「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第61話 『帰る理由をつくってあげる⁉』

「スペスさん、もしかして……かなり悪いんですか?」

「ひゃいっ……!」

 

 血まみれの服で横たわり、死んだように目を閉じるスペスと、

 まだ涙に濡れた顔で、すがりつくように唇を震わせたアルマを見て、

 イオキアが駆けつけた。

 

「いやッ! こ、これは……悪い事してるわけじゃなくてっ! 悪い事に見えるかもしれないけど、そんなつもりはないんですっ……。けど……、やっぱり黙ってしちゃうのは悪い事なんでしょうか……?」

「よくわかりませんが……、容体が良くないのですか?」

 

「いや、ボクなら平気だよ」

 寝ていたスペスが目を開いて言う。そのせいで、アルマは自分が思ってる以上に落胆した。

 

「――ほら、アルマが治してくれたからね。けっこう血が出てるように見えるけどさ」

 そう言って上半身を起こす。

 

「ちょっと、まだ寝てなきゃダメよ!」

 アルマは、スペスを草の上におさえつけた。

「え、でも、もう痛くないけど……?」

 

「それは、《痛み止め》をかけたから! まだ出血を止めただけで、傷はふさいでないんだからね!」

「なんだ、そうなのか……。《酔い覚まし》みたいにすぐに治るんだと思ってた」

「そんなわけあるか! 傷の《治癒》は時間がかかるものなの! わかったら、おとなしくしてて!」

 

「なんだか、機嫌わるくない?」

「わるくない! わたしはなにも悪くない!」

 アルマは横たわったスペスに、治療を再開する。

 

 

「アルマさんは、治癒魔法が使えるのですか?」見ていたイオキアが訊いた。

「あ、はい……まだ半人前ですけど」

「ご謙遜を。それだけの怪我を治せるとは、その歳でずいぶんな技量をお持ちですね」

 

「そうですか? 父の手伝いをして覚えたもので、あんまり自信ないんですけど……えへぇへ」

 村人以外に仕事を褒められた事がないアルマは、若干、気もちのわるい笑みを浮かべた。

 

「それで……ご相談なのですが」イオキアが真剣な表情をする。「先ほどの〝オーガ〟との戦いで負傷者が出まして、よろしければ治療をお願いできますか?」

「えっ……もちろんですよ! こちらに来れますか? 酷いようなら先に処置を――」

「いえ、そこまで酷い傷ではありません」

 イオキアは立ちあがろうとするアルマを止めた。

 

「すでに集落に送りましたので、スペスさんの治療が終わったあとで看ていただければ」

「そういう事なら先に集落に行きます。傷の具合は、実際に見てみないと分からないですから」

「そうですか、ありがとうございます」とイオキアが頭を下げた。

 

「そういう事ならボクも起きていいよね」

 スペスが身体を起こそうとする。

「ダメ! スペスは寝てて。わたしがおんぶして行くから」

 

「《痛み止め》が効いてるから、歩くくらいはできるよ?」

「ダメだってば――」

 アルマは首を振った。

「お願いだから、やめて……」

 

「心配しすぎだって」

「心配をして何が悪いのよ……」

 

 顔を沈ませるアルマに、スペスはあきらめたように寝ころんだ。

「わかったよ」

 

 

 背中にスペスを負って、アルマは集落への道をくだる。

 傷に障らぬよう、大事に大事に――足元を選びながら。

 

「あのね……」

 歩きながら、ぽつりと話しかける。

「わたし……やっぱり村に帰りたい。あんな化け物のいないわたしの村に……」

 最後に小さく『スペスと一緒に……』とつけ加えた。

 

「帰れるさ」

 背中のスペスがいつもの調子で言う。

 だから、「うん……」と返事した。

 

「きっと大丈夫だからさ」「うん……」

「心配しなくても平気だよ」

「うん。………それで?」

 

「それだけだけど?」

 スペスは、〝一緒に〟とは言ってくれなかった。

「卑怯者……」

「なんで⁉」

「なんでもー」と、アルマは口を尖らせる。

 

「――そうだっ、もう胸とか触らせないからね」

「だから、なんで⁉」

 

「だって、また〝死んでもいい〟なんて思われたら困るじゃない……」

「わかった。もう二度と思わないから、また触らせて」

 スペスが臆面もなく言う。

 

「だめですー」

「そんなぁ~」

 すぐ後ろから聞こえてくる、本気とも冗談ともつかない声にクスクスと笑いながら、アルマは、こんな事を言いあえるのも生きていればこそだという、当り前を実感していた。

 

 今回は助かったものの、次も、その次も無事とは限らない。むしろこの場所に居続ければ、いつかふたりが一緒にいられなくなるような気がした。

 一刻も早く、村に帰りたかった。みんながいる、安全で平和なリメイラに。

 

 そこまで考えたアルマは、ある事に気づく。

 

――そうか……。スペスには、帰る理由がないんだわ。

  だって前に言ってたもの、スペスには何もないって。

  わたししか、いないんだって。

 

  だからスペスはあんな無茶も平気でやっちゃうんだわ……。

  でも……だったら何か帰りたくなる理由を作ってあげれば、

  スペスが生きて村に帰る理由が一つでもあれば……。

 

 咄嗟に頭に浮かんだそれが、本当に効果があるかは分からなかったが、少なくともキスよりは現実的な気がした。

「ねぇ……」と、すぐに声をかける。

 

「そんなにわたしの胸……触りたいの?」

「触りたい!」

 

 怪我人とは思えない元気な返事だった。

 こっそり《痛み止め》を解除してやろうかと思ったが、酷いのでさすがにやめる。

 

「じゃ……じゃあさ――」

 恥ずかしいのを我慢して言った。

「もしも村に帰れたら、さ、触らせてあげてもいい……わよ」

 

「本当⁉ 触ってもいいの!」

 またの大声に苦笑しつつ、どうやら効果はありそうだと思った。

 

「無事帰れたら、よ? ほ、ほら……、村には死んじゃうような危険はないし、〝死んでもいい〟なんて思わないからね……」

「たしかに!」

「わかったら、あんまり無茶をしないでよ。死なないように気をつけて――」

 

「じゃあ、帰ったらいっぱい触っていいって事だよね!」

「いっぱい……⁉ い……一回だけ……よ」

「一回かー」

 

 ちょっと残念そうな声がする。もちろん、いっぱいの方がやる気が出るだろうとは思ったが、さすがに抵抗があった。

 

「そんなに安いもんじゃないんだからね! イヤなら無しにしてもいいのよ?」

「イヤじゃないよ! 嬉しい!」

 元気よく言う背中の声が、アルマにもなぜか嬉しかった。

 

「はぁ……、男の子ってなんでこんなのがいいのかしらね。重くて邪魔なだけなのに」

「なんだ……アルマはわかってないなぁ」

「ハイハイ、わかりたくもないわよ」

 

「そうだ! 村に帰ったらどうやって触るのか、今のうちに考えておいたほうがいいよね。一回しかチャンスがないわけだし、よく考えて無駄のない触り方をしないと。そうすると、やっぱり最初は横のほうから下にむかって撫でるように触るでしょ。それから持ち上げるようにして重さを味わうように揉んで、いよいよ最後に――」

 

 アルマは、無言で《痛み止め》を解除した。

「あだっ! いだだだ……。なんか急に傷が痛みだしたんだけど!」

 

「あらあら《痛み止め》が切れちゃったのかもねー。もう見えてるから集落についたらかけ直してあげる。だから、もうちょっとだけ頑張れっ!」

「うう……。わかった……早めに頼むよ……」

 

 スペスがおとなしくなってアルマはホッとした。恥ずかしいのも勿論(もちろん)あったが、なによりも、あんなことを耳元でずっと囁かれたら、触られた時のことを想像してしまって、たまらなかった。




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次回、アルマは大変な事実に気がついてしまう。

第62話 『もしかして、攻めてきた⁉』
で、お会いしましょう!
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