「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第47話 『ご機嫌ななめなスペスとタッシェ⁉』

「スペスさん、アルマさん。お話はうかがっております。うちの子を助けていただいて、ありがとうございました」

 

タッシェ(この子)は、長老さんのお子さんだったんですね」

 アルマが答えた。

「正確に言うなら違います。私が産んだ子供ではありませんので」

 長老は静かに微笑む。

 

「我々アールヴは長命な代わりに少子で、子供が滅多に生まれないのです。ですから我々は、子供を集落全体の子として育てます。その意味で、この集落いるほとんどが私の子なのですよ」

 

「そうなんですか」とアルマがうなずく。

「しかし困ったことに、この子は……今いる唯一の子供だからと甘やかしたのが良くなかったのか、本当に手を焼いております」

 長老はスペスのひざの上にいるタッシェを見た。

 

「集落の外へぬけだしたことも一度や二度ではなく、今回のことは良い薬になったと思いますが、おふたりには大変なご迷惑をおかけいたしました、お詫び申し上げます」

 

「いえ、そんな……わたしたちも偶然いただけですし、ほんとに、助けられて良かったです」

 

 アルマと長老が話すのを聞きながら、スペスはタッシェの頭をなでる。くすぐったそうなタッシェを眺めていると、外からイオキアが入ってきた。

 

 目の前のテーブルにカップが並べられ、部屋の中に良い香りが漂う。

 淹れられたのは薬草茶(ハーブティー)のようだった。

「お口に合うかわかりませんが――」と言ってイオキアはさがり、隊長の横にならぶ。

 

「あ、おいしいです」

 アルマはひと口飲んで、そう言った。

 

「それは、よかったです。そのお茶はダルデンの街で買ってきた物なんですよ」

 イオキアがアルマに微笑んだ。

 

「そうなんですか、ありがとうございます」

 笑顔を浮かべたアルマは、スペスに顔をちかづけて、小声でささやく。

(イオキアさんって素敵よね……。もし街のカフェで働いてたら、通いつめる人が出ちゃうわよ)

 

(どうでもいいよ、そんなこと……)

 スペスは投げやりに返す。

(――それより、本題に入ろうよ。なにしにここまできたのさ?)

 

(なによさっきから……。そんなの、わかってるわよ――)

 アルマはそう言ってカップを置くと、長老の方へ顔をもどした。

 

 

「――あの、ご存知かもしれませんが、わたしたち事情があって、帰るために丘のうえの神殿? を、調べさせてもらいたいんです。よろしいでしょうか」

 

「もちろんです」

 と長老はうなずいた。

「恩人の頼みを断る理由がありません。ただ――あの場所はわれわれにとっても重要な所です。汚損させるようなことだけは、しないでいただければ――」

 

「あ、それはもちろんです。ねっ、スペス?」とアルマは横を見る。

「そうだね――」とスペスは答えた。

「それじゃ、話もまとまったみたいだし、これでお開きでいいよね」

 

 スペスはそう言うと、タッシェを膝から下ろして立ちあがる。お茶のカップには口もつけていなかった。

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ! どこにいくの⁉」

 アルマが声をあげたが、スペスは手をあげて――

「退屈だからタッシェと遊んでくる」と外へ出ていった。

 

 タッシェがアルマを見てから、スペスを追いかける。

 

「すみません――なにか御気分を損ねてしまったようですね」と長老は言った。

「あーいいんです、いいんです」とアルマは手を振る。

「さっきから子供みたいに虫の居所が悪いんですよ……ほんと仕方がないですよね」

 アルマはそう言って、困ったようにスペスの出ていった方を見た。

 

* * * * * * *

 

「くそっ!」

 外に出たスペスは、ちかくに落ちていた石を乱暴にけっとばした。

 

 石は二回、三回と跳ねて転がり、すぐに動かなくなる。

 それを見て、スペスはため息をついた。

 自分がなぜイライラしているのかはわかっていて、それがまた腹立たしかった。

 

「オニイチャー……」

 遠くから呼ぶ声がして、とことこと駆けてくるタッシェが見えた。

 険しい顔をしていたスペスは、とっさに顔に手を当てて表情をほぐす。

 

「アベブ・フィニ・オニイチャ?」

 やってきたタッシェが、笑顔で声をかけた。

「ああ、うん……」とスペスはぎこちなく笑う。

 

