「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第58話 『特別なナニカとは⁉』

「大違いだよ。だって、いまの計算には入れていない数がある」

 

「入れてない数?」

「むこうで生まれた子供だよ」

「あ……」

 

「いくらアールヴが少子でも、死ににくて、定期的に若いひとが入るんだったら、どう考えても人数は増えるでしょ。

 そうやって増えたひとが子供を産んでまた増える――

 千年じゃそこまで違わなくても、何万年もかけたら絶対に大きな違いが出るよ」

 

 そこでスペスは、ひと息いれるように茶をのんだ。

 

「それなのに――定期的に人は連れて行かれて、戻る人どころか情報すらない。これで問題が無いって考えるほうが無理があると思うよ」

「ふーん……。だから、あんなに長老さんに詰めよってたのね」

 

「うん。でもさ、この事をあまり考えてもしかたがないよ。

 これはあの人達の問題で、ボクらには〝村に帰る〟っていう問題があるんだ。

 まずはできる事からやろうよ」

「それもそうね……」

 とアルマは考えるのをやめて、笑みを浮かべた。

 

「でもそうすると……どうしたらいいの?

 本当にこの神殿が原因じゃないとしたら――わたし達はどうすれば帰れるの……?」

「うーん……なにか、考えなきゃいけない事があるはずなんだ」

 スペスは、そう言いきった。

 

「アルマはかなり前から、何度もここに薬草を取りに来てたんでしょ? でもあんな真っ暗になるようなモノを見たことがなかった。そうだよね?」

「うん、そうよ」

 うなずきながら、アルマはパンを取り、食事を再開する。

 

「それに、あの集落のひと達も、神の使いがやってくる門《ゲート》以外は、見たことがないようだった――」

「そうね……」

 パンをかじって、またうなずいた。

 

「……それなのに、ボクらがあそこに行った時にだけアレが起きた。いくらなんでもタイミングが良すぎると思うんだ――」

 

「つまり?」

「つまりさ、なにか()()()()があったはずなんだ。あのときだけの特別な〝ナニカ〟が――原因になるナニカが、絶対にある!」

 

 興奮気味に言ったスペスは、しかしすぐに苦笑いを浮かべる。

「――とは言っても、それがなんなのかは、まったく分からないんだけどね」

 

「ふたりだったとか?」

「それは……でも、さっきも試してみたでしょ――なにも起きなかった」

 

「そもそも一回来るだけでもう戻れない……とかは?」

 それは正直、アルマが今一番考えたくない可能性だった。

 

「いや、〝アレ〟は必ずまた通れるよ」スペスはそう断言する。

「アレはそういうモノだよ。ボクには確信があるし、ハルマスもそう言ってる」

 

「また出た……それ、アテになるの?」

 訊いたアルマは、しかしすぐに、『やっぱり、いいわ』と首を振った。

「――じゃあ、その〝ナニカ〟がわかれば、わたし達は村に帰れるのよね?」

 

「そうだね。もうちょっと正確に言うと、〝ソレを再現できれば〟だけど」

「可能性が無いって思うよりは、何かあるって思ってるほうがいいものね……。

 あの時にあって、いまは無いものを考えたらいいのよね?」

 

「うん。ただ……物じゃなくて、動作とか、何かの状態なのかもしれないけど――」

「でもわたし達、そんなに特別な事はしてなかったわよね?」

 ちょっと考えたアルマは、あっ! と声を上げた。

 

「そうよ! あの時わたし芋を持っていたわ。ねぇ、芋じゃない?」

「芋は……ちがうと思うよ」スペスが笑う。

「それに、あの芋はもう食べちゃったじゃない――荷物になるからって」

 

「じゃあ……わたし達はもう帰れないの⁉」

 途端に泣きそうな顔をするアルマ。

「いや、だから……違うと思うよ」とスペスは言った。

 

「――もし芋が原因なら、取りに行ったときじゃなくて、最初に置くときにアレが起きてるはずだし」

「あ、そっか……よかった」ホッと息をつく。

「……それなら、時間とかは? いつも決まった時間に起きている、とか?」

 

「それだと、毎月か毎年かわからないけど、定期的に起こるから見つかりやすい。ここは大昔からアールヴが住んでいるんだから、とっくに発見されていると思うよ」

「そうよね……」

 

「なんとなくだけど、もっと直接的で、もっとボクらに関係している事だと思うんだ」

「アニータが言ってるの?」

「誰だよアニータって……。ハルマスね」

 

「でも、あのとき持っていたものは今もだいたい持ってるし――なにか特別なことをしたわけでもないでしょ。時間も関係なさそうってなると、なにも浮かばないんだけど……」

「そうだよねぇ……」

 

 ふたりが考えこむと、丘を越える風がさわさわと草をゆする音がする。

 さわさわ……、さわさわ……と。

 

 さわさわ……さわさわ、ガサっ、さわさわ……ガサガサ……さわさわ。

「な、なにか来てる⁉」

 ふたりはすぐに武器をとる。話し込んでいたせいで、音に気づくのが遅れた。

 

「ゴブリン……?」

 声を殺してアルマが訊く。音はまっすぐにこちらに向かって来ていた。

「わからないね……」

 スペスは、分かりきった答えを返す。

 

 それでもアルマは、不安を消したくて、また訊ねた。

「アールヴの人ってことは?」

「ないよ」

 きっぱりとした否定だった。

「なんでよ?」

 

「だって、あの人たちは〝森の中を音も出さずに動ける〟んでしょ? いまのアレは音を出さないようにはしてるみたいだけど、アールヴの人たちと比べたら下手すぎる」

「そっか。でも、ゴブリンなら……平気よね」

 

「そうだね」

 今度は肯定だったが、それは安心や安全を保証してくれるものではなかった。

 アルマはしっかりと木剣を握り、不安そうに剣先を音へと向ける。

 

 音の主の速度(スピード)は早く、あっという間に姿を現した。

 

 茂みを飛び超えるようにして出てきたのは――

「な……、なによこれっ……!」

 ゴブリンではなかった。




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ゴブリンじゃない⁉ いきなり高まる不穏な空気!

次回、5章 迫る脅威⁉
第59話 『青い怪物⁉』
で、お会いしましょう!
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