「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第42話 『あなたは、だあれ⁉』

「オントゥ……デスパユ?」

 口から出たのは、聞いたことのない言葉だった。

 

「なんて言ってるの?」スペスが訊く。

「わからないわ……」

 

 微妙な顔を返したアルマは、再び子供に向きあう。

「えーと、わたしはアルマで、こっちはスペス、わかる?」

 アルマは自分たちを指さしながら、ゆっくり『アルマ、スペス』』と繰り返した。

 

「マリマ、シュペー?」

「惜しい……、アルマ、スペス」

 

「アルマ、シュペー」

 ぷっ、とアルマが吹き出した。

 

「〝スペス〟って言いにくいのかしら? もうシュペーでいいんじゃない?」

「いや、ダメだね!」

 めずらしく頑固にスペスが首を振った。

 

「ここはぜひ、〝お兄ちゃん〟と呼んでもらいたい! ほら言ってごらん、お・に・い・ちゃ・ん」

 自分を指しながら、繰り返すスペス。

「オニィチャ?」

 

「うん、そうそう、お兄ちゃん、だよ」

「オニィチャ!」

 笑顔をみせた子供は、再びスペスに抱きついた。

 

「あらあら、スペスってば、女の子とみれば手当り次第なんだからー」

〝お兄ちゃん〟と呼ばせているあたりから冷ややかな目でながめていたアルマは、そう皮肉をぶつける。

「いやいや、何言ってるの」スペスが肩をすくめた。

 

「いくらボクでも、さすがに結婚できないくらいの歳の子は無いよ。――あっ、でも十年ぐらいしたらイケるかもって考えたら、もしかしてアリなのかな?」

 

「アリじゃないし、イケないことだからやめなさい。このままだと、スペスは結婚するよりも先に牢屋に入るんじゃないかしら――」

 

 アルマはそう言って、スペスから子供を引き離そうとしたが、しがみついた子供は離れようとしない。あまり力を入れるわけにもいかないので、あきらめて手を離した。

 

「ずいぶん懐かれちゃったのね……。ま、いいわ。それで、あなたのお名前は?」

 そう訊ねてみても、子供は純朴そうな瞳で見つめ返すばかりだった。

 やはり、言葉は通じていないらしい。

 

 アルマはすこし考えて、伝えかたを工夫してみる。

 先に自分たちを、『アルマ、オニイチャ』と指さしていき、最後に『ん?』と、子供のほうを指した。

 

 言いたいことを理解した子供は、

「タッシェ!」

 と元気よく手を上げる。

 

「そう、タッシェって言うの。でも、言葉が通じないのは困ったわね……。ここからひとりで帰れるのかしら?」

 

 心配をみせるアルマに、スペスが遺跡のむこうを指した。

「アレじゃないかな、あそこにあるっていう道」

 

「あー、そうかもしれないわね」とうなずく。「どうする? 連れて行ってみる?」

「んー、どうしようか――」

 スペスが考えていると、タッシェのお腹が小さく、ぐぅと鳴った。

 つられるように、アルマのお腹も、ぐううぅぅ……と鳴った。

 

「お……お昼も近いし、お腹すいたわよね? また、ゴブリンが来たらいけないし、先にご飯にする? 食べられる時に食べておいたほうがいいでしょ?」

「そうだね、お腹すいたよね」

 

「わ、わたしはべつに……すいてないけどね」

「あれ、いま、お腹すいたって言わなかった?」

「い、言ってないわよ。聞き間違いじゃない?」

「そうだっけ?」

「……そう」とアルマは目をそらす。

 

「ああ!」とスペスが手を打った。「さっきは、()()()した、って言ったのか!」

「してないわよっ、失礼ね!」

 あまりの勘違いに、大きな声をあげてしまった。

「――仮にしたとして、『おならしたわ』って、報告するわけないでしょ!」

 

「ごめんごめん。さすがに今のは、ボクが悪かったよ」

 すぐにスペスは謝った。

「ま、まぁ、分かったならいいのよ……」

 

「アルマにも隠したいおならの、一つや二つはあるよね」

「なんっにも、分かってないじゃない!」

 

「あれ? 数が少なすぎた?」

「分かってないのは、ソコじゃなーい!」

 

「アルマ、そんなに怒るとお腹がすくよ?」

「誰のせいだと思ってるのよ、まったく――」

 と言ったものの、大声を出したらよけいに空腹を感じてきた。

 

「し……しかたないわね」譲歩するように、アルマはうなずく。「ぷりぷり怒ってたら、ちょっとお腹がすいてきた気もするし? いっしょに食べてあげてもいいわよ」

 

「ははっ……」とスペスが笑った。「ぷりぷりって、おならだけに?」

 

「やかましい! いい加減、おならから離れろ!」

 またもあげてしまった大声に、タッシェがビクリとしていた。

 

 

 食事にすることにしたふたりは、タッシェの手を引いて、倒れているゴブリンが見えないところまで移動すると、手ごろな石に腰をおろす。

「はい、どうぞ」

 

 アルマがハムを挟んだパンを手渡すと、タッシェは物珍しそうに顔を近づけた。その銀色の髪がさらさらと頬をすべり落ちる。

 

「あら、それじゃあ食べにくいわよね」

 荷物から髪紐を取り出したアルマは、長いタッシェの髪を後ろで結ぶ。

「ん? あなた……変わった耳をしてるのね」

 

「……耳?」

 アルマの言葉にスペスが反応した。

「うん、ほら」

「へぇ……たしかに、先が尖ってるし、だいぶ長いね」

 

 よく見れば目も緑色だし、肌がだいぶ白い。

 アルマは何かが気になった――

 




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タッシェってもしかして……?

次回、
第43話 『どこから来たの⁉』
で、お会いしましょう!
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