「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

51 / 107
第51話 『基礎と応用⁉』

「あのさ、さっきより大きな火を出そうと思ったら、もっと全身から魔力(マナ)をあつめてくればいいの?」

 スペスが訊いた。

「基本としては、そうですね。ただ、そのやり方では効率がよくありません」

「効率?」

 

「ええ、魔法の効果を大きくする方法は、いくつかあります。その中で、もっとも単純なのが使う魔力(マナ)の量を増やすことですから」

「それは、なんとなく練習したらできそうな気がするよ」

 

「そうですね」とイオキアはうなずいた。

「ただしこれは効率の悪いやりかたで、使う魔力(マナ)の量にくらべて効果が薄いんです。だから一般的にはあまり使われません」

 

「ダメなんだ……」

「ダメなわけではありませんよ。いい練習になりますし、とても大切な基本でもあります。まずはそこからやってみてください」

「わかった。やってみるよ!」

 

「ただし、効率は良くないので、すごく疲れると思います」

「そうなんだ……。じゃあさ、その効率ってのを良くするにはどうしたらいいの?」

 

「より少ない魔力(マナ)でおなじ効果を出す方法があります」

「そんなことができるの⁉」

 おどろくスペスに、イオキアは涼しい顔で、できますよと言った。

 

「さっきは腕全体から魔力(マナ)を集めてきましたよね」

「うん」

「それを例えば――手首から先の魔力(マナ)だけでやります」

 

「うん? でもそうすると、魔力(マナ)が足りないよね?」

「じつは魔法で大切なのは、魔力(マナ)の量ではなくて魔力(マナ)の密度なんです」

 

「量じゃなくて密度?」

「さっきは、魔力(マナ)を指先にあつめましたよね」

「うん」

 

「それで指先の魔力(マナ)の密度が濃くなって《点火》ができたんです。

 集める魔力(マナ)が多いほうが密度を上げやすいので、さっきは腕からうごかしましたが、

 逆に言うと、量が少なくても、密度さえあげられれば魔法はできるんです」

 

「つまり、魔力(マナ)が少なくても、強く押しこめばいいってこと?」

 

「強さのほかに、速さ、正確さも大切です。

 より速く、より強く、正確に一点に魔力(マナ)を集められれば、少ない魔力(マナ)で魔法が発動できます。

 たとえば《点火》なら――私は指の半分の魔力(マナ)があればできますね」

 

「たったそれだけ⁉」

「極めた人なら、それこそ、爪の先ほどの魔力(マナ)でも足りるかもしれません」

 

「それは、でも……すぐには難しそうだなぁ――ほかにはもう無いの?」

 図々しく訊ねるスペスに、イオキアが笑う。

 

「もう一つありますが、こちらも簡単ではありませんよ。自分以外の力、魔素(エレメント)をつかいます。魔素(エレメント)についてはご存知ですか?」

「いろんなものの中にある力、ってぐらいにしか知らないんだけど……」

 

「そうですね。燃えやすいものには【火】の魔素(エレメント)

 動く空気の中にある【風】の魔素(エレメント)

 他にも【水】、【土】、【光】、【闇】の魔素(エレメント)なんてものもあります」

「いろいろあるんだねぇ……」

 

「ただまあ、これらは本質的には同じだという人もいまして、学者の出てくる話になるので割愛しますが――大切なのは、われわれはこの魔素《エレメント》をつかって魔法がつかえる、ということですね」

「うんうん。理論も興味深いけど、とりあえずは方法(そっち)が知りたいな」

 イオキアがうなずいた。

 

「ではやってみせましょう。《点火》は火の魔法なので【火】の魔素(エレメント)が一番あつかいやすいです。

 ほかの魔素(エレメント)でもできないことはないのですが、〝変換〟しなくてはならないので無駄が多くなってしまいます」

 

 そう言うとイオキアは、さっきまで矢を作っていた材料箱から、手のひらくらいの木片を出した。

 

