「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第44話 『私の言葉がわかりますか⁉』

「ジュッリ! ヴレ、シノフォン!」

 

 叫んでいる言葉は分からなかったが、

 友好的な声音(こわね)でない事だけは分かった。

 

 次の矢がすでに引かれているようだが、

 目深にかぶった帽子で表情はうかがえない。

 

「……ど、どうしよう」

 いきなり攻撃を受けたことにアルマは動揺していた。

 

「次に矢を放ったら、よけて石の陰に入ろう」

 スペスが相手を睨んだまま言った。

「……といっても、あそこからカゴを狙って当てられるのなら、人に当てるのもそう難しくないんだろうけどね――」

 

 スペスが、置いてある武器をちらりと見る。

 突然のことだったので、ふたりとも手ぶらだった。

 

「なるべく刺激しないようにゆっくりと下がるんだ。ひとまず、後ろの大きな石に隠れよう」

「そ、そうね」

 と後ろを見て、アルマは『あっ!』と声をあげた。

 

 うしろの草むらにも、右左にひとりずつ弓を構えている者がいた。

 アルマたちは、いつのまにか三方から囲まれ、狙われていた。

 

「ゆっくりと手をあげよう」

 緊張した声で、スペスが言った。

「――ぼくらに敵意がないことを見せるんだ」

「そんな事をして、大丈夫なの⁉」

 

 三つの弓はすでにいっぱいまで引き絞られていて、いまにも放たれそうだった。

 

「すぐに殺そうってわけでもないみたいだ――交渉する余地くらいはあるかもしれない」

「わかったわ……」

 

「でも、《姿隠し》は使えるようにしておいて」

 アルマがうなずくと、ふたりは静かに両手をあげる。

 

 その時――スペスの後ろにいたタッシェが、いきなり前に飛び出した。

 

「危ない!」「出ちゃだめよっ!」

 手を上げていたふたりは同時に叫んだが、タッシェは目の前の石によじのぼり、両手を広げて叫んだ。

「アヘーッヅィ!」

 

 ふたりはすぐに駆け寄り、小さな体を守ろうと前後を挟む。

 だが、タッシェはそれに構わずに、『アへッヅィ、アへッヅィ!』と言いつづけている。

 

 そんなタッシェを(かば)おうとして、ふたりは、三つの弓に身をさらし続けていた。

 

 ほんのわずかな動きで、放たれた矢が瞬時に襲いかかる状況にまばたきすらできず、ふたりは汗で背中を冷たくする。

 三方向の、いつどこから矢が飛んでくるかも分からなかった。

 

 口の中がカラカラに乾き、叫びつづけるタッシェ以外は誰も動かなかった。時間が、ずっと引き伸ばされたように、長く感じた。

 

 

 先に動いたのは、相手の方だった。

 矢を射かけたらしい正面の射手が、静かに弓をおろす。

 

 片手でなにか合図をすると、同じように両側の弓もおろされた。

 矢はまだ掛けたままのようだったが、両者のあいだの緊張が少しだけゆるむ。

 やがて正面の相手が矢をしまい、草むらから出てきた。

 

 草のような緑の服に、同色の尖った帽子をかぶり、スペスよりすこし背が高そうな射手は、白い肌をした美女だった。冷たい目をして近づく姿に油断は見えなかったが、逆に、緊張や気負いのようなものもなく、片手を空けたまま、ただ淡々と歩いてくる。

 

「あの状態からでも、すぐに矢を射れるのかな」

 スペスがつぶやく。

 

「そう……なの?」

「わからないけど、腕に自信がありそうだよね……」

 

 ふたりが話していると、やってきた女がやや離れたところで立ち止まった。

 あたりの雰囲気に、いつのまにかタッシェも静かになっている。

 

 

「コンフ・ニ・ヴメロン?」

 綺麗な声だった。

 

「あの……すいません」

 アルマが答える。

「わたしたち、あなたの言葉がわからなくて……」

 

 女は、面倒くさそうにため息をつき、空いている右手をあげて叫んだ。

「イオキア!」

 一呼吸を置いて、女が来たあたりの草むらから、四人目となる人影が走り出た。

 

「まだいたのか……」スペスが驚く。

 アルマは思わず周りを見まわしたが、他にも誰かが隠れているような気配はしなかった。

 

 出てきたのは男のようで、同じような格好に弓をもち、真っすぐこちらへ向かって来る。

 

(……ねえアルマ)

 スペスが小声で訊いた。

 

(――話す言葉が違っても、言いたいことを伝えられる魔法ってないの?)

(あることはあるけど私は使えないし、自分と相手の頭をつなげるようなものだから、よく知らない相手とは使わないものよ)

 

 ふーん、とスペスが納得しているあいだに男が到着する。

 先の女と少し言葉をかわすと、弓を背中にかけ、前に出てこう言った。

 

「あー……、私の言葉がわかりますか?」

 大きくはないが、よく通る声だった。

 

「わかります!」

 すぐにアルマは答えた。

 

「良かったです」と男がうなずく。

「――あなたたちが守ろうとしているその子は、私たちの子供です。お話がしたいので、もう少し近くに寄ってもいいですか? ご覧の通り、両手は空けています」

 

 手の平をこちらに向けたあと、帽子を取って見せた顔は、女と見間違えそうなほどの美形《イケメン》だった。

 ふたりともそう変わらない歳のようで、髪は短く刈ってあったが、タッシェと同じ銀色だった。耳も同じように上に伸びている。

 

「どうするの?」

 アルマはスペスを見た。

「本当っぽいけど、念のため確認はしておこうよ」

 そう言ったスペスが男に訊いた。

 

「確認なんだけど、この子の名前を教えてもらえるかな?」

「皆からは、タッシェと呼ばれています」

 すぐに男が答えた。

 

 ふたりは互いにうなずき、緊張が解けていくのを感じた。

 




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誤解は解けた。これで一件落着?

それでは次回、
第45話 『アールヴ族⁉』
で、お会いしましょう!
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