 タッシェはそんなスペスをじっと見ていたが、突然、鼻から息を吐くと、

「ダイジョブ!」

 とスペスの手を取った。

 

 

 スペスはタッシェに手を引かれて、集落の中をあっちへこっちへと連れ回された。

 

 行く先にあったのは、ただの木だったり、へんてこな石だったり、なんでもない壁だったりした。

 しかしタッシェは、行くさきざきで何かを一所懸命説明してくれた。

 

 言ってることが分からなくても、スペスは『すごいね』とか『そうだね!』と言って、熱心に話を聞いた。

 そうしていると、いくらか気持ちが落ちついた気がして、スペスはそっとタッシェの頭をなでる。

 

 

 いちばん最後に連れてきた小屋の前で、タッシェは急にあたりを警戒しだし、スペスを押し込むようにして中に入れた。

 そこは、ほかの家と同じようだったが、縄や薪など、道具を置いておく倉庫のようだった。

 

 タッシェが、うす暗い小屋のなかで、両手で口を押さえる仕草をして見せる。

「声を出すなってこと?」スペスが首を傾げる。

「――いや、ちがうか……。内緒……言っちゃいけないってことかな?」

 

 スペスは返事の代わりに、自分も口を押えてみせる。

 うなずいたタッシェは、小屋の奥へ行ってしゃがみ込み、むきだしの土間に手をついた。

 

 一呼吸おいて、手の先の土がゆっくりと沈みだす。

 窪みは徐々に深くなっていき、やがて人が通れるくらいの穴になった。

 

「へぇ……タッシェは魔法が使えるんだね」

 

「イッツィ!」

 タッシェはスペスが見る前で、飛び込むようにその穴へ潜りこむ。

 

「おーい……」

 スペスが声をかけると、暗い底から、『オニイチャ、イッツィ!』とタッシェの声が返ってきた。音の響きから、中にはそこそこの空間がありそうだった。

「仕方ないなぁ……」

 スペスは覚悟を決め、ひっかからないように気をつけながら穴に入る。

 

 窮屈な穴をどうにかくぐり抜けると、底には座れるぐらいの広さがあった。

 暗い小屋の中で、穴を通って入る光はごく少なく、

 奥にいるタッシェの姿はほとんど見えなかった。

 

「アトイン・スグゥ」

 タッシェがスペスの足の上に乗ってきた。

「これがしたかったの?」

 

 高い子供の体温を感じながら膝の上に座らせると、タッシェが手を伸ばして上の穴をふさいでしまった。狭い穴の中が、指先も見えないほどの暗闇になる。

 

「なんにも見えないんだけどー」

「オニイチャ! ダアイジョブ!」

 おかしそうに笑う声が、膝の上から返ってきた。

 

「大丈夫っていってもねぇ……」

 ため息をついたスペスは、周りに手を伸ばす。

 

 周囲の壁はすこし湿っていたが、ぼろぼろと崩れるような土ではなく、硬くしっかりしていた。

 見えない中で分かるのはその程度だったので、スペスはじっと動かないことにする。

 

 まっくらな穴の中は、ただひたすらに静かで、近くからタッシェの息づかいが聞こえるだけだった。

 しばらくそうしていたスペスは、急にゴブリンが穴に棲むという話を思いだす。

 

「ねぇ、やっぱりもう出ようよー!」

 たまらずにそう言うと、滲み出るようにぼんやりと、タッシェの顔が見えてきた。

 目が慣れたのかと思ったが、タッシェが、スペスの服にちいさな灯りをつけてくれたようだった。

 

 気がつけばタッシェの表情がわかるくらいには明るくなっていて、そんなスペスを見たタッシェは、「イッツィ」と向きをかえると、どこかへよつん這いで進みだす。 

 

「やれやれ――」とスペスは頭をかいた。

「長老さんの言ってたとおり、本当にやんちゃなんだな」

 タッシェの向かった方向には、横穴が伸びている。

 

「しかたない、もう少しつきあうか――」

 スペスは、遠くなったタッシェのお尻を追いかけて、狭い穴を這うことにした。

 




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タッシェはどこに行こうとしてるのか?

それでは次回、
第48話 『タッシェの秘密の場所⁉』
で、お会いしましょう!
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