「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

40 / 107
4章 アールヴの神殿⁉
第40話 『いきなりの実戦⁉』


「キャァァァァァ!」

 

 いきなり、鳥が鳴くようなカン高い悲鳴が聞こえてきた。

 耳を澄ますと、ガサガサと茂みを通るような音も聞こえてくる。

 すぐにうなずきあったふたりは、武器を手にして石の影へと隠れた。

 

「ル・ヴィヨンパッ!」

 知らない言葉が聞こえてきた。声からして子供か女のようだった。

 茂みを通る音はいくつかあり、こちらに向かっているようだった。

 

「追われてるのかも……」とスペスが言う。

「だったら、助けないと!」

 アルマはあわてて石の陰から出ようとしたが、スペスが止めた。

「もう少しだけ待ってみよう。何が来るのかがわからない。とにかく――確認してからだ」

 

 言いながらスペスは投石器(スリング)に石を入れ、すぐに投げられるようにした。

 アルマもいつでも飛び出せるように木剣を握りしめる。

 息を殺して待つ間は、時が引き延ばされたように長く感じたが、やがて音はやって来た。

 

 茂みから先に飛び出してきたのは、幼い子どもだった。

 長い銀髪を振り乱し、短い手足で必死に走っているが、すでに息はあがり、ふらつく足が限界にみえた。

 

 それを追って後から出てきたのは三つの緑色の――

「ゴブリン!」

 アルマが叫ぶ。

「行こう!」

 

 スペスが石の陰から飛び出してスリングを振る。

 勢いよくゴブリンの方へ飛んだ石は、当たらなかったが牽制となり、追っていたゴブリンたちが足を止めた。

 

 逃げていた子供は、突然出てきたふたりに戸惑っていたが、スペスがゴブリンを攻撃するのを見て、「エディッモーッ!」と駆けてきた。

 

 子供を庇うように、ふたりはゴブリンとの間に立つ。

 三体のゴブリンは、「ゴグググ」「ガガガゲゲ」「ガッギゲゲッ」と声のようなものを出し、武器を振り上げて襲いかかってきた。

 

「大丈夫……。大丈夫……大丈夫…………」

 木剣を構えたアルマは、向かってくるゴブリンを見ながら何度もつぶやく。

 

 ゴブリンの武器は棍棒にナイフ、小さなナタと、アルマの木剣よりもだいぶ短い。その差と身長の差を考えれば、より遠くから攻撃できるこちらが圧倒的に有利だった。

 

 そう頭ではわかっているのだが――初めての実戦に、アルマの呼吸は苦しくなるほど早まっていた。

 

 ゴブリン達は小さいがすばしっこく、油断すると、あっという間に距離を詰めて飛びかかってきそうだった。

 近づけてはいけない――そう焦る気持ちが、アルマに目測を誤らせる。

 

「やあっ!」

 と待ちきれずに振った木剣は、ゴブリンの遥か手前で空を切った。

 足もついて来ておらず、腰も入っていない酷いものだったが、みごとな空振りに気が動転したアルマは、そんなことを気にする余裕もなかった。

 

 ジリジリとにじり寄ってくるゴブリンに、アルマはただ、『来ないでっ、来ないでっ!』と木剣を振り回す。

 いきなりの実戦、いきなりの失敗に、頭が真っ白になっていた。

 

 悪い事に――スペスの方にも問題が起きる。

 逃げてきた銀髪の子が、スペスの脚にしがみついて離れようとしなかった。

 

「ちょ……そんなにくっついたら危ないよ!」

 足元にそう声をかけたが、ギュッと目を閉じた子供は髪を振って、『エディモ、エディモ……』と繰り返すばかりだった。

 

 しかたなくスペスは、ムチを投石器(スリング)に持ち替えてゴブリンと対峙する。

 回りこもうとした一体に、石を入れたままの投石器《スリング》を振ると即座に飛びのいたが、ゴブリンはスペスが動けなくなったことを理解しているようで、投石器《スリング》の届かない距離から様子をうかがっている。

