「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第55話 『スペスと長老⁉』

「だって、行ったことのある人が集落(ここ)には誰もいなくて、連絡も取れなくて――ただ〝そういう話が伝わっているだけ〟なんでしょ?

 だったら、それが本当かどうかを確かめる方法はないよね」

 

「ちょっとスペス! いきなり何を言ってるのよ、失礼でしょ!」

 アルマはそう非難したが、スペスは長老をじっと見たまま動かなかった。

 

「スペスさん……先ほどのお話は、歴代の長老が一字一句を(たが)えずにおぼえ、口伝されているものです。幾万の星霜を、そうして変わることなく伝えられてきた話なのですよ?」

 感情を見せず、淡々と語る長老に、スペスは首を振った。

 

「そうだとしても、それが本当かどうかの根拠にはならないよ――そもそもの最初が間違ってるかもしれないんだから」

「スペス! 聞いてるの!」

 アルマはふたたびスペスを咎めたが、長老の方が、かまわずに話をつづけた。

 

「スペスさんがおっしゃるような可能性は確かにあるでしょう。しかし事実として、神の使者は我々のところに現れていますよ?」

「そうやって来る方法があるのに、誰も帰ってこない――連絡さえ取れない。っていうのは、さすがに不自然なんじゃない?」

 スペスの言葉に、長老は黙ったまま答えなかった。

 

「――訊いてみようとか思わなかったの? 使者に――向こうに行ったひとは元気なのか、とかさ」

「訊いてみたことはあります……。ですが――答えはありませんでした」

 長老の返事に、今度はスペスが黙った。

 

「さっきからなんなのよ⁉」

 たまらずにアルマが言った。

「……わたしにはスペスが何を言いたいのかが、さっぱりなんだけど!」

「さぁ、なんなんだろうね?」

 とスペスは肩をすくめる。

 

「ボクにも、どういうことなのかは分からないよ。でもね、何かがおかしいと思うんだ」

「おかしいって――別に根拠なんてないんでしょ?」

「うん、無いよ。でも、ハルマスもそう言ってる」

「また、ハルマス? はいはい、そうねそうね――」

 と、アルマは相手にしない。

 

「ハルマス――」

 長老が繰り返すように言った。

「とても古い言葉です。『命、魂、知恵』などを表す、いにしえの言葉――それこそ神がいた時代の……」

 

「えっ……偶然じゃないですか? 適当に言ってるだけですよ」

 とアルマは言ったが、長老はスペスから目を離さない。

 

「スペスさんは、どこでそれを?」

「さあ……」とスペスが肩をすくめる。

「それは、ボクにも分からないんだ」

 

「どういうことですか?」

 長老は、美しい瞳で、見透かそうとするようにスペスを見た。

「そんなに見つめられると、照れちゃうな」

 まったく照れた様子は見せずにスペスは微笑む。

 

「――ボクが何者なのかは、ボクが知りたいんだ」

「何を……おっしゃっているのですか?」

 戸惑う長老に、アルマが助け船を出した。

 

「あの……スペスは記憶をなくしてるんです。ここ十日くらいの記憶しか無くて――」

 確かめるように見た長老に、スペスがうなずいて返す。

 

「そうですか――」

 長老は、納得したように目を閉じた。

「もしかしたら、なにかの〝兆し〟なのかもしれませんね。あなた方が此処までいらしたのは……」

 

「それで?」アルマが訊いた。

「今の話は、わたし達がここに来たことと、どう関係があるの?」

「それは、よくわからないよ」

 

「なによ、いい加減ねぇ……」

 アルマはあきれてため息をつく。

 

「直接は関係ないかもしれない。でも、まったく無関係じゃない気もする――」

「優柔不断!」

「そんなことを言われてもねぇ」

 と苦笑したスペスが、不意に下を向く。

「ありゃあ――タッシェ寝ちゃったよ……」

 

 さっきから大人しかったタッシェは、スペスの膝の上ですぅすぅ寝息をたてていた。

 

「ずいぶん話し込んでしまいましたものね。今日のところはお開きにしましょうか」

 長老が立ちあがると、イオキアがスペスに言った。

「私は片付けがありますので、先にお戻りください」

 

「そう? じゃあ、戻るまえにタッシェを運んでいくよ。別にいいでしょ?」

「恐れ入ります。それではお願いできますか?」

「まかせて!」

 

 スペスは、起こさないようにそっとタッシェを持ちあげると、器用に足だけでブーツを履いていく。

 

「えっと……どこに連れていけばいいのかな?」

「わたしと同じよ」アルマが言った。「長老さんのところ」

「じゃあ一緒に送って行くよ」

 

 スペスはタッシェを抱えて、長老の居所へ向かう。

 集落を歩きながら見あげる空はよく晴れていて、

「明日はこのまま晴れそうね」とアルマが言い、長老がそれに同意した。

 

 

 スペスが自分の小屋に戻ると、まだイオキアは帰っていなかった。

 しかたなくスペスは《点火》を使い、その頼りない明るさで真っ暗な小屋に入った。

 

 寝台に腰をかけ、しばらく《点火》を練習していると、もどってきたイオキアが、詫びを言って灯りをつけた。

 寝る仕度を終えて寝台(ベッド)に横になると、すぐに灯りは消され、小屋はまた闇に沈んでいった。

 

「ねえ……」

 闇の中にスペスの声が浮かぶ。

 

「なんですか……?」

 イオキアの声が返ってきた。

 

「イオキアさんは〝神のところ〟に行きたいって思う?」

「そうですね――」

 沈黙したイオキアは、言葉を選びながら答えた。

 

「神の楽園がどういう所なのかはわかりませんが、見てみたいという気持ちはあります。

 けれども――私はここが嫌いではないので、行けなかったとしても、きっと残念には思わないでしょう。

 ここで生きるのは楽なことではないですが、ね……」

「そっか――」

 

 スペスがそう言うと、小屋はまた夜につつまれる。

 

 外を吹く風の音が、壁をすりぬけたみたいに渦を巻いていた。

 戸がガタガタと揺れ、木々が震える。

 遠くからは何かの鳴く声も入ってきた。

 

「昔は――」

 闇の中でイオキアが言った。

 

「我々と人族には、交流が無かったそうです。まれには関わりを持つ者もいたようですが、神の裏切り者とつきあったことで白い目でみられたとか……。

 アールヴは神の存在を()()とし、ずっと集落《ここ》で身を寄せあうようにして細々と生きてきたのです。

 そして――気がつけば、人族はアールヴよりはるかに増え、すぐれた文化をもつようになっていました。

 

 今の長老になってから……だそうです。

 少しずつ人族と接触を持ち、私のように人族の街で暮らしたことのある者も出てきました。

 もちろん古い者は反対したようです。しかし長老は、アールヴはこのままではいけないと話し合ったのだそうです」

 

「そうなんだ……意外とやり手なんだね、あの人」

「だから……、長老がなにも考えていないとは思っていません」

 

「わかったよ」とスペスは言った。

「それだけです。さあ寝ましょう、明日も早いんでしょう」

 

 それきり、二人は口を開かなかった。

 スペスは、夜の音を聴きながら、ゆっくりと眠りに落ちた。

 




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次回、三たび丘へ!

第56話 『三度めの神殿⁉』
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