「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第63話 『ボクらは未来を知っている⁉』

 イオキアと一緒に小屋を出ると、集落はすっかり静けさを失っていた。

 

 せまる脅威にむけて作業する者が動きまわり、木々のあいだに柵をつくる者、武器を持って走り回る者、食事の準備をする者と、やっている事は皆それぞれだったが、どの顔も張り詰めていた。

 

 そんな中を、ふたりはイオキアとともに長老の家に向かう。

 

 しばらく待たされて中に入ると、テーブルを囲んだ幾人かのアールヴが大声で言いあいをしていた。

 やってきたふたりに一瞬だけ視線があつまるが、すぐに興味のを無くして話し合いに戻る。

 

「なんだか歓迎されてないわよね、わたし達……」

 とげとげしい雰囲気に、アルマは小さくなって後ろに隠れた。

 

「そりゃまあ、こんなときに部外者がなんの用だ、って感じだろうからね」

 スペスはいつものどおりの口調で話す。

 

「すこし、待ちましょうか」

 イオキアが言い、三人は、邪魔にならないように壁の前に移動した。

 

 

「今は、何を話しているのかな? 状況とかはわかる?」スペスが訊く。

「守備計画について、話をしているようです」イオキアが答えた。

 

「――ゴブリンが約百、オーガが十、それから種族不明の大型のものが一体……。悪魔は種族ごとに独立して生活するものなので、本来このように数種が行動することはまず無いのですが、いまのところ争う様子もなく、統制がとれているそうです」

 

「つまり、まとめる奴がいるって事かな?」

「はい」

 とイオキアはうなずく。

「まだわかりませんが、おそらく率いている者がいる、という見立てで話し合っています。アルマさんのお話に、より現実味が出てしまいましたね」

 

「別に争いに来たわけじゃない、という可能性はないのかな?」

「すでに再三の警告と、威嚇のための矢を放ちましたが、止まる気配はないそうです」

「そっか……」

 とスペスはうなずく。

 

「それで、戦ったとして勝ち目はありそう?」

「全員が戦いに長じているわけではありませんからね……」

 イオキアは難しい顔をする。

 

「……戦えるものが三十五名。ゴブリンならニ、三体で一名と互角、オーガは一体に五から十名でなんとか、さらに大きいのがいますからね、正直厳しいところです」

 

「ゴブリンだけで互角なんだから、倍以上の力の差があるってことか……」

 スペスがため息をついた。

「これなら戦わないで負けを認めたほうがいいんじゃない? 生きててこそだよ?」

 

「残念ですが、降伏が通じるような相手じゃありませんよ」

 とイオキアは言った。

「捕まれば人とは思えないような扱いをされ、娯楽のために殺されるだけです」

 

「そりゃまた厳しいね……じゃあ逃げるってのは?」

「ありだと思います」とイオキアは言った。

 

「〝私は〟ですが」

「そういう感じじゃないのかな?」

「ええ、誇りのために戦うべきと……」

「くだらないと思うな。そんなの死にたい人だけでやればいいのに」

 

「そう言わないでください」イオキアが困ったように微笑む。

「誰にも、守りたいものはあるんですよ。好きで死にたいわけではありません」

 

「それはまあそうだよね……ゴメン」

 頭をさげるスペスに、イオキアは笑ってうなずいた。

 

「もちろん、援軍なんていないんでしょ?」

 スペスは、大声で話し合うアールヴ達を見る。

「そうですね……。このあたりに住む者はいませんし、街まで行って人を雇うにしても、数日はかかるでしょう」

 

「それじゃあ手遅れだよね……」

 スペスが言うと、イオキアはうなずいた。

 

「ねぇ、スペス!」

 腕を引っぱったアルマにスペスは、

「わかってる」と返した。

 ふたりの頭に浮かぶ人物に助けを求めれば、きっと力になってくれるはずだった。

 ふたりの――この世界で唯一の知り合いになら。

 

「でも――呼びに行ったとしても、今からじゃだいぶかかる。

 道があれば大分違ったんだけど……」

「わたし達で行けば、慣れてるし早く行けるわ」

 

「それは絶対にダメだっ!」

 

 突然の大声に、話し合いをしていた者達が一瞬ふりかえった。

「なんでなの……」

 とアルマは泣きそうな声を出す。

 

「帰りはいいとしても、行きが危ないよ」

 声を落として、スペスは言った。

 

「悪魔ってのが、そんな数で来ているんなら、先行した奴がもうこの辺りにいるかもしれない。実際、あのオーガは神殿まで来たんだ。

 もしも沢山のゴブリンや、さっきのオーガにまた出会ったらどうするの? ボクらだけで行くなんて危なすぎるよ……」

 

「じゃあ……だれかアールヴの人にもついて来てもらいましょうよ。それならいいんでしょ?」

「……そうだね」と、スペスは渋い顔でうなずいた。「ただでさえ少ない人数をボクらに割《さ》いてくれるかは分からないけど……あの話がおわったら訊いてみようよ」

 

 ふたりがそう話しているうちに何かが決定したようで、集まった中から二人が駆け足で出ていった。

「――スペスさん、アルマさん」

「あ、はい……」

 

 長老から名前を呼ばれ、ふたりがテーブルに加わる。

 全員から視線が集まり、その中には最初に会ったあの隊長もいた。

 アルマはすっかり萎縮して身体をちいさくする。

 

「イオキアより、お話は伺いました」

 険しい顔で長老が言い、隣でイオキアがアールヴの言葉に訳す。

 

「おふたりはわれわれの未来をご存知だとか……ご覧の通り、我々はいま余裕がありません。ご冗談にはおつき合いできかねますが、そういったお話では無いという事でよいのでしょうか?」

 

「信じてもらえるかは分からないけど……ボクらは嘘は言わないよ」

 スペスが長老を見返して言う。

 

「わかりました、では宜しくお願い致します」

 長老はわずかに表情をゆるめた。




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三百年後の事実を知るふたりは、アールヴ族を説得できるのか⁉

それでは次回、
第64話 『信じてもらえるの⁉』
で、お会いしましょう!
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