 

 ゴブリンに囲まれたふたりは、子供を挟んで背中合わせになった。

「アルマ、ちょっと落ち着こう!」

 スペスが、うしろのアルマに声をかける。

 だが耳に入らないのか、アルマは相変わらず木剣を振り回していた。

 

「アルマ! 聞いてるっ?」

 ふたたび声をかけたが、ブンブンと木剣を振る音が止まる気配はない。

 アルマを狙っているゴブリンも簡単には近づけないようだったが、これでは埒《らち》が明かなかった。

 

「アルマっ! ねぇっ、アルマ!」

 返事の代わりに、ブンブンッという音が返ってくる。

 

「――お尻、触ってもいい?」

 ゴブリンを牽制しつつそう訊いたスペスは、いきなり後ろ手でその尻をわし掴んだ。

 

「きゃあっ……!」

 という声がして木剣の音が止んだ。

 

「いきなり、何するのよっ!」

 ゴブリンのほうを向いたまま、アルマが抗議をする。

「いや……、いいお尻だなと思って――」

 

「こんな時に、なにを考えてるの、よっ!」

 ゴスッ! と肘打ちが入る。

 十分に手加減をされていたはずだったが、スペスが、げほっ……とむせ込んだ。

 

「いや、だって声をかけても全然気づかないから……」

「声なんて、かけられてないわよ!」

「何度もかけたってば」

 しかめっ面で、スペスはわき腹をさする。

 

「そうなの……?」

「そうだよ」

 スペスが返し、ふたりはゴブリンを見据えたまま背中越しの会話を続ける。

「――触っていいかも、ちゃんと訊いたからね」

 

「ほんとうに?」

「本当さ。ボクの目を見てもらえば、すぐにわかるよ」

「ちょっといま手が離せないから、わたしの目の前に来てもらえるかしら」

 張り詰めた顔で、アルマは自分を狙ってくる二体のゴブリンに目を配る。

 

「いや、見せてあげたいんだけど、残念ながらボクも手――というか足が離せなくてね」

「そうなの――せっかく信じてあげたいのに、出来なくて残念ね」

 

「でも、そもそも、ボクが訊きもしないでアルマにあんな事をするはずがないでしょ?」

「訊けばいいってものでもないと思うけれど……まぁ、そうかもね」

 

 アルマの返事に、スペスが安心したように訊ねる。

「ちょっとは落ち着いてきた?」

「なにを言ってるの。わたしは、いつでも冷静よ」

 

「そうだっけ……?」

「あら信じてくれないの? 目を見てもらえればわかるんだけど?」

 

「いや、アルマがそう言うのなら、ボクは信じるけど……」

 スペスは子供をかばいながら、ゴブリンに合わせて細かく向きを変える。

 

「そう、ありがと。じゃあ――信じていないのはわたしだけなのね」

「まだ、ボクのこと疑ってたのかよ!」

「冗談よ」

 と緊張の抜けない声でアルマは言った。

 

 スペスと話すうちに焦りは落ち着いてきたが、ゴブリンのうち二体がアルマの方に来ているのが厄介だった。

 

 訓練で一対一しか経験していなかったアルマは、二体を同時に相手にする状況に、うまく対処できなかった。一体を追いかけて前に出れば、一時的に一対一には出来そうだが、そうすればもう一体に後ろの子供を襲われる危険があった。

 

 だからといってこのままで良いはずも無い。

「どうしたら、いいのかしら――」思わずつぶやいていた。

 

「じゃあ、ボクの話をすこし聞いてくれるかな」

 そう言って、スペスはゴブリンを見回した。

 




★☆★☆★☆ お知らせ ☆★☆★☆★

面白いと思って頂けましたら、ぜひ★評価をお願い致します。
また毎日更新していきますので、お気に入り登録もしていただけると嬉しいです。

ポチっと押すだけなので、ぜひっ!

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

初の実戦に戸惑うアルマに、スペスの援護が入る。

次回、
第41話 『訓練の成果⁉』
で、お会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。