「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~ 作:細矢ひろゆき
「大違いだよ。だって、いまの計算には入れていない数がある」
「入れてない数?」
「むこうで生まれた子供だよ」
「あ……」
「いくらアールヴが少子でも、死ににくて、定期的に若いひとが入るんだったら、どう考えても人数は増えるでしょ。
そうやって増えたひとが子供を産んでまた増える――
千年じゃそこまで違わなくても、何万年もかけたら絶対に大きな違いが出るよ」
そこでスペスは、ひと息いれるように茶をのんだ。
「それなのに――定期的に人は連れて行かれて、戻る人どころか情報すらない。これで問題が無いって考えるほうが無理があると思うよ」
「ふーん……。だから、あんなに長老さんに詰めよってたのね」
「うん。でもさ、この事をあまり考えてもしかたがないよ。
これはあの人達の問題で、ボクらには〝村に帰る〟っていう問題があるんだ。
まずはできる事からやろうよ」
「それもそうね……」
とアルマは考えるのをやめて、笑みを浮かべた。
「でもそうすると……どうしたらいいの?
本当にこの神殿が原因じゃないとしたら――わたし達はどうすれば帰れるの……?」
「うーん……なにか、考えなきゃいけない事があるはずなんだ」
スペスは、そう言いきった。
「アルマはかなり前から、何度もここに薬草を取りに来てたんでしょ? でもあんな真っ暗になるようなモノを見たことがなかった。そうだよね?」
「うん、そうよ」
うなずきながら、アルマはパンを取り、食事を再開する。
「それに、あの集落のひと達も、神の使いがやってくる門《ゲート》以外は、見たことがないようだった――」
「そうね……」
パンをかじって、またうなずいた。
「……それなのに、ボクらがあそこに行った時にだけアレが起きた。いくらなんでもタイミングが良すぎると思うんだ――」
「つまり?」
「つまりさ、なにか
興奮気味に言ったスペスは、しかしすぐに苦笑いを浮かべる。
「――とは言っても、それがなんなのかは、まったく分からないんだけどね」
「ふたりだったとか?」
「それは……でも、さっきも試してみたでしょ――なにも起きなかった」
「そもそも一回来るだけでもう戻れない……とかは?」
それは正直、アルマが今一番考えたくない可能性だった。
「いや、〝アレ〟は必ずまた通れるよ」スペスはそう断言する。
「アレはそういうモノだよ。ボクには確信があるし、ハルマスもそう言ってる」
「また出た……それ、アテになるの?」
訊いたアルマは、しかしすぐに、『やっぱり、いいわ』と首を振った。
「――じゃあ、その〝ナニカ〟がわかれば、わたし達は村に帰れるのよね?」
「そうだね。もうちょっと正確に言うと、〝ソレを再現できれば〟だけど」
「可能性が無いって思うよりは、何かあるって思ってるほうがいいものね……。
あの時にあって、いまは無いものを考えたらいいのよね?」
「うん。ただ……物じゃなくて、動作とか、何かの状態なのかもしれないけど――」
「でもわたし達、そんなに特別な事はしてなかったわよね?」
ちょっと考えたアルマは、あっ! と声を上げた。
「そうよ! あの時わたし芋を持っていたわ。ねぇ、芋じゃない?」
「芋は……ちがうと思うよ」スペスが笑う。
「それに、あの芋はもう食べちゃったじゃない――荷物になるからって」
「じゃあ……わたし達はもう帰れないの⁉」
途端に泣きそうな顔をするアルマ。
「いや、だから……違うと思うよ」とスペスは言った。
「――もし芋が原因なら、取りに行ったときじゃなくて、最初に置くときにアレが起きてるはずだし」
「あ、そっか……よかった」ホッと息をつく。
「……それなら、時間とかは? いつも決まった時間に起きている、とか?」
「それだと、毎月か毎年かわからないけど、定期的に起こるから見つかりやすい。ここは大昔からアールヴが住んでいるんだから、とっくに発見されていると思うよ」
「そうよね……」
「なんとなくだけど、もっと直接的で、もっとボクらに関係している事だと思うんだ」
「アニータが言ってるの?」
「誰だよアニータって……。ハルマスね」
「でも、あのとき持っていたものは今もだいたい持ってるし――なにか特別なことをしたわけでもないでしょ。時間も関係なさそうってなると、なにも浮かばないんだけど……」
「そうだよねぇ……」
ふたりが考えこむと、丘を越える風がさわさわと草をゆする音がする。
さわさわ……、さわさわ……と。
さわさわ……さわさわ、ガサっ、さわさわ……ガサガサ……さわさわ。
「な、なにか来てる⁉」
ふたりはすぐに武器をとる。話し込んでいたせいで、音に気づくのが遅れた。
「ゴブリン……?」
声を殺してアルマが訊く。音はまっすぐにこちらに向かって来ていた。
「わからないね……」
スペスは、分かりきった答えを返す。
それでもアルマは、不安を消したくて、また訊ねた。
「アールヴの人ってことは?」
「ないよ」
きっぱりとした否定だった。
「なんでよ?」
「だって、あの人たちは〝森の中を音も出さずに動ける〟んでしょ? いまのアレは音を出さないようにはしてるみたいだけど、アールヴの人たちと比べたら下手すぎる」
「そっか。でも、ゴブリンなら……平気よね」
「そうだね」
今度は肯定だったが、それは安心や安全を保証してくれるものではなかった。
アルマはしっかりと木剣を握り、不安そうに剣先を音へと向ける。
音の主の
茂みを飛び超えるようにして出てきたのは――
「な……、なによこれっ……!」
ゴブリンではなかった。
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ゴブリンじゃない⁉ いきなり高まる不穏な空気!
次回、5章 迫る脅威⁉
第59話 『青い怪物⁉』
で、お会いしましょう!