と声をあげて、アルマはまた一つパンを取る。

「――そうとわかれば急いで食べなきゃね!」

 

「まだ食べるの⁉︎ ボクはもうお腹いっぱいだよ……。先に片付けしてるから、アルマはゆっくり食べててよ」

 スペスが立ち上がり、食器をまとめ始める。

「そう? スペスってば少食ねぇ……」

 

「代わりにボクは、あっちの固くなったパンをもらうからさ」

「あれ、カビが生えてたから食べない方がいいわよ」

「食べないよ、ちょっと使いたいんだ」

「使う? まあ、食べないなら別にいいけど……」

 そう言うとアルマは目を移し、楽しみにしていた果物をえらびだした。

 

* * * * * * *

 

「おっふろだ、おっふろだ、おっふろだねぇ♪」

 

 三人は、ご機嫌なアルマを先頭に、夜の森を歩いていた。

 下着のように短い服を着たメイランが灯りを持ち、スペスはシャツと下着だけ、寝てしまったアルマは練習着のままだったが、パジャマをはおり、髪は解《ほど》いてきた。

 

 暗い森をしばらく歩いて着いたのは、アルマの村でも水源にしていた小さな川だった。

 

「この川沿いに、上流へいけ」

 メイランが灯りのついた棒を振って指示する。

 アルマは言われた通りに川を曲がり、草の踏み分け跡をたどって川上へのぼって行った。

 

「アルマー」

 声をかけられてふり返ると、スペスが立ち止まり、空を見あげていた。

「あの青いヤツなんだけど、このまえ見た時と形がちがうんだ……。別のやつなのかな?」

 

 スペスの見あげる山の上には、半分よりすこし膨らんだ、青い月が昇りはじめていた。

「ああ、あれは同じものよ」とアルマも立ち止まる。

 

「青の小月(こづき)は、毎日かたちが変わるの。だんだんと丸くなったり、逆に細くなったり、ね。でも、それは光ってるところが変わってるだけで、毎日べつの月に入れ替わってるわけじゃないのよ」

 

「へぇ……ややこしいんだね。赤いのは、いつも変わらないのに?」

「そうね――」と、アルマはうなずく。「赤の大月(おおつき)はいつも変わらないのよね」

「赤いほうは……まだ出てきてないな」スペスは空を見まわして言った。

 

「赤の月はね」と、アルマも空を見あげる。

「いつも太陽と反対にあるのよ。だから、太陽が沈んですぐの頃は、まだ山の陰に隠れているの」

「そうなんだ」

 

「夜に時間を知るのに便利なのよ。赤い月が昇って沈んだら、もうすぐ朝ってことなの。青の月は毎日位置が変わるから、そういうのには向いてないわね」

 

「赤いほうが、便利なんだ」

「あら、青いほうも便利なのよ」

 アルマが異を唱える。

「どうして? 位置も、形も、毎日変わるんでしょ?」

 

「青の月はね、丸から細くなって、また元の丸に戻るまでに必ず三十日かかるのよ。

 だから、どのくらい日にちがたったのかを知るのに使えるの。

 青の満月が二回きたから六十日たった、そろそろ麦を収穫しよう、みたいにね。これは毎日変わるからこそなのよ」

「うーん、それは興味深い」

 

 うなずくスペスを、メイランが呆れたように見た。

「そんなことも知らないなんて、アタシより莫迦だな……もじゃもじゃは」

「あっ……ちがうんですよ!」

 アルマはあわてて、スペスに記憶がないことを説明した。

 

「そいつは難儀なことだな……。バカにしてわるかったよ、もじゃもじゃ」

 メイランがその高い頭をさげる。

「いいよ、気にしてないから」とスペスは言った。

 

「それよりも、もじゃもじゃじゃなくて、スペスって呼んで欲しいんだけど?」

「言いにくいから、もじゃもじゃでいいだろ?」

 

「どう考えても、もじゃもじゃの方が言いにくいでしょ?」

「そうか? 見解の相違だな」

 メイランが顔色を変えずにそう言うので、スペスは肩をすくめてまた歩きだした。

 

 

「ついたぞ、あれだ」

 メイランが照らした先に、大きな石で川の流れを分けた〝池〟があった。

 見れば、近くの木を曲げて、屋根まで作ってある。

 

「……あのぉ、メイランさん?」

 アルマが、不安をいっぱいにした顔で訊いた。

「まさか……、川の水に浸かって〝水風呂〟、とか言わないですよね?」

 

「よく、見てみろよ」池を指さして、メイランがニヤリと笑う。

「……湯気が出てるだろ。あそこが湯船だ」

 




★☆★☆★☆ お知らせ ☆★☆★☆★

面白いと思って頂けましたら、ぜひ★評価をお願い致します。
また毎日更新していきますので、お気に入り登録もしていただけると嬉しいです。

ポチっと押すだけなので、ぜひっ!

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

次は、サービスのお風呂回です!
ついにあのアルマが脱ぐ!
(ただし、文字!)

それでは次回、
第34話 『お風呂は、いいもの⁉』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。