「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第48話 『タッシェの秘密の場所⁉』

 穴は広くなったり狭くなったりを繰り返しながら複雑に曲がり、次第にくだっていった。

 

 場所によっては、真っすぐ下りてからまた登るような所もあって、湿度が高い穴の中で身をよじったり、かがめたりして進むうち――スペスは、汗びっしょりになっていた。

 

 途中にはいくつかの分岐があったが、タッシェはその中のひとつを迷わずに選び進んでいった。

 

 やがて、狭い穴から、ひろびろとした空間に出る。

 そこは地下なのに、上に手が届かないほどの高さがあって、地上にあるアールヴの小屋くらなら入りそうなほど広かった。

 

 まわりの壁には、通って来たのと同じような穴がいくつかあいていて、その中でも一番大きなものは、スペスでも這わずに通れそうだった。

 

 あたりには、スコップや、ままごとにつかうような食器、詰めこまれた木の実、枯れた花などが置いてあり、壁には落書きがある。

 

 

「……なるほどね。ここがタッシェの秘密の場所なんだ――」

 スペスを見あげたタッシェは、うれしそうに笑って、また説明らしきものを始める。

 

 スペスが、相槌をうちながら手足を伸ばしていると、汗だらけの身体にすっと涼しくなるような感覚があった。どこかから少しだけ空気が流れているようだった。

 おかげでいくらか体の火照りは冷めたものの、まだ汗は止まらなかった。

 

「ねぇねぇ、ココがいいのはよく分かったんだけど、暑いからそろそろ外に出ない?」

 スペスは、話し終えたタッシェに声をかける。

「……?」

 タッシェは無邪気な顔でスペスを見つめていた。

 

「やっぱり伝わらないか――えーと、ここが、あついから、出たいっと」

 身ぶり手ぶりを加えてそう言うと、タッシェは手を叩いて笑った。

 

「――あ、あれ? なんか勘違いしてない?」

 念のために、もう一度やってみせると、タッシェは、転げまわるほど大笑いした。

 

 特に『外に出たい』という意味で、横に手をニュッとのばす動作がツボに入るようで、スペスが調子に乗って四、五回くりかえすと、タッシェは息もできなくなるほど笑い転げた。

「喜んでくれるのは嬉しいんだけど……、なんとなくヘコむなぁ」

 

 どうしたら伝わるのかを考えたスペスは、今度は自分の顔を指さしてタッシェに見せた。

「ほらほら、暑いからこんなに汗をかいちゃってるんだ」

 タッシェはじっとスペスを見ると、その顔を両手でつかんで頬にちゅっと口をつけた。

 

「そうじゃないんだけどなぁ……、ダメかー」

 スペスはまた別の手を考えようとしたが、

 タッシェは壁のいちばん大きな穴のほうへ歩いていき、『イッツィ』とその中に入った。

 

「わかってくれたのかな……」

 とキスされた頬をさわると、手についた土が、汗にまじって貼りついた。

 

 

 タッシェが入っていった穴は、スペスでも腰を(かが)めるだけで通れた。

 何度か曲がるうちに先が明るくなって、立てるほどに広くなる。

 

 さらに進むと、脇に開いた穴から外が見えた。

 近くにタッシェの姿はなく、穴から出たらしいとふんだスペスは、自分も穴をくぐった。

 

 出たところは、急な斜面の途中だった。

 スペスは、明るいところに出たせいで痛む目をこらえながら、見えている山の位置から、アールヴの集落より少し下った辺りだろうと思った。

 

「こうやっていつも外に抜け出していたんだな――大したもんだよ」

 とスペスは感心する。

「あ……でもこれじゃあ、今日のことも薬にはなっていなさそうだなぁ……」

 

 そんなことを考えていると、ガサガサと草をかき分けてタッシェがあらわれた。両手には紫色の実をたくさん抱えている。

 

「オニイチャ!」

 タッシェは斜面に腰をおろし、スペスを呼んだ。

 

 隣に座ると、タッシェは、持っていた実をスペスにわけ、ポツポツと枝からとって食べはじめる。

 渡された実を食べてみると、口の中に独特の酸味と甘みがひろがった。

 

 ひとつだともの足りなかったスペスは、四、五個をまとめてほうりこむ。

 それもすぐになくなってしまい、また四、五個と食べているうちに、もらった実はあっという間になくなってしまった。

 

「うん、おいしかったよ。えーと、デリッシュ……って言うんだっけ?」

「デリーシュ?」

「そう! デリーシュ!」

 

 スペスが親指を立てると、タッシェはニッコリと笑って、手に残っている分をわたしてくれた。

「え、わるいよ……」

 とスペスが受けとらないでいると、タッシェは強引に押しつけて握らせてくる。

 

「――じゃあ、代わりにこれ」

 とスペスは、ポケットからアルマにもらったアメを出して渡した。

 

 タッシェはめずらしそうにアメを見つめていたが、スペスにうながされてこわごわと口にいれ、歯で噛み砕こうとする。

 

 スペスが笑いながら、紫色の実を舌のうえでころがすようにしてみせると、まねしてやったタッシェが驚いたようにスペスを見た。

「デリーシュ、オニイチャ! デリーーシュ!」

 

 スペスも口に入れた実を飲みこむと、タッシェに、デリーシュと言った。

 丘の斜面に座った二人は、同じ言葉をなんども言いあい続ける。

 気がつけば、日が傾き始めていた。

 

「そろそろ戻らないと……きっと心配してるよ」

 汗が乾いたスペスは、そう言ってみたが、タッシェはキラキラした目を向けるだけだった。

 

「えーと、戻るってなんていうんだろう?」

 と、スペスは腕を組む。

「困ったな……さすがにアルマの話ももう終わってるだろうし……」

 

「アルマ?」と、タッシェが訊いた。

「そう、アルマ……のところに行きたいんだけど――」

 そう言ったスペスを、タッシェは若葉色の瞳で見つめる。

 

「――テ・レミゾン」

 小さくため息をついて立ちあがり、タッシェは無言で穴の方に戻っていく。

 スペスがついて行くと、タッシェはそのまま穴にもぐっていった。

 

 タッシェは来た通りに、穴の中を戻る。

 秘密の広間をすぎ、いくつもの分岐をいくあいだ、タッシェはずっと無口だった。さっきより進むのが速く、距離がひらけば待ってくれるが、スペスが追いつくとまたすぐに進んだ。

 

――もっと遊びたかったのかな。

 

 そう思いながら、スペスは急いであとを付いていく。

 やがてたどり着いた行き止まりで、タッシェは頭上に穴を開け、二人は入ってきた小屋の中に戻った。

 

 ぽっかりと開いた穴をタッシェが元通りに閉じると、

 扉がひらいて、小屋の中が明るくなった。

 

「あーっ! こんなところにいた!」

 入り口にはアルマが立っていた。




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スペスは気分を変えられたのか?

次回、
第49話 『スペスとイオキア⁉』
で、お会いしましょう!
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