「こういう乾燥した木には【火】の魔素(エレメント)が多くあります。いまからこの木をつかって《点火》をやってみます。

 使う体内の魔力(マナ)は通常の《点火》と同じにしてみますね」

 イオキアは左手に木片をにぎり、右手の指を立てた。

 

「いきます――」

 イオキアがそう言うと、指の先端からボボォっと、人の頭ほどの炎があがった。

「おおっ!」

 とスペスが声をあげる。

 

 おおきな炎は、近づけないほど強い熱を発していたが、すぐに小さくなっていき、やがて消えてしまった。

 

「こちらを見てください」

 イオキアが見せた左手の木片は、真っ白な灰に変わっていた。

 

「えーと……【火】の魔素(エレメント)がなくなったから、木が灰になったってこと?」

「そういうことです。今のは分かりやすくするために、魔素(エレメント)を一気に使いきってみました」

 

「その木を持つ手は熱くないの?」

「熱はすべて指先から出た火につかわれますから熱くないですよ」

 とイオキアは手を見せる。

 

「ボクもやってみたいな!」

「まだ無理だと思いますよ」

「いいからいいから。やってみるだけだからさ!」

 とスペスは手を出した。

 

「わかりました」

 とイオキアは、適当な木片をスペスにわたす。

「どうやるの?」

 

「木の中の魔素(エレメント)を、感じますか?」

「うーん、なんとなく……?」

「それを魔力(マナ)の流れにあわせて一緒に導きます」

 

「一緒に動かすってこと? こうかな?」

「すこしでも魔素(エレメント)を使えていれば火が大きくなるはずです。やってみてください」

 

「えーとこうして、こうやってから、《点火》!」

 やってみると、火は大きくなるどころか、まったく出なかった。

 

「だめだ! これは難しいよ! ふたつの力を同時に使うんだから」

「そういうことです――わかってもらえましたか?」

「うん……わかりました」

 

「それじゃあ感覚を忘れないうちに〝魔力(マナ)だけ〟で、もっとやりましょう。まず基本ができなければ、応用もできませんよ」

「それもそうだね。やってみるよ」

 

「その意気です。おっと……さっそくコツを掴みましたね、さっきより魔力(マナ)の流れがスムーズです」

 イオキアに乗せられて、スペスはよく集中する。

「《点火》!」

 

「おお、素晴らしい。二回目は一度で成功じゃないですか。飲み込みが早いですね」

「教える人がいいからさ」

「またまた、お上手ですね――」

 

 そんな事を言いながら笑いあった二人は――ふと気がついた。

 入り口に、人が立っているのを。

 

 入り口に、昼間会った女隊長が立っているのを。

 

 入り口に立った女隊長が、初級魔法でよろこびあう二人を、とても冷ややかに見ているのを。

 

「あー……」とイオキアはスペスを見た。

「――本当のことを言っても、絶対に信じてもらえないと思うんですけど……。どうしたらいいでしょう?」

 

「ふざけてたって事にしたほうが、短い時間ですむんじゃないかな。……ごめん」

「それでいきます!」

 イオキアが、決意のこもった目で立ちあがった。

 

 だがイオキアが口を開く前に、隊長はひとことだけ何かを言い残して出ていった。

「……食事の時間、だそうです」

 振りむいたイオキアが言う。

 

「平気だったの……?」

「さあ? まったく触れられなかったのが逆に怖いですね……」

「それは、怖い……」

 スペスがそう言うと、二人はまた顔を見合わせて笑った。

 




★☆★☆★☆ お知らせ ☆★☆★☆★

面白いと思って頂けましたら、ぜひ★評価をお願い致します。
また毎日更新していきますので、お気に入り登録もしていただけると嬉しいです。

ポチっと押すだけなので、ぜひっ!

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

すっかり打ち解けた二人、本来は相性がいいのかも。

それでは次回、
第52話 『アールヴの食レポ⁉』
で、お会いしましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。