「三百年前なんて、ウソでしょう⁉」 ~魔王のいる三百年前に突然飛ばされた、ドスコイ村娘の大冒険!~   作:細矢ひろゆき

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第65話 『手紙を送ろう⁉』

「なるほど……、その方は、どの程度戦えるのですか?」

 スペスの話を聞いた長老が訊ねる。

 

「なんて言ったっけか、向こうの山にいる家より大きなクマを倒したって言ってたよ。毛皮がすごくやわらかくて、気持ちいいやつ」

 

「オウルベアーでしょうか……。それが真ならば相当な腕を持った戦士ですが、そのような方が果たして我々に力を貸してくれるでしょうか?

 あいにくと謝礼となるようなものはほとんどご用意できないのですが……」

 

「それは、たぶん大丈夫じゃないかな?

 手に余る時は助けるって言ってくれたし、なんだかお金もたくさん持ってるらしいから、そこはあんまり心配しなくていい気がするよ」

 

「そうであれば、是非ともお願いしたいところです」

「ただね……」

 とスペスは言った。

 

「今から行っても、ボクらが戻るのは日が沈んでだいぶ経った頃になると思う。

 もしかしたら間に合わないかもしれない。

 それに、その人のところに行く前に、別行動している悪魔に出会う可能性もある」

 

「時間は仕方がありません」

 長老がすぐに答える。

「しかし、スペスさんのおっしゃるとおり今ここを出るのは危険すぎます。

 私共のために、おふたりを危険な目にあわせるわけに参りません」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

 とスペスは言ったが、長老は首を振り、頑《かたく》なに認めなかった。

 

「アルマ、魔法でなんとかならないの? 文字を送るような魔法とかって無い?」

「聞いたことないし、あったとしても、わたしには使えないわ」

 

「文字……ならば手紙で済ませることができますか?」長老が訊く。

「……もしも手紙で済むのでしたら、戦闘のできない者の中から、足の早い者を選んで行かせますが――」

 

「でも、危ないんでしょ?」

「危険は承知の上ですし、私共は森に暮らす民です。森での身の隠し方は充分に心得ておりますから、あなた方が行くよりはずっと安全だと思いますよ」

 長老の言葉に、ふたりは顔を見合わせてうなずいた。

 

「わかった。行くなら早いほうがいいよ。長老さんの言う通りにしよう」

「ただ……わたし達が行かないで、場所がわかるかしら?」

 

「着くころには暗くなるだろうし、居るなら灯りでわかるんじゃないかな? ボクらが行ったときみたいにさ」

「おふたりのおっしゃる、おおよその場所はわかります。そういった目印もあれば大丈夫だとは思いますが」

 

「よし、うまくいくかはわからないけど、やれる事はやろう!」

「わかりました。では、私は()く者を選ばせます」

 長老が、控えていた隊長へ指示を出す。

 

「スペスは字が書けないので、手紙はわたしが書きますね。なにか書くものはありますか?」

「じゃあ、ボクは地図を描くよ。絵だったら、なんとかなりそうだし」

 

「では、こちらをどうぞ」

 イオキアがそう言って、顔が包めるくらい大きな葉を持ってきた。

「わぁ、大きい!」アルマが声をあげる。

 

「これは?」

「ドウラビの葉です。傷をつけると、このように色が変わって筆跡が残ります」

 イオキアが尖った棒で葉の表面をひっかくと、そのとおりに線がのこっていた。

 

「へー、面白い!」とアルマも試しに書く。

「紙は大変高価なので、このようなものを使っています」

「じゃあ、ボクにもそれをくれる?」

 

「手紙と地図は、三つづつ書いていただけますか」長老が言った。

「どうしてですか?」

「途中でなにかあったときのために、三人に持たせます」

 

 それを聞いてアルマは一瞬顔をくもらせたが、すぐに『わかりました』と木の棒を持つ。

 だが、そこで手が止まった。

「ねぇ、スペス……。こういう時って、なんて書いたらいいのかな?」

 

「んー、僕らの名前と……あとは『たすけて!』だけでいいんじゃない?」

 スペスは、地図を描きながら答える。

「そんな、いい加減でいいの?」

 

「あんまり詳しく書くと、万一のとき、悪魔に援軍を呼ぼうとしてるのがバレちゃうし――それに、あの人もあんまり文字が読めてなかったから、簡単な方がいいと思うよ。こんなのは、伝わればいいんだからさ」

 

「そういうものかしら――」

 アルマは首をかしげたが、結局、三枚の葉にふたりの名前と、『たすけて』という文字を大きく書いた。

 

 ふたりが書き終わったころ、出ていた隊長が三人のアールヴをつれて戻る。

小屋があった場所を説明すると、そのうち一人が、その近くで人の痕跡を見たことがあった。

「それならきっと大丈夫よね」と、アルマは安心する。

 

 手紙を託されたアールヴたちはそれぞれ支度をすませると、すぐに出発した。

 入れ替わるように、長老のところにひとつ連絡が入る。

 

 内容は、悪魔の集団が集落のすぐ手前にまで迫っている、というものだった。すぐに長老が指示をだし、報告した者と隊長が出ていく。

 

「スペスさん、アルマさん――」

 長老がふたりを見た。

「いよいよ悪魔が迫ってきました」

 

「ああ、これ以上ボクらがここにいたら、邪魔になるか……」

「いいえ」と長老は首を振った。

「実は、おふたりにお願いしたいことがございます」

 

「ボクらに?」

「はい、避難される際に、タッシェも一緒に連れて行っていただきたいのです」

 長老は申し訳なさそうに言う。

 

「先ほど安全を約束すると申し上げましたが、残念ながら今の我々では護衛を出すことができません。そこで、おふたりには、ほとぼりが冷めるまで安全なところに身を隠していただきます。

 できましたらその時に、タッシェも一緒に連れて行っていただきたく、どうかお願いを致します」

 長老は深々と頭をさげる。

 

「――おふたりに受けたご恩をお返しも出来ないまま、このような勝手をお願いするのは心苦しいかぎりですが、どうかどうか、重ねてお願いいたします」

 長老は言い終わっても、頭を下げつづけている。

 

「あ、あの長老さん――大丈夫ですから、頭を上げてください」

 アルマが慌てて言う。

「わたし達もオーガから助けてもらいましたし、タッシェを連れて行くのはもちろんいいんですけど……でも、こんな時に安全に隠れられる場所なんてあるんですか?」

 

「はい。絶対ではありませんが、ございます」

 長老は頭を上げて、はっきりと言った。

 

「もしかしてあそこかな? 物置小屋の下にあった」

「あら……スペスさんはご存じだったのですね」

 長老が、意外そうな顔をみせる。

 

「ああ、うん……ちょっとね。長老さんこそ、なんで知ってるの?」

「それは――お恥ずかしながら、私も小さい頃やんちゃをしていたもので……」

 長老がいたずらっぽく笑う。

 

「なになに? わたしだけ話がわからないんですけど?」

「すぐに、わかるよ」

 とスペスも、いたずらっぽく笑った。

 

 わずかに緩んだ空気を、飛びこんできた一人のアールヴが引き戻す。

 なにかの報告を受けた長老が、険しい顔でふたりを見た。

 

「いよいよのようです……私は行かねばなりません。イオキアに案内をさせますので、タッシェをよろしくお願いします。おふたりに神の加護があらんことを」

 

 長老はもう一度深く頭を下げ、伝えに来た者と出ていった。




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それでは次回、
第66話 『危ないことはやめてよね⁉』
で、お会いしましょう!
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