「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第52話 『アールヴの食レポ⁉』

 スペスが外に出ると、星が見えるほど暗くなっていた。

 

 集落の中央にある広場にはかがり火が焚かれ、二十~三十人ほどのアールヴが、いくつかのグループを作って座っていた。

 すでに食事は始まっているようで、にぎやかな話し声が聞こえてくる。

 

 広場に入ると、中央の敷物に長老とアルマが座っているのが見えた。

「やあ」

 近づいたスペスは声をかける。

 

「お、おぅ……遅かったじゃない」

 ぎこちなく、アルマがこっちを見た。

 

 スペスはブーツをぬいで敷物にあがり、アルマのとなりに座る。あとから来たイオキアも近くに座った。

 

「ねぇねぇこれ見てよ。これ!」

 座るなり、スペスは指を立てて見せる。

「……なに?」

 

「見ててよね」と言ったスペスの指先に、しばらくして小さな火がついた。

「あら……」とアルマが目を開く。

「すごいじゃない。できるようになったのね」

 

「やるときはやるんだよ。ボクは」

 スペスは得意そうに言った。

 

「まあ、わたしの教え方がよかったからよね」

 アルマも得意そうに言った。

 

「それはない……」とスペスが首を振る。

「信じられないわ……。なんて恩知らずなの?」

 

「いや……そもそもアルマは、そんなに教えてくれてないでしょ。イオキアさんが教えてくれたんだよ。教えるのがすごく上手でさ」

 スペスが言うと、イオキアは微笑んで会釈した。

 

「なるほど」とアルマはうなずく。「……もう、わたしが教えることは何もないわね」

「だからアルマは教えてくれてないでしょ!」

 

「わたしが教えなかったせいで、イオキアさんの教えがよく頭に入ったんなら、それは、わたしが教えなかったおかげとしか言えないわよね?」

「もう何を言ってるんだかわからないよ!」

 

「まあでも良かったわね、出来るようになって。おめでとう!」

「うん、ありがとう!」

「わたしも良かったわ……」

「なにが?」

 

 と訊いたスペスの顔を、アルマはじーっとのぞき込む。

「なーんだか知らないんだけどぉー、ずっと悪かったスペスの機嫌がぁー、直ったみたいだからぁー、よかったなーって!」

 

「あっれぇー?」とスペスは目をそらした。

「……ボクの機嫌が悪かったことなんて、あったかなー?」

「思い出せないなら、わたしからお知らせがあります!」

 

 アルマが笑顔になって言った。

「なに?」

「いまっ……わたしの機嫌が悪くなりましたっ!」

 笑顔だが、眉がつりあがっていた。

 

「ゴメンナサイ……」

 おとなしくスペスは頭を下げた。

 

「よろしい――」

 とうなずいて、アルマはスペスの皿をとった。

「ほら、早く食べなさいよ。せっかくわたし達のために用意してくれたんだから――

 何がいいの? 取ってあげる」

 

「ありがとう。じゃあ、そこの野菜と魚」

「あっちの豆の煮込みも、美味しそうよ?」

「じゃあ、それも――」

 

「はい、どうぞ」

 手早く料理をとってきたアルマは、スペスの前に置いた。

 さっきよりも座る距離がいくぶん近くなっていた。

 

「ありがとう、いただきます」

 すぐに食べ始めたスペスが、「こ、これは!」と言った。

 

「――味がしない」

「そうなのよ……」アルマが残念そうな顔をする。「――こうね、塩気が全くないのよ」

「なんていうか、そのままの味しかしないね」

 

「わたしの持ってる本には、『アールヴは木の葉っぱしか食べない』って書いてあったから、それに比べたらずっとマシなんだけど……」

「そうなのか……」

 

 暗い声で話すふたりに、イオキアが、陶器の入れ物を差し出した。

「よかったらどうぞ」

 アルマが開けてみると、なかには白い粒が入っていた。

 

「イオキアさん……まさかこれっ!」

「はい、塩です」とイオキアが言う。

「やったー!」

 

 思わず声をあげると、まわりに座るアールヴたちが、何事かと注目する。

「あ……、ご、ごめんなさい」

 顔を赤くして、アルマは小さくなった。

 

「使わないの? じゃあ、先にいい?」

 スペスが塩に手を伸ばす。

 

「待て待て、待ちなさい――スペスがやると、絶対にかけ過ぎるから私がやってあげる」

 アルマはそう言って塩を手に取り、スペスの皿に振りかける。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 

 受け取ったスペスが、さっそくひとくち食べる。

「うん! 美味しいよ、アルマ!」

「そう? じゃあわたしも失礼して――」

 

 とアルマは自分の皿にも塩をかけた。

「んー、やっぱり美味しい! 素材がいいんだから、味がしないのはもったいないわよねー」

「アルマ! おかわりしてくるから、またかけて!」

「いいわよ! どんどん持ってきなさい!」

 

 

 

「私も人族の食事に慣れてしまって、(コレ)がないと物足りないんですよね」

 ふたりを見ていたイオキアが言った。 

「あ、そうなんですね……。味覚が違うのかと思ってました」

 

「単に、昔から塩が手に入りにくかったので、こういう味付けになったというだけですよ」

「じゃあ、もしかしてこれって……高い物なんですか?」

 アルマは小さな入れ物に入れてある塩を見た。

 

「いえ、今は街で買うことができますからそれほどではありませんよ。ただ、古い方にはどうにも合わないようで、味はいまだに薄いままなんです」

 

「そうなんですね、好みはあると思いますけど……もう少し濃くてもいいと思います」

「同感ですね」とイオキアがうなずいた。

 

 

「アルマー、これお願い!」

「はいはい……」

 とアルマがおかわりしてきた皿を受け取ると、とことことやってきたタッシェが、ふたりの間に無理やり入ってきた。

 

「オニイチャ!」

 スペスに持ってきた料理の皿を差しだす。

「くれるの? ありがとう」とスペスが受け取った。

 

「かわいいわねぇ――」

 アルマが幸せそうにタッシェを見る。

「あらあら……」

 と、長老が困ったように言った。

 

「すみません、お行儀が悪くて……」

「いえいえ、いいんですよ。子供のすることですから」とアルマは手を振る。

 

「本当にすみません」

 と長老は再度謝った。

「……タッシェももう十七歳ですから、もっとしっかりさせないといけないのですが……」

 

「「じゅうななっ⁉」」スペスとアルマの声がかぶった。

 かなりの大声だったので、また、周りから見られるほどだった。

 

「なにか……おかしかったでしょうか?」

 長老が驚いて訊ねる。

 

「えっと――本当に十七歳なんですか? この子が?」

「そうですよ。夏の生まれなので、もうすぐ十八ですが――」

 とまどいながら長老は答える。

 




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タッシェさん、まさかの年上⁉

それでは次回、
第53話 『最後の晩餐⁉』
で、お会いしましょう